星の輝く中に歌われた鎮魂歌

 2章「人が望んだもの」




「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜。」
 俺は背伸びをした。
 同時に身体が楽になるような感覚に陥る。
 長い間シャトルに乗っていたために少し身体がだるかったからだ。
 長時間乗り物に乗るというのは意外にしんどいな…………。



 俺が来た場所。

 それはプラントで、その空港である。

 人の喧騒が支配するこの空間。

 人の普段の営みがそこで展開されている。

 人の話し声や歩く音……まさに喧騒だな。

 色んな音が同時に聞こえている。





 ここは俺の故郷であり、生まれも育ちも全て……。

 プラントに帰ったといっても、そこまで地球と別次元という訳ではない。

 ここは空港という場所というのもあるし、重力もあるから違和感がそれほどあるわけでもない。

 有り体言うのであれば、外国に行ったのと同じ感覚だろう。

 宇宙といっても、そんな感覚だ。

 恐らく、人間が地球と限りなく近い環境をと目指した結果なのだろう。

 もちろん、地球のような独特の臭いのようなものはないのだがな。





 仕事の目処がついたのは結局2ヶ月後の話だった。

 政治情勢は緊迫していたというのもあるし……。

 飛行機に乗るときにはカガリやラクスが見送ってくれた。

 出発するときにラクスからもらった紅茶とクッキーはもうなくなってしまった。

 かなり長旅だった証拠だ。

 この時代になっても宇宙に行くというのはそれなりに大変なことだ。





「…………さて、これからどうするかな………」
 やることは具体的に考えてはあるのだが、まずそれにしても泊まる場所とかを探さないといけない。
 そういうのはあらかじめやっておけばよかったのだが、生憎忙しくて出来なかった。

 あまりない休みなんだ。

 有効に使わないとな……。





 ………………その瞬間、金髪の少し茶色がかかった肌の人間が通りかかった……………。

 どこか見覚えがあるような顔だ。

「………………………。」
「………………………。」
 その男は立ち止まる。

 もしやと思うがもしやなのか………。

 男は振り向く。
 そして俺も振り向く。

 見るとやはり俺の思ったとおりの人間だった。

「アスラン!!??」
「久しぶりだな、ディアッカ。」
 ディアッカは非常に驚いた表情でこちらを見ていた。
 同時に嬉しそうな表情でもあった。
 まあ、同年代の友人にあったのだからそれは喜ぶだろう。
「なんでお前こんなところにいるんだ?!」
 ディアッカはこちらによって来て、肩を叩いて祝福してくれた。
 その姿は本当に嬉しそうだ。
 プラントでもこうしてよろこんで出迎えてくれるのはまたいいな。
 俺も思わず表情が崩れる。
 安心というか喜びというか……そうした居心地のいいものとなる。
「用事があった。お前こそなんでこんなところに?」
「……ある奴を迎えに来てな。」
「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜。探したわよ。ディアッカ。」
 旅行カバンを担いでこちらに向かって話しかけてきた。
 ディアッカと呼び捨てで言う辺り知り合いで友人なのだろう。
 髪はダークブラウンで瞳はパープル。
 髪が非常に長く、腰の下まで伸びていた。
 後ろで単純に束ねているだけだ。
 一見は清楚でおしとやかに見える女性だ。
 歳は…………どうなんだろうな。俺より上なような気がするぞ。
「ああ、悪い悪い。」
 ディアッカは笑顔で迎える。こちらも敬語使っていたいない辺り上下関係はないように思える。
「…………………?」
 女性はこちらの方を懐疑的に見てきた。
 見知らぬ人間なのだから、それはそうだろうな。
 こっちだって懐疑的に見たい気分だ。
「…………………。」
「ああ、紹介するぞ。アスラン。彼女は……シホ。シホ・ハーネンフース。」
「どうも。シホ・ハーネンフースです。」
 シホと呼ばれた女性は軽く会釈をしてきた。
「……アスラン・ザラだ。」
「アスラン?パトリック・ザラの息子?」
 シホ……と呼ばれた女性は驚いた表情になって意外そうな顔でこちらを見ている。
「……………そうだ。」
 俺は思わず苦笑いをしながら、彼女に答えていた。

 ………あまり俺自身はパトリックの息子という呼ばれ方は好きではない。

 A級戦犯の息子みたいな感じで嫌な感じがするからだ。
 あのナチュラルを滅ぼそうとした人間の息子と呼ばれている気がしたいやだった。
「これはこれは………。前回の戦いでクルーゼ隊に補充されたシホ・ハーネンフースです。」
 彼女は俺に対して敬礼をして、凛々しい顔つきになった。
 緊張しているようには見えないが。
「ああ、別に今はなんでもない人間だ。普通でいい。言葉も。」
 俺は制して言うと、シホは少し笑みを浮かべて礼をした。
「安心したわ……。横暴な人間だったらどうしようかと思った。」
 少し息をついて安心していたように思える。
 敬礼など姿から察すに軍人なのだとすぐ分かった。
 雰囲気からして少し威圧感もあった。

 ………ディアッカからは微塵も感じないのだがな。

「どうかしたか?」
「………別に。」
 俺はシホの方を見る。
 とりあえずという訳でもないが、軍人だということを確認してみてもいいなと思った。
「軍人なのか?」
「ええ。今まで南アメリカの独立戦争の方に行っていたの。」
「南アメリカか………。」
 南アメリカ合衆国は親プラント国家だ。
 プラントに対しても色々良くしてくれた国家のひとつだといえる。
 こうした経過もあって、コーディネイターとナチュラルの開戦直後地球連合に属する大西洋連邦に侵略され、併合されたんだがな……。

 戦後は、大西洋連邦からの独立を目指して戦争状態だったのだが………。

「あちらは大変だったわ………。物資やモビルスーツがなくても、戦わなければいけないから………。」

 ………一瞬、カガリが言っている軍縮についてが頭をめぐった。

 カガリは軍縮すればいいと言っていたが、南アメリカをめぐる戦争はそうした物資やモビルスーツがなくても戦っている。

「どういう状況だった?」
 ふと俺は聞いてみた。
 彼女の体験というのはいわゆる紛争での戦いだ。
 限られた資源の中で戦わなければならないというのはどういう状況なのだろうか。
「やはり砂漠地域というのはステルスの飛空挺が一番有効だし……。後は戦車も中々…。
 モビルスーツはかさばるし、電気も馬鹿にならないし」

 ………相当前時代的な戦い方だ。

 宇宙という空間でも地上でもない砂漠地域。

 モビルスーツは確かにかさばるし、電力の消費量もとんでもないものになる。

「そうなっても戦うんだな………」
「当然よ。戦わなければ生きる道も自由もつかめない……。
 人は生きるために自由を得るために奮い立たなければいけない………!」
 シホは少し怒ったような口調で俺に向かって言った。
 おとなしい性格にも見えたりはするが、そこは軍人というべきかこういう場面では気の強さがでてくるなと思った。
「…………そうだな。」
 南アメリカの人間は戦わなければ自由も生きる道も閉ざされる。

 だから奮い立った。

 武器があるないだとか、資源があるないだとかは関係がない。

 戦わなければ、自分たちは自由に生きていけないのだから戦わなければならない。

 限られた資源………モビルスーツもないような戦い。

 それでも彼らは戦わなければ自由に生きていけない。

 だから戦った。

「………どうかしたか?」
 シホはものすごい当たり前のことを言っているのだが、俺が納得していたので少し面食らっていたようだ。
「…………いや。」

 ……かなりカガリの言っていることが空虚なように感じた。

 カガリや俺は……たしかに戦争というものは体験した。

 しかし、それは「戦場」というものを体験したのであって、「戦争」の根本原因だとかはあまり知らなかったように思える。

 いや……政治という場が「戦争」というものを知らな過ぎるのかもしれない。



「戦争」の起こる理由を本当の意味で理解してから、行動したほうがいいかもしれないな………。



                                               (続く)



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