聖霊機ライブレード正伝 君の想いが俺に届くまで・・・ 第1話 日常との別れ

「うわぁぁぁぁぁぁっ!」  ガバッ。気づけば自分の部屋にいた。昨日の夜からついているラジオからノリの良い曲が流れる。 「はぁはぁはぁ……ゆ、夢か……」 『……4月8日金曜日の交通情報は以上です。さて、今日から新学期が始まるところも多いようですが』 「……ふぅ、とにかく起きるか……」  まるで現実のような夢だった。そう思いつつ、ラジオに手を伸ばし、電源を切る。  ベッドから起き上がると、突然の目眩に襲われた。 「あ、あれ……うわっ!?」  そしてベッドから落ちる。少しだけ天井の電気が揺れた。 「い、痛ぇ……」  ドタドタと階段を昇ってくる音が聞こえる。そして、ドアが開いた。 「トウヤちゃん、どうしたの!? 今――――!?」  幼なじみのカスミがトウヤのその姿を見て言葉に詰まる。それも、顔全体を真っ赤にして。  無理もない。今のトウヤはトランクス一枚だけであり、そんな姿をカスミは初めて見るのだ。  そんな事など知らず、トウヤが立ち上がりつつ、カスミの方を見る。 「あっ……? おはよう、カスミ……?」 「……あ、と、と、ととと、トウヤちゃん……」 「……? 何硬直してんだ? おい、か――――」 「い……いやぁぁぁぁぁぁっ!」  彼女が手にしていたおたまを投げつけられる。そして、カスミはそのまま部屋を出て行った。 「うっ……い、いってぇな……。何しやがるんだよ、あいつ……」  今、自分がどんな格好なのか把握していないトウヤだったりする。  制服に着替えてリビングに降りると、いつものようにテーブルには朝食が用意されていた。  両親と一緒に暮らしていた一軒家。今はとても広く感じる。 「……いつも、いらねぇって言ってるのに」  そう言いつつ、テーブルの上に置いてある写真を見る。  中学の入学式の写真。父と母と一緒に写った写真の自分は、まだどこか幼い面が残っている。 「おはよう。父さん、母さん……」  両親に朝の挨拶をし、用意されている朝食の横に添えられた手紙を読む。  カスミからだ。隣同士でいつも朝食を作ってくれる彼女の手紙には、こう書かれていた。
 透夜ちゃんへ

 朝ごはん用意しておきました。お味噌汁は温め直してくださいね。
 あと、ヤマトちゃんの姿が見えませんでしたが、ご飯は入れておきます。

 追伸
  さっきはごめんなさい。
  でも、あんな格好して寝ていると風邪を引いちゃうよ。

  それから、遅刻しちゃダメだよ。              佳澄美
「痛っ……」  手紙を読み上げて、左の頬を掻こうとした時に痛みを感じた。  夢で頬を少し切ったが、そこと同じ場所を怪我している。 「嘘……だろ……。夢じゃなかったのかよ……」  チャイムが鳴る。そして、すぐに玄関の扉が開けられた。 「あ〜あ、全く無用心だなぁ。鍵ぐらいちゃんと掛けとかなきゃ……」  聞きなれた声がして、すぐにリビングにそいつは姿を現した。 「ぐっも〜にんぐっ!」 「……晃一郎、不法侵入は立派な犯罪だぞ」 「まぁまぁ、いつもの事じゃない。僕とトウヤの仲にそんなカタイ事は抜き抜き。気にしない、気にしない」 「……ったく、まぁ良いけどよ。それより、お前、その服で行く気か?」  私服姿の晃一郎にそう訊く。今日は入学式のはずだ。  トウヤの言葉に、晃一郎が首を傾げる。 「え? トウヤこそ、そんな格好で行く気?」 「何言ってんだ? 俺らの学校って私服禁止だろ?」 「う〜ん、そのジョークは笑えないと思うよ。千尋ちゃんは別として、カスミちゃんは絶対ひくと思うけど」  その言葉に、今度は逆にトウヤが首を傾げた。 「本当にどうかしたんだい?  今日は千尋ちゃんの提案でカスミちゃんと僕ら四人で臨海パークへ行くって約束してたろ?」 「え? そんなはずねぇだろ? だって今日は……」  そう言いつつ、リビングに掛かっている時計の日付を見る。  4月10日。トウヤは目を見開いた。 「4月10日の日曜日だよ。ホント、どうしたんだい?」 「……とにかく、着替えてくる」  服を着替え、玄関を出る。その時、晃一郎がトウヤの左頬の傷を見た。 「トウヤ、さっきから気になっているんだけど、その頬の傷、どうしたの?  さてはカスミちゃんと喧嘩でもしたかな? ダメだなぁ、今から夫婦喧嘩してたら先が思いやられるよ。  ……ああ! それでさっきのジョークで和まそうと考えていたんだね?」 「……んな訳ねぇだろ」 「……何かあったの?」  トウヤは、晃一朗に最近の身の周りに起こっている異様な状況について話した。  晃一朗は、トウヤの表情や口調から、馬鹿にせず真面目に聞いてくれた。 「う〜ん……確かにそれは奇妙だね。  寝てる間についた傷じゃないとしたら、それは夢じゃなくて、もう一つの現実って事になるね」 「現実? まさか、アニメじゃあるまいし」 「でも、そう考えるとつじつまが合うじゃないか。4月8日が2日後の4月10日になってるとかさ。  事実は小説よりも奇なりだよ」 「…………」  そう言われるとそうかもしれない。それが、今のトウヤだった。  そんな時、彼の持っているカバンから、一匹の黒猫が姿を現す。 「……ん? あ。ヤマト」 「にゃあー」 「あ〜あ、またカバンに忍び込んで……」 「お前は変わらないな」  ヤマトは、両親を亡くしたトウヤが拾った飼い猫だ。  隙があれば、いつもカバンの中に忍び込んでトウヤと一緒にいる事がある。  そんな時、一台の車がトウヤの前で止まり、中から一人の男が出てきた。  三十代の顔つきで白いスーツに白い帽子をかぶり、見るからに外国人であると分かる容貌をしている。  その男は、トウヤのほうに真っ直ぐ近寄ってきた。 「カザミ・トウヤ君だね?」 「ん?」 「あ、私は怪しい者ではありませんよ」  その言葉に、トウヤが白い目で男を見る。 「……自分でそう言う事を言う奴は信用しねぇ事に決めてるんでな。行こうぜ、晃一……あれ?」  晃一郎の姿が消えている。トウヤは目を見開いた。 「う〜ん、なかなかベストなタイミングだったようですね。もう少しで手遅れでしたよ……」 「……どう言う事だ?」 「最近、君の周りで何か変わった事が起こりませんでしたか?  友達がいなくなったとか、昨日の記憶がないとか、日付が変わっていたとか、妙な目眩がしたとか……」 「――――! あんた……」 「私はフォルゼン・ジン・クラシオと申します。見ての通り、全然、ごく普通のサラリーマンですよ」 「俺には、流暢な日本語を喋るあまりにも怪しげな外人に見える」 「またまた、ご冗談を……」  警戒していた。自分を睨みつけるトウヤを前に、男――――フォルゼンは苦笑の表情を浮かべる。  しかし、今は時間が無い。彼が消える前に手を打つ必要がある。 「そうそう、今日伺ったのは……」 「宗教の勧誘ならお断りだ」 「とんでもない。私が伺ったのは……おや?」  カバンを開けて何かを探し始めるフォルゼン。 「確かこの中に入れておいたはずなのですが……あぁ、あった、あった。はい」 「……何だ、これ?」 「何って、契約書じゃないですか」 「契約書って、おい!」 「ほら、ココとココにサインしてください」  そう言って、渡された書類に指を差す。  何が書いてあるのか分からない。それがトウヤの本音であり、サインなどする気はない。  その時、回りの背景が透けて見て来た。フォルゼンがトウヤの姿を見て言う。 「あ〜あ、やっぱり君の周りの因果律が変わったみたいですね」 「て、てめぇの仕業か!?」 「とんでもないですよ。私はこうなる事を知っていただけで、君を助けに来た正義の味方ですよ」  慌てるトウヤとは対照的に、フォルゼンは他人事のように講釈する。 「分かりやすく言えば、この世界が、異分子であるあなたの存在を抹消しようとしているのですよ」  トウヤの視界はさらにかすみ、それが、トウヤを恐怖させる。それに追い詰められ、トウヤは叫んだ。 「おい! 何とかしてくれ!」 「なら、契約してくれますか?」  わざとらしく手に持った紙をひらひらさせる。  ヤマトが、目の男が飼い主に害を成す人間であると認識したのか、フォルゼンに飛びかかった。 「おっと、あぶない、あぶない」  それをかわし、ヤマトの首根っこをつまむ。 「では、こちらとしては真に残念ですが、さようなら」 「わかった! サインでも何でもするから何とかしてくれ!」 「ご契約ありがとうございます」  フォルゼンが指を鳴らした瞬間、トウヤに起こった感覚的な異常がなくなる。  トウヤは、思わず安堵のため息をついた。 「さてと、それでは行きましょうか」 「お、おい、ちょっと待てよ!」  何がどうなっているのか分からない。フォルゼンが困ったような顔をする。 「何ですか? 今更契約の取り消しは出来ませんよ」 「一体何がどーなってんだ? ちゃんと説明しろよ!」 「先ほど言ったでしょ? 君の周りの因果律が狂い、その結果、君自身の存在が変調をきたしたのです」 「……?」  頭に「?」を浮かべるトウヤ。 「つまり、君だけがこの世界から隔絶された存在になっちゃったと言う事ですよ。  まぁ、論より証拠と言いますし、とりあえずお乗りください」 「……どこへ連れて行く気だ?」 「ふふ、ふふふふふふ……」 「殴られたいか?」  拳を構える。フォルゼンは「冗談ですよ、はははははは」と苦笑した。 「目的地は青木ヶ原樹海です」 「…………」 「そんな猟奇殺人者を見るような目を向けないでください」 「……どうだかな」  トウヤから浴びる視線を感じつつ、フォルゼンが苦笑を続ける。  そして、いい加減に悪ふざけはやめておこうと思い、真面目に話す。 「この日本で『門』があるのは、そこだけなんですから」 「何だそれ?」 「我々の世界との接点と言えるものです。とにかく、詳しい事は中でお話しますから」 「……わーったよ。どうも拒否しても連れて行く気だからな」  フォルゼンの言葉にトウヤは折れた。ここは素直に従った方が良い。  それに、何か知っているはずだ。なぜこんな状況になったのか。  フォルゼンが苦笑し、ヤマトが「いい加減に放して」と弱い鳴き声を出す。 「あ、すみません。君の事すっかり忘れてましたよ」  いつもと変わらない生活との別れが、静かに告げられた。                                       to be continued...



 第2話 戦う意思

 戻る

 トップへ




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送