「……決着、だな」 光哉がアービトレイターの必殺技であるBLUE・IMPULSEを使う動きを見せた時、飛鳥はぽつりとつぶやいていた。 BLUE・IMPULSE――――時雨光哉と言うコネクターだからこそ使う事の出来る瞬速の技。 飛鳥自身もあのような動きをする事は難しいと言う事を良く知っている。 だからこそ、光哉がBLUE・IMPULSEを使う動きを見せた時点で勝敗が決したと思ったのだ。 仮に、あの技に反応出来たとしても、瞬速の技と呼ぶに相応しい技。 元々から回避される事も前提に考えられているため、回避は困難とも言える。 飛鳥は光哉がこの技を発案した時に見せて貰った事があるが、この技は確実に決め手の技に成り得るだろうと思った。 それに瞬速の技で尚且つ、回避される事も前提にすると言う事は脅威的な反応速度が求められるはずである。 だが、光哉が言うには『そこまで出来なくては絶対に師匠には届かない』と言う。生真面目な光哉らしい言葉だ。 恐らく、思考錯誤して光哉が瞬速の技として見い出したのがBLUE・IMPULSEなのだろう。 蒼き閃衝とは良く言ったものかもしれない。 - CONNECT09.『決着の後に』 - 「はぁ……はぁ……」 BLUE・IMPULSEによる一撃で決着がついた事を確認した俺は荒くなった息を整える。 寛樹ほどの相手に対しては僅かな気の緩みさえも許されない。 それほどまでに気を引き締めなくては勝つ事は不可能だった。 特に第一段階とは言え、『ARBITRATOR-SYSTEM』のリミッターを外したのも大きい。 今の俺はこれを存分に使えるほどのコネクターではなかったからだ。 だが、寛樹を相手にしてこれを使わなくて勝てるとも思えなかった。 「光哉。さっきのは……」 寛樹が今のバトルにおける決着に至るまでの一連を信じられないと言った表情で尋ねてくる。 それに関しては無理もないだろう。 決着の部分は瞬きすら出来ないほどの短い時間でついたのだから。 寛樹の眼にはアービトレイターが動くと思った瞬間に自分のドライヴが戦闘不能になったように見えた事だろう。 「……」 だが、今の俺には何も答えられない。 『ARBITRATOR-SYSTEM』は寛樹にすら伝えていない物だったからだ。 それに俺がアービトレイターの性能を封印していると言えば寛樹には全力で相手をしなかったとも思われるかもしれない。 しかも、今の動きですらアービトレイター本来の機動性を30%程度解放したものでしかないのだ。 いや、俺の技量からすればそれすらも発揮出来なかったと言っても良い。 SRランクの機動性を制御する事は不可能に近いと言った師匠の言葉が身にしめて解る。 今の俺は『ARBITRATOR-SYSTEM』の第一段階での性能すら思う存分には発揮出来なかったのだ。 第一段階で大体、師匠が”普通にセルハーツを操作”している速度に近いらしいが、俺にはまだまだ扱えない。 だったら、それに対応するために鷹の瞳を使えば良かったのかもしれないが、今の俺は鷹の瞳を極力使わないようにしている。 そう言った意味ではリミッターを解除したとは言え、全力を出したには程遠いものだった。 互いに親友として切磋琢磨してきたのにも関わらず、力を隠していたとは口には出来ない。 だから、俺には何も答えられなかった。 「いや、何も言わなくても良いよ。……さっきのが君と僕の決定的な差だったんだ」 俺が何も答えない事に何か気付いた寛樹が何かを察したかのように言葉を紡ぐ。 寛樹と俺との決定的な差――――それは資質の事を言っているのか、それともコネクターとしての事を言っているのか。 何れにせよ、寛樹は俺の様子を見て何かを感じたらしい。 「君と最後にバトル出来て良かったよ。これで、僕も君から離れられる」 「寛樹……それは」 今のバトルで悟ったかのように言う寛樹に対し、俺は言葉少なく応じる事しか出来ない。 寛樹が俺から離れると言う事。その事は先日に寛樹の口から聞いていた。 もうすぐで引っ越してしまう、と。 だが、今の口調からすれば俺から離れると言うのはそれだけじゃない。 まだ他に意味がある。 「……いや、こっちの話だよ。じゃあね、光哉」 俺が言葉の意味を理解する前に寛樹がゆっくりと離れる。 そのまま寛樹は師匠に一言、二言の言葉を交わして、ショップから出て行った。 この間、ずっと此方に対して背中を向けた形になっている寛樹の様子を窺い知る事は出来ない。 ただ、この時の寛樹の様子で明らかだったのはバトルが終わった後、俺とは一度も視線を合わせなかった。 結局、俺と寛樹はこの後、一度も言葉を交わす事はなかったのでこの時に寛樹が何を思っていたのかは解らない。 だが、既にこの時にはっきりしていたのだろうと思う。 寛樹がドライヴを止めようと思っていたのは――――。 「結局、あの時は寛樹が引っ越すまで何も伝えられなかったからな。その点は言えなかった俺が悪いんだけど」 二年前の事を振り返りながら俺は寛樹との話を続ける。 寛樹がドライヴから離れたのはあの時のバトルが切欠だったのは間違いない。 それが解るからこそ、寛樹がまたドライヴを手に取ったと言う事が嬉しく思う。 『まぁ、そこはお互い様だよ。僕が勝手に悩んでしまったって言うのもあるし。それに光哉が言えなかった気持ちも解らなくない』 「……寛樹」 『もし、僕が光哉と同じ事をしてたら同じように何も言えなかったと思う。まさか、全力を出したくても出せない状態にあるなんてね』 「そう、かな?」 『ああ。そう思う。まぁ……今だからそう言える事かもしれないけど』 「……違いない」 俺が全力を出そうにも出すだけの力が足りなかった二年前。 あれから現在になって、俺も寛樹も考え方にある程度のゆとりも出来た。 それにずっと話していなかった分の空白の時間もある。 互いの冷却時間が出来たと言っても良いかもしれない。 この二年間と言う時間は俺と寛樹にとっても充分な時間だった。 あの時の事も今では落ち着いて考えられる。 二年前のバトルにおいての決着の後はお互いに間を持つ時間が必要だったんだろう。 『だけど、光哉は凄いな。去年のシングルでの優勝に……今はコンビの方で常戦無敗か。今年はダーク・コネクターの影響で大会は中止なのが残念かな。 もし、大会があったとしたら光哉と紡なら決勝にまで上がれただろうし……多分、飛鳥さん達と戦う事になってたんじゃないかな?』 「……そう、かもしれないな」 『正直、随分と差をつけられてしまった気がするけど……これは僕に問題があったからね。仕方がないのかな』 「寛樹……」 シングルでの優勝に紡とのコンビで無敗を続けているのは全てあの時のバトル後の事だ。 寛樹と戦って『ARBITRATOR-SYSTEM』を使った俺は自分の力不足を実感し、更に鍛え直した。 『ARBITRATOR-SYSTEM』を全く使わなくても強いコネクターと戦えるように。 『ARBITRATOR-SYSTEM』を使っても俺自身がそれについていけるように。 だからこそ、昨年のシングルで優勝して現在における”最強のコネクター”の称号を得られたし、コンビでも無敗を続けている今の俺がいる。 これらの事は全て、あの時に寛樹と戦ったからこその事だった。 そういった意味でも今年は”最強のコンビ”の称号を得る事を目標にしていたのだが……。 今回はダーク・コネクターの影響もあってトーナメントは開催されていない。 勿論、シングルの方も開催されていないため当面は”最強のコネクター”の称号も変わらず、暫くはそのままだ。 最強の称号を得て以来、何かと腕に覚えがあるコネクターに勝負を挑まれるが……それも仕方がない。 そこはとりあえず、次のトーナメントが開催されるまでの我慢だ。 現状ではどうなるかは解らないが、トーナメントが開催されるとすれば来年の年明け以降くらいだろうか。 場合によっては今年度は開催されない可能性もあるが……それはダーク・コネクターの事件がどう終息するかによるだろう。 何れにせよ、高みを目指すのは変わらない。 『だけど、僕の方も色々とあって落ち着いたし……近々、君に会いに行くよ。……君の大切な女の子にも会ってみたいしね』 「……ああ」 『じゃあ、これで失礼するよ。また、次に会った時に話そう』 「解った。それじゃ、また」 俺は寛樹との電話を終える。 時間にしてみれば15分くらいの事でしかない。 だが、久し振りの寛樹との電話はとても長く感じられた。 それだけ俺と寛樹が言葉を交わさなかった時間が長かったんだろう。 二年前までは何時も一緒だったから。 寛樹は俺にとって初めて出来た友人で、その付き合いは一番深かった。 個人としてもコネクターとしても。 関係が変わってしまったのはあの戦いの後からだ。 だが、あの戦いがあったからこそ俺と寛樹は変わった。 今の俺達がこうして、違う道で互いにいられるのはあの時の事があったからだろう。 全ては決着の後にあったのかもしれない。 「光哉君、ご飯出来たよ?」 寛樹との電話の後にまた昔の事を思い出そうとしていたところで沙由華の声が聞こえる。 すっかり忘れていたが、時間はもう夕飯には調度良い時間にまでなっていた。 寛樹との会話は想像以上に集中していたらしい。 「解った。すぐに行くよ」 沙由華の呼び掛けに応じ、俺は自分の部屋を後にする。 多分、これで今日一日の出来事も最後になるだろう。 朝は親の遺したアクティブ・ウェポンであるライトブリンガーの事。 昼は骸骨騎士団……もといスカルナイツとのバトル。 夕方は寛樹との久し振りの電話。 そして、最後に沙由華との夕飯。 今日は何時も以上に盛り沢山な一日だった。 こうした賑やかな日を迎えられるのも昔の事があったからだと思う。 親友と戦った事で未熟さを悟った自分。 今があるのもそれと向き合ったからこそだ。 俺は寛樹に感謝しながら沙由華の待つダイニングへと向かうのだった。 さて、今日の夕飯は何だろうか――――。 次回予告 こんにちは、沙由華です。光哉君……何だか嬉しそう。 電話で話していた人は光哉君とはどんな関係だったのかな? 気になるけど……私は話してくれるまで待ってるよ。 次回、CONNECT10.『ディフェンド・キング』 ドライヴ・コネクト! 次回は遂に3人目のフォース・コネクターの登場! お話の方にも進展が!? |
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