「…………」 学校の剣道場で、俺は立ち合いを行っていた。 今日は7月3週目の土曜日。夏休み前、最後の土曜日と言った所だ。 相手は剣道部の部長。 彼が今年の全国大会のための練習相手として俺を指名してきたため、それを受けて立ち合いに望んでいる。 「面――――!」 一合、二合と竹刀を打ち合わせたところで相手が勝負に出てくる。 だが、普通に打ち合うだけでは俺を捉える事は出来ない。 「っ――――!」 面を狙ってきた竹刀が届くより先に、俺は咄嗟に受け止める。 単純に打ち合うだけなら、僅かな気配で充分に対応出来る。 それに相手が仕掛けてきた動きに対処するところは俺の得意とするところだ。 もっとも、師匠や剣道部の部長のような実力者は、なかなか自分から仕掛けてこないが……。 今回に関しては俺が仕掛けを誘い、相手もそれに乗ってきたからに過ぎない。 「此処まで!」 打ち合っていた途中で、制限時間が過ぎた為、終了の掛け声が上がった。 剣道の試合としては、かなりのハイレベルな試合だったんじゃないだろうか。 互いに譲らない攻防。試合を見ていた剣道部員のほとんどは呆気に取られていた。 それもそうだ。この剣道部の部長は有段者であり、全国大会にも出場するほどの常連だ。 そんな彼と互角に打ち合った、その光景は信じられないと思うはずだ。 剣道部部長は、俺のドライヴでの戦いが剣である事や、早朝のトレーニングで竹刀や木刀を振っている事を知っていた。 だからこそ、俺を指名してきた。俺としても相当な実力者と試合をするのは良い経験になる。 しかし、俺は一刀流ではなく二刀流の方を得意とするのだけれど……。 こうした形で立ち合う以上は些細な事なのかもしれない。 - CONNECT10.『ディフェンド・キング』 - 「ふう……」 立ち合いの終わった後、あまり役に立つとは思えないが、剣道部員に幾つかのアドバイスをした俺は剣道場を後にする。 剣道部に顔を出すのは時々やっている事だが、これにはちゃんと理由もある。 一つは実戦による経験を積む事で、更なる反応速度を身に付ける事。 そして、もう一つの理由は……。 「光哉く〜〜〜ん!」 ……チアリーディング部で活動している沙由華との待ち合わせのためだったりする。 「えへへ……光哉君、待った?」 俺の姿を見つけて、屈託のない笑顔で出迎える沙由華。 服装を見たところ、学校の制服に着替え終わっているため、部活の方は少し前に終わったらしい。 「いや、待ってないよ。俺も今、終わったところだ」 「良かった……」 俺の事を待たせたわけではない事が解った沙由華は安堵の息を漏らす。 そんな様子も可愛いと思うのは、彼女贔屓が過ぎるだろうか。 「部長、お疲れ様です!」 「先輩! お先に失礼します!」 「あ、うん。気をつけてね!」 俺が沙由華の様子を見ながら、そんな事を思っていると後輩と思われる生徒が挨拶をしてくる。 沙由華の対応からしてチアリーディング部の後輩だ。 少し天然気味な沙由華であるが、意外にもチアリーディング部の部長でしかも、学校でも相当な人気があると言う。 付き合い始めて少しした頃にチアリーディングを見せて貰ったが……思わず、見惚れてしまったほどだ。 沙由華の動きは可愛らしくもあり、可憐で、見ている人の心を元気にしてくれる。 そう言っても可笑しくないほど、沙由華のチアリーディングは凄い。 正直、魅せられてしまうと言っても間違っていないし、俺の主観だが――――多分、全国レベルだと思う。 また、後輩に対しても優しく、指導や相談に関しても熱心なため部員に慕われている。 それは同じ学年の女の子に対しても同じで、沙由華の性格が良く表れている話だ。 彼氏としては誇らしくもあるが、勿体ない彼女だと思ってしまう時もある。 まぁ、此方もつり合いが取れるよう、努力はしているけれど。 「っと。それじゃあ、行こうか光哉君。今日は飛鳥さん達と一緒にゴウさんの所に行くんでしょ?」 「ああ。これの事を聞くためにな」 後輩との挨拶を終えた沙由華が俺の手を自分の手と繋ぎながら尋ねる。 今日はこれから、師匠達と一緒に『ディフェンド・キング』こと、ゴウボーグ=レンダリムさんの所へ行く。 師匠がある用事でゴウさんに会いに行くと言っていたので、俺も一緒に行けないか、とお願いをしたのだ。 俺が同行したいと言った理由については師匠も知っているためか特に反対は無く、行く途中にあるショップの前で待ち合わせしている。 時間的には充分に間に合うため、沙由華と普通に待ち合わせに行けば良いのだが……問題は一緒に行くと言っていた紡が時間に間に合わせてくれるかどうかだ。 相棒である紡はとにかく、マイペースで待ち合わせで時間の指定をしてもまともに時間通りに来てくれた試しがない。 一応の例外はあるが……それについては事情が今回とは異なる。 普段の紡は良くてもギリギリ遅刻しない程度であり、基本的には絶対に遅刻してくる。 それも1時間とかの単位を平気で……。 流石に師匠をそれに巻き込むのは忍びない。来ない時は置いて行った方が良いかもな。 紡がちゃんと時間通りに来てくれる事を祈るしかないだろう。 俺は沙由華と指を絡ませる手の繋ぎ方――――恋人繋ぎで学校を後にした。 沙由華と道中で軽くウィンドウショッピングをしながら待ち合わせの場所へと向かう。 学校を出た時間が3時30分を過ぎた頃くらいで、現在の時刻は4時を回ったところ。 師匠との待ち合わせの時間が4時30分だから待ち合わせの時間には充分に間に合う。 時間を計算しながら、沙由華とちょっとしたデートをしつつ、目的のショップの前についた俺は信じられない光景を目撃した。 「何……だと?」 余りにも信じられないその光景に俺は思わず、時計を確認する。 時刻は確かに4時を過ぎたところで、まもなく4時10分となる時間。 だが、待ち合わせの時間までは20分以上あり、比較的早いと言っても可笑しくはない。 「よう、光哉。遅かったな」 「あ、ああ……」 にも関わらず、この場に紡が既に来ている。 これは何かの間違いじゃないか? 夢に違いない。 そう思ってみたが、俺の手に伝わる沙由華の体温が夢じゃないと言う事を実感させてくれる。 「光哉君?」 俺が何故、狼狽しているのかが解らない沙由華が顔を覗き込む。 今は恋人繋ぎをしているため、沙由華と俺の距離は殆どない。 そのため、鼻先が触れ合ってしまうかと思うほどにまで沙由華の可愛らしい顔が迫る。 「……いや、何でもない。今日は早かったな紡」 沙由華を見て、逆に情けない表情は見せられないと思った俺は直ぐに平静を取り戻し、紡に尋ねる。 「おう。今回は俺もまぁ……ちょっと事情がな」 若干、照れ臭そうな表情をした紡がショップのドアへと視線を向ける。 するとそこには調度良いタイミングで1人の女の子が出てくる。 「ごめんなさい、紡君。待たせてしまって……。あ、沙由華ちゃんに時雨君。こんにちは」 ショップから出てきたところで俺と沙由華の姿に気付き、歩み寄ってくる女の子。 彼女の名前は橘詩乃(たちばな かの)さん。 俺達とは違う女子中学校に通っている、橘と言う古い時代から存在する家の流れを汲むお嬢様だ。 沙由華とは親友同士で、母親同士が双子の姉妹なんだとか言っていた。 聞けば、昔から現代にまで続いている旅館を経営しているとか何とか。 「詩乃ちゃん、こんにちは! 今日は詩乃ちゃんも一緒なんだね」 「はい。紡君が会わせたい人達がいると言っていたので」 楽しそうに会話をする沙由華と橘さん。 彼女と一緒だったのであれば紡が珍しく時間よりも早く来ていた理由が納得出来る。 紡は基本的にマイペースな人間で時間にもルーズな対応だったりするが、橘さんに何かしらの関わりがあると絶対に時間を守る。 (そういえば時間までに来る時の紡は必ず、橘さんが同伴だった。彼女が一緒だからこそ、大丈夫だったと言う事か) 今回は橘さんに感謝するしかない。 師匠達と一緒にゴウさんに会うと言う重大な話にトラブルがなくて済むのは全て橘さんのお陰だ。 もしかすると、紡も何となく解っていて彼女を誘っていたのかもしれない。 紡は適当なタイプではあるけれど、何処かでは考えているタイプだから。 まぁ、そうじゃないと俺の相棒は務まらない。 本気で何も考えないようなタイプだったら俺もコンビなんて組んでないしな……。 師匠達が来るまで、お喋りをしながら待ち時間を過ごす。 普段はあまり、会話をする機会のない橘さんと沙由華の事や紡の事について話をしたり、ドライヴの話を聞いたりしてみた。 改めて橘さんと話をして驚いたのが、橘さんが沙由華にドライヴを教えた張本人だと言う事。 また、紡と出会ったのもドライヴ繋がりらしい。 コネクターとしての高い実力といい、見た目は上品なお嬢様と言った印象の橘さんだが、見た目によらずかなりのお転婆じゃないだろうか。 なんでも、護身術を始めとした嗜みというものは一通り身に付けているんだとか。 俺や紡の場合は日頃から訓練しているのもあって荒事の対処にも慣れているが……。 橘さんみたいな礼儀の正しいお嬢様だとそういったイメージは無い。 それでも、紡と付き合っているのは、余り信じられないが、目の前の光景は事実だ。 さり気無く橘さんを気遣っている紡を見ていると、それが正真正銘である事は間違いないのだけど……。 「悪い、遅くなった。もう揃っているな」 「ごめんね、遅れちゃって」 暫く、雑談をしていると師匠が明日香さんを伴って到着する。 時刻は4時25分。 約束の時間より少し早いくらいだ。 「いえ、俺達もさっき来たばかりです」 「……そうか。で、その娘は?」 俺の返事に頷いた師匠が橘さんの事を尋ねる。 「蓮丈飛鳥さんに星川明日香さんですね? 私、紡君とお付き合いさせて頂いている橘詩乃と言います」 「紡の彼女? ……本当か?」 橘さんの自己紹介に思わず、俺に確認してくる師匠。 流石に『紡の彼女』という発言を疑うのは無理もない。 正直、紡は人の良さはあっても素行に関しては結構な問題もあったりするし。 何より、活動的なタイプである紡と比べると上品なタイプである橘さんは余りにもかけ離れたようにも見える。 師匠がそう思うのは当然の事だ。 俺はとりあえず、「本当です」と答えておく。 「紡君の彼女なんだ……上品な子と付き合ってるんだね……」 俺の返答に師匠だけじゃなく、明日香さんまでも心底驚いた様子。 やはり、意外過ぎると思っているらしい。 今時、橘さんのようなお嬢様っぽい雰囲気を出している女の子だなんてそうそう見かけるものじゃないし。 明日香さんも紡に関しては俺や沙由華から伝え聞いた部分で性格を把握しているだろう。 「あの……一応自覚はありますけど、2人とも俺をどんな目で見てんですか……」 師匠と明日香さんの言い分に不満そうにがっくりと肩を落とす紡。 まぁ、普段の紡を見てるとそう思われても無理もないだけに俺も全くフォローが出来ない。 こればかりは俺も唯々、苦笑するしかなかった。 師匠達と合流し、意気消沈といった紡を引き摺りながらランドライザー・コマンドのメンバーが普段、集まっているというショップへと向かう。 そこにはサブリーダーである鳴澤紅葉さんが熱心に特訓している姿が見えた。 元から彼女と面識のある紡が「紅葉さんは相変わらずだな」と呟く。 生真面目な人間である鳴澤さんはゴウさんがその強さを認めている師匠に対して複雑な感情があるらしく、会う度にバトルを申し込んでくるとか。 俺はゴウさんと晃鉄さん以外のメンバーとは面識がないので、鳴澤さんの性格は生真面目である事以外は特に知らないが。 話によればゴウさんのある所に鳴澤さんありとすら言われているほどらしいのだが、何度か紡と一緒にゴウさんに会った時に彼女とは会った試しが無い。 もしかすると紡が意図的に避けられるような頃合いを見計らって会うようにしていたのかもしれないが……流石にそこまでは俺にも解らなかった。 唯、こうして熱心に特訓している姿には好感を覚える。 直向きな姿は剣術を修めている身としてもっと俺も精進しなくてはと思う。 そんな鳴澤さんの指導をしているのが今回、此処に来た目的であるあの人。 俺達の姿を見付けたらしく、鳴澤さんに指示を出して此方にゆっくりと向かってくる。 「やぁ、待っていたよ。飛鳥君に光哉君。それに紡も良く来てくれた」 穏やかそうな雰囲気を纏っている印象のこの人が、『ディフェンド・キング』であるゴウボーグ=レンダリムさんだ――――。 次回予告 こんにちは、橘詩乃です。 次回は紡君とも関わりのあるランドライザー・コマンドの方々との御話です。 だけど……何故か、時雨君とひと悶着が? 次回、CONNECT11.『光哉と紅葉』 ドライヴ・コネクト! そういえば、時雨君はシングルのトーナメントで優勝したコネクターでしたよね? |
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