巨大戦艦イシュザルト。その戦艦の格納庫に、美紗達は転送された。
 広く、周囲は機械だらけ、並んでいるロボットを見た美紗が驚く。
「ほ、本当に違う世界に来たんだ……」
「座標は問題無しだな」
「久しぶりね、イシュザルトも……」
 アリサが格納庫内を見渡す。霊力機こそ新型のようだが、他はほとんど変わっていない。
「これでも色々と改修はしてある。元々が元々だから、あまり変化は見られなく感じるけどな」
「アランさん、お戻りでしたか」
 一人の女性が話し掛けてくる。物静かそうな女性。アランが頷く。
「ああ。グルヴァルの動きは?」
「今はありません。その為、イシュザルトは王都へ戻る事にすると、副長が」
「それは都合が良い。王都の地下には、《斬魔》が封印してあるからな」
「はい。それで、そちらの方々がアランさんの言っていた……?」
 女性が美紗達を見る。
「そうだ。俺の姉とその娘、そして《斬魔》だった男の息子だ」
「初めまして。アランさんの助手を務めさせております、エル=シュクラッツ=リンリーアです」
「初めまして、アリサ=カンザキです。アランに素敵な助手がいるなんて、驚いたわ。挙式はいつなの?」
「いや、姉さん、俺とエルはそんな関係じゃ……」
「はい。私はただの助手ですので、そう言った関係は一切ありません」
 淡々とした口調で否定するエルだった。






宿命の聖戦
〜THE FINAL LEGEND〜



第一部 希望と優しき心

美紗編
第五章 脅威の襲撃


 王都アルフォリーゼ。都市の中心部にイシュザルトは着陸した。
 美紗達がイシュザルトから降りると、数十名ものの人間が敬礼している。
「え、えっと、これって……」
「副長、そんなのは別に良い。艦長やアルス達は戻って来ているか?」
 アランが目の前にいる女性に訊く。女性は首を横に振った。
「いえ、まだ霊力機で出撃している模様です。やはり、グルヴァル・ゼイオに苦戦しているかと」
「流石にゼイオは厄介だな。霊戦機でもあれば別なんだろうが」
「はい。後ろの方々が、地球の方々ですね?」
 そう訊きながら、女性が挨拶をする。
「私は、戦艦イシュザルトの副長のセレスティム=リンドバーグです。そして、左から……」
 セレスティムと名乗る女性が、整列しているメンバーの名前を言っていく。
「まずは霊力機操者のアウル=ネイレス、ディバイスタン=ディアルーシェ、フローレンス=ミーティリア=クロウナ。
 そして、オペレーター担当のソフィア=ミーティリア=クロウナ、火器制御担当のケイリュート=ガスタルです」
「ちなみに、ケイリュートはアルスの息子だ。意外と似てないだろ?」
「本当……アルスさんは、もう少し怖い顔していたものね」
 と、アリサが笑う。セレスティムが続けて話を進める。
「アラン様から話は聞いております。今回は、我々の問題の為に申し訳ありません」
「気にしないで、私もこの世界の人間ですから。それに、あの人が生きていれば、きっとこうしていたはずです」
「ありがとうございます。それで、《霊王》と《斬魔》の後継者は……?」
「この二人だ。ほら、自分で自己紹介しろ」
 アランがそう言いながら、美紗とアウィード二人の背中を押す。二人は緊張していた。
 それだけではない。全く分からない世界に強制的に連れて来させられた事もあって、頭の中の整理が出来ていなかった。
「え、えっと……か、神崎美紗です……」
「あ、アウィード=ウィルニースです……」
「セレスティム、早速だがアウィードを地下に連れていくぞ」
「分かりました。では、こちらへ」
「姉さんと美紗は、エルと一緒に家に行っててくれ。エル、あとは頼むぞ」
 そう言って、アラン、セレスティム、アウィードの三人が歩いていく。アウィードは終始首を傾げていた。



 イシュザルトが着陸した場所の近くの格納庫。そこに、彼らは移動した。
 地球からやって来た人間について話し合っている。
「まさか、アラン様の身内とはな……」
「副長が言うには、予想外もあったそうだ」
「予想外? アウル、それは一体?」
 赤髪の男の問いに、アウルと呼ばれた男が答える。
「《斬魔》の霊戦機操者の子、彼がこっちに来る事は、アラン様でも予定していなかったらしい」
「《斬魔》の後継者って言っていたから、同じように《斬魔》の霊戦機に乗れるって事よね?」
 アウルの言葉に、今度は長髪の女性が訊く。今度は青髪の男が答えた。
「それは分からないよ。そんな事言ったら、僕は《獣神》の霊戦機に乗れるわけだし」
「そっか、リュートが乗れるなら、《獣神》の霊戦機は目覚める訳か」
「そう言う事だ、フローレンス。それに、前にアルス様が言っていた。霊戦機は操者を選ぶと」
 赤髪の男が言う。霊戦機は、自らの意思で操者を選び、その者以外を乗せる事はしない。
 そして、それは遺伝で受け継がれるようなものでもない。フローレンスと呼ばれた長髪の女性が言う。
「それもそっか。しかも、リュートは霊力持ってないし」
「痛いところを……」
「でも、霊力機の操縦はお姉ちゃんよりも上だよね。だから、イシュザルトの操縦任されてるわけだし」
「ソフィア、私がいつリュートに劣るって……!?」
「話はそこまでだ。今回の戦闘の反省を行うぞ」



 王都アルフォリーゼに建つ城。その地下にアウィードは連れて来られた。
 そこにあるのは、腰掛けている石像だった。アランが説明する。
「こいつが、お前の父親が乗った《斬魔》の霊戦機ヴィクトリアスだ」
「父様が乗った……? あの、霊戦機って……?」
「霊戦機とは、怨霊機と呼ばれる敵と人間が戦う為に神が与えた存在の事だ」
 負の力によって誕生する怨霊機。しかし、人間達では到底、怨霊機には勝てなかった。
 その為、神は人々にその力を与えた。それが、霊戦機である。
「霊戦機は自らの意思で操者を選ぶ。今のところ、何か感じたりはしないのか?」
「突然、そんな事言われても……」
「やはり血筋は関係ないようだな」
 しかし、霊戦機が封印から蘇るかどうかも分からない。特に今回の場合は。
 怨霊機の復活は確認出来ていない。《冥帝王》のような存在もいない。
「霊戦機が復活すれば、間違いなく今回の件は怨霊機かそれ以上の何かが関係していると分かるんだがな……」
「仕方ありません。当初の予定通り、霊力機に乗ってもらうしかないかと」
「そうだな。あと二体、操者が決まっていない奴が残っているからな」
 セレスティムの言葉に、アランが頷く。その横で、アウィードは首を傾げていた。
 霊戦機と言うのが何なのかは分かった。そして、それに父親が乗った事も分かった。
 だが、まだ分からない事がある。
「あの、僕にはまだ分からない事が……」
「あとで教えてやる。セレスティムは美紗を連れて来てくれ。俺は、こいつと先に向かう」



 アランの自宅。変わらない家を見て、アリサは懐かしんでいた。
「変わらないわね、ここも……」
「ここがお母さんが住んでいたお家?」
「ええ。美紗とロードが産まれる前まで住んでいたのよ」
「そっかぁ……」
 家は、結構大きかった。それこそ、神崎家の自宅と良い勝負ができるくらいに。
 しかし、その中は昔と違っていた。
「…………」
「えっと……」
 玄関から奥まで転がっている何かの機械。それも複数。
 足の踏み場所すらないほど、懐かしの我が家は汚かった。アリサが溜め息をつく。
「アランったら……一人になって、どんな生活をしていたのかしら……」
「これって、生活できているのかな……?」
 逆にそう思う。すると、同行していたエルが答えた。
「基本、アランさんはイシュザルトで生活しておりましたので」
「……これじゃ、結婚できないのも頷けるわね。美紗、少しずつ片付けていくわよ」
「う、うん……」
「私も手伝います。流石に、このままでは生活できないと思いますので」
「ありがとう、エルさん」
 そう言って掃除を始める三人。その時、サイレンが鳴り響いた。エルが顔を上げる。
「これは、ゼイオの襲撃の……!?」
「ゼイオ?」
 美紗が首を傾げる。瞬間、何かが吼える音がした。
 そして聞こえる爆発音。それは、地球では聞く事はない音。



 イシュザルトのブリッジ。警報が鳴った直後に、セレスティムはイシュザルトに戻った。
 先に次の任務の為に待機していたメンバーに訊く。
「ソフィア、敵は!?」
「レーダーでの反応より確認! これは、グルヴァル・ゼイオです!」
 短い髪で、イシュザルトのオペレーターを担当するソフィアが答える。セレスティムが目を見開いた。
「ゼイオ!? 他の反応は!?」
「ありません!」
「イシュザルト!」
 イシュザルトに訊く。
『反応はグルヴァル・ゼイオのみ』
「イシュザルト浮上! リュート、すぐに攻撃準備! ソフィアは霊力機出撃のアナウンス!」
「了解!」
「はい!」



 イシュザルトの格納庫。ちょうど到着したアランは、すぐに霊力機の状態を確認した。
「イーヴァ、リィナル、レイザ! 調子はどうだ!?」
『コンディション、オールグリーン。問題ありません』
『こちらも同じく問題ありません』
『こちらも大丈夫です。いつでも行けます』
 三体の霊力機のカメラアイが光り、それぞれが答える。
 操者をサポートする為に開発したシステム。一緒にいたアウィードが驚く。
「ロボットが喋った……」
「これが霊力機だ。さっき言っただろ、霊戦機には意思があると。それを元に俺が作ったのが、こいつらだ」
 霊戦機が強いのは、操者と心を通い合わせるからだ。
 だから、アランは考えた。霊力機も同じようにすれば、どうなるのかと。
「喋った奴らは、”スラフシステム”と呼んでいる。操者と共に成長するシステムとしてな」
「操者と共に……?」
「そうだ。まだ、色々と課題はあるんだけどな――――!?」
 途端、イシュザルト内に震動が走る。
「イシュザルトが動いたか。色々と予定外の事ばかり起きるな、今日は……」
 特にグルヴァルの出現。反応は無かった為、安心していたのだが、それは油断だったらしい。
 しかし、疑問に思う。たかだかグルヴァル程度でイシュザルトが動き出すのはおかしい。
「……イシュザルト、敵は?」
『グルヴァル・ゼイオ一体を確認』
「ゼイオだと!?」
 驚く。そして、なぜイシュザルトが動いたのかも納得できた。
 グルヴァル・ゼイオは、霊力機で倒せる可能性が低い相手だ。アランが舌打ちする。
「ゼイオ相手に、霊力機三体か……こんな時に限って……」
「あの……」
 アウィードが恐る恐る訊こうとする。が、それは阻止された。
 霊力機に近づく三人の姿。それぞれが霊力機に乗り込む。
 それを見たアランが叫んだ。
「お前達、無茶はするなよ!」
「あの……」
「ここから離れるぞ。霊力機が出撃する!」
「は、はい……」
 どこまでも話を聞いてもらえないアウィードだった。



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