第3話 勇真の不運=幸運?


 朝。勇真は学校に行く前にニュースを見ていた。
 とあるニュースに釘付けになり、目を輝かせる。
「あそこで、そんなのやるんだ……」
 と、テレビに映るロボットの姿を見て呟く。
 ニュースでは、「近日、ロボットフェスタが開催」と言っている。
 これは行かなければ。と勇真は思う。
「去年やってた博覧会には行けなかったからなぁ……」
 開催された場所が場所だっただけに、小遣いを貰えない勇真にとっては辛い思い出である。
 普通科と情報技術科以外の科は、授業の一環で行ったらしいので、尚更に。
「これは行きたいなぁ……色んなロボット見て、参考にしたいし」
 そんな事を思っていると、学校に行く時間になった。



 午前の授業は、妙に頭が冴えていて眠気など起きない。
 しかし、昼休みを終えた午後の授業は、良い具合に満腹で眠気を誘う。
 いつもそんな状態である勇真だが、今日は違っていた。
「じゃあ、今日の授業はここまで。質問がある人は、放課後にでも聞いてください」
 授業が終わる。勇真は即座に動いた。
「先生、今年の企業見学はどこに行く予定なんですか?」
「今年? 例年通り、3年生は近くのコンピュータ企業に……」
 そう聞いた途端、勇真が嫌そうな顔をする。
「不満みたいだな、高村」
「そりゃそうでしょ。今年はロボットフェスタがあるんですよ? そこに行きましょうよ!」
「そう言えば、ニュースで言ってたな」
「そうですよ。去年、機械科とかは博覧会に行ったんですから、俺らも行きましょうよ!」
 説得する。企業見学よりも、そっちの方がマシだ。勉強しなくて良いから
 それに、去年の事を考えると不公平だ。
「今年だけなんですから、行きましょうよ! ロボット見た方が、ずっと勉強になります!」
 あくまで、情報技術科では勇真だけが勉強になるような気がするが。



 機械科の職員室。そこで、勇真は昨日入部したいと言って来た宮崎優菜の事を相談する為に。
「女子一人か……」
「どうしますか? 女子が入部するのは変な事じゃないですけど……」
 そう、女子部員の存在と言うのが問題じゃない。問題なのは、他の部員達だ
 特に女たらし――――もとい、副部長の深町。奴が一番の問題だったりする。
「奴には彼女いますけど、去年の全国の事もありますし」
「うーん……深町以外の事も考えるとな……。よし、高村に任せる
「は!?」
 顧問が話を進める。
「お前なら、どうにかできるし、お前が近くにいた方が一番の抑止力になるからな」
「勝手な……いくら、俺が部長だからって……」
「仕方ないだろう。隆盛は面倒臭がりで、末広はロボットにしか興味ないんだから」
「……分かりましたよ。全く、すぐ俺に押し付けるんですから……」
「良いじゃないか、これがキッカケになって付き合う事になるかもしれないんだぞ?」
 と、顧問がニヤリと笑みを浮かべる。勇真は白い目で顧問を見た。
 こんな事が言えるこの顧問は、本当に幸せだ。
「し、失礼します。機械科の職員室って、ここですよね……?」
 そんな事を思っていた時に、タイミング良く優菜が来た。
 勇真が「こっちだよ」と手で招く。
「とりあえず、この人が顧問の一人で竹内先生」
「とりあえずって、お前な……」
「は、初めまして、宮崎です」
「話は高村から聞いたけど、大丈夫? うちの部、男子ばっかりだけど」
「は、はい。ロボットを作れるなら、大丈夫です」
 そう、優菜が言う。勇真が「そうなの?」と訊いた。
「ロボットが作りたいから、製作部に入部しようって思ったの?」
「はい。前に従兄が全国大会に行ったりして、私もって……」
「従兄?」
「はい。ここの学校の卒業生で……」
「宮崎? まさか……」
 顧問が職員室で保管している卒業アルバムを取り出す。
「宮崎って……宮崎勉(みやざき つとむ)か?」
「はい」
「宮崎勉って、確か……」
「お前達が入学する前の3年……あの天才、勉だ」
 勇真達がまだ中学3年だった頃、製作部の中心となっていた3年生。
 その中でも宮崎勉は、機械科教師であり製作部顧問の指導でその才能を開花させた先輩と聞く。
 当時、3年生でありながら顧問である竹内先生を圧倒的な技術で追い越したと言う伝説を持つ。
「あの天才の従妹か……」
「やっぱりトラウマになってるみたいですね、生徒に大敗してるから」
 ちなみに、似たような天才が今の製作部にも存在しているわけだが。
 優菜が戸惑う。勇真はやれやれと呆れながらも、話を続けさせた。
「先生、いつまでも落ち込まないで続けてください。そのトラウマ、一生消えませんから
「高村、お前には分からないだろう。生徒に大敗したって言う屈辱感は」
「どうせ追い抜かれる立場なんですから、そんな事でトラウマにならないでくださいよ。
 部室に連れて行って紹介しないといけないんで、これで失礼します」



 部室。昨日と違い、部員達からはやる気が全く感じられなかった
 この状況を見た勇真が、たまたま近くにいた徳永を叩く。
「ほひっ!? 何で俺なんですか!?」
「近くにお前がいたから」
「うわ、部長酷い!」
「大体、何だよ、この現状? 皆してのんびりして……つーか、1年一人もいねぇ!?
 いつもの3年、2年のメンバーだけ。徳永が説明する。
「ああ、皆、部長がまだ来ないから帰りました
「ふざけんなー!」
 そして、さらに徳永を叩く。もはや、これは八つ当たりに近かった。
 西村が「まぁまぁ」となだめる。
「仕方ないっスよ、部長。1年は最初からやる気のある奴なんていないですって」
 この時、西村は知らなかった。その言葉が、自分にとって悲劇となる事を
 勇真の手が瞬時に西村の頭を捉え、少しずつ力を加えていく。
「仕方ない? こう言う時の為に副部長がいるんじゃねぇのか、あぁん?
「す、すんません、部長! マジで痛いっス、痛いっスから!」
 痛がる西村を無視しつつ、今度は深町を捉える。肩に手を置き、そこから力を加える。
「深町、俺が来るまで何をやってたのかなぁ?」
「音楽聴いてリラックスしてただけだよぉっ!」
「ほほぅ?」
 肩に置いた手の力が、一気に強まる。深町が仰け反った。
「ご、ごめん! ごめんって!」
「……全く、何の為に副部長を二人にしたと思ってんだ」
「それは、ただの連絡係として――――!?
 まともに答える西村の頭を、勇真の手がさらに力を強めて痛みを与える。
 確かにそうなのだが、それをそのまま受け入れる方が悪い。
 もう懲りただろうと思い、二人から手を離す。
「1年がいないんじゃ、紹介は後回しにするか」
「紹介って、何ですか?」
 と、中村が訊いてくる。勇真は答えた。
「新入部員。昨日、あれからもう一人来たんだよ。とりあえず、お前らだけにでも紹介するか」
 そう言いながら、勇真が「入って来て」と部室のドアの向こうで待たせていた相手を呼ぶ。
 ドアを開け、部室に入って来る女子生徒。それを見て、誰よりも深町、西村、徳永が反応した
「おぉ!? 女子じゃん!」
「ついに、この部にも華が咲くんスね!」
「ほひ!? 部長、新入部員って女子ですか!?」
 三者三様。そんな三人を無視して、淡々と話を進める。
「1年で普通科の宮崎さん、驚く事に、あの勉先輩の従妹なんだそうだ」
「は、初めまして、宮崎です……」
「勉っちの従妹!?」
「勉先輩って、俺らが聞いた話じゃ竹内先生を圧倒的に上回る才能で超えたって言う……」
「そう、その勉先輩の従妹」
 それを聞いた、宮崎勉を知る部員達が騒ぐ。
 それくらい、宮崎勉は天才だった。機械に関して、彼の右に出る者はいないと言わんばかりに。
 早速、深町が優菜に手を出そうと話し掛ける。
「副部長の深町ね、よろしくぅ!」
「俺も副部長の西村!」
 と、西村も負けじと話し掛ける。予想通りの展開に、勇真は溜め息をついた。
 とりあえず、深町の心を折る為に釘を打つ。
「宮崎さんの技術指導とかは、主に俺がやるから」
「何ぃ!? 俺の方が高村より上じゃんかよっ!」
 深町がすぐに反撃に入る。が、勇真のカウンターは早かった。
「お前に任せたら危険だって、先生からの命令なんだよ!」
「危険じゃねぇよ!」
「危険だ! 去年の全国の時、忘れたとは言わせないからな!」
 去年の全国大会出場の時を思い出させる。
 宿泊した旅館で、偶然にも同じように全国大会に出る他校の生徒と仲良くなった。
 そして、深町は女子部員ばかりに話し掛け、様々な問題を起こしたのは言うまでもない。
「しないとは思うけど、お前には任せられない。先生がそう判断したんだよ」
「羨ましいぜ、チクショウ!」
「あのな……」
「それに、深町より高村の方が教えたりするのは向いているからな」
 と、いつの間にか、一人の男性教師が勇真の隣に立っていた。
 少し髪の毛が薄いが、この部では頼れる最強の顧問。勇真が驚く。
「田中先生、いつの間に!?」
「今さっき。話は竹内先生から聞いてる。彼女に関しては、高村の方が俺も言いと思うな」
 そう、田中先生が言う。流石の深町も、田中先生の言葉に折れた。
「先生がそう言うなら仕方ねぇよなぁ……」
「……いや、竹内先生が言う事も仕方ないって思えよ」
「それはそうと高村、今日はこの辺で部活を終わってくれ
 その言葉に、勇真が目を見開く。
「はぁ!? 先生、一体何を!?」
「まだ4月だし、1年は校歌の練習があってるから、それが終わってからで良いよ」
「……分かりました。まだ17時半なのに……つか、俺来たばっかなのに……」
 しかし、これで部活終了。逆らえない勇真だったりする。



 17時40分。機械科の職員室に部室の鍵を返し終え、勇真は渋々と帰る事にした。
「はぁ……最近、まともにロボット動かしてない気がする……」
「あ、危ない!」
「ん?」
 黄色い物体――――テニスボールと思われる物が飛んでくるのを確認する。鞄を振るい、余裕で防いだ。
 が、それとは別のボールが勇真の顔面を直撃する。
「二発かよ……しかも、時間差で」
「ご、ごめんなさい! 大丈夫!?」
 と、そこへ一人の女子生徒が駆けつけてくる。秋月薫子だ。
 ボールが当たった相手が勇真だと分かると、「あっ」と声を上げる。
「高村君……」
「……テニスボールって、意外と痛いね、秋月さん」
「ご、ごめんね。またぶつけたみたいで……」
「防いだと思ったんだけどなぁ……まさか、二発も飛んでくるとは思わなかったよ……」
 鼻の辺りを手で擦る。血が付着した。鼻血が出ているらしい。
「あ、鼻血出てる……保健室行かないと……」
「この時間開いてないよ。17時過ぎて、先生帰ってるし」
「え!? じ、じゃあ……」
「大丈夫。ティッシュ持ってるから、それで止めるから」
 そう言って、ポケットからティッシュを取り出して血を拭き、鼻血を止める。
 薫子が「ごめんね」と再度謝る。
「この前に続けて、また当てちゃうなんて……」
「気にしなくて良いよ。俺が、運が悪いだけなんだし」
「でも……あ、ちょっと待ってて!」
 薫子が突然、どこかへ走り去っていく。勇真は首を傾げながらも、とりあえず待つ事にした。



 待っててと言われて20分。制服に着替えたらしい薫子が駆け寄る。
「ごめんね、待たせちゃって……」
「別に良いけど、部活終わりなんだ?」
「うん。今月は早上がりなの」
 そして、薫子が鞄から何かを取り出し、勇真に渡す。
 今でも不滅の人気を誇る、青色のテディベアのストラップだ。
「これは?」
「この間、ゲームで取ったの。高村君にあげる♪」
「あげるって……俺より、友達にやった方が良いと思うけど……」
「ボール当てちゃったお詫びって事で、ダメかな?」
「……そう言う事。良いよ、ありがとう」
 これを断っても、薫子は納得しない。そう、勇真は判断した。
 お詫びと言うのであれば、貰っておこう。返して欲しいと言われたら返せば良いのだから。
 薫子が話を続ける。
「それ、携帯に付けてたら幸運になるって噂なの。だから、良かったら付けてね?」
「付けるって……俺、ストラップは付けない主義なんだけど……」
「じゃあ、今日から付けてみて? ……ダメかな?」
 薫子が勇真を見る。直視できない状態に追い込まれた勇真は、頷いた。
「そ、そこまで言うなら……付けてみるよ」
「うん♪」
「じ、じゃあ、俺、あっちの方向だから!」
 そして、勇真が逃げるかのように去っていく。薫子はとても嬉しかった。
 鞄に入れていた携帯電話を取り出す。赤色のテディベアのストラップが付いていた。
「良かった……ちゃんと渡せて……」



 いつも通学する道を走る事6分。気づけば、自分の家を通り過ぎていた。
 肩で息をしながら、薫子から貰ったストラップを手にする。
「……ボールをぶつけたからって、普通あげないよな……?」
 考える。なぜ、あの秋月薫子が自分にこれをくれたのかを。
「……やっぱりフラグが……って、こんな考えするから、皆に変な目で見られるんだよ、俺!」
 自分で言って落ち込む。周囲に人がいないのがせめてもの救いだった。
 秋月薫子がこのストラップをなぜくれたのかは分からない。
 けれど、これ以上考えるのは止めよう。自分で自分を変人だと認めてしまう為に
 そう決めて、通り過ぎた自宅へいそいそと帰る事にする勇真だった。



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