翌日。いつもと変わらぬ時間に起き、美紗はペットのアルマの散歩へ行こうと決めた。
 が、時すでに遅し。服を着替え、庭に出たものの、アルマの姿はない。
「サキお姉ちゃんと行っちゃったのかな……?」
「おはよう。朝早くから、霊力の修行でもしているのかな?」
 と、声を掛けられる。父の友人であると言うロバートだ。
「おはようございます。えっと……ロバートさん」
「おはよう。早速、二人の修行が始まったようだな。彼……ロードの方はもう終わったようだが」
「…………」
「君も霊力の修行をするのかい?」
 訊かれる。美紗は首を横に振った。
「私はそう言うのは……」
「そうか。しかし、その方が良い」
「え?」
「治癒としてなら、使う機会はある。しかし、それ以外は必要ないだろう」
 そう言って、ロバートは空を見上げる。美紗は首を傾げた。
 母もそうだが、この人も暗い表情をする。それが不思議だった。






宿命の聖戦
〜THE FINAL LEGEND〜



第一部 希望と優しき心

美紗編
第二章 平凡のようで違う一日


 登校中。ロードがさっきから「あのじじい……」と同じ事を繰り返し愚痴る。
「腹が減ったって理由だけで修行終わらせるか、普通?」
「ロード、それもう十回くらい聞いてる……」
「えっと……ロード君は何の修行なの?」
 アウィードが訊く。ロードが頭を掻きながら言った。
「君付けすんな、虫唾が走るから。落ちて来る葉っぱを綺麗に両断しろだと」
「葉っぱを?」
「ああ。あのじじい、見せ付ける為なのか、綺麗に切りやがった。六枚に」
「……六枚って、凄いね」
「おじいちゃん、凄く強いもんね」
 と、美紗も会話に入る。そして、アウィードに訊いた。
「アウィード君は、サキお姉ちゃんとどんな修行してるの?」
「ぼ、僕は……暗闇で気配を感じろって……」
「マジかよ。そっちの方が、全然良いな」
 ロードが肩を落とす。その様子を見て、美紗が少し笑った。



 学校。アウィードと校門で別れ、教室に入る美紗とロード。
 クラス内が普段と違って一段と騒がしい。
 友達の一人が話し掛けてくる。
「ねぇねぇ、聞いた!?」
「聞いたって、何を?」
「留学生! どうやら、うちのクラスに来るみたいなの!」
「そうなんだ……」
 留学生とは、アウィードの事だろう。このクラスになるのは意外だったが。
 友達と話していると、担任教師が始業チャイムと同時に教室に入って来る。
「チャイム鳴ったぞ、お前達。とっとと席に着きなさい」
 そう言いながら、廊下側に手招きをする。そして、アウィードが教室内に入って来た。
 彼の姿を見た女子達は「キャー!」と声を上げ、一部の男子は、顔を引きつかせていた。
 担任教師が黒板にカタカナで名前を書いていき、自己紹介させる。
「今日から、このクラスで勉強する事になった留学生のアウィード=ウィルニース……だったよな?
 日本には初めて来たけれど、日本語は話せるそうだ。お前達、仲良くしてやれ」
「あ、アウィード……う、ウィルースです……。そ、その……よろしくお願いします」
 緊張しているのか、朝よりも喋りがぎこちない。担任教師が美紗の方を見る。
「席は神崎……美紗の方の隣が空いているな。ウィルニースはそこに座ってくれ。それじゃ、授業始めるぞ」
 そう言って、授業を早くも始める担任教師。アウィードが美紗の隣の席に座る。
 美紗は小声で話し掛けた。
『教科書とか持ってるの?』
『う、うん……。一応、昨日渡されて……。でも、流石に日本語は……』
 日本語は話せるが、日本語は読めない。それはそれで、変な気がする。
『全然読めないの?』
『そうじゃないけど……』
「そこの二人、早速私語はいかんぞ」
 と、担任教師に注意された。



 昼休み。屋上でいつものように弁当を食べる。
 この時のロードは、いつもと変わらず溜め息をついていた。
「ひーちゃん、あーん♪」
 おさげの黒髪が似合う幼馴染――――優子がシイタケの煮物をロードの口元まで運ぶ。
「いらねぇって!」
「美味しいよ。あ〜ん♪」
「つーか、お前がシイタケ食えないだけだろ。俺に食わせるな!」
「だってぇ……」
「テメェでちゃんと食え!」
 全力で断るロード。そんなロードを見ながら、美紗は何事もないかのように箸を進める。
 ちなみに、アウィードも誘おうとしたが、他の女子生徒に見事にさらわれた。
 優子が嫌々とシイタケの煮物を食べていく。
「この食感が気持ち悪いよぉ……ひーちゃーん……」
「絶対に食わねぇぞ。頑張って食え」
「ふぇぇぇ……」
 そして、弁当を食べ終えたロードが美紗に話し掛ける。
「美紗、今日は俺用事あるから、先に帰ってろよ」
「別に良いけど、用事って?」
「ちょっと、な」
「ふーん……優子ちゃんを泣かせるような事じゃないなら良いよ」
「訳の分からねぇ事言うなよ、おい……」
 ロードが肩を落とす。その隣で、優子はまだシイタケと戦っていた。



 同時刻。美紗とロードの母・アリサは空港にいた。
 搭乗手続きを終えたアウィードの父・ロバートが歩いて来る。
「アウィードの事、よろしく頼む」
「はい。リューナさんによろしく伝えてください」
「ああ」
 頷き、そして空を見る。ロバートはふっと笑った。
「アウィードは、ちゃんとやれているだろうか」
「心配なら、もう一日こっちに残った方が良いのでは?」
「いや、止めておこう。リューナが待っている。それに、仕事もある」
「そうですか」
 そして、再び空を見る。澄み切った青い空。
 こんな綺麗な青空を、あいつと一緒に見たかった。そう、ロバートは思った。
「今度来た時は、アウィードが少しは強くなっている時か。その時は、ハヤトの所に良いワインでも持って行こう」
「はい。あの人も……ハヤトさんも喜ぶと思います」
「ああ。じゃあ、これで失礼する」
 そう言って、搭乗口へと去って行く。



 放課後。ロードを除いた三人で下校する。
「父様、流石にもう帰っちゃったかな……」
「さあ……寂しいの?」
「そ、そうじゃないけど……」
「ひーちゃん、学校に残って何するのかなぁ……」
 二人の会話を無視して、優子が学校の方を見る。
「もしかして、誰かに告白とか……そんなの嫌だよぉ……」
「だ、大丈夫だと思うよ? ロード、思ってる事顔に出る方だし」
「そうかなぁ……」
「二人は幼馴染って言ってたんだよね?」
「うん。私と優子ちゃん、ロードは小さい頃から一緒に遊んだりしてたから」
 あの頃から、ロードは自分勝手だったと美紗が言う。
 すると、優子が否定した。
「そんな事ないよ。ひーちゃんは、格好良くて優しいんだよ」
「優しい? ロードが?」
「うん! この間だって、大きな荷物持ってたお婆ちゃんの代わりに荷物持って歩いたりとか、
 虐められてた子供助けたりとかしてたんだよ」
「そうなんだ……あのロードが……」
 確かに、昔から妙に正義感強い所がある。
 しかし、美紗は、ロードが困っている人を助けている姿など見た事なかった。
 優子が両手に頬を当て、赤くしながら言う。
「だから、私はそんな優しいひーちゃんが好きなんだぁ☆」
「…………」
 ズキリと胸が痛む。美紗は、黙るしかなかった。

 ロードへの想い。それは、持っていけない想い。でも、捨てられない想い――――



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