星の輝く中に歌われた鎮魂歌

 2章「人が望んだもの」




 コンコンコン。

 ドアのノックの音。

 しっかりとドアを叩いた音だった。







「はい。いいですよ〜〜。」

 ディアッカが間延びした口調で面倒くさそうにいった。

 いくらなんでも泊めてもらっている手前、もう少し丁寧な口調の方がいいと思ったのだが、それがディアッカらしいといえばディアッカらしいとも思う。















 ガチャ。

 ちなみにドアの開く音だ。

 モビルスーツが歩く音でもなければ、怪獣が出てきた音でもないぞ。











「アスラン……お前なんだか独り言増えたなあ……。」

「気のせいだ。」

















「夜分に失礼します……。」

「ああ、アイリーン氏。」

 やって来たのはアイリーン氏だ。



 ………というか、アイリーン氏以外に誰が思い当たるんだろうな………。








「怪獣とかいるんじゃないの。」


「いちいち独り言に反応しなくていいぞ。ディアッカ。」



「そっか?」



「…………何の話?」



「こちらの話しです。」



「怪獣がプラントに出てくるの???」




「それ以上話しすると、別の番組になるからもうここでこの話しは終わりだ!!」



「ハッハッハ!!」



「あら……つまらないわね………。」






 ……………………………。







 ………………。








 ………。












「さて……元気?アスラン。」


 アイリーン氏は俺を気遣うように話しかけた。


 さっきの手前大丈夫そうではなかったので、わざわざ尋ねてきたのだろう。


 やはり、このアイリーン氏という人物は徳だとか人の繋がりを大事にする人なのだと思う。









「わざわざ、おたずねていただき感謝します。」


「見たところでは少し元気になったってところかしら?」


「そうですね。父に対する感情が変わっただけでも前進だと思います。」










「………フッ。」


 全くディアッカの受け売りだったためか思わずディアッカが隣で吹いていたのが分かった。


 ……まあ、俺の思っていることがディアッカと同じだったのだから仕方ない。












「そう。そう思ってくれただけでも呼んだ甲斐があったというものよ。」


 アイリーン氏は屈託のない笑みを浮かべてくれた。

 ここに来てから俺に対して初めて見せてくれた笑みのように感じた。

 俺が本当にここに来たことが良いことに思えるかどうかは不安だったのかもしれない。

 そう思うと、アイリーン氏が笑みを浮かべたことは俺も嬉しいことであった。


















「…………。」

「アスラン?」


「………それにしても、父のやろうとしたことが消えることはないのですがね。」


「………そうね。それはあるかもしれないわね。」


 俺はふと父パトリックのやったことを思い出してそれを言ってしまった。

 場の雰囲気を壊したような気もしたが、言葉に出てしまったのだから仕方ない。

 アイリーン氏もそれに対しては真面目な表情になった。







 ……父のやろうとしたこと。

 それはナチュラル全てを滅ぼすという思想。

 父のナチュラル全てを滅ぼすという過激な思想のためにこの戦争は拡大し、そしてアイリーン氏はクーデターという行為にでたのだから。

 俺やアイリーン氏……そしてディアッカすらも真剣な面持ちにならないといけない事案ではあった。
















「……このことは許される行為ではありません。」

「別にお前のせいじゃねえよ。そんなのは。」

「………それはそうなのだがな。」


 ディアッカはそのことに対してもなお真剣な面持ちになる。

 俺のことを思って言ってくれているディアッカはやはり信頼できる人物であると思った。













「…………仕方がなかったのかもしれないわね。」


「仕方がなかった?」


 アイリーン氏はこれまでにない真面目な表情になった。

 ここまで真剣な表情は俺があの写真を見るときでもなかった。

 それぐらい真剣な面持ちで威圧感すら感じた表情である。

 凛々しくもあり、そして他の何者をも寄せ付けないものを感じた。











「………誰しも……少なからず望んでいたのよ。ああなることを。」


「………ナチュラル全てを滅ぼすことを?」


「はっきりとではない。それでもおぼろげながらね。」


「それは差別から……ということで?」




 俺は聞いてみた。


 ナチュラルはコーディネーターを畏怖の念も込めて別の人間として捉えている感覚がある。

 一方俺たちはナチュラルを下等生物のように捕らえているものも少なからずいる。

 その感情がこの戦争を拡大させたのかという意味合いなのかということを聞いた。

















「……いえ、それもあるかもしれないけど……多分違うわ。」

「だとしたら何が?」


















「……愛による憎しみの連鎖……どういう言葉でも括れるわね。そういった類のものよ。」

「………。」


 憎しみの連鎖か……。

 それは俺たちも思ったこと。

 そして体感したこと。

 二コルが殺されたことによって、キラという存在を恨んだように。

 カガリもそんなことを言っていたような気もしないでもない。













「私たちコーディネーターはそういったコーディネーターという共同体を大事にするでしょう?」


「……う〜〜ん?」

「ディアッカが分かっていない。」


 ディアッカは政治家が父親の割には政治には疎いところがあるからな…。














 アイリーン氏は少し笑みを浮かべて分かりやすく説明を続けた。

 案外、さっきのディアッカのリアクションが場を和ませたのかもしれない。

 そう思うとディアッカは凄いやつなのかもしれない。


「………そうね。今は考え方が違うかもしれないけど……コーディネーターがナチュラルとかプラントとは違う人から殺されたって聞くとむかついたりするでしょう?」

「それはそうだ。」

「そこには同族意識っていうのかしらね……。そういったものが働いているわ。それが同士愛でつながったコーディネーターという繋がり。」


「…分かったか。ディアッカ?」

「…なんとかな。」
















「それを大きくした事件が起こった。」


「…『血のバレンタイン』か………。」


「そう。あれも少なからず、ナチュラルに対してむかついたりはしたでしょう?そして……。」


「……俺のように軍人になってプラントを守ろうって言う人間も出てくる。ナチュラルや連合に対して憎しみを抱くものも出てくる。」


「憎しみを持つとういうことはそこに愛があるから………と捉えることができないかしら?」

「そうかもしれない。」

「私たちはコーディネーター自身に少なからずのそういった同士愛が存在している。
 だから、『血のバレンタイン』でコーディネーターの多くが死んだことはナチュラルという存在を憎むべき対象として考える。」















「そういえばニコルもそうだった。」

 ニコルは「血のバレンタイン」が起こったとき、『ここままではダメだ』と思ったらしい。

 コーディネーター全てが滅ぼされるかもしれない。

 それはニコルにコーディネーター自体に対する同士愛が存在していたからだろう。

 だから自分も戦わなければならないのだと。

 そう思い彼は戦いに身を投じ………。







「………彼は戦い……そして死んだ。」

「…………そういった愛による憎しみ全てが戦いに身を投じさせ……そして死んでいったのよ。」

「そのコーディネーターに対する同士愛がナチュラルに対する憎悪を生み……こんな戦争に発展したのよ。」






















「……誰しも同士愛は存在する。だから、ナチュラルを少なからず恨むと……。」

「そうした人間が増えるとそれは政治にも反映すると思わない?」


「………そうか。そうした愛による憎しみを持った人間がパトリック・ザラという強硬派を選んだ……そういいたいのですか?」


「そう。その憎悪がパトリック・ザラを議長にし、そしてナチュラル全てを滅ぼそうと思ったのよ。」


「俺の父親にその漠然とあるナチュラルの恨みが凝縮されたと……?」


「そうね。それが正しい言い方なのかもしれない。」


「…………。」


「政治……特に民主主義というのはそうした国民の感情に左右されやすい。だから……戦争中はああしたタカ派の人間は出やすいのよ。」


「………なるほど……。」





















 愛による憎しみ……。


 当然のことながら、愛がなければ憎しみは生まれないような気がする。

 大切なものが存在するから、人はそれを奪われたら憎しみという感情を抱くものだ。

 その大切なもの……コーディネーターという一つの共同体といったものも大切なものだろう。

 コーディネーターにとっては同族意識というのもあるだろうし、それも広い意味では愛で括れる。

 今の俺だってコーディネーターが虐殺されたら腹が立つと思うし、そうしたコーディネーターを助けたいとも思う。

 ひょっとしたら、ナチュラルよりそう思うかもしれない。

 それが戦争というものになれば、それは余計にそういうもの……つまり愛による憎しみは増える。

 コーディネータという共同体が迫害されようとしているんだ。

 それに奮い立つ人間がいるのが普通だ。

 二コルは「血のバレンタイン」で奮い立ち……そして死んでいった。

 そして、愛による憎しみの連鎖は続く。
















 父パトリックは望まれる。

 みんなコーディネーターを愛しているから。

 だから……そうした状況ではパトリック・ザラという人間は強硬派で分かりやすい人物だったからな……。

 結果、民衆はパトリック・ザラを望む。

 そして、ナチュラルたちを駆逐したいという願いが……コーディネーターを守りたいという願いが……

 パトリック・ザラを産んだんだろうな……。
























 だから、アイリーンは仕方がなかったと言う。


 ……確かにその通りだろうし、そうなんだろうが……う〜〜〜ん。


 そう考えるのはなんだか責任転化みたいだ。


 パトリックという息子の俺から見ればな。






                                               (続く)



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