星の輝く中に歌われた鎮魂歌

 2章「人が望んだもの」




 ………薄暗い照明。



 辺りは漆黒の闇に包まれていて、静かな空間が世界を支配していた。



 この薄暗い照明がなければ、世界は完全に闇に包まれる。



 プラントの光調節による人工的な夜を作り出している。



 ほのかに照明が照らされていて、それが月を思い出させるのかもしれないが、月のような静かな雄大さがかける光のような気もした。




 そんな薄暗い照明。













 俺とディアッカはアイリーン氏の誘いを受けて、この家に泊まることにした。


 アイリーン氏はとても嬉しそうな表情をして、はりきって良い部屋を提供してくれた。



 そこで俺たちはアイリーン氏と共に食事を取り、部屋でゆっくりしていた。































「おいおい、まだ見ているのかよ。」



「……。」



 ディアッカは俺に対して呆れたような口調だった。



 俺がずっとディアッカに構わずに写真を見ていたからであろう。






 ……俺はアイリーン氏の寝室でずっと渡された写真を見ていた。


 俺と母が写っている写真を。


 父がどうでもいいと思っていた写真を。





 …………父が俺たち家族のことを少しは気にかけていたのだという証拠を。























「………ああ、悪いな………。」



 俺はディアッカの方を向く。


 ディアッカは風呂上りでなぜか浴衣姿でいた。



 ………本当になんで浴衣姿だ?





 確かに日本舞踊が得意なのは知っているが、そこまでラクスみたいに追求しなくていいだろうに…という質問はディアッカを侮辱するかもしれないので止めておこう。











 風呂上りのためかディアッカの身体から少し湯気が立ち込めていて、薄暗い照明がその湯気を見せる。


 それがあたかも神や精霊が出てくる際の幻想的なイルミネーションのように見えて、ディアッカが和服を着ている精霊のように見える。



 立ち込める湯気。



 それを彩る薄暗い照明。



 ディアッカの慎みながらも強調している浴衣姿。




 その光景は美しく荘厳をしたものだった。
















「あ〜〜〜と……いや、別に見ててもいいんだぞ………。」



 ディアッカは俺が素直に謝ったたために少し困ったような表情をした。


 俺がもう少し見たいということを言うのかと想像していたのかもしれない。








「………そうか……すまないな。気を遣わせて。」

 俺は目を閉じて、ため息混じりにディアッカに謝辞の言葉を述べた。


 俺は結構周りを人間を振り回しているなと思った。



「いや、いいんだぜ。」



「しかし………父親は俺のことを気にかけてはいたんだろうかな…………?」




 俺は今思っている感情をディアッカに言ってみた。






 ……戦争中。


 子どもさえも単なる駒としてしか考えていない父親だと思っていた。






 そんな風に思っていた父親の認識を覆す写真。


 俺はそれを見た瞬間混乱してしまった。



 父親は俺のことを本当に愛していたのではないだろうか……と。








 俺は少し混乱していたために自分の感情をディアッカに言う。
























 ディアッカは当たり前のように自信を持って言った。




「自分の子供を愛さない両親はいねえよ。」




「…………そうか。」














『………子どもを愛さない親は………いません。』


 ラクスも同じようなことを言っていた。


 それは全ての親がそうであってほしいという願いと共に出された切実な祈りのような声が脳裏をかけめぐった。





 それと等しい重みがある言葉のように聞こえた。



 ディアッカとラクスでは言葉の感情の込め方が違うが、言いたいことは同じである。



 ディアッカも同じことを言う。



 それはそれが……親は息子を愛するというのは自明の理なのかもしれない。
















「………しかし、それは本当なのかな……。」



 俺は苦しい表情で口を噛み締めながら言った。




「おいおい、そんなに卑屈になる必要もないだろうによ。」



「いまさら、こういう写真を見たからといって……すぐに納得できることもないんだ。」



「…………。」




「頭や自分の中にある固定観念が消えることもないんだ。」





 俺の心の中にあった父に対する思い。



 父は俺を息子ではなく単なる戦争の駒として考えてなかったのではないかという疑念。


 俺や母のことを愛していなかったのではないかという疑念。



 そして、世界を…地球を滅ぼそうとした狂気の人。





 そうした父に対する心の重いが消えるほどの効果がある写真でもない。



 いや…そうした人の心はそう簡単に消えるものではないのだとも思う。



 そう簡単に心変わりするような信念なんてない。



 もしあってもそれは信じた心ではない。それは中途な半端な念だろう。





 いままであった、父に対する信じていたものはどんなことがあっても容易に消えるものではない。



















「………しかし、少し認識は変わっただろう?」



「………え?」




 湯冷めしたのか、ディアッカの立ち込める湯気は消えていた。


 薄暗い照明で映し出されるディアッカはやはり何か少し印象が違うように感じた。




「そうだろう?今まではそんなお前の親父さんがアスランのことを愛しているなんて思いもしなかったんだろう?」



「………それはそうだ………。」





「……だったら、そのうち徐々に変わっていくさ。」




「…………。」




「そうだろ?」




「……そうかもしれないな。」























 プラントがもたらす人工的な夜。


 そこからほのか映し出すディアッカの姿は妙に精錬されていて、荘厳としたものでもあった。



 そのディアッカから言われる一言一言はとても俺の心を揺さぶり、俺の心を射たものでもあったように思えた。






                                               (続く)



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