「ようやく終わった……結果はともかく」 5月末の放課後の部室。勇真は机の前に突っ伏していた。 中間考査の終了。それは、勇真にとって、一時的な開放感でもある。 「これで、何も考えないでロボットとか作れる……!」 「来月は体育祭だぞ、高村。それに、受験が控えているだろう」 と、そこに顧問の田中先生が現れて言う。早くも勇真のテンションは下がった。 体育祭。勇真にとっては、地獄の行事。 そして受験。勇真にとっては、受けたくないけど受けなければいけない試練。 「体育祭……ニシタクじゃないけど、だりぃ〜……」 「それより、今年は応援団とかなってないだろうな?」 「今年は、不思議なほどに有志がいましたから」 高校1年の頃、部活と言う理由で辞退したクラスメイトに強制的に交代させられた事を思い出す。 その頃の勇真は、まだ部活に入っていなかったからとは言え、それでなぜ自分がと言う状態だった。 当然、その張本人であるクラスメイトは、その年の夏に部活を退部したりしている。 「……2年前は悲劇でしたよ。俺、高校辞めようかと思いましたもん」 「そんな理由で辞めようと思うな。お前は、この部の部長なんだから」 「部長って……ただ真面目に来てただけで部長になっただけですし」 実力はない。しかし、真面目に部活に来た。去年だけ。 それだけで部長になった。そう、勇真が言う。 「はぁ……体育祭か……。受験の日と重なっていれば休みになれたのに」 「高村……」 流石に、顧問も呆れた。 それから一ヶ月。体育祭と言う行事を終えた勇真は、受験も終わらせた。 幼い頃から抱いている夢。その夢を叶える為の勉強ができる学校の受験。 「結果は2週間後……長いなぁ……」 「勇真、話があるんだが、良いか?」 昼休み。学食の自販機の前で飲み物を買い、のんびりと一息していた時、声を掛けられた。 同じクラスで、テストでは必ず90点確実、そして総合テストでは学校内で1位の生徒。 去年まで作品製作部にいた桜野祐一(さくらの ゆいいち)だ。 「祐一。話って?」 「受験終わったんだろ? どうだったんだ?」 「面接と実技だけだったから、アピールできる所は全部アピールした。あとは、結果次第」 合格か不合格か、あとはそれを待つだけ。そう、勇真が話す。 「受かってると良いなと思ってる。受かっていれば、部活に集中できるから」 「凄いな、お前は。夢の為とは言え、何も迷う事なく受験できるんだから」 そう言う祐一に対し、勇真は首を横に振った。 「凄くないって。ただ、独学じゃ限界になってるから、ちゃんとした所で勉強したいだけ」 「それが凄いんだ。普通、進学する奴らは遊ぶ事しか考えてないのが殆どだからな」 「いやいや、俺の場合、遊び=夢だから」 それを聞いて、祐一が苦笑する。やはり、勇真は天才だと。 どんな時でも夢の為。初めて会った時から、勇真は夢を語っていた。 祐一からすれば、勇真ほど凄い人間はいない。 「そう言えば、祐一は就職だっけ? どこ狙ってんだよ?」 「機械科とかには悪いが、ト○○だ」 「情報技術科なのにト○○って……俺からすれば、祐一の方が凄いよ」 「俺からすれば、お前の方が凄い」 「こんにちは。何の話してるの?」 と、いきなり話し掛けられる。その相手に勇真は驚いた。 なぜか、最近自分に話し掛けて来る事が多い、学校のアイドル・秋月薫子。 「ねぇ、二人で何を話してるの?」 「え、いや……」 「進路の話だ。秋月は、いつ受験するんだ?」 「私は10月。頑張って推薦取れれば良いんだけど……」 「……って、祐一、秋月さんと知り合い?」 「ああ。中学の時、3年間も一緒のクラスだ」 それを聞いて、勇真はさらに驚く。 「マジ?」 「嘘はつかない。なぁ、秋月?」 「うん。桜野君は、中学校の時のクラスメイト。それも3年間」 「……世の中って狭いな、うん」 「そう言えば、高村君はもう受験終わったんだよね? 合格できそう?」 訊かれる。勇真は「さあ?」と答えた。 「できる事は全部やったけど、受かるかどうか……」 「大丈夫だと思うよ。進学課外でも頑張って勉強していたから」 「……いや、英語とか数学勉強しても、あまり意味ないんだけど……」 受けた専門学校の勉強に、英語や数学は含まれていない。 だからこそ思う。なぜ、進学課外を受けなければいけなかったのか。 「AOの為とは言え、進学課外は大変だよなぁ……」 「専門学校なら、就職課外も受けたらどうだ?」 「……勘弁してくれ。英語と数学だけで辛いから」 放課後。部室で、勇真は目を閉じて何かを考えていた。 目の前に置かれているのは、9月に行われる大会の規約。 そう、今年最後の大会のロボットを作る為に、頭の中でイメージを描いていた。 「動きは早い方が良いから、この作りで……問題は、得点を稼ぐ方法か……」 「高村先輩、今日はフライス盤を教えてくれるんですよね?」 頭の中でイメージを描いている途中、1年生の女子部員・宮崎優菜に声を掛けられる。 「うーん……」 「あの……高村先輩?」 「たっかむらぁ! 優菜ちゃんを困らせるなって言ってるだろぉ!?」 と、ここで深町に肩を叩かれる。勇真は反撃として、深町の腹部を殴った。 条件反射的に殴った為、手加減はできていない。深町は手で腹部を押さえながらうずくまる。 この時、後輩である西村、中村、小山、徳永ら2年生は思った。「この人に逆らうのはヤバイ」と。 「悪い、悪い」と平謝りしつつ、勇真が優菜に言う。 「実習服に着替えてから、機械科の職員室前で待っていて。俺も後で行くから」 「はい」 「高村、流石に痛ぇ……」 「俺がロボットの設計をしてる時に肩を叩くからだろ」 「この野郎……代わりに俺が優菜ちゃんにフライス盤を教える!」 「却下。前にも言っただろ、先生達にお前には任せるなって」 そう言うと、深町が「くそぅ!」と悔しがる。 「俺の方が機械は上なのに!」 「だったら、ニシタクとかタクローに教えてやれよ」 「男に教える気はねぇよ!」 「あのな……」 やはり、深町は深町だった。 30分後。機械科が授業で使う機械の前で、勇真が優菜に説明する。 「とりあえず、セッティングは俺がやるけど、操作はある程度やってもらうから」 「え、良いんですか?」 「うん。許可は取ってあるし」 こんな時、部長と言う立場は便利だ。顧問や他の教師は何も文句を言わないから。 フライス盤で使う刃を選び、取り付ける。優菜はそれをずっと見ていた。 (テスト前とかやる気ない感じだったけど、今日はやる気出してる……) 不思議だった。ある程度のやる気を出す時は出していたが、あまりやる気を出さない事の方が多い。 しかし、今日の勇真は、いつになく真剣な表情だった。 (これが、本当の高村先輩……なのかな?) 「よし。じゃあ、操作しようか」 「…………」 「宮崎さん?」 「え? あ、はい……」 勇真が首を傾げながらも、操作手順を教えて行く。 「まずは、金ノコで切った側面を綺麗にしよう。最初にこう……」 それから2週間。7月になり、夏を迎える。 進学課外を終えた勇真は、部室でいつものように部活をしていた。 頭の中で描いたイメージを図面にし、それを元にロボットを作っていく。 「ここをドリルで開けて……それで、今度は……」 「部長、外から中村先生が呼んでますよ」 と、作業中に後輩の中村に言われる。勇真は手を止めた。 「……何で? 今日は進学課外も終わってるし、話はないはず……」 首を傾げる。が、すぐに「あ!?」と思い出した。 「……そう言えば、今日だっけ。合格発表……学校に通知来たんだ……」 「忘れてたんですか?」 「ロボットに集中してたからなぁ……あとはニシタクにでも任せるか」 そう言うと、遠くにいた西村には聞こえていたのか、嫌そうな顔をしていた。 こっそり逃げようとするので、すぐに捕まえる。 「逃げるな、バカ。ポンチ打った所全部に穴開けて、タップで捩じ切っとけ」 「えー!? だりぃっスよ!」 「殴るぞ、お前? 小山は渡した箱にスイッチ取り付けな」 「はーい」 同じチームになった西村、小山に指示を出して、部室を後にする。 担任教師である中村先生に連れて行かされた場所は、進路指導室だった。 進路指導を担当する教師達が、視線を勇真に集中される。 そんな中で、中村先生は勇真に未開封の封筒を渡した。 「まだ開けてないから、結果は誰も知らない。高村、自分で確認しなさい」 「は、はい……」 視線が集中する中、緊張しながらも封筒を開封して中身を取り出す。 二つ折りにされた一枚の紙。これに、入試の結果が書かれている。 恐る恐る、二つ折りの紙を開く。そして、息を呑みながら、見た。 合格。 真っ先に視界に入った「合格」の二文字が、そこに書いてあった。 「……受かった」 「本当か!?」 「は、はい……ここに、合格って……」 その言葉を聞いた教師達が、一斉に拍手喝采を勇真に浴びせる。勇真はまだ信じられなかった。 試しに頬を強く握る。とても痛い。夢じゃない。 中村先生が握手してくる。 「おめでとう、高村! 良くやったな!」 「あ、ありがとうございます……俺、本当に合格したんだ……!」 「おめでとう! 進路内定第1号だな!」 進路指導の教師が言う。勇真は笑顔で頷いた。 これで、夢に一歩近づいた。その嬉しさで、頭の中は一杯だった。 この時、勇真は知る由もなかった。 この合格が、これからの人生を大きく左右する事を。 この合格が、これからの自分を大きく変えていく事を。 この時の勇真は、まだ知らなかった。 |
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