第1話 スタート!


 4月。入学式や部活動紹介も終わり、放課後はいつものように部活が忙しかった。
 部が成立されて以来、毎年恒例の如く全国に出場している部。
 つくづく、こんな部に入るんじゃなかったと思う。
「ふぁ……」
 が、こうして退部もしないで、さらには部長にまでなったのは、この部活が楽しいからだ。
 眠そうな目をゴシゴシと手で擦りながら、彼――――高村勇真(たかむら ゆうま)は眠気を覚ます。
「ん〜!」
「部長、さっき職員室に行ったら先生が呼んでましたよ」
「……職員室って、どこの?」
 背伸びをしていると、1つ後輩の徳永啓介(とくなが けいすけ)が言った。
「当然、機械科です」
「当然って……俺は、3人の先生から呼ばれる時があるんだぞ」
「部長が色んな悪さばかりするからですよ」
「してねぇよ。つーか、するかよ」
 そう言いながら、勇真は立ち上がり、機械科の職員室へ向かう。



 県立明善高等学校(けんりつ めいぜんこうとうがっこう)。それが、勇真の通う学校だ。
 高校では珍しく、普通科と工業科である電気、機械、工業化学、情報技術、電子機械の全6科が存在する。
 勇真はその中の一つ、情報技術科の生徒だ。
「機械科職員室が近いとは言え、微妙な所にあるよな、やっぱ」
 職員室に向かいながら思う。部室は、校舎裏に建つ古い校舎の三階に設けられている。
 しかし、この校舎の二階は本校舎と行き来する通路と化し、一階は立ち入り禁止の謎の空室。
 トドメを刺すのが、ここに部が存在すると言うのを教師までもが知らない事の方が多いのだ。
「……そう言えば、俺を呼び出すたのって一体……?」
 なぜ呼ばれたのか考える。とりあえず、部費はまずないと結論に達した。
 毎年全国に行く部活だ。その部費の金額は、前に聞いた時に驚くほど。
 しかし、その詳細の金額は教えてもらえない。あまりにも多いから。
「つーか、また部じゃなく同好会になってるんじゃ……」
 入っている部の凄いところは、3年も前から存在するのに同好会として知られているところだ。
 確かに部としての成立は3年前らしいが、それでもまだ同好会扱いされると言う酷い面が残っている。
 入学式前に各部活の部長が集められた際、勇真が部長を務めるこの部は同好会になっているままだった。
 流石に、その場で訂正させてもらったが、未だに納得できない面がある。
 なぜ、部として見られていないのか。名前は部となっているのに。
「とりあえず、職員室に行けば分かるか……その前に、上履きを履き替えよう」
 そう言いながら、職員室を後にして下駄箱に向かった。



 全ての科の生徒達が必ず訪れる下駄箱。ここには相変わらず微妙にタバコの臭いがする。
 間違いなく同じ生徒である人間が吸ったんだろうと思う。
「……この臭いに慣れてる自分が嫌になる」
 元々、父親がヘビースモーカーだから慣れてはいるが、学校でこの臭いに慣れたくはない。
 そう思うながらも自分の下駄箱を探して開ける。
 中には校庭用、体育館用、そして通学用の靴。通学用の靴を取り出し、上履きと履き替える。
「よし、職員室に行こう」
 外に出る。すると、突然何かが頭に直撃した。
「……意外と痛い。顔じゃなかったから良いけど」
 命中した部分を手で押さえながら、飛んで来た物を発見する。テニスボールだった。
 近くにあるテニスコートから飛んできたのだろう。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」
 投げ返そうと思ってボールを拾った時、声を掛けられた。どうやら、この声の主が打ったボールらしい。
「大丈夫」と言いながら振り返る。そこには、テニス部と思われる女子生徒が立っていた。
「あ……」
 女子生徒を見た途端、言葉が詰まった。肩までで切り揃えている黒髪で、可愛いと思った。
「えっと……」
 一瞬、思考回路が止まりながらも、この女子生徒が誰なのか思い出す。
 そして、ボールを返す。
「はい、秋月さん」
「あ、ありがとう……どうして、名前知ってるの?」
「知ってるも何も、秋月薫子(あきづき かおるこ)は学校で一番の人気者じゃないか」
 特に男子生徒が話題にする学校のアイドル。薫子が首を横に振る。
「そんな事ないよ。たまたま……だし……」
「たまたまって……」
「それより、本当に大丈夫? 保健室行った方が……」
「大丈夫だよ。そろそろ職員室行かないと……それじゃっ」
 そう言って走り出す。薫子が「待って!」と引き止めた。
「あの……名前、聞いて良いかな?」
「名前? 高村勇真。じゃ」
 そして、勇真の姿が見えなくなる。薫子は名前を繰り返した。
「高村……勇真……。そっか、彼だったんだ……」



 1時間後。職員室で自分を呼び出した顧問との会話を終え、勇真はようやく部室に戻った。
 一人の男子生徒が「遅いぜぇ!」と肩を叩く。
「なーにやってたんだよぉ、高村ぁ」
「それは俺の台詞でもある。俺が先生のとこ行く前に来てなかったのは何でだよ?」
 そう、少なくとも勇真が部室に来て30分くらいはほとんどの部員が来ていなかった。
 男子生徒が言い訳する。
「今日は姫と先に会ってたんだよっ!」
「姫って……深町、この間はマキちゃんって言ってなかったっけ……」
「マキちゃんとは別れちまったんだよ、チクショウ!」
 そう言って肩を叩く。女たらし――――もとい、副部長・深町忠信(ふかまち ただのぶ)に勇真はため息をついた。
「別れたって……まぁ、その話は後にするとして」
「するなよっ」
「後にする。今は、今年の大会に向けて話するんだから。休んでる奴は?」
 深町以外の部員に訊く。後輩の徳永が答えた。
「うちのクラスの奴らが8割ほど来てませーん」
「……今すぐ連れて来いって言いたいけど、もう良いや、あいつらは」
「ほひっ!? 良いんすか、そんなんで!?」
「良いよ、もう。元々やる気のない奴らだし」
 他に部員を確認する。自分を含めた3年生、まともに部活に来ている2年生は全員いる。
 話をするメンバーとしては十分だ。適当な椅子に座って、話を始める。
「今年の作品製作部が作る競技ロボットは3台。ちなみに、顧問からの命令」
「3台!? 2台でも大変なのに、3台っスか!?」
 たかが1台増えただけで驚くのは、2年で機械科の西村拓也(にしむら たくや)。
 そして、「えー、面倒ぃ〜」と言うような顔をするのは3年で勇真と同じ情報科の松尾隆盛(まつお りゅうせい)。
「2台で良いじゃん?」
「却下。で、作るメンバーの割り当てだけど俺、松尾君と深町、末広君は別々で作る事にする」
「おぉぅ、隆盛と一緒かよ! 頑張ろうぜぇ〜、隆盛!」
「うぇ〜、面倒ぃ〜」
「部費はいくら出たの?」
 と、訊いてきたのは3年の電子機械科である末広志信(すえひろ しのぶ)。この部の天才である。
「細かい額はやっぱ秘密だけど、去年と同じ!」
「部長、俺ら2年の割り当ては?」
「2年は、俺のとこにはニシタクと小山。松尾君と深町には徳永。で、末広君にはタクロー」
「え、俺部長とですか?」
「末広先輩とですか?」
 と、二人して嫌そうな顔をするのは、徳永と同じ電子機械科の小山晃一(こやま こういち)。
 そして、ニシタクこと西村と同じ機械科でタクローこと中村卓郎(なかむら たくろう)。
 それぞれの反応を見て、勇真がため息をつく。
「あのな……3台作るなら、この割り当てがバランス良いんだよ、多分」
「多分っスか!?」
「多分だ。本当は2台で3年と2年別々で作りたかったんだけどさ」
 勇真が言う。それを聞いた徳永が「ほひっ!?」と驚いた。
「部長達と別々になったら作れませんって!」
「作れるだろ。去年がそうだったんだし」
「いやいやいや!? 部長達が凄かったからですって!」
「どこが? 先生に教わりながら作っただけだし」
 勇真のとんでもない発言。西村が「部長は別の意味で凄いっスよ!」と言う。
「ほら、大学の文化祭で出したロボットとか」
「あれは、あれで目的持って作ってたからな。松尾君と一緒に」
 文化祭で行われた大会で、インパクト賞と言うものを取る為だけに作った事を思い出す。
 大会で勝つ事など難しいロボットではあったが、そのインパクトだけは負けなかった。
「つーか、それはどうでも良いんだって。とにかく、この割り当てでロボット作るからな。文句ある奴?」
 そう言うと、速攻で松尾と深町、西村と徳永が手を挙げる。とてもワザとらしく。
「よし、手挙げた奴全員殴る
「ほひっ!? 冗談に決まってるでしょ!」
「冗談で手を挙げた奴が悪い」
 そして、それから30分も会話で盛り上がる部員一同。

 こうして、勇真にとって最後の1年がスタートした。



第2話へ     戻る     トップへ





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送