ネオリーム
第2章 旅立ち





  第1話 《ウンディーネ》を探して

 あれから4人は小さな町へやって来ていた。そして4人はそこで有力な情報を聞いた。
 それは、ゼル達を襲った奴等この近くにいるらしい。
「どうするの?すぐにでも行く?」
 レイラは早く行きたがっているようだったが、ディルは…
「ちょっと待てって、今の力のままじゃ通用するとは思えない。なんとかして強くなる方法があれば…?っておいっ、ゼルの奴はどうした?」
「え?ほんとだ、もぅすぐにどっか行っちゃうんだから…。」
 ハルがあきれて肩を竦めると、ゼルが近くの店から出てきた。なにやら長い棒を持っているようだが…
「何やってんだ!お前は狙われてるんだぞ…ってなんだ?それ。」
 ディルはゼルの持っている棒を指して聞いた。するとゼルはくるっと後ろを向いて、
「え?これは、あそこのおじちゃんがくれたァ。槍だってさ、軽くて使いやすいだろうって。あとね、なんか〜この近くに大きい滝があってそこに《ウンディーネ》ってのがいるんだってさ。」
「「《ウンディーネ》だって!?」」
 ディルとレイラは驚いて顔を見合わせた。それもそうだ、ウンディーネと言ったら伝説の8幻獣の1匹でかなりの力を持っているという生き物だ。
「ねぇ、うんでぃーね…って何?」
 ゼルが不思議そうに聞いた。
「う〜ん…なんて言ったらいいんかなァ。」
「《ウンディーネ》って言うのは簡単に言えば伝説の生き物よ。確か100年前の『世界大戦』で世界を救った1匹って言われているわ。」
 ウンディーネ…水を司る精霊。8幻獣と契約できた者は大いなる力を得ることができると言われている。しかし本当に存在しているのだろうか?まして、いたとされているのは100年も前のことだ。果たして生きているのだろうか…?
「じゃあさ…その《ウンディーネ》に会いに行ってみない?よく分からないけど…強くなれるかもしれないんでしょ?」
 ゼルが聞くと当たり前だろ?という感じでディルは、
「そうだな、それがいいと思うぜ。どうだ?レイラ、ハル。」
「私はいいわよ。できることはやりたいしね。それに本当はもっと強くならなきゃダメだって分かっていたから。」
「僕も行くよ、本当はそんな危ないところには行きたくないけど…。」
「それじゃあ、決まりだな。出発は3日後!」
「ディル、お願いがあるんだけど…。」
 ゼルがディルにごにょごにょと耳打ちした。はて…今なんて?
「…分かった、その代わり俺は厳しいぞ?」
「望むところ。」
 ゼルは気合いを入れあることを始めた。そのある事とは?



 そして3日経った出発の日…
「よし、みんな準備はいいか?」
「OKだよ〜♪」
「私も大丈夫よ。」
「僕も!」
「それじゃあ行くか!」
「「「お〜!」」」
 4人は気合いを入れ出発した。目指すのはウンディーネのいるといわれる大滝。しかし今思えば何故あの店の主人は知っていたのだろうか…?



「到着〜♪…ってうわ〜でっかァい!」
「ほんとに大きいね。なんか呑み込まれそう…。」
 すると目の前にあの店の主人が現れた。
「「「!!」」」
「あれ〜?あの時のおじちゃんじゃん、どうしたの?もしかしておじちゃんも《ウンディーネ》に会いに来たの?」
「(やられた…)そんな訳あるか!お前ら…あいつ等の仲間だな。」
 ディルは舌打ちした。
「あいつ等?そうか…あいつの事か。フン、こんな奴らをのこのこ逃がすなんてな。」
 あいつ等…それは数日前にゼル達を襲った奴らのことだ。
「ふふ…俺はあいつ程甘くはないぞ。出て来い!!」
 男がそう言い合図をすると、4人の周りにかなりの数の敵が現れた。
「くそ、こう囲まれてちゃな…どうするか。」
「オイラのせい…。オイラが信じちゃったから…?」
 ゼルが俯いているとディルがさらに追い討ちをかけた。こんなときに追い討ちなんて…
「ゼル、お前はもう少し人を疑うことを知った方がいい。人を信じる事はいい事だ。だが信じてばかりだといつか身を滅ぼすぞ。」
「うん…ごめんなさい。でも、どうしても…。」
 ゼルは悔しいという気持ちと反省の気持ちで小さい体がさらに小さくなった。
「今はそんなことより、どうするかを考えた方がいいと思うわよ。」
 レイラは全く…とあきれた感じで現実に押し戻した。数で数えたらこちらが4人に対して相手がその3倍程度、さらに囲まれている状況。どう考えても勝つのは難しい。
「さっさと殺してしまえ。行け、野郎共!」
「「「うおおおー!」」」
 男達は片手に各々の武器を振り回しながら4人に向かってきた。
「ちっ、仕方ねえ。使うぞ、レイラ!」
「え?あれね、分かったわ。」
 そう言うと2人は呼吸を合わせ何かを唱え始めた。

「「『我らに宿りし魔族の血よ‐今この時この場に‐我らに力を』!」」

 すると、2人の体が赤く光りだした。そして…
「いくぞ、レイラ。」
「「!」」
 ほんの数秒…。
 ゼルとハルは今、目の前で起きたことに目を疑った。それもそのはず、ディルは目にも留まらぬ速さで動き、レイラは呪紋の詠唱なしで黒魔法を連発。そしてあっという間に全て倒してしまったのだ。
「すごい…2人にこんな力があったなんて。」
「どうする?お前も来るか?ただし俺は手加減はできねえぞ。」
「う…くそ、絶対に殺してやるからな。それまで覚えてろよ!」
 そう言うと男はものすごい勢いで逃げて行った。



「くっ、やっぱり使うんじゃなかった。」
「そう…ね、力が…入らない…。」
 ドサ、ドサっ。
 2人はその場にひざを付き倒れてしまった。
「!ちょっと、どうしたの?2人共。」
「さっき、の力を使うには…体中の力と、魔力が必要になるんだ。」
「そう…、それに使えても今の私達にはせいぜい1分が限度…。」
「じゃあ何で…「「あのままじゃ全員死んでいたかも知れないんだぞ。こうするしかなかったんだ。」」
「う…、ごめん…なさい…。」
 ショックを受けたゼルは走って行ってしまった。今にも零れ落ちそうな大きな涙をつくって…。
「ゼル!ちょっと…」
「ほっとけよ、あいつだって大変なんだろう。くっ…少し考える時間を与えてやったらどうだ?」
 ハルはうん、と頷き2人に回復呪紋をかけ始めた。



「オイラのせいだ、またオイラのせいでみんなが…あの時みたいに。」
 ゼルの頭には12年前のあの日の出来事がよみがえってきた。あの日、ゼルは父親と4度目の誕生日を祝っていた。幸せの一日になるはずだった…。しかし1人の男がやって来た事で最悪な一日になってしまった。そしてただ1人の肉親が消えた日…。

「何だお前は!こんな時間に何の様だ。」
 玄関の前に1人の男が立っていた。
「ひひひ…俺はお前の子供を殺しに来たんだ。」
「何?ゼルを殺しに来ただって?」
「そう…そいつはただ1人生き…「「うるさい!お前にこの子の幸せを壊す権利はない。さっさと出て行け!」」
 ゼルの父親…いつもは笑っていて怒ることがないのだが、この日は違った。
「そう怒るなって…ひひひ、お前はあの・・・の・・・の時の…なんだからな。」
 男の言葉の一部が消えている…
「黙れ!もう俺はなんの関係もない。さっさと消えろ!」
「分かったよ。しかしこいつを殺してからな。」
 そう言うと、男はゼルに向かい手をかざした。しかしゼルの父親は男の前に立ちはだかり…
「この子には指一本たりとも触れさせない。この身に賭けて!」
「…ならやってみなァ!」
 この後激しい音がした…。ゼルはあまりの音と光景に気を失ってしまった。

 それからどれ程時が過ぎただろうか。ゼルが目を覚まし見たのは血塗れになった、死ぬ間際の父親の姿とすでに息絶えた男の姿だった。
「ゼル…父さんの……。」



 ここで記憶は途切れてしまっている。いつか思い出せる日が来るだろうか…いや、かえって思い出さないほうが良いのではないのだろうか。

「(あの時の男の言葉がはっきり思い出せないなァ…なんて言ってたんだろう…)ってええ!?まじ?どこここ…?まさか、迷った?」
 ゼルは勢いよく走ってきたのはいいが道に迷ってしまったらしい。
「うそ〜、まじで?最悪だし…うう…お姉ちゃん…。」
 ゼルはその場に座り込んで、俯いていると…目の前に水が流れ出てきた。
「!何?きれい…この水、光ってる…。」
 すると、ゼルの目の前にあった水が急に青く光り出した。そしてその水が浮き上がり、人の形を作り出した。青く透き通った体に真っ赤な目、そして青く長い髪の毛…ゼルはただ、ボケ〜と呆けているだけだった。
『あなたがゼルですね?』
「うお!?しゃべった!で…何でオイラの名前知ってるの?」
『私は8幻獣の1匹、水を司る幻獣《ウンディーネ》です。あなたがここに来ることは分かっていました。』
「分かってた?どういう意味?」
 ゼルはいまいち状況が分かっておらず、首を傾げていた。ウンディーネは微笑むと静かに語り始めた。
『あなたは力が欲しかったのでしょう?あなたは自分のせいで仲間に迷惑がかかる…だから強くなりたい…。そう願っているのではないのですか?』
「オイラの考えてたこと…。そうだよ…オイラは強くなりたい。仲間を…仲間を守れる力が欲しい!」
『やはりあの人の子ですね…。ふふ…分かりました。ではあなたに問います。あなたは力を得るためにならそれなりの覚悟がありますか?』
「覚悟…?覚悟って言うのか分からないけど…オイラは強くなれるんだったらどんな事でもやるよ!だから昨日までの3日間、ディルに稽古付けてもらってたんだから。」
 そう言い切るゼルの目には一切の迷いはなかった。するとウンディーネは手を掲げ…
『分かりました。ならばこの子たちを全て倒してください。それができたら契約を結びましょう。』
 ゼルが急いで槍を構えると、ウンディーネはゼルに向かい水の精《セイレーン》を3匹放った。
「うひゃ〜、変なの出てきた。でも負けるわけにはいかないんもんね。もう迷惑はかけない、仲間を守る…そう決めたんだから!」
 ゼルは地を蹴り走った。さすが中学の時に3年間リレー選手をやっていただけの事はある。すぐに1匹の後ろに回りこみ…
「ていっ!1匹目。…次!」
 ゼルは2匹目までは順調に倒していったが、ラスト1匹という時に石につまずいてしまった。そこへセイレーンの攻撃!
「うわぁぁあ!」
 ゼルは腕を攻撃され、槍を落としてしまった。
「く…そ…こんな奴等に…!」
 よろよろと立ち上がるゼルにセイレーンは休むことなく次の攻撃を仕掛けてきた。ゼルがあきらめ目を閉じたとき!

『ゼル…父さんの…分も生きて…この世界を…救ってく…れ。』

「お父…さん。そうだった、オイラはお父さんに誓ったんだ。生きるって…だから…こんなところで負けてられっかぁあ!!」
 ゼルは片手で槍を掴みセイレーンの攻撃を弾き、渾身の力でセイレーンを突き刺した。
「ハァ、ハァ…やった…倒せた…。よかったァ。」
『ゼル、お見事です。約束通り、あなたと契約を結びましょう。』
「やったァ〜!あ…でもどうやって?」
『あなたには分かるはずです。契約するための言葉…言ノ葉が。』
 言ノ葉…8幻獣を契約すために創られた言葉…。しかしなぜゼルに分かるのだろうか…。
「?何だろう…分かる気がする。」
 ゼルは深く息を吸い込み…

「『清き雫より生まれし慈悲深き者よ』我と契約を、そして我に力を【ウンディーネ】!」

 するとウンディーネはゼルに1つの技を授けゼルの体へと吸い込まれていった。
「あれ?傷が治ってる。」
 なんとゼルの腕の傷がきれいに治っていた。それはウンディーネが治していてくれたのだった。
「じゃあ…って言っても戻れないよ〜。」
『私が道案内します。』
「ありがとう《ウンディーネ》。」
 それからゼルはゆっくり滝の外へ戻って行った。

* * *


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