異世界ネセリパーラに来て一週間。ロードは日々、特訓を受けていた。
『ヴィトラスの動作確認。ダルバンの技が来る』
「ザンクトゥアーリウムで受け止める!」
 相手の仕掛けてくる攻撃を剣で受け止める。しかし、それは相手に見透かされていた。
 力で剣を弾き飛ばされ、コクピット部に剣を突きつけられる。
『戦闘終了。これで、また連敗記録が更新されたな』
「くそ……また一撃を加えられないまま……!」
『まだまだ、実力の差が大きいようだな』
 突きつけた剣を解き、相手――――ダルバンが言う。ロードは舌打ちした。
「全然歯が立たねぇ……強過ぎだろ、ダルバンのおっさん……」
 あれから一週間。霊力の特訓はガリュドス、霊兵機での戦闘はダルバンによって特訓が続いた。
 しかし、それでもダルバンには歯が立たない。これが実力の差だと痛感させられる。
「まだ特訓しねぇと一撃も当たらないよな……」
『しかし、最初に比べて霊力や操作は良くなっている。これならば、スピリットも使用できるだろう』
 ガイアが言う。その言葉に、ロードが「そうか」と呟いた。
「別に剣だけにこだわらないで、剣以外の武器も使えば……」
『試す価値はあるな』
「よし、ダルバンのおっさん、もう一度だ!」
『……いや、勘弁してくれ。そろそろ酒が飲みたい』






宿命の聖戦
〜THE FINAL LEGEND〜



第一部 希望と優しき心

ロード編
終章 強大なる存在


 ゼルサンスの城。謁見の間では、ある話が行われていた。
「先日のヴィトラス部隊全滅についてですが、怨霊機の出現は確認出来ておりません」
 ガリュドスが話す。辛うじて生き残った兵士から聞いた話では、敵はたった一体の謎の機体。
 しかし、それは怨霊機と呼ばれる敵ではない。その言葉に、玉座の隣にいる大臣と思われる男が声を上げる。
「怨霊機では無いだと? では、アルフォリーゼの新兵器か!?」
「それは無いでしょう。大臣も存じているはずです、アルフォリーゼ国とは十数年前に同盟を結んでおります」
 メルが言う。そして、その隣に立つ男も答えた。
「アルフォリーゼ国の可能性は無いでしょう。アルフォリーゼとゼルサンス間での技術提供も行われています。
 今回の敵が怨霊機でないとするのであれば、考えられる可能性は一つ」
「霊戦機でも怨霊機でもない、全く新しい存在。そう言いたいのか、レイオニス?」
 ガリュドスの問いに、男――――ゼルサンス国の三将軍の一人であるジェイル=レイオニスが頷く。
「それしかないだろう。この数年、突然出現したグルヴァルと言う存在の事も考えれば、新たなる敵の存在も否定できない」
「確かに。それに、グルヴァルの出現がその存在によるものだとすれば……」
 メルが考える。新たなる存在がグルヴァルを出現させた元凶であれば、ある程度の納得がいく。
 グルヴァルはこの世界を滅ぼそうとしている。そして、人間達はグルヴァルに対抗すべく、霊兵機や霊力機と言う物を作った。
 新たなる存在は、そんな人間達を始末する為に動き出した。
「これまでのグルヴァル殲滅は、敵にとっては不都合な事。そう考えれば、新たなる存在の出現も頷けます」
「なるほど。このタイミングで動き出したと言う事は……」
 今度はガリュドスが考える。なぜ、”今”なのか。
「動き出すタイミングはいつでも良かったはず。それなのに、今動き出したと言う事は……」
「《霊王》の目覚めか?」
「…………」
 可能性は否定できない。そんな感じのガリュドスだった。



 ダルバンによる特訓も終わったロードは、今度は格納庫でベティオムによる講義を受けさせられていた。
「ハーイ♪ ロードちゃん、説明するわよ?」
「おう……」
「今日は、アスティードに搭載しているスピリットシステムについてよ」
 操者の霊力を一時的に増幅し、戦闘能力を上昇させる、霊戦機の特性を擬似的に再現したシステム。
 それが、霊力機に搭載しているスピリットシステムだ。そう、ベティオムが説明する。
「ちなみに、霊力機は同盟を結んでいる国が開発した機体の事ね。だから、霊兵機には搭載されていないのよ」
「ん? だったら、何でアスティードには搭載されてるんだよ?」
「アスティードは、その国の技術提供を元に開発した霊兵機だからよ☆」
 アスティードに搭載したスピリットシステム、並びに”スラフシステム”ガイア。
 この二つは技術提供を元にベティオムが開発したと言う。
「しかも、アスティードのスピリットシステムは特殊なのよ」
「特殊?」
「そう。普通、スピリットは一つしか搭載しないのだけれど、アスティードには七つ搭載しているのよ」
「七つって……大丈夫なのか、それ?」
「普通は無理ね。けれど、発動方法を変更する事で、七つ同時搭載を可能にしたのよ」
 ベティオムの話が続く。
「スピリットには属性があって、火、水、風、地、雷、光、闇の七つに分類されているのよ。
 それで、アスティードは各属性の力を引き出す為に、あえて戦闘能力上昇を外したの☆」
「外したって……」
「その代わり、アスティードの武器に各属性の力が追加できて、攻撃力上昇になるのよ。
 本当は、七つのスピリットを同時発動が好ましいんだけど……」
「できねぇのか?」
「無理だったわ、流石に……もし発動させたら、アスティードは爆発するわね」
 スピリット単体でも扱いが難しい為、全てのスピリットの同時発動は危険と言っても良い。
 しかし、仮に全スピリットを同時発動させる事ができた場合、霊戦機をも凌ぐ力を得られるらしい。
「あくまで、計算上の話だけれどもね」
「ふーん……アスティードって、結構凄いんだな」
「そうよ。だ・か・ら、大事に乗ってね☆」
「は、はい……」
 至近距離のベティオムに、後ずさりして逃げたいロードだった。



 翌日。メルによって、ロード達は戦艦ゼイオンレイディアの格納庫に集められた。
「皆さん、集まりましたね? これから、私達はグルヴァルの巣と思われる場所に向かいます」
「巣? あの化け物って、やっぱ巣とか作ってたんだな」
 ロードが頭の中で妄想する。グルヴァルの巣と言う物を。そんなロードにメルは首を横に振った。
「そこまでは分かりません。巣と言える物を見つけたのは、今回が初めてですので」
「と言うより、巣って事は”ゼレブ”とか”ゼイオ”がいるって事よね」
「”ゼレブ”? ”ゼイオ”?」
「”ゼレブ”は繁殖能力を持ったグルヴァル、”ゼイオ”はグルヴァルの最終進化型と言ったところでしょうか」
 首を傾げるロードに、メルが説明する。
 共に厄介な存在であるグルヴァル・ゼレブとグルヴァル・ゼイオ。話は続く。
「共に、並大抵の霊兵機では倒すのは困難です。ゼルサンスでも優秀な操者が乗るヴィトラスで互角以下ですね」
「……つまり、ダルバンのおっさんでどうにか倒せるかもしれねぇって事か?」

「いや、無理だろう」「それは絶対にないわね」

「……おい、即答するな」
 ファイクとセリーヌの言葉に、ダルバンが溜め息をつく。
「確かに、俺でも難しいだろうな。メル、奴らが出現した時はどうする気だ?」
「もちろん、ゼイオンレイディアの主砲を使います。今回の作戦としては、霊兵機四体によるグルヴァルの掃討。
 巣と思われる場所からのグルヴァルの増加が止み次第、ゼイオンレイディアの主砲で一掃します」
「つまり、長期戦って事よね?」
「はい。操者の方々には負担が大きいかと思いますが。あ、一人最低20体を目安ですので」
 申し訳なく思いつつも、意外と厳しいメルだった。



 それは、誰もが予想していなかった。
 ゼイオンレイディアが向かった場所には、グルヴァルの巣と思われる場所はおろか、ただ大地が広がっているだけだった。
「メル、本当にここか?」
「はい。偵察部隊の報告ではここですが……」
 ダルバンの言葉に、流石のメルも唖然とする。アスティードに乗るロードはガイアに話し掛けた。
「ガイア、ダルバンのおっさんの言うとおり、反応とか無いのか?」
『索敵の範囲を広げてはいるが、反応は無い』
「しかし、妙ですね。どうして偵察部隊はここに巣があると――――」
「――――お姉ちゃん、上空に霊力反応!」
「――――!?」
 メルが上空を見上げる。そこに、一体の謎の機体が存在していた。
 漆黒の翼を大きく広げ、純白のローブに身を包まれた機体。その姿は、まるで闇に堕ちた天使のようだ。
『…………』
 静かに、アスティードを見る。
『まさか、ここにあなたが来るとは思いませんでした。しかし、好都合……』
 謎の機体が姿を消す――――瞬間、アスティードの前に姿を現した。
 ロードが目を見開く。謎の機体がアスティードの頭部を掴んだ。
「な……!?」
『まずは、あなたを消します』
「……が、ガイア、ザンクトゥアーリウム!」
『了解!』
 アスティードが剣を装備する。ロードは頭部を掴む謎の機体の腕を振り払った。
 剣に霊力を集中させる。
『スピリットはどうする?』
「任せる!」
『了解。霊剣ザンクトゥアーリウム、ファイアスピリット!』
「玄武正伝掌ッ!」
 剣に炎が纏わり、謎の機体に向けられる。が、謎の機体は簡単に受け止めた。
 否、何か見えない力で斬り込めない。
『無駄ですよ。そのような人形では、私に傷など付ける事はできません』
「だったら、霊戦機を模造したヴィトラスなら倒せるって事か?」
 ダルバンが仕掛ける。しかし、またも防がれた。
 謎の機体が手を振りかざす。ヴィトラスが簡単に吹き飛ばされた。
「な!?」
『言ったはずです。そのような人形では無駄だと』
「一体ずつが無理でも、二体同時なら行けるでしょ? ファイク!」
「了解」
 セリーヌとファイクが同時に仕掛ける。それでも、謎の機体には通用しなかった。
 見えない”何か”で全部防ぐ謎の機体。
『無駄だと言ったはずです』
 謎の機体が漆黒の翼を羽ばたかせる。発生した風が二人を吹き飛ばした。
 再び、ロードの乗るアスティードに手を伸ばす。それを見ていたミーユがメルの方を見た。
「お、お姉ちゃん……!」
「この強さ……怨霊機? でも、ヴィトラスでも通用しないと言う事は……」
 これが、同じ将軍であるガリュドスやレイオニスと話していた新たなる存在。そう思うと背筋が凍る。
『邪魔が入りましたが、ここまでです』
「何だよ、こいつ……一体何だよ……!?」
 手が震えている。ロードは恐怖を感じていた。体が硬直して動かない。
『消えなさい』

 ――――そこまでだ。

 刹那、謎の機体の隣に別の機体が出現する。漆黒の装甲と漆黒のマントを持った機体だ。
 翼を持つ謎の機体の腕を掴む。翼を持つ謎の機体が、漆黒の装甲の機体を睨んだ。
『私の邪魔をなさるおつもりですか?』
『言ったはずだ。まだ、この者を仕留める時では無いと』
 そう言って、漆黒の装甲の機体が翼を持つ謎の機体の腕を強く握る。
『我々の目的達成の為には、この者の力が必要だ。ここで仕留めては、全てが無駄になる』
『目覚めの兆しも無いですが、まだ生かしておく必要があると?』
『そうだ。それでも仕留めると言うのであれば、私自らが相手になろうか?』
 漆黒の装甲の機体が睨みつける。翼を持つ謎の機体が首を横に振った。
『……仕方ありません。あなたがそう仰るのであれば、それに従いましょう』
 そう言って、翼を持つ謎の機体が姿を消す。漆黒の装甲の機体がアスティード――――ロードを見る。
『…………』
「…………」
『……早いが、仕方ない』
「……!?」
 漆黒の装甲の機体の言葉に、ロードが首を傾げる。瞬間、漆黒の装甲の機体がアスティードを捕まえた。
「な……!?」
『目覚めてもらうぞ。お前の持つ”力”に』
「おっと、そうはさせるか」
 吹き飛ばされていたヴィトラスが近づき、剣を漆黒の装甲の機体に突きつける。ダルバンが鋭く睨んだ。
 否、漆黒の装甲の機体の周囲をセリーヌとファイクの三人で囲んでいる。
「何者だ、お前?」
『お前達に名乗る者ではない』
「だったら、覚悟は良いな? セリーヌ、ファイク!」
「了解、準備できてる!」
「こちらも」
『無駄だ。奴に傷一つ付けられぬお前達では、私には勝てん』
 漆黒の装甲の機体の全身が光り輝く。瞬間、三人が簡単に吹き飛ばされた。
 アスティードを捕まえたまま、漆黒の装甲の機体が姿を消す。それを見ていたメルは、唇を強く噛み締めた。
 何もできず、そしてロードを謎の存在に連れさらわれてしまった。自分の失態だ。
「あの機体達は一体何者なの……? こうも太刀打ちできずに……!」
「お姉ちゃん……。ロードさん、無事でいてくれると良いけど……」
 手を合わせるミーユ。『流麗』の部隊としては、完膚無きの敗北だった。

 現れた謎の存在。そして、謎の存在と共に消えたロード。

 謎の存在の目的は何か、ロードの持つ”力”とは何か。

 今はまだ、誰も知らない――――




宿命の聖戦
〜THE FINAL LEGEND〜

第一部 希望と優しき心

ロード編 完





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