影王の手配で、美紗とアウィードは無事自宅へ帰り着いた。
 母であるアリサが二人を迎える。が、アウィードの姿を見て驚いた。
「アウィード君、ボロボロじゃない……どうしたの!?」
「あはは……」
「…………」
「とにかく、治療しましょう。話は後にして」
「……お母さん」
 美紗が口を開く。そして、母を見た。
「ロードはどこに行ったの? お母さん、本当は知っているんでしょ?」
「……美紗、ロードの事はお母さんも分からないのよ」
「そんな事無い! だって、昨日お母さん『あっち』って!」
「それは……」
 アリサが口篭る。美紗には教えてはいけないからだ。
 過去の事。ロードと美紗が産まれる前の事。
 母の姿を見て、さらに疑う美紗。その時、後ろから肩を軽く叩かれた。
「まずは、彼の治療をしましょうか。話はその後です」
「シュウハさん……」
「何があったかは、影王より聞いています。今は落ち着きなさい」
 美紗にそう言って、神崎家の当主代理補佐――――シュウハがアウィードの肩を持った。






宿命の聖戦
〜THE FINAL LEGEND〜



第一部 希望と優しき心

美紗編
第四章 告げられた真実


 居間。時刻は夜の十時を過ぎた。
 誰も口を開かず、時間だけが無意味に経って行く。
 そんな時、シュウハがついにその沈黙を破った。
「まずは今回美紗を襲った者について、聞けば我々とは異なる力を持っているそうで」
「……はい。霊力のような力ではありません。あれは……」
 そこで影王の口が止まる。美紗がじっと母を見た。
 目を伏せ、何も話そうとしない母。やはり、何かを隠している。そう、美紗は悟っていた。
「…………」
「ロードが姿を消した件もありますからね。これは、もう黙っておくわけにはいかないでしょう」
 シュウハがそう言いながら、アリサを見る。
「全てを話しましょう。それが、美紗の為にもなります」
「シュウハさん、それは……」
「いつまでも隠すのは止めましょう。もはや謎の存在が現れています。話した方が良い」
「…………」
「お母さん……」
 躊躇うアリサを美紗が見る。それを見たアリサは、思わず目を見開いた。
 美紗の瞳。どことなく、あの人に似ている。父親であるあの人に。
 やはり、美紗もロードと同じだ。そんな美紗の瞳を見て、一息吐いた。
 小さく、「ハヤトさんの馬鹿」と呟きながら。
「……美紗、私は……お母さんは地球の人間じゃありません」
「……え?」
 突然の母の言葉に、美紗が首を傾げる。
「お母さんは、本当は”ネセリパーラ”と言われる世界の人間なの」
「ネセリパーラ……? えっと……どう言う事……?」
「まずは、過去……一五〇〇年前の話から始めましょう」
 シュウハが説明を始める。一五〇〇年前から繰り返される戦いの事。
 異世界ネセリパーラと呼ばれる世界の事。《霊王》、《覇王》と呼ばれる存在の事。
 そして、その戦いに神崎家――――父や母が関わっていた事を。
「神崎家は代々、《霊王》の血を継ぐ家系であり、聖戦と呼ばれる戦いは遂に終結を迎えました」
「その戦いを終わらせたのが、お父さんなのよ」
「え……?」
 母の言葉に美紗の目が大きく見開く。
「お父さんが……?」
「そう、二人が産まれる前に終結しました。ハヤトとアリサさんの想いの力によって」
 シュウハがさらに説明する。父であるハヤトの頃の戦いについて。
 全ての話を聞いた美紗が疑問に思う。
「……もしかして、お父さんが死んだのって……」
「聖戦は関係ありません。ハヤトが死んだのは、本当に事故だったのです」
「そうなんだ……」
「本題はここからです。おそらく、ロードはネセリパーラにいるはず」
 これだけ探しても見つからないののであれば、間違いないだろう。そう、シュウハは考えた。
「それに、美紗が会った謎の敵の事もあります」
「しかし、ロードは向こうへ行く手段を知りません。どうやってネセリパーラに……」
「簡単じゃ。時空の乱れに巻き込まれただけじゃ」
 と、曾祖父である獣蔵が突然姿を見せる。美紗は驚いた。
「おじいちゃん!?」
「霊剣に兆候は無い、が……時空の乱れが起きた。どう言う事か分かっておるな?」
「……聖戦は終結したけれど、何かが起きようとしているのでしょうか?」
 アリサが尋ねる。その問いに、獣蔵は小さく頷いた。
 そして、美紗の方をじっと見る。
「……ハヤトの娘とは言え、問題は”あれ”が美紗を選ぶかどうか、じゃな」
「……?」
「それは、まだ話をしなくても宜しいでしょう。問題は、あちらへ行く手段です」
 首を傾げる美紗を無視しつつ、シュウハは話を進めた。



 異世界ネセリパーラ。その世界の空を飛ぶ、巨大な戦艦。
 その戦艦の名はイシュザルト。そして、そのイシュザルトの格納庫で、彼は頭を抱えていた。
「……全く、前にも言っただろう。こいつらはデリケートだから、整備が他の違うって」
 綺麗に剃られていないのか、若干のヒゲが残る男が若手の整備員に言う。
「昨日、ここの所属になったんだったか?」
「は、はい」
「だったら知らないか……。イシュザルト配下のこいつらは、俺が直接開発しているからな」
 だからこそ、整備の方法等が違う訳だが。
 整備を行いながら、少しずつ教えていく。その時、通信が入った。
『……様、聞こえますか?』
「聞こえているぞ。あと少しで出撃できるようになる」
『察しが早いですね』
「お前からの通信は、必ず機体の出撃が可能かどうかだけだからな。また、奴らか?」
『はい。数は三十体、全て通常体です』
 数的には多い。しかし、問題は無い。
「分かった。急いで準備する。あいつら三人に連絡しておいてくれ」
『分かりました』



 地球。朝、目を覚ました美紗は考えていた。
 母達が話してくれた戦いの事、父の事、そしてロードの事を。
「……異世界」
 そこに行けば、ロードがいるかもしれない。いや、いるのだ。
 シュウハが言うには、異世界に行くには道具が必要らしい。
「おじいちゃんが言ってた”あれ”も気になるけど……」
 理解できなかったが、話を思い出す限りでは、父の事が関係している。
 父が戦っていた時は、どのようにして異世界に行ったのか、その事かもしれない。
 分かった事は一つ。このままじゃ駄目だと言う事。
「霊力……」
 生まれ持っている力。前に一度、シュウハから聞いた事がある。
 神崎家では代々、霊力を無意識に放出しない為にも、それを抑制する術を行うと。
 そして、自分の力で制御できるように修行する事で、霊力を上手く使えると。
「霊力……」



 異世界ネセリパーラ。格納庫で彼は深い溜め息をついた。
 目の前には、万全な状態に仕上げた三体の機体――――ではなく、傷つき、ボロボロな三体。
「通常体30体とは言え、ここまでボロボロにするなんてな……」
 戦力的な差と言うよりは、操者の実力がまだまだ未熟か、と彼は思う。
「システム、武装、機体性能はともかく、やっぱ操者が若過ぎたか? いや、昔を考えると……」
 いや、昔の事を考えても仕方がない。
「……やはり、動くのがたったの三体って言うのが一番の問題だな。こいつらを動かせる奴らを増やさないと」
 そう言いながら、ボロボロな機体とは別の機体を見る。
 乗り手が決まらず、一度も動いていない二体の機体。何が問題かは分かっている。
「駄目元で向こうに行ってみるか。確か、もう十六歳くらいになってるはずだよな」
 うんうんと頷きながら考える。



 地球。学校の帰り道で美紗は幼馴染である優子と一緒だった。
 二人で帰り道にあるケーキ店で、陳列されているケーキを見る。
「これ美味しそうだね〜」
「そうだね。買って帰ろうかなぁ」
「うん! 私はこれで、美紗ちゃんはこれだよね? ひーちゃんは……」
 と、優子の口が止まる。
「……ひーちゃん、いないんだったね」
「うん……」
「ひーちゃん、元気かなぁ……」
「大丈夫だよ。ロードなら」
 そう、ロードならどんな所でも大丈夫な気がする。ロードだから。
 そんな事を言っていると、後ろから首根っこを掴まれた。まるで、犬のように。
「学生が寄り道してんじゃないよ。とっとと帰りな」
「あ、コトネさん……」
「ふぇ、ご、ごめんなさい……」
 父の従姉であるコトネだった。二人を解放し、美紗を見ながら言う。
「全く、当主の娘が何やってんだい。アウィードって子は、既に修行してるよ」
「あはは……私、修行とかやってないですし……」
「確かにね。やる必要は無いと言えば無い、とでも言うと思ったのかい?」
 美紗の肩を掴む。
「とっとと帰るよ。あたしが鍛えてやる」
「え!? あの、コトネさん!?」
 コトネに無理やり連れて行かれる美紗だった。



 自宅の庭。そこで、シュウハと獣蔵は一本の剣を見ていた。
 神崎家に代々伝わり、”王”に選ばれた者が異世界へ行く為の扉となる剣。
 剣を持った状態で獣蔵が言う。
「やはり、霊剣には何の兆候も無いの」
「困りましたね。霊剣による手段が使えないとなると、やはり……」
 異世界へ行くには、異世界の人間が開発した装置が必要になる。
「せめて、ロードの無事だけでも確認できれば宜しいのですが」
「あやつなら大丈夫じゃ。あいつの……ハヤトの息子じゃからな」
「ぐるぅぅぅっ! ワワワワワワワワワンッ!」
 と、いきなりペットのアルマが吠え出す。それを聞いたシュウハが呆れるかのように溜め息をついた。
「いきなり何ですか? 突然吠えるなど、近所迷惑にしかなりません」
 そう言いながら、宥め様とする。その時、シュウハは感じた。
 空間が揺らいでいる。獣蔵の方を見る。獣蔵も気づいているのか、静かに頷いた。
「どうやら、向こうとの扉が開いたようじゃな」
「そのようですね。味方が来るのか、それとも敵のどちらか……」
 そう言いながら、獣蔵から霊剣を受け取る。一本しかないが、これでどうにかするしかない。
 と、上空で突然黒い穴が出現する。そして、一人の男が現れた。
 男を見て、シュウハが溜め息をつく。
「何ですか、その剃り残しは。それでも、アリサさんの弟ですか、あなたは」
「悪い……向こうで研究やら開発ばかりで、生活面を疎かにしてるからな」
「ガウッ!」
 がぶり。タイミングよく、アルマが男の腕に噛み付く。顔を歪めながらも男は犬の方を見た。
「……こっちに来る度に噛まれるのは、流石に慣れないな」
「やれやれ……大人しくしなさい。一応、大切なお客様なのですから」
 そう言いながら、シュウハがアルマを引き離す。男は苦笑いをする。
 その時、アリサが家の方から姿を見せた。
「今のは時空の乱れのようでしたが……?」
「久しぶり、姉さん」
「アラン……? アランなの?」
 驚く。男――――アランは頷いた。
 弟との久しぶりの再会。身なりはあまり褒められたものではないが、それでも分かる。
「どうしたの? あれから……ハヤトさんの葬儀以来、声くらいしか聞かなかったけれど……」
「ちょっと厄介な事がネセリパーラで起きててな。それで、頼みに来た」
 そう言いながら、アランがアリサに深々と頭を下げる。
「……頼む、あいつを……息子のロードを貸して欲しい。ロードの力が必要だ」
「ロードを?」
 アランの言葉に、アリサが口元に手を当てて驚く。そして、シュウハが溜め息をついた。
「残念でしたね。肝心のロードは、ここにはいません」
「ん? 学校って奴か?」
「いえ、地球にはいないのです」
「は? どう言う事だ?」
 不思議に思うアランに、シュウハが全て話す。今、何が起きているかを。
 その話を聞いて、アランが少し考えながら言う。
「……なるほど、ネセリパーラに」
「おそらく、ですが。今、ネセリパーラで何が起きているのですか?」
「……今、ネセリパーラで”グルヴァル”って言う化け物が出現し出した」
 アランが話す。数年前、突如現れた謎の怪物”グルヴァル”について。
 その数は多く、現状では戦力的に限界に近い事。
「今の状況は明らかにおかしい。そんな気がするんだ」
「なるほど。それで、”霊戦機”の存在を、と言う事ですね」
「ああ。これがもし、怨霊機とかに関係するなら霊戦機が必要になる。だからこそ、兄貴の息子をってな」
《霊王》の血を受け継ぐ者として、力になってくれるはず。そう、アランは思っていた。
 しかし、肝心の息子はいなかった。早くも当てが外れてしまった。
 どうしたものかと頭を抱える。



 コトネに連れられ、帰宅した美紗。コトネがふと口に出す。
「懐かしい奴が来ているみたいだね」
「懐かしい……?」
「先に庭の方に行きな。あたしは、アウィードの方を連れて来る」
「ど、どうして?」
「行けば分かる。早くしな」
 そう言って、コトネが道場の方へと足を運ぶ。美紗は首を傾げながらも、言われたとおりにした。
 庭の方へと行く。そこに母やシュウハ、そして会った事のない男性がいる。
「お母さん、ただいま」
「あら、美紗……おかえりなさい」
「ただいま。えっと……」
 男の方を見る。男が美紗に気づき、「おお」と手をポンと叩いた。
「そう言えば、双子だったな。確か、美紗だったか?」
「え? は、はい……えっと……」
「そう言えば、ほとんど会った事が無いから知らないわね。お母さんの弟のアランよ」
「え!?」
 母の言葉に、美紗が目を見開く。
「お母さんの弟? じゃあ、私の叔父さん!?」
「そうよ」
「と言うより、俺の存在ほとんど知られてないだろ……」
 アランが落ち込む。その時、コトネがアウィードを連れて姿を現した。
 アランの前にアウィードを出す。
「こっちに来たのは、どうせ戦える奴だろ? だったら、こいつで良いだろ」
「……こいつは?」
「アウィード君です。ロバートさんの息子さんです」
 アリサが説明する。ロバートの息子、そう聞いたアランが驚いた。
「ロバートの息子!? と言う事は、リューナの息子か……似なくて良かったな、うん」
「その言葉、リューナさんが聞いたら怒るわよ」
 アリサが苦笑する。二人のやり取りにアウィードは首を傾げた。
「あの……」
「悪い悪い。俺はアラン=シュクラッツ=エルナイド。お前の両親とは知り合いでな」
「父様と母様の知り合い?」
「ああ。そうか、ここに一人期待できそうな奴がいるわけか」
「そう言う事だ。連れて行くなら、とっとと連れて行きな。向こうで何かが起きているんだろ?」
 コトネが言う。アランは頷いた。二人のやり取りに美紗とアウィードはついていけないが。
 二人の様子を見ながら、アリサが軽く頷く。
「アウィード君を連れて行くなら、私と美紗も行くわ」
「正気か?」
「ええ。ロードの事もあるし、アウィード君に何かあったら、リューナさんに怒られるものね」
「お母さん、ロードの事って……」
「あの……連れて行くって、どこに……」
 二人はまだ理解できていない。あまりにも話が唐突過ぎるが故に。
「説明は向こうに行ってから聞いてください。今は、向こうに行く事が先決です」
「ああ。早くしないと、イシュザルトの座標からズレる可能性があるからな」
「いしゅざると?」
「ず、ズレるって一体……」
 何も分からないまま、教えてもらえないまま、アランがどこからか取り出した機械を操作する。
 そして、その間にアリサ達が出発の準備を始める。

 こうして、美紗も異世界ネセリパーラへ行く事となった。



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