星の輝く中に歌われた鎮魂歌

 1章「過去の清算」




「……………夢で両親の夢を見た。」
 紅茶をすすりながら、俺は何気なく言った。
 いや……何気なく言えるぐらい気持ちがほぐれている……と言った方がいいのかもしれない。
 それぐらい落ち着いていたし、気持ちも安らいでいるようにも思える。
「まあ…………。」
 ラクスは別段表情を変えずに言った。
 哀れむような表情でもなく、驚くような表情でもない。
 ただ安らかな笑顔がそこにあった。
 それが俺を安心させる。
 ラクスは全てを受け止めてくれるような優しさがあるなと思った。
「両親が喧嘩をしている夢………ラクスとの婚約を決めて喜んでいる夢も見たな………。」
「楽しい夢も………悲しい夢も見たんですね。」
「そうだな……。両親の仲自体は悪かったのかもしれないが……俺を愛していたのは事実なような気がした。」
「子どもを愛さない親は………いません。」
 ラクスは鎮痛な表情でそう言った。
 はじめて表情を変えた………というか変えないといけなかったのかもしれない。
 ラクスは俺と同じで両親がいないのだから。
 ラクスの父親もラクスを愛していたのだろうし……母親もそうだったのだろう。
「そうだな………。」
 俺は紅茶をすすりながら、静かに同意した。
「親……………か。」
「どうなされました?」
「今ここでこうしていること自体は後悔していないが………もっと両親と分かり合えたような気がするな。」
 いつも思う。
 両親と分かり合えなかった自分に。

 もっと分かり合えていた虚像が俺の心の中に浮かぶ。

 父親が笑い……母親が笑い………そして俺も笑っている。

 そんな家族が一緒に過ごしている夢が………俺の心を支配する。

「だったら…………そうされたらいいのではありませんか?」
「…………?俺に死んで両親と分かり合えと?」
「まあ………。それは痛快愉快なことですね………。」
「………………………。」
「………………………。」
「………まあ、ジョークはともかく。」
「…………分かりあえることは出来なくても………両親のことを知ることはできますよ。」
「知る?」
「はい。親の仕事を知る………父親や母親がやろうとしていたこと………。」
「そういうことを知れと。」
「分かり合うには知らなければなりません。名前……大切な人がやっていること………。」
「………確かに………知ろうともしなかったのかもしれないな。」

 父さんは政治家をやっていた。

 母さんは農業の研究をしていた。

 それだけしか知らないし、知る必要もなかったような気がする。

「そうすれば………少し寛容な気持ちになれるのではないですか?」
「………それは分からない…………。」

 ……………『分からない』というのは本音だった……………。

 例え親の仕事をもって知ったところで………何かをしようとしたところで………

 この俺の心はどうにかなるようなものなのだろうか………。

 家族での笑顔をもらえなかった俺にその傷を癒すことは出来るのだろうか……。

 何かやったところで無駄なのではないだろうか………。

 …………しかし。

「けど………やる価値はあるような気がするな………。」
「そうですか。」
「やらないよりやった方がいい。」



 ……………そうだ。

 こういう平穏なときだからこそそういうことも出来るのだと思った。

 平和になったからこそ思うこと。

 心が穏やかになったからこそやりたいこともある。

 ………だから………親に対して出来ることはした方がいいような気がした。





 ………………………………。





 ………………………。





 ……………。





「……………世話になったな。ラクス………。」
「いいえ。少しは安らげましたか?」
 あの後、暫くラクスと歓談し………休息をとってから帰ることにした。
 いつの間にか……もう夕方になっていた。
 自分としてはこれ以上ない休息だった。
 心の奥底から休めたような気がした。
 これもラクスだからなのかもしれないが。
「…………また、暇があったら来る。」
「はい。」
 ………ラクスは見送るときも穏やかな笑顔だった。

 世界が平和だからこそもたらされる笑顔だと思った………………。



                                               (続く)



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