翌日。ロードの修行はすぐに始められた。
 朝方で日差しが明るい庭。獣蔵が一本の木の前で、ロードに話をする。
「良いか、ロード。お前に基礎を教えるつもりはない」
「はぁ!? 何だよ、それ!」
「お前に基礎は必要ない。身華光剣術の基礎は、すでに身に付いておるじゃろう」
 我流とは言え、幼い頃から剣の修行を行っていたロード。
 基礎は十分に備わっている。ロードが習得すべき物は一つだ。
「ロード、お前の剣には足りぬ物が一つある」
「足りない物?」
「それは、技じゃ」
 獣蔵の言葉に、ロードは「は?」と顔を歪めた。
「技? 技なら使えるの知ってるだろ、じじい。朱雀や青龍とか」
「その技ではない。……見ておれ」
 木刀を手に、獣蔵が木を前にして構える。この一瞬、全てが静まり返った。
 木の葉が一枚、ひらひらと獣蔵の前を落ちて行く。
「――――」
 一閃。木の葉が六つに斬られた。それを見たロードが目を見開いて驚く。
「マジ……!?」
「これが技じゃ。お前に足りぬ技とは、基礎の極み。まずは、これを習得させる。
 目の前に落ちて来る木の葉を真っ二つにでもしてみろ」
「……へ、そんなの簡単だろ」
 ロードが構える。そして、落ちて来た木の葉に対して、木刀を振るった。
 だが、木刀に当たるだけで、何の変化もない。
「……あれ?」
「ただ振るうだけならば、誰にでも出来る。とりあえず、学校にでも行け」
「って、もう終わりかよ!?」
「腹が減ったからの」
「…………」
 今朝の修行は、かなり早く終わった。






宿命の聖戦
〜THE FINAL LEGEND〜



第一部 希望と優しき心

ロード編
第二章 開かれた扉


 同時刻。アウィードもまた、同じように修行を受けていた。
 こちらは道場。しかし、朝だと言うのに、道場内は闇夜のような真っ暗な空間となっていた。
「…………」
 目をキョロキョロさせながら、周囲を見渡す。その時、後頭部を何かが襲った。
「っ!? 後ろ!?」
 後ろへと振り向く。今度は、前方から胸元に何かが直撃した。
「ぐぇ!?」
 さらには左、右、あらゆる方向から何かが直撃し、ダウンする。
 それを見ていた彼女――――サキがやれやれと首を横に振りながら、道場内の電気を点ける。
 突然の明るさに目を奪われるアウィード。そして、サキが言った。
「うーん……これくらいはできないと、剣持って戦う意味ないよ?」
「そう言われても……あんな真っ暗の中じゃ、何も見えないですし……」
「それだからダメなんだよ、アウィード君?」
 サキが説明を始める。アウィードの修行は、サキが付き合う事になった。
 理由は一つ。獣蔵が二人の修行を別々にしたからだ。
「目で頼ったらダメ。集中して、気配を感じるの」
「気配、ですか……?」
「うん。アウィード君が今より強くなるには、この修行を乗り越えないとって事」
「うへぇ……」
 嫌そうな顔をする。そして、このまま修行は終了した。



 登校。学校中の女子が騒がしい。しかし、ロードはそれを無視して自分の席に座った。
 後ろに座る御厨渚に話し掛ける。
「おい、御厨」
「…………」
 机にうつ伏せで眠る渚。呼び掛けても起きる気配はない。
「おい、起きろ。訊きたい事があるんだよ」
 そう言って、肩を揺する。しかし、それでも起きない。
 昨日聞きそびれていた事を訊きたかったのだが、無理かもしれない。
 一昨日の放課後、なぜ悲しそうな瞳をしていたのか。
 そして、自分に言った言葉の意味。
(星が泣いているとか、助けを求めているとか……訊かなきゃならねぇ事がたくさんあるってのに……)
 溜め息をつく。それと同時に、始業のチャイムが鳴り響いた。
 担任教師が教室に入って来る。
「チャイム鳴ったぞ、お前達。とっとと席に着きなさい」
 そう言いながら、廊下側に手招きをする。次の瞬間、ロードは驚きもしなかった。
 アウィードだ。昨日、留学生として学校に行く事になっているのは知っていたから、当然ではあるが。
 アウィードを見た女子が「キャー!」と声を出して騒ぐ。
 担任教師が黒板にカタカナで名前を書く。
「今日から、このクラスで勉強する事になった留学生のアウィード=ウィルニース……だったよな?」
 と、アウィードに訊く。アウィードは頷いた。
「日本には初めて来たけれど、日本語は話せるそうだ。お前達、仲良くしてやれ」
「あ、アウィード……う、ウィルースです……。そ、その……よろしくお願いします」
 緊張しているのか、ぎこちない。その姿を見ながら、ロードはニヤニヤと笑っている。
「席は神崎……美紗の方の隣が空いているな。ウィルニースはそこに座ってくれ。それじゃ、授業始めるぞ」



 同時刻。神崎家の道場で、獣蔵はのんびりと茶を飲んでいた。
 朝の修行を終えたサキが訊いて来る。
「ロードはどんな感じなの、おじいちゃん?」
「まだ時間は掛かるじゃろうな」
 話を続ける。
「あやつは、霊力の使い方がなっておらん。治癒としてはある程度使えておるが、戦いでは全く使えん」
「使えない? そんな事ないでしょ、おじいちゃんと打ち合う時は霊力使っているはずだし」
「何を言っておる。あやつは、戦いでは一度も霊力を使えた事はない」
 その言葉に、サキが首を傾げる。
「どう言う事?」
「あやつは、自己流で霊力の制御を身に付けた。じゃが、それを使いこなす事はできておらん。
 ロードは自分の霊力を上手く引き出せん。じゃからこそ、今の修行でそのコツを掴ませる」
「コツ、ねぇ……」
「お前の方はどうなんじゃ? あの、アウィードとか言うのは?」
 話を切り替える。サキは「うーん」と悩んだ。
「集中した時のアウィード君を見てないから何とも言えないけど、こっちも大変かも」
「最近の若い奴は、ひ弱じゃな」
 そう言いながら、獣蔵は茶を飲む。
 サキは、「おじいちゃんが強過ぎな気がする」と心の中で思いながらも、苦笑するのだった。



 放課後。真っ直ぐ家に帰らずに、ロードは学校の屋上に来ていた。
「今日は風があんまり吹かねぇな」
 いつもなら、気持ちの良い風が吹くのに。
 そう思いながら、周りを見渡し、一人の生徒を見つける。
 御厨渚。一昨日から気になっている少女。
 屋上から遠くを見つめる彼女に対し、ロードは後ろから声を掛けた。
「よう」
「……!」
 ロードに気づき、振り向く。そして、相手がロードだと分かると、すぐに安心の表情を浮かべた。
「何か用?」
「ああ。一昨日……星がどうのって奴で、訊きたい事があってな」
「そう……」
 渚が空を見上げる。
「星は今、平和な状態」
「平和? お前、一昨日は泣いてるとか言ったじゃねぇか?」
「けれど、それが終わろうとしている」
「……?」
 ロードに近づき、渚がロードを見る。
「彼が実現させた平和。けれど、”あれ”はそれを認めていない。
 星の在り方を変えようとしている。だから、星が泣いてる……助けを求めてる……」
「何だよ、彼とか”あれ”って?」
「星は、あなたに助けを求めてる……あなたしか、星は救えない……」
「……全然分かんねぇ。つか、俺じゃなくても、その彼ってのが星を救えば良いだろ?」
「それは無理……。あなたにしか、星を救う事はできない……」
 そう言って、再び遠くを見つめる。ロードは深く肩を落とした。
 御厨の言っている事は、自分には全く理解できない。
「……もうすぐ、時が訪れる」
「……何の?」
「…………」
 それ以降、渚は全く答えなかった。ロードは再度、肩を落とす。
 これ以上は何も訊けないようだ。とりあえず、何が何なのか結局分からなかった。
 しかし、分かった事が一つだけある。話している時の渚は、とても悲しげな瞳をしていた事を。



 数十分後。自宅に帰り着いたロードは、庭から聞こえる鳴き声に溜め息をついた。。
「アルマの奴、何吠えてんだよ……つか、美紗はどうした、美紗は……」
 誰も注意をしないと言う事は、今は誰も家にいないのだろう。
 やれやれと首を横に振りながら、庭の方へ向かう。
「何吠えてんだよ、お前?」
「ぐるぅぅぅっ! ワワワワワワワワワンッ!」
「だから吠えるなって言ってるだろ……」
 そう言いながら、とりあえず周囲を見渡す。
 吠えるのは、何かがいるからだ。怪しい人間か、ただの野良猫か。
「……特に何もねぇな。お前、何に吠えて……――――って!?」
 驚く。突然、何もない空間から、黒い穴が出現した。
 穴から風の音が聞こえ、周りの草花が穴へと吸い込まれていく。
「何だよ、あれ!? アルマ、こっち来い!」
「ワワワワワンッ! ワゥゥゥッ!」
「吠えてないで、こっち来いって言ってんだろ!」
「ワゥゥゥッ! ワワワンッ! ワゥゥゥゥゥゥッ!」
「ったく……!」
 持っていた鞄を投げ捨て、ペットのアルマに近づく。そして、首輪を思いっきり掴んだ。
「この……バカ犬ッ!」
 投げ飛ばす。「キャンッ!」と鳴きつつも、アルマは穴より遠くの場所に飛んだ。
「良し、これで……って、足場が不安定に――――って、おい!?」
 油断した。アルマを遠くへ飛ばす事ばかり考えて、自分の事を忘れていた。
 穴に吸い込まれようとして、気づけば宙に浮くロード。
「ヤベ……うぉぉぉぉぉぉっ!?」
 吸い込まれる。そして、穴も小さくなり、消える。















 地球から姿を消したロード。















 扉は開かれた。















 ロードにとって、そして全世界にとっての運命と言う名の扉が――――



 第一章へ

 第三章へ

 戻る

 トップへ




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送