つい、優子と寄り道して遅い帰宅になった美紗とアウィード。すると、叔母であるサキの声が聞こえた。

『――――ド! ロードッ! どこにいるの!?』

 慌てて庭の方へと向かう。ロードの鞄を持ったサキが辺りを探すかのように見ながら叫んでいる。
「ロード、どこなの!?」
「サキお姉ちゃん、どうかしたの?」
 訊く。サキが美紗とアウィードの姿を見るなり、すぐに二人に走り寄った。
「二人とも、ロード見てない!?」
「見てないよ? 今帰ってきたばかりだし……」
「そう……」
「ロード、何か悪い事でもしたの?」
 恐る恐る訊く。サキは首を横に振った。
「いないのよ、それが。鞄だけで、ロードがどこにもいないのよ」
「ジョギングとかじゃないの?」
「そう思ったけど、着替えた様子もないの、これが」
「それじゃ……」
 ロードはどこに、と訊こうとしたが、美紗にはそれができなかった。
 そして、この日からロードは姿を消してしまった。






宿命の聖戦
〜THE FINAL LEGEND〜



第一部 希望と優しき心

美紗編
第三章 妖しいお姫様


 夜。母がロードの友人の家や心当たりに電話をする。
「……そうですか、夜分遅くに申し訳ありませんでした。失礼いたします」
 電話を切って、溜め息をつく。その姿を見ていた美紗が訊いた。
「……やっぱりいないの?」
「ええ……。携帯の方も繋がらないし、影王さんの方でも探してもらってはいるけれど……」
 それでも、ロードは見つからない。「ロードの馬鹿」と美紗が呟く。
「どこに行っちゃったんだろ……お母さんやサキお姉ちゃん、影王さんも心配してるのに……」
「そうね、修行を放ったらかしにするような子でもないし……」
 むしろ、逆に修行に励む方だ。父のような人間になる為に。
 そんなロードが、突然連絡も無しにどこかへ消えるわけがない。
「失礼します。ただ今、戻りました」
 と、そこへ影王が姿を現す。美紗がすぐに訊いた。
「影王さん、ロードは!?」
「残念ながら。伊賀家の総力を上げて捜索は続けておりますが、まだ……」
「そっか……もう、ロードったら……!」
「まさか……」
 母であるアリサが呟く。
「……まさか、あっちに……」
「それはないかと思います。あちらにいるのであれば、何らかの連絡が私にあります」
「あっちって……?」
 美紗が首を傾げる。アリサと影王が同時にハッと目を大きく開いた。
 そして、アリサが首を横に振りながら答える。
「何でもないわ。もう遅いから、美紗はそろそろ寝なさい」
「でも……」
「ロードの事は大丈夫よ。影王さんもいるし、シュウハさんにも連絡は入れてあるから」
「ご安心を。ロード様は、必ず我々が」
「う、うん……」



 翌日。ロードの件はあるものの、アウィードの修行は容赦なく行われた。
 朝だと言うのに、真っ暗闇にされてある道場で、昨日と同じ修行。
「…………」
 目をキョロキョロと動かしながら、周囲を確認する。その時、鋭い一撃を受けた。
「うぁっ!?」
「目で追うでない。集中力を高めて、気配を感じ取るのじゃ」
「け、気配って言われても……ぐぇっ!?」
 容赦なく、周囲から何かがぶつかる。アウィードは早くもダウンした。
 それを見ていた獣蔵が溜め息をつきながら、アウィードに言う。
「今のお前に足りぬのは、剣を振るう集中力じゃ。この修行でそれを身に付けなければ、強くなれぬぞ」
「そ、そう言われても……」
「心を落ち着かせて、集中するのじゃ。良いな?」
 そして、再び何かが襲い掛かってくる。アウィードは瞳を閉じ、深呼吸した。
 その姿を見た獣蔵がほう、と反応する。闇の中、襲い掛かってくる何かにアウィードが反応した。
「……っ!」
 弾く。それは、天井から縄で宙吊りにされている丸太だった。
「次は……そっち!」
 次々と襲ってくる丸太全てを弾く。獣蔵は感心した。
(こやつ、筋は良い。集中力を高めただけで、これほどとは)
 霊力の扱いも良い。ロードとは比べ物にはならない。
 父と母に鍛えられていたようだが、流石と言うべきか。
「あやつが生きておれば、ロードもこれほどに成長していたかもしれんな」
 と、呟く。しかし、集中しているアウィードには聞こえる事はなかった。



 朝。登校して、担任教師がロードについて話をし出した。
「えー……神崎聖だが、急遽、留学が決まって今日から不在だ」
 クラス内が騒ぎ出す。美紗も内面、驚いていた。
 確かに、突然行方不明になったとは言え、手回しが早過ぎる。
 神崎家と言う大きな存在が裏で何らかの事を行ったのだろうが。
(多分、シュウハさんがそう手配したんだろうけど……シュウハさんって、本当に何者なんだろ……?)
「それと、御厨の方は連絡無しだ。誰か、知ってる奴いないか?」
「え……?」
 そう聞いた美紗が、御厨渚の席へと目をやる。そこに、彼女の姿はなかった。
(偶然、だよね……?)
 ロードの行方不明と御厨渚の無断欠席。偶然だと思いたい。
 けれど、昨日の今日で、二人ともいなくなった事が不安だ。
(……まさか、駆け落ち……!?)
 そう思うと、胸がズキリと痛む。



 昼。美紗は優子と一緒にお弁当を食べながら、ロードの事を話していた。
「ひーちゃん、留学したって聞いたけど、本当なの?」
「う、うん……私も初めて聞いたけど、そうみたい……」
 とりあえず、話を合わせておく。すると、優子が落ち込んだ。
「そっかぁ……どれ位留学するのかなぁ……」
「さ、さあ……?」
「ひーちゃんと会えないんだぁ……そうなんだぁ……」
 落ち込む。美紗は、何も言えなかった。
 ロードが行方不明で、何がどうなっているのか、自分にも分からない。
 気に掛かっているのは、昨日の夜に母が言った「あっち」と言う言葉。
(あっちって、どこだろう……?)
 あの時、母は何かを隠しているようだった。そして、影王も。
 二人には何か分かっているかもしれない。
(今日、お母さんに聞いてみよう……!)
 そう決め込む。



 放課後。すぐにでも帰って、母に「あっち」と言う何かを聞こうと思う美紗。
 その時、不思議な感覚に襲われた。
「え……?」
 聞こえる全ての音が消え、胸騒ぎがする。
(何、これ……?)
 今まで感じた事のない何か。それが何なのかは分からない。
(屋……上……?)
 そう、分かったのは一つ。屋上からそれは感じる。
 ロードなのだろうか。そう思うと、不思議とこの感覚も納得できる。
「――――ちゃん、美紗ちゃん!」
 と、不思議な感覚が消える。美紗は目を大きく開いた。
 アウィードが訊いてくる。
「どうかしたの?」
「…………」
「あ、あの……」
「……ううん、何でもないの。ただ、屋上から何か感じて……」
「屋上?」
「うん……こんな感覚初めてだけど、でも……」
 凄く気になる。すると、アウィードが言った。
「行ってみよう。何があるか分からないけど、気になるなら」
「うん」



 屋上。美紗はアウィードと共にやって来た。
 誰もいない、ただの屋上――――否、誰かいる。
「女の……人……?」
 純白のドレスを纏った、長い緑髪の女性。その姿は、まるでおとぎ話に出てくるようなお姫様のよう。
 それを見たアウィードが身構える。
「…………」
「私に気づき、身の危険を感じましたか」
 女性が振り向きながら言う。アウィードは直感で集中した。
 嫌な感覚。それは、殺気と言うより恐怖。
 すると、女性が手をアウィードの方へと向ける。
「あなたは下がりなさい」
 その言葉と同時に、アウィードが吹き飛ばされる。思い切りフェンスに叩きつけられた。
「がっ……!?」
「アウィード君!?」
「愚かな存在。私がここにいるのは、あなたの存在を知る為」
 そう言って、美紗を見る。美紗は恐怖を感じた。
 逃げなければ。そう思うが、身体が思うように動こうとしない。
「…………」
「あの存在の力受け継ぎし者と言えど、所詮は人間。私に恐怖を抱いていますね」
「……あ、あなたは……だ、誰……?」
「さあ。私は、あなたの存在を知り、消す為にここにいる。それだけですから」
 そう言いながら、美紗の方へと手を向ける。漆黒の光が集まり出した。
「全ては、今存在する全ての為に」
 放たれる。美紗は目を閉じた。
 が、何も起こらない。美紗を開けて、自分の目の前に立つ人間に気づいた。
 影王だ。影王が女性を鋭く睨みつけて、相手の放った何かを阻止したのだ。
「か、影王さん……!?」
「どうにか間に合いましたか。ご無事で何よりです、美紗様」
「う、うん……」
「何者かと思えば、あなたですか」
 女性が言う。影王が睨みつけたまま、構えた。
「そう言うお前は何者だ?」
「あなたの主が唯一倒せない存在」
「何……!?」
「全ては、今存在する全ての為に」
 そう言いながら消える。美紗は、その場に座り込んだ。
 何が起きたのか全く分からない。あの女性が何者なのかも分からない。
 分かっているのは、あの女性は自分を殺そうとしていた事。それだけ。
 影王がアウィードを担いで、美紗に手を差し伸べる。
「シュウハ様にご連絡して、迎えを呼びます。立てますか、美紗様?」
「…………」
 影王の言葉も聞こえないくらい、恐怖を感じていた美紗だった。



 第二章へ

 第四章へ

 戻る

 トップへ




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送