星の輝く中に歌われた鎮魂歌

 2章「人が望んだもの」




「こちらです。」






 インターホン押して、案内人が来る。

 その案内人に導かれるままに俺は進み、そしてアイリーン氏の書斎に行く。

 何事もなく家に入れた。

 まあ、アポを取ってきたからな。

 これで迎え入れてくれなかったら、俺がプラントに来た意味がなくなるからな。




 …それは嫌すぎる。








 …ついでに言うとディアッカは埃まみれだったのは振り払ってきたぞ。

 まあ、俺が押し倒してしまったんだがな。

 …なんで、あんなことやったんだろうな。












 案内されたのは書斎。


 見ての通りの書斎。

 大きいデスクがあって、その後ろに大きな窓ガラスがある。

 大きな本棚に俺では読むことが困難な本もおおそうだ。

 今でも、難しい勉強をしているのかもしれない。



 部屋は片付いていて、整理整頓されている。

 側にいる召使などがこの家の管理をしているのだと思う。













 書斎ではアイリーン氏が難しい顔で仕事をしていた。

 今はどのような仕事をしているのかは分からないがそれでも政治がらみの仕事をしているのかもしれないと思った。






 なんにしても、元気そうに仕事を充実して日々過ごしているのだなと思う。





 ……アイリーン氏はザラ派にクーデターを起こして、政権交代を果たした人物だ。

 そうして、ザラ派を排除して戦争終結に働きかけた人なので、凄いひとなのだが……。

 その後が大変だった。

 散々時間をかけた結果、停戦条約であるユニウス条約の締結に成功したのだが……

 その条約も地球連合よりの条約になっていたために、アイリーン臨時最高評議会は批判にさらされて解散されてしまった。

 結局、そんなこんなで政界から離れてしまったのが今ここにいるアイリーン氏だ。





 まあ、責任を感じて自殺とかしていなかったから良かった。











「あら。」

 アイリーン氏は俺を見ると、笑みを浮かべた。

 屈託のない、俺の来訪を心から喜んでいる表情だった。


 …たぶんな。













「………お久しぶりです……でしょうか?初めまして……でしょうかね。」


 アイリーン氏とは互いに面識はあるが、きちんと会話をしたことがない。

 思わず、始めの挨拶に困りしどろもどろになる。



 どう挨拶したらいいかわからなかったからだ。






 そういうところは今でも自分は不器用だなと感じさせる。

 まあ、今に始まったことでもないからな。














「どっちかしらね……?まあ、そんなことはいいでしょう。」





 アイリーン氏は俺のところまで来て、握手を求めた。

 俺も拒むことをせずそのまま握手をした。








「そうですね。」

 俺はアイリーン氏に笑みを浮かべる。

 アイリーン氏は俺に対して満面の笑みを浮かべてくれた。




 父の政敵であったのだが、そういう瑣末なことは気にしていないのだな…と感じさせる笑みだった。




























「ディアッカ・エルスマンも………。」

 アイリーン氏はディアッカにも握手を求めた。






「はい。」


 ディアッカも快く了承し、アイリーン氏と握手を交わした。







「初めまして、アイリーン・カナーバ。」
























「さて………アスランさん。」

「はい。」


 アイリーン氏は俺に向かって優しい笑みを浮かべた。












「貴方に渡したいものがあってね……。」



 そう言うと、アイリーン氏は部屋の隅においてあった箱を持ってきた。

 紙製の頑丈そうな箱で大きさはそれなりに大きい。




 彼女の言っている渡したいものであるのだろうな。









「これを?」

「ええ。開けてみて。」





「…分かりました。」

 俺は渡された紙製の箱のフタをあけてみる。




























「…………………!!これは………。」



 ………俺は驚いた。

 いや……それよりもいたたまれない感情になったような気もした。

 悲しいのか……それとも後悔という感情なのか………。

 自分がどうしようもないと思える……そんな感情になってしまうものがそこにあった。

























 …目に入ってきたのは俺と母さんの写真。

 幼き頃の俺と……今は亡き母の………。

 両親の不仲を知らなかった純粋無垢な俺。

 俺を包み込んでくれるような優しい笑みを浮かべている母。





 それは父がいつも部屋に飾っていたものであった。

 戦時中であろうとも常日頃父が持っていたものだ。



























「……………………父上。」




 俺は父と決別した時のことを思い出していた。

 俺たちが本当に意味で親子という関係を絶った日のことを。


 いや、写真がそれを思い出させたのかもしれない。































『ナチュラル全てが滅びれば戦争は終わる!!』






『……本気でおっしゃっているんですか………?ナチュラル全てを滅ぼすと………。』




『これはそのための戦争だ!!』




『………父上…………!!』








 ………あの時俺が父上に襲い掛かって、その衝撃で俺と母の写っていた写真立ては壊されていた。



 父上は壊されて床に落ちていた写真立てを気づかずに蹴飛ばしたんだ。

 そんな父親だった。


 所詮そんな関係だったんだ………。

 俺の父親パトリック・ザラと子アスラン・ザラの関係は。

 そんなことに戦争中の16歳になってやっと気づいた俺も馬鹿だったように思える。






























「………しかし、なんでこの写真がここにあるのだろう………?」



 写真はよく見るとボロボロになっていた。

 折り目もついていたし、目を凝らしてみれば足型のようなものもあった。

 やはり、父と決別したときに壊された写真だったということに気づく。





















「それはね、私が臨時の代表になってパトリック元代表の評議会にある書斎で見つかったものよ。」

「父上の書斎で………?」

「ええ。」

「……………それがどういう意味かは………自分で考えなさい…………。」


 アイリーン氏は神妙な顔になった言った。

 悩んでいるが、いい言葉を結局いえなかったからこういう難しい表情になっていたのかもしれない。








「……はい。」

 俺も神妙な顔になって相槌を打つことぐらいしか出来なかった。

 俺もこんなときにどういうことを言えばいいのか分からない。

 それにどうすればいいのかも分からない。



 不器用な人間だ。
















「後、他のものもあなたの父の遺品ばかりだから………。」

「………そうですか。」







「私が代表になるときに保管しておいたのよ。」

「…ありがとうございます……。」





















 決別したときに壊された俺と母の写真。

 それは父の書斎に残っていた。……いや父が意図的に残したのだ。

 でなければ、ここに残っていないだろう。





 父は……俺とそんな決別をしても……なお写真を持っていたんだ……。

 それは変えようのない事実だった。























 ………俺は父親に何をしてやれたのだろうか……?





 もっとやはりしてやれることはあったのだろうか。

 父上は父上で望んでいたのかもしれない。

 俺たち家族の幸福な姿を。

 俺も望んでいた。

 俺たちはどこかで道をすれ違ったのだろう。

 お互いに行くべき道を見定めた時点で。

























「アスラン………。」

 ディアッカは後ろから声をかけた。

 優しい声だった。

 そして、悲しい声にも思えた。











「なんだ………?」

 俺は静かにディアッカの方向を向かずに応対した。

 …まだ、父の遺品を見たかったからだ。













「泣きたかったら……泣いていいんだぞ。」

「………いや……いい。」




                                               (続く)



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