みつめてナイト オリジナルストーリー『双剣の翼』

  第一部
   第二章 雷を操る復讐者




 翌日。訓練場で肩で息をし、へろへろとなった傭兵達にヤングの怒鳴り声が頭に響く。
「もうバテたのか、ゴロツキ共! そんなんじゃ、戦争で死ぬぞ!」
「死ぬぞって……これは流石にバテるだろ……」
 と、ショウが小さな声でぼやく。
 朝から鎧を着た状態で訓練場の外周を10周。そして、基礎訓練の繰り返し。
 休憩の時間などない為、それは地獄とも言える訓練だった。
「流石に脇腹が痛ぇ……」
「そうか? 基礎訓練ばかりだから、そうバテるわけないだろ」
「……何でお前はピンピンしてんだよ」
 隣で、まだ余裕の表情を見せるゲイル。それを見たショウは疲れが増した気分だった。
「鎧着た状態で、さらには休憩なしの訓練だぞ、ゲイル……」
「でも、どれも聖騎士団にいた時と同じような訓練じゃないか。まだまだ大丈夫」
 その言葉は、ショウにとって皮肉にも近い言葉だった。
 双剣で、あの翼のような鞘は重いはず。それなのに、ゲイルは全く疲れていない。
 これが、前にいた国での副団長を務めた男。その差は、あまりにも大きかった。
「……俺が出世できないのは、お前みたいなのがいるからだな」
「あのな……」
「そこの二人! 私語を慎め!」
 その時、ヤングに注意をされ、罰としてさらに10週追加を言い渡される二人だった。



 夕刻。訓練を終えた二人は、特に何もしないで真っ直ぐ宿舎に戻っていた。
 途中、ゲイルが立ち止まる。
「…………」
「どうした?」
「…………」
 後ろを振り返る。目だけで辺りを見渡すが、すぐに前を向いた。
「気のせい、か……」
「何がだよ?」
「何でもない」
 そう言って歩く。ショウは、そんなゲイルを見て溜め息をついた。



 それから数日。ドルファン国に入国して、初めての休日。
 ゲイルは、双剣とは別に持っていた剣を手に、宿舎前にいた。
 鞘に収まっている剣の持ち手を握る。
「…………」
 ゆっくりと鞘から引き抜く。が、ほんの少し引き抜いただけで、すぐに戻した。
 肩で大きく呼吸する。
「……まだまだ、だな」
 まだ、この剣を引き抜く事はしていけない。いや、できない。
「…………」
 いつか、この剣を抜く時が訪れる。しかし、それは今ではない。
 そして、その時に剣を手にしているのは自分かどうかすら分からない。
 この剣はそう言う剣だ。そう、教えられた剣。
「おはよう、ゲイル!」
 と、朝早くから姿を消していたピコが現れる。
「朝っぱらから稽古? 元聖騎士様は真面目だね〜」
「……朝早くからどこに行ってたんだ? 心配するだろ」
「心配って……大丈夫だよ、私はゲイルにしか見えないんだから」
 確かにそれはそうだが。ピコがゲイルの肩に腰掛ける。
「ゲイル、今日は一日中稽古するの?」
「いや、持ってるお金を換金する」
「じゃあ、ついでにキャラウェイ通りに行ってみようよ」
 ピコが言う。そして、ゲイルに地図を見せた。
 しかし、当のゲイルは首を横に振る。
「いや、換金だけで良い」
「えー! ちょっとノリ悪くない、ゲイル?」
「全然。第一、そうやって誘うって事は、何か裏があるんだろう?」
「え……な、何の事かなぁ……」
 目を逸らすピコ。それを見ていたゲイルが言う。
「お前、ソフィア=ロベリンゲについて、また色々と調べたな?」
「うん♪ 今日はキャラウェイ通りに行くんだって」
 そう言った直後に、「あ……」と気づく。ピコは慌てた。
 そんな事だろうと思ったゲイルは、深い溜め息をつく。
「ピコ、お前……」
「べ、別に良いじゃない! ソフィアと会うくらい……」
「会うくらいなら、な。だが、交流を深める気はない」
「もう、君はいつもそう言って……。変なところで真面目だよねぇ」
「放っとけ。換金を済ませたら、双剣の手入れだ」



 そして、さらに数日。訓練は順調に進む中、ゲイルは妙な気配を感じた。
 明らかな殺気。この数日ずっとだ。
「…………」
 訓練が終わったその帰り道、ゲイルが立ち止まる。
「どうした?」
「……後をつけられている」
 その言葉に、ショウが目だけを後ろへ向ける。
「さっきから感じてる殺気の事か?」
「ああ。ここ数日間から感じてた殺気だ」
「ここ最近かよ。今まで何も起きなかったのが不思議だな」
「……ああ」
 後ろへ振り返り、ゲイルが曲がり角で隠れていると思われる相手に言う。
「出て来たらどうだ? 俺の後をつけている事は分かっている」
 すると、隠れていた相手が姿を見せる。ゲイルは驚いた。
 白銀の鎧に身を包んだ女性。その長い金髪が可憐さを残す。
 女性がゲイルを睨みつけたまま訊く。
「いつから気づいていたの?」
「結構前から。なぜ、俺を付け狙う?」
「あなたが、私にとって憎むべき人間だから」
 そう言って剣を引き抜き、突きつける。
「”鬼神のオルティリウス”! 姉さんの仇、ここで取らせてもらう!」
「鬼神? 一体、何の事だ?」
「恍けないで! 覚悟!」
 向かって来る。ゲイルは瞬時に右の剣だけを背中から引き抜いた。
 女性の剣を受け止める。
「流石は鬼神ね! こうも簡単に受け止められるなんて……!」
「人違いだ、俺は鬼神なんて……」
「そんな訳がない! あなたこそ、”鬼神のオルティリウス”でしょう!?」
 距離を置き、再び女性が剣を振るう。何度も。
 それを全て防ぎながら、ゲイルは女性の剣を見た。
 レイピアのように細くも、強堅な刀身。そして、竜の頭部を模した柄。
 もしこれが本物であれば、とても厄介だ。
「これで決める!」
 女性が再び距離を取る。ゲイルは「仕方ない」と舌打ちした。
 ショウが加勢しようと剣を引き抜く。が、ゲイルが止めた。
「待て、ショウ!」
「待てるか! 女でも、あいつはお前を殺そうとしてるんだぞ!」
「分かってる! だから、俺だけで十分だ!」
 そう言って、目を閉じる。女性が剣を振り上げた。
「雷よ!」
 剣から雷が発生し、振り落とすと同時に放たれる。
 ゲイルへと真っ直ぐ放たれた雷。目を開き、ゲイルが剣を地面に刺した。
 雷が迫ると同時に手を離す。突き刺した剣に雷が集中した。
「避雷針代わりに……!?」
「そこまでだ。剣を収めろ」
「――――!?」
 瞬時に女性の目の前まで近づき、もう一本の剣を引き抜いていたゲイルが、女性の首元に剣を突きつけて言う。
 自分の負けを認めたのか、女性が剣をその場に捨てた。
「私の負けだわ。殺しなさい」
「……さっきから言ってるが、人違いだ。殺す気もない」
「人違いのはずがない! だって、あなたの瞳からは……!?」
 女性がゲイルを睨む。が、すぐに唖然とした表情を見せた。
「……殺意がない……? 人違い……!?」
「だから、そう言っているんだけど……」
「んだよ、本当に人違いかよ……。確かに、鬼神みたいな感じはたまにあるけどよ」
「第一……鬼神って何の事だ?」
 ゲイルが訊く。その言葉に、女性とショウが目を見開いて驚いた。
「マジで言ってんのか、お前!? ”鬼神のオルティリウス”だぞ!?」
「と言われてもな……騎士団入る前は、師匠と田舎で暮らしてたからな」
「鬼神を知らないなんて……驚きだわ」
「それで、鬼神って何なんだ?」
「ったく、まさか無知なんてな……良いか、鬼神ってのはな……」

 今から七年程前。全欧最強の傭兵騎士団ヴァルファバラハリアンには、誰もが恐れる騎士が存在した。
 全ての生きとし生ける者を殺し、己の周囲を真紅の血と肉の塊のみとする騎士。
 その強さは未知数で、団長”破滅のヴォルフガリオ”にとって、貴重な戦力だった。
 それが”鬼神のオルティリウス”であり、現在は行方不明らしい。

「行方不明?」
「ああ。ある日を境に突然、らしい」
「”鬼神のオルティリウス”か……そんな奴がヴァルファにいたなんてな」
「その鬼神を知らない傭兵がいた方が驚きだわ」
 女性がそう言って、剣を収める。そして、頭を下げた。
「さっきはごめんなさい。人違いとは言え、殺そうとして」
「いや、無事だったから気にしないでくれ。俺はゲイル、ゲイル=ラバーナ=ウィナー」
「私はミレア=シュティーヌ。ドルファン軍傭兵部隊所属」
「って事は、俺らと同じか。ショウ=カミカゼだ。それで、お前のその剣……」
 ショウが指を差す。ミレアが「これ?」と言って、剣を取り出した。
「この剣がどうかした?」
「それ、魔剣だろ? さっき雷出してたし」
「ええ。竜狩りの雷鳴剣ドラゴンスレイブよ」
「やっぱりそうか……」
 ゲイルが確信する。ミレアの持つ剣は本物だったと。
 かつて、魔女が竜を殺める為に、その竜の鱗と己の魔力を全て捧げて生み出した剣。
 それが、竜を狩れるほどの切れ味を持った雷を宿す剣・ドラゴンスレイブ。
「ドルファンにもいたんだな、魔剣を持つ人間が」
「にもって……あなた達も魔剣を?」
「俺は、な。ゲイルは魔剣とか持っていない」
 と、ショウがそう言いながら自分の剣を鞘に入れたまま見せる。
「こいつは、炎熱の魔剣フラムベルジュ」
「炎の剣……頼もしいわね」
「傭兵部隊なのに、魔剣所持者が二人か。色々と凄いな」
「あら、私の攻撃を見切ったあなたの方が凄いと思うけれど?」
 ゲイルに言う。ミレアの言葉に、ゲイルは苦笑した。



 宿舎の自室。ゲイルは、壁に掛けてある剣を見た。
「鬼神、か……鬼神が抜けたヴァルファバラハリアンの今の戦力は、どうなっているのか……」
 鬼神と言う脅威の強さを誇った人材が抜けているとは言え、ヴァルファの最強の名は滞る事はない。
 戦力からしても、ドルファン軍は不利な状態だ。覆る事はないだろう。
「大丈夫じゃない? だって、君はともかく、あのショウだって強いんだから」
「……人の心の中を読むなよ、ピコ」
 肩を落とす。ピコが「それよりも!」と一通の手紙をゲイルに渡した。
「君が帰ってくる前に届いてたよ」
「手紙? 誰から……」
 封を開け、中身を見る。肩を落とした。
 ピコが首を傾げる中、ピコに手紙を見せる。
「何々……『明日から、お前はドルファン学園にも通え。ヤング=マジョラム』って書いてあるね」
「何でこの国の学園に……学問はメイコ殿から散々叩き込まれたんだけどな……」
「君がまだ17歳だからじゃない?」
 確かに、年齢的に学生だが、今更と言うものである。
 それなのに、学園に通えと言う、教官のヤングの考えは全く理解できない。
「……ちょっと出て来る」
「どこに行くの?」
「ヤング大尉の所だ。命令とは言え、これは納得したくない」
 意外と不満があるゲイルだった。



 第一部 第三章へ

 戻る

 トップへ




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送