みつめてナイト オリジナルストーリー『双剣の翼』

  序章 踏み入れた地、ドルファン











 ドルファン歴D26年4月。










 一人の傭兵志願者が、ドルファン国へ向かう。










 甲板で一人、彼は目先の国を見ていた。
 まだ幼さが残る顔立ちの青年。奇妙な二つの鞘を背負い、その鞘から見える二本の剣。
『まもなく、本船はドルファンへ到着いたします。下船の際には……』
 アナウンスが聞こえる。彼は静かに拳を強く握った。
「……ついにドルファン国に着いたのか……」
「やっと、ドルファンに着いたね」
 一人でそう呟いている時、タイミング良く虫のような羽根を持つ小さな人間が彼の肩に座る。
 彼にしか見えないし聞こえない、妖精の女の子。
「ピコか……」
『ピコか……って、もうちょっとアクティブなリアクションが欲しかったなぁ……』
「じゃあ……誰だ、お前は?」
「……アンタ、十数年も付き合ってる相棒に、そんな事言うわけ?」
 そう言って、妖精であるピコが彼の頬を殴るなり、蹴るなりする。
「冗談だ」と彼が言う。ややふくれっ面のまま、ピコが背中の剣を見て言う。
『この国でも、これ見て笑われちゃうかな?』
「……だろうな。俺としては様になっていると思うんだが……」
『一度鏡見てみたら? 奇妙な感じだけど?』
 ピコが可笑しく言う。確かに、彼の姿は奇妙と言えば奇妙だった。
 身に着けている鎧や篭手はともかく、その背中の剣は、誰もが初めて見るような物。
 無駄に大きく作られた鞘は、まるで折りたたまれた翼のようで、そのうち空でも飛ぶのではと思わんばかりに。
『でも、これが今の君の証なんだよね』
「……ああ」
「おーい、この国の管理局の人が書類にサインしてくれってよ」
 突然、後ろから呼ばれる。巨大な銃を背負った、黒い長髪を後ろで結ぶ男が大きく手を振っていた。
 彼が頷く。管理局の人間と思われる女性が書類を渡し、それを手にした。

Name:ゲイル=ラバーナ=ウィナー
Age :17 Blood Type:不明
Note:傭兵志望
Name:ショウ=カミカゼ(神風 翔)
Age :24 Blood Type:B
Note:傭兵志望
 書類を書き終えて渡す。管理局員である女性が確認する。 「えー……あなた方は傭兵志願でよろしいですね?」 「はい」 「ああ」  二人が頷く。 「では、書類の写しを軍事務局へ回しておきます。  ようこそドルファンへ。貴方にご武運がありますよう、お祈り申し上げますわ」 「ご丁寧にサンキュ」  男がウインクする――――が、女性は目もくれず、ゲイルに国内の地図を渡して去った。  その光景を見た彼が呆れる。すると、男が肩を組んできた。 「しっかし、何でドルファンなんだよ、ゲイル? お前の実力なら他の国の方が良いのによ?」  そう男――――ショウが訊く。ゲイルは答えた。 「ヴァルファバラハリアン。奴らがプロキア国に雇われてドルファン国を攻めようとしている。それが理由だ」 「相変わらずヴァルファに固執するな、お前」 「俺の使命だから、当然だよ。ヴァルファを必ず潰すのが、俺の使命……」 「だから、聖騎士団に入ったんだよな、元副団長殿」  久々に聞いた呼び方にゲイルが肩を落とす。 「よしてくれよ、俺はそんな器じゃないし、たまたま副団長になっただけなんだから」 「何がたまたまだ。カイノス殿やメコウ殿、そして団長のイグルス殿も認めただろ」 「だから、たまたまだって……ほら、もうすぐ港だ。陸地に上がる準備をするぞ」 「へいへい」  ドルファンの港に入航し終え、ゲイル達はついにドルファン国に足を踏み入れた。  降りてすぐに大きな深呼吸をしたショウが、辺りを見渡しながらゲイルに訊く。 「んで、俺達が今後世話になる宿舎は?」 「ちょっと待ってくれ。管理局員から貰った地図を見るから」  そう言って、地図を広げる。「私にも見せて」とピコが肩の上から覗き込む。 「う……ん……」 『シーエアー区ってところにあるみたいだよ。ほら、ここ』  ピコが指差す。ゲイルも確認した。 「入航した港がここだから……宿舎はすぐ近くだ。歩いて行ける」 「そうか。んじゃ、とっとと行こうぜ。今日は飯食ってすぐにでも寝る」 「おいおい、騎士らしくない発言はするなよ。聖騎士に一度はなった実力者なんだから」 「もう半年前の事だぜ、それ。俺は出世する為にドルファンに来たわけじゃねぇぞ」 「相変わらず、良い性格してるなショウ。ま、俺も気楽で――――」 「いやっ! 放してください!」 「――――!?」  近くで声が聞こえた。声帯からして少女の声。  軽く周辺を見渡す。先ほど降りた船の近くで、一人の少女がガラの悪い男達に囲まれている。 『女の子がチンピラに囲まれてるみたいだね……』 『そうみたいだな』  ピコの言葉に軽く頷く。  そう言っている側から、チンピラの一人と目が合ったのか、ゲイルの方へと近寄ってきた。 「おい、なぁに見てんだよ? 文句あるのかぁ、その面はよぉ?」 「別に。お前のようなチンピラに文句を言われるような事をした覚えはない」 「んだとぉ?」 「お、おい、ゲイル!」  ショウがゲイルの肩を掴んで引っ張る。 「やめとけ。関わったら、あとで面倒な事になるぞ」 「そう言うわけにはいかないだろ。困ってる人がいるんだ、助けないと」  荷物をショウに任せ、チンピラに近付く。 「悪いが、彼女を放してもらおう」 「へっ、カッコ良いなぁ、兄ちゃんよぉ。でもな、カッコつけると痛い目に遭うぜぇ……こんな風になぁ!」  チンピラがポケットからナイフを取り出し、切りつける。ゲイルは軽々と避けた。  避けたと同時にチンピラの足を引っ掛けて転ばし、背中から片方だけ剣を引き抜いて突きつける。 「大人しく立ち去れ。死にたくないならな」  顔に似合わないほどの低い声で、さらには怖い事をさらりと言う。  他のチンピラが後ろからゲイルに殴り掛かろうとしたが、ショウが鋭い瞳で動けなくしていた。  ゲイルに剣を突きつけられたチンピラが肩を震わせながら言う。 「てっ……てめぇ、いつか殺してやる……。次会う時は覚悟しとけよっ!」  そう言って、全員で逃げる。一息ついて剣を収めた。  少女の方へ近付く。すると、少女が小さく頭を下げた。 「……あ、ありがとうございました」 「いえ。それより、お怪我はありませんか?」 「は、はい。……あの、何かお礼を……」 「礼には及びません。当然の事をしたまでです」 「じ、じゃあ……せめてお名前だけでも……」  そう言った直後、少女の頬が赤くなる。 「あ……私はソフィア=ロベリンゲと申します」 「俺はゲイル。ゲイル=ラバーナ=ウィナー。傭兵としてドルファンに来た者です。彼は、俺の相方のショウ」 「ショウ=カミカゼ。よろしくな、ソフィアちゃん」 「ゲイルさんにショウさん……助けて頂いて本当にありがとうございました。では、急ぎますので、これで……」  深々と頭を下げ、そのまま立ち去って行く。ゲイルは彼女の姿を見送った。  そんな彼を見てニヤニヤを笑顔を浮かべ、ゲイルの肩を叩く。 「可愛い子だったな。良かったな、ゲイル」 「良かったって、何が?」 「何が、じゃねぇよ。これから先、良い出会いになるぜ、きっと」 「そんなわけないだろう。彼女はこの国の一般市民で、俺は傭兵なんだから」 「関係ねぇよ、そんなのは。ま、頑張れよ」  ショウが荷物をゲイルに返して歩き始める。ゲイルは「何を頑張るんだよ?」と呟いた。  ピコが「このこの〜」と肘で突いて来る。 『カッコイイね〜! 女の子を助けちゃってさ。よっ、色男!』 『ピコ、お前もか……』  溜め息をつきつつも歩く。しかし、この時ゲイルは彼女――――ソフィアの事を不思議に思った。  笑顔とは裏腹に、どこか悲しみを秘めているような瞳。そう思えて、気になる。  ついに、ゲイルはドルファン国へと足を踏み入れた。  ヴァルファバラハリアンと戦う為に。己が背負う運命と向き合う為に。



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