『ブラディ・カプリチオ』   〜第3幕〜



 夜。
 それは闇が支配する世界。
 即ち闇に住まう者にとっては楽園を意味する。
 アテオラル本社ビルも例外ではない。窓から明かりが漏れてはいるものの、それは闇を引き立たせるだけの役割しかできない。
 ビルから100メートルほど離れた駐車場に1台の中型輸送トラックが停まっている。
 車内には影が3つ。
 運転席には小太りの無骨な中年男性。助手席には黒い少女。そして少女の肩には紅い眼のカラス。
「本当に正面から乗り込むつもりですかい?」
 男が訝しげに少女――マリツィアの方を見る。今日会ったばかりだが、それでもアテオラル本社があるこの街に来るまでの数時間でそれなりに会話を交わした。その少女が武装した警備員がうろついている本社正面の入り口から攻めるというのだ。
「はい、奇襲も好きですけど、やはり初対面の相手にはきちんと挨拶をしておかないと……しかし、本当に使ってよろしいのですか? 荷台の物……」
「ええ、好きに使って構わないと社長が仰ってました。試作型だったんですが、如何せん人間が扱えるような性能じゃないんで、倉庫で埃を被っていたんですがね」
 それでもトラックに積み込む前に点検してあるので、可動具合に問題はないらしい。
「では、遠慮なく使わせていただきます。あなたも見つからないように注意してください」
「了解、ではご武運を……」
 マリツィアは車を降りて後ろの荷台へと回る。シートを剥がすと『それ』は姿を現した。月の光を浴びて妖しげな輝きを放つ『それ』は破壊神が具現化したかのような錯覚すら覚える。
 荷台の片隅に木箱が数個並んでおり、蓋を外すと中からは黒い銃弾が顔を覗かせた。
 腰のホルスターから真紅の回転弾倉式拳銃『ロヴィナ・カリタ』を抜き、シリンダーを横に押し出すと1発ずつ銃弾を込めていく。合計6発を装填すると再びホルスターに戻す。リボルバータイプの拳銃に素早く弾丸を装填するためのスピードローダーにも予備の銃弾をセットしておく。
 準備を終えて、少女はアテオラル社の入り口を見据える。夜の闇に覆われ、100メートルの距離があろうとも、吸血鬼の視力は歩き回る警備兵達の姿を完全に捉えていた。
「さて……それではパーティを開演しましょう」
『じゃあ、あたしはのんびり見物させてもらうわね』
 マリツィアの肩に乗っていたフルリアが飛び立ち、夜空へと消える。それを見送ると、マリツィアは自身の体よりも遥かに大きな『それ』を抱えてビルへ歩き始めた。



「ん……?」
 ビルのメインゲート前に立っていた警備兵の1人が、こちらに近付いてくる影を見つける。まるで小さな固まりの上に長い棒が立っているようだ。
 奇妙に思って足を踏み出しかけた時、影の全貌がビルからの明かりで見えるようになり、警備兵はその場に凍りついた。
 影の正体は小柄な少女だった。黒い髪、黒い瞳、黒い服、そして青白い肌。だが、それ以上に目を引いたのは少女が抱えている物体である。
 それは一般的には『アンチ・マテリアル・ライフル』と呼ばれる重火器で、名前の通り対人用ではなく、対物用として使用する物だ。破壊力のみが追及された性能は、他の種類の銃器とは比較にならない重量と反動を生み出す結果となる。だが、黒装束の少女はその長い銃身の大型ライフルを細い腕で、苦もなく保持していた。
 流れるような手付きで少女はアンチ・マテリアル・ライフルを構えて安全装置を外し、ボルトを操作して薬室に初弾を装填して引き金に指をかける。
 まるで夢の世界に囚われたかのように周囲の兵士達はただ呆然とその光景を見つめていた。
 アンチ・マテリアル・ライフルを構えたまま、少女が笑みを浮かべる。目を細め、口元を弓形につり上がらせた不気味な笑み。そして少女の黒い瞳が見る見る内に紅く染まっていく。
「お初にお目にかかります。突然ですが、今日この場所はパーティ会場となります。皆様、どうか存分にお楽しみ下さいませ」
 そう言って引き金を引く。
 爆発音に近い銃声が夜の街に轟いた瞬間、アテオラル本社ビルの入り口は呆気なく破壊された。不運にも射線上にいた兵士は大口径の弾丸をまともに受ける形となり、脳が痛みを認識する前に文字通り体を粉々に吹き飛ばされる。
 ようやく周囲の兵士達が状況を把握し、携帯していたマシンガンを構えるが、その時、すでに少女の姿はない。
 次の瞬間、辺りを見回そうとした兵士の胸から小さな手が生える。
 何故、そのようなことが起きたのか理解するより早く、兵士は事切れた。倒れた兵士の背後にはいつの間にか少女が立っている。血に塗れた手には鉤爪が生えていた。
 兵士の血で紅く染まった手を少女は恍惚とした表情で舐める。
「な……」
 まるで瞬間移動でもしたかのような少女の動きに唖然としながらも、それでも残りの兵士達は少女を危険分子と判断し、銃口を向けて引き金を引いた。しかし、銃声が響いた時には少女は信じ難い速度で別の兵士に肉迫して鉤爪を下から切りつけ、腹から胸にかけて力任せに引き裂いていた。とても片手に大型ライフルを抱えているとは思えない速度だ。
 兵士達が悲鳴を上げながらマシンガンを一斉に乱射する。銃弾の雨が少女の体に無数の穴を穿つ。にも関わらず、少女は倒れない。それどころか穿たれた穴からは血が1滴も流れず、少女の顔には笑みすら浮かんでいた。
「そんなものでは無理ですよ」
 全身が蜂の巣と化した少女だが、次の瞬間、何事もなかったかのように全ての弾痕が塞がれた。体内に撃ち込まれていた弾丸が塞がれていく傷口から地面に零れ落ちる。
「ば、化物……」
「あなた方から見ればそうかもしれませんね」
 刹那、少女は旋風となった。触れた命全てを消し去る死の旋風である。



 警報が鳴り続けるビル。その1階のロビーは阿鼻叫喚の地獄と化していた。
 入り口付近の警備兵を全滅させたマリツィアは、ロビーに踏み込むと外の騒ぎで集まってきた警備兵の集団をアンチ・マテリアル・ライフルで吹き飛ばし、その場に居合わせた社員達を手当たり次第に血祭りに上げていく。火器や刃物は使用せずにわざわざ自分の鉤爪が生えた手を使って、だ。
 恐慌状態に陥った社員達は成す術もなく逃げまとうが、次から次へとマリツィアの爪の餌食となる。顔の上半分が切り落とされた者、1撃で腹を裂かれて内臓を全て抉り出された者、心臓をひと突きにされた者、眼球だけを刺されてその場で苦しみのたうち回る者、両手両足を切断されて自由を奪われたところへ滅多刺しにされる者。もはやロビーの床は血の海と化していた。床だけではない。ロビーに置かれていたソファ、テーブル、観葉植物、全てが紅い液体に塗れている。
 辛うじて逃げ延びた人々は階段やエレベーター等を使って上の階に逃げようとする。マリツィアは閉じかけるエレベーターの扉にアンチ・マテリアル・ライフルの銃口を向けて引き金を引く。銃声が響き渡り、扉ごと中の人間を粉砕した。
 1階に動くものが無くなるとマリツィアは他のエレベーターの扉をライフルで撃ち抜く。中には他の階にエレベーターが停まっている物もあったが、内部が根こそぎ破壊されたこの状態では、エレベーターで1階に下りることは不可能である。
 階段へと歩き始めるマリツィア。まだパーティは始まったばかりだ。上の階にはダンスの相手がたくさんいる。果たして自分の想い人はどの階にいるのだろう。いや、すでにこの騒ぎを聞きつけてこちらに向かっているかもしれない。いずれにしても楽しみなことだ。



 2階に上がるとさっそくダンスの誘いなのか、銃撃を受ける。2つに分かれた通路からそれぞれバリケードを張った兵士達がマシンガンやライフルで十字砲火を浴びせてくる。
 無論、対人用の銃弾などマリツィアには通用しない。彼女が持っているアンチ・マテリアル・ライフルも凄まじい威力と反動を持つ銃弾を撃ち出すため、非常に強固な特殊金属が使用されている。従って並の銃弾では歯が立たない。先ほどから思っていたことだが、やはりこのライフルは単なる対物用のライフルではなく、過剰なカスタマイズが施されており、どんなに訓練された人間でも扱うことは不可能である。重量といい反動といい、明らかにマリツィアのような人外の力を持つ者による使用を前提としている。とはいえ、精密機械である以上デリケートな箇所は確かに存在するため、あまり銃弾を受け過ぎるのは得策ではない。
 片方のバリケードに向けて引き金を引く。射線上にいた兵士はまとめて銃弾の餌食となり、残った兵士も吹き飛ばれた残骸に埋もれて身動きが取れない。すかさずライフルを地面に置き、もう一方のバリケードに『跳んだ』。助走もなしに天井付近まで跳躍したマリツィアに驚愕しながらも、兵士達は銃を構える。絶好の的のはずだった。ところが次の瞬間、マリツィアは天井が頭上まで迫ったところで体を翻し、そのまま天井を蹴った。軌道が変わり、マリツィアはバリケードの反対側に着地する。
「ひ……!」
 誰かが悲鳴を上げかけるが遅かった。両手に鉤爪を生やしたマリツィアによってその場の全員が切り裂かれ、抉られ、貫かれる。
「くそ……!」
 もう1つの通路から、残骸を押し退けた兵士が駆けつけた。マシンガンを構えた先頭の兵士に向け、たった今仕留めた兵士の死体を投げつける。血塗れの死体をぶつけられた兵士は悲鳴を上げながら転倒した。
 マリツィアは足下に落ちていたライフルを拾うとフルオートで死体ごと蜂の巣にする。
 硝煙と血の臭いが通路を満たす頃には、周囲に動くものはいなくなっていた。
「ふう……」
 軽く溜息をつく。そろそろ小休止をした方が良いだろうか。
(……少し羽目を外し過ぎでしょうかね。それにしても……)
 人間とは何と脆弱な生き物なのだろう。この程度の玩具で死んでしまうとは……。手に持ったライフルを眺めながらそんなことを思う。
 手近な所に倒れていた兵士の死体に近寄り、鉤爪の生えた手を兵士の胸に突き入れる。中にある柔らかい感触を確かめて壊れ物を扱うように手の平で包むと、そのまま一気に引きずり出す。
 無数の血管が千切れる音ともに兵士の体から出てきたのは心臓だった。血が滴り、僅かに体温を残しているそれを眺めてマリツィアは舌なめずりすると、彼女の犬歯が伸びて口外にはみ出す。
 伸びた犬歯をそのまま手に持った心臓に突き立て、喉を鳴らして内部に残っていた血を吸い尽くす。それが終わると犬歯は口の中に戻っていく。
 満足そうに笑みを浮かべたマリツィアは、かつて心臓であったものを捨てて先ほどから置きっ放しにしているアンチ・マテリアル・ライフルを拾い、階段を目指して歩き始めた。



 3階に上がったところで再び銃撃よるダンスの誘いがあった。
 だが、そこでマリツィアはあることに気付いてその場を飛び退く。通路の曲がり角に転がり込んで兵士達の射線から逃れる。
(今のは……水銀弾かしら)
 普通の銃弾では全くダメージを受けない吸血鬼でも、洗礼が施された弾や水銀を溶かし込んで作った弾などを受ければただでは済まない。ここは軍事に関わる企業なのだからそういった物があることは予め予測していたので今更驚くことも無いが、少々厄介ではある。
 マリツィアが身を隠した曲がり角目掛け、一斉に銃弾が浴びせられる。間断なく撃ってくるため、アンチ・マテリアル・ライフルで反撃する暇もない。かといってこのまま通路の先を進もうにも、おそらく別の部隊が先回りしているだろう。
 だが、それが一体どうしたというのだ。相手が何者であろうと粉砕するだけのこと。恐れる必要はない。
 マリツィアは目を閉じて聴覚を研ぎ澄ます。彼女が転がり込んだ通路の先から僅かな足音が聞こえる。次に銃器のボルトを操作する音を捕らえる。おそらくはスナイパーライフル。当然、水銀弾でこちらを狙うつもりだろうが、彼らは分かっていない。吸血鬼の並外れた反射神経、動体視力、聴力を。それら全ては人間やその辺の動物とは比べ物にならない。僅かに聞こえた音がどの位置から発せられたものであるか、割り出すのは難しいことではなかった。
 目を閉じたまま、マリツィアはアンチ・マテリアル・ライフルの銃口を音が聞こえた方向に向けて引き金を引く。巨大な銃声と共に弾丸が発射され、彼女に狙いをつけていた兵士をスナイパーライフルごと吹き飛ばした。
 次にライフルを足下に置いて曲がり角から躍り出ると同時に腰のホルシターから真紅のリボルバー『ロヴィナ・カリタ』を抜く。無数の水銀弾が迫るが、それら全てを桁外れの動体視力で見切り、弾幕の僅かな隙間に逃れる。兵士達からはマリツィアが『ぶれて』見えていたはずだ。人間の視力が捉えられるようなスピードではない。
 ロヴィナ・カリタを構え、引き金を引く。アンチ・マテリアル・ライフルほどではないが、それでもかなり大きな銃声が轟き、兵士達を護っていたバリケードを粉砕する。
 兵士達は飛び散った残骸に怯み、銃撃が途切れた。ところが、何を思ったかマリツィアは襲い掛かろうとせず、その場に立ち尽くしている。陰惨な笑みを浮かべて……。
 体勢を立て直した兵士が再び銃を構えた時だった。マリツィアの体が崩れていく。
「な……」
 マリツィアの体は無数の黒い破片になって、羽音を響かせながら兵士達へと迫る。その正体は漆黒の蝙蝠。
 その場にいた全ての兵士に蝙蝠達は一斉に襲い掛かる。悲鳴を上げながら追い払おうとする兵士達だったが、蝙蝠が容赦なく顔に噛み付いてくる。パニックに陥った兵士の1人が銃を乱射し、味方を射殺してしまう。
「た、助けて……」
「嫌だ! 離れろ!」
「やめろ……やめ……」
 眼球を潰され、鼻や耳を噛み千切られ、頬を喰われ、顔面を血塗れにした兵士達がのたうち回る。1階のロビーで繰り広げられた光景とは別の意味で凄惨だった。
 少女の狂ったような笑い声が響く。それは蝙蝠達が一斉に発したもののようにも思える。
『ふふふ……皆様、本当にダンスがお上手ですね。しかし、もっと上手く踊れますよ。私が少し教えて差し上げましょう』
 蝙蝠達はなおも兵士の血肉を貪り、彼らに死のダンスを強要する。
 だが、兵士達が動かなくなるまでさほど時間はかからなかった。
 無数の蝙蝠が1箇所に集まり、黒装束の少女を形作る。
(……足りない)
 やや不満そうな面持ちでマリツィアは死屍累々と横たわる兵士達を一瞥する。この程度の血では、まだ彼女を満足させるには足りない。量ではなく質だ。もっと甘美な血の持ち主はいないのか。
「ついでに……あなたの血もいただきましょうか」
 マリツィアが隠れていた曲がり角に、先ほどから潜んでいた気配が怯える。
 小さく悲鳴を上げて逃げようとするものの、マリツィアはいつの間にかその気配の背後にいた。
 気配の正体は1人の兵士。どうやら、別働隊の生き残りらしい。床に置かれたマリツィアのライフルを奪おうとしたようだが、あまりの重量に持ち上がらなかったのだろう。ほんの僅かに引きずった後がある。
「人の物を盗ってはいけないと、習わなかったのですか?」
 冷笑を浮かべてマリツィアは1歩踏み出す。
「ひ……」
 腰を抜かし、その場に尻餅をつく兵士。マリツィアは呆れたように溜息をついた。
「情けない……それでも訓練を受けたアテオラルの警備兵ですか?」
 鉤爪を生やした手を振り上げる。兵士は恐怖で頭を抱えた。
 だが、次の瞬間、横合いから迫る気配にマリツィアは咄嗟に後方に飛び退く。刹那、一瞬前まで彼女がいた空間を白い何かが通り過ぎる。その正体を見極めて、マリツィアは笑みを浮かべた。これまでにない、まるで顔に亀裂でも入ったかのような禍々しい笑み。
「やっと来ましたね……」
 夢見るような口調で呟く。
 マリツィアにとって狂おしいほどに愛してやまない存在がようやく現れたのだ。
「……お久しぶりです。ペルソナ」
 マリツィアがペルソナと呼んだ白い影――それはマリツィアと寸分違わぬ姿をした幼い少女だった。ただし、2つほど例外がある。
 黒いマリツィアに対し、ペルソナと呼ばれた少女は白かった。純白の滝のような長い白銀の髪、一片の汚れも無い純白の服。これで背中に羽があれば天使に見えなくもない。
 もう1つの例外は瞳である。マリツィアの瞳は、現在は紅く、平時は黒い。それに対してペルソナの瞳は澄んだ空のように青い。
 だが、マリツィアとペルソナには容姿以外にも共通点がある。例えば肌の青白さ。そして……。
「アテオラル社が雇った者……きっとあなたのことだと思っていました。お会いしたかったです」
 ペルソナはその手に鋭い輝きを放つ剣を持っていた。しかし、マリツィアは臆することなく続ける。
「よろしいのですか? 今は『夜』です。あなたに勝ち目があるとも思えませんが……」
「……関係ない」
 それまで黙っていたペルソナが初めて言葉を発する。声もマリツィアとそっくりだった。
「あなたを殺す……それだけ」
 ペルソナの青い瞳から明確な殺意が放たれる。しかし、マリツィアは益々嬉しそうに歪んだ笑みを浮かべた。
「嬉しい……そこまで私のことを想って下さるなんて」
「……黙れ」
「ふふふ……照れなくてもよろしいですよ。しかし、そうなるとあなたの方がハンデを背負うことになりますが」
「構わない……」
 剣を構えたペルソナの瞳がマリツィアと同じ様に紅く染まる。これも2人の共通点だ。
 黒装束を身に纏った紅い瞳の少女と白装束を身に纏った紅い瞳の少女が互いに向き合う。
 一方は無造作に腕組みをし、もう一方は剣を構える。腰を抜かしたまま座り込んでいる兵士は成す術もなく見守っていた。
「今度こそ……決着を」
「それもいいのですが、1つだけ確認したいことがあります」
 組んでいた腕を解き、腰に当てるとマリツィアは些細な用事であるかのように続けた。
「社長様は最上階ですか?」 
「…………」
 マリツィアの問いにペルソナは何も答えずに沈黙している。その沈黙こそ、ペルソナの答えなのだろう。
「そうですか……それなら」
 何かを思いついたようにマリツィアはペルソナに歩み寄る。警戒心を露にするペルソナだが、マリツィアは彼女の隣までやってくると、階段を指差す。
「私はこれから最上階の社長室まで向かいます。あなたはそれを阻止してください。防ぎ切れれば良し。でなければ、社長様を殺した後に改めて決着をつけましょう」
 ペルソナは冷やかな視線でマリツィアを眺めやる。
「よろしいですね? 2人だけでダンスをするのも良いかもしれませんが、私もお仕事をしなければなりません。このルールなら2人で楽しみながら、私もお仕事ができるというものです」
「ふざけた真似を……」
「ええ、真面目ばかりでは楽しくありません。如何なる時でも遊び心を忘れないことが若さの秘訣ですよ? ペルソナ」
 マリツィアは歩き出す。ペルソナを相手にアンチ・マテリアル・ライフルは役に立たないので置いていく。
「どうぞ、どこからでも仕掛けてください」
 振り向きもせずに後方の殺気の源に言った、その刹那。
 ペルソナが一瞬でマリツィアに肉薄して剣を振るうのと、マリツィアが真横に跳躍したのがほとんど同時だった。
 優雅に着地するマリツィアに再び人外の速度で迫るペルソナ。しかし、そんなペルソナを嘲笑するようにマリツィアは一気に階段まで移動する。逃すまいとペルソナは腰のホルスターから白銀細工の自動拳銃『デリヴァート・メッソ』を抜き放ち、引き金を引く。
 エクソシストによって作り出された洗礼弾が発射される。威力はマリツィアが所持するロヴィナ・カリタには及ばないが、それでも並の人間が扱える代物ではない。さらに弾数も12発と倍だ。反動もロヴィナ・カリタに比べれば小さいので、扱いやすい。
 しかし、マリツィアは凄まじい反射神経で体を捻り、弾丸をかわすと階段を駆け上がる。
「どうしました? 先に行きますよ?」
 楽しそうに言って走り去るマリツィア。ペルソナは舌打ちをして追いかける。
 2人のスピードは人間の動体視力で捉えきれるものではなく、まるで突風が吹き抜けるような音だけが通路に響く。
 後に残された兵士は呆然としたまま、しばらくその場を動けなかった。



 ―――――閉幕



###後書きなのです###

 1つ断っておくことがあるとすれば、このSSはラブコメであるということなのです。
 誰が何と言おうとラブコメなのです。
 1度でいいから18禁っぽく書いてみたいのです。
 でも、さすがにそんな度胸があるはずがないのです。
 年齢制限が付くほど過激な描写ってちょっと苦手かもしれないのです。
 次の話で終わりになる予定なのです。
 それではごきげんようなのです。





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