黒ティックドーン列伝・赤間弾の激伝5選

 第四位・壱与は見たルナドン史の凶行の一つ(Battle−6 VSミノタウロス)




 私は壱与。

 訳あって冒険者をやったけど、目的を果たしたので引退し、故郷である深森の町で暮らすつもりだった。
 でも、個人いえ家族関係のもつれで故郷を夜逃げ、共に冒険者をやったN⇔SとESKの故郷である白夜の村に着くまでの期限で冒険者に復帰した。
 私は逃亡依頼(1)したかったけど家族関係で騒ぎになるため、やや遠い町である漁火まで直行、宅配や買い物、隣町までの護衛で所持金が溜まってからむかった。
 それまで沢山の荷物を抱えなければならないのが面倒だけど代えられない。
 退治と討伐の依頼は却下。だって、生き物を殺すのは可哀相だから。
 そんな説明をしたのは私が噂が広がらずに如何に目的地につけたのか説明するため。その途中で私はルナティックドーン史に残る凶行の一つを目の当たりにした。それについて話すわ。



 私がレンシア国の首都水鏡都市の酒場に寄った時だった。酒場にいた人々はマスターも含めて暗い雰囲気に包まれていた。
 中には「もう終わりだァ」と喚く者もいた。流石に私も気になり、マスターに理由を尋ねた。
「お前は『世界の通り魔』赤間弾がこの水鏡都市に来たことを知らないのか……」
 私は目が点になった。そう言えば、都市に訪れた時都民も妙に雰囲気が暗かったわ。その通り魔が何をしたのだろうか。
 ゴメン、わからない、と私が素直に言うとマスターは仕方ねェな、と次のように説明した。
「あの通り魔が炭坑跡(2)にいるミノタウロス討伐依頼を引き受けたんだよ!
 オレはキッパリ断るべきだったのだが、顔をロクに見ずにOKしちまった、ああ、ミノタウロスが可哀想だ……」
 マスターは懺悔するように言った。世界の通り魔はそれ程有名人なのだろう。でも、討伐はそんなに悪びれた反応をしないマスターが何故そんな言動をしたのだろう。
 ミノタウロス。戦斧を持った牛男で私がN⇔SとESKと共に初めて討伐した相手でもある。
 その時、私達はミノタウロスの姿を発見した後、そこから少々離れた場所で、簡単には這い上がってこれない程度の穴を掘り、その穴の上に布を敷いた後に掘った土を軽くかぶせ、見た目を地面と同化させる。
 それが終わると、今度は穴の側の物陰でESKと私が互いに繋がったロープを持って待機し、N⇔Sが1人でミノタウロスの下に行き挑発し、引っかかったところをESKと私の互いの手に持たれていたロープを一気に引っ張り、ピンと張り詰めた状態にしてから上へと持ち上げて、正面から落とし穴へと落とした後、倒した。
 私はマスターの真意を知るためにそこへ向かった。そして、知るのだった。
 行く先々でモンスターの死体が転がっていることから世界の通り魔が分かる。今に始まった訳ではないのだけど、死体を見るのは正直苦手。
 鈍い音がするので、そこへ行ってみるミノタウロスが真紅の鎧を着た少年と戦っていた。あれが赤間弾。一対一で素手で戦斧を持つ強いモンスターに真っ向勝負できるのは凄い。
 彼も素人なのか武器がないのが流石に辛いのか。両方でしょう。徐々にミノタウロスが人間よりも体力が優れている事と戦斧を持っている事の利点を活かして赤間弾を追い詰めていく。
 そして、ミノタウロスの体当たりを赤間は躱したが、その余波で吹き飛び、壁にぶつかった挙句地面に倒れ伏した。
 ミノタウロスが勝利の雄叫びをあげようとすると、赤間が終わっていないと言わんばかりに立ち上がった。
 思ったより体力があると私は思ったが、限界らしくまた倒れてしまった。
 これによってミノタウロスは用心したのだろう。戦斧を構えて赤間に近寄った。これだけだとやりすぎだろうけど、私がミノタウロスの立場なら同じことしてる。
 ミノタウロスが止めの一撃とばかりに戦斧を振り下ろしたとき、赤間はギリギリで躱し、立ち上がった。そして戦斧が地面にめり込んで慌てている隙を逃さず蹴りでミノタウロスを蹴り飛ばし、地面に叩きつけた。ここまではいい、ここまでは。問題はこの後での赤間の行為。
 彼は倒れているミノタウロスの上に腰をかがんだ後、どこからともなく取り出した十字架型の手槍でミノタウロスの右足を槍が曲がるほど何度も突き刺した。曲がるほどとは狂ってるとしか言いようがない。更に、意味不明な事を言った。
「あの儀式をせねば!」
 え? メッタ刺しは問題ないの?

*「レッドエクスタシー*(3)*!」*

 そう叫んで赤間は絶頂を迎えたの如くミノタウロスの上に覆いかぶさった。
 こんなにモンスターが可哀想と思ったの生まれて初めて。初めてモンスターが退治されたと報告されたら喜ぶはずのマスターがモンスターが哀れという理由が分かった。


 以上が私が目撃したルナティックドーン史に残る凶行の一つである。
 白夜の村でN⇔SとESK、そして怖いもの知らずのジャマハビにこの事を話したら震え上がってた。

 仕方ないわよ、何せ頭がおかしい人間の犯行としか思えないもの。




ナレーション:「いやー、赤間弾の見事な大勝利! その調子で今後も襲い掛かってくる数々の悪者から世界を守ってくれ、頼むぞ、僕らのヒーロー赤間弾!」




*僕らのヒーロー*ってこの場合はミノタウロスの事じゃないの?






*犯行内容:レッドエクスタシー*


*犯行動機:手槍が曲がるほどメッタ刺しにした後の儀式*


*被害者の方々:ミノタウロス*



注釈

(1)逃亡依頼
ルナティックドーン前途シリーズでの依頼の一つ。早い話が夜逃げと言った訳ありの代わりに少し儲かる護衛依頼。
前途シリーズ第一作の『開かれた前途』と第二作でかつ本作の舞台である『前途への道標』では真っ当な依頼だが、
第三作であり『開かれた前途』よりも前の時代が舞台である『第三の書』では犯罪組織闇ギルドでの脱獄と同様数少ない善と秩序に傾く依頼の一つでもある。

(2)炭坑跡
ルナティックドーン前途シリーズでプレイヤーが退治、討伐、救出、探索をこなすダンジョンの一つ。
一階、地下一階と二階建て構造で簡単な部類。元々炭坑だった場所のため、噂では労働環境は最悪で、落盤やら有毒ガスの発生は日常茶飯事。
時には地下水脈にぶち当たって大量の溺死体が浮いてた・・・なんて事もあったそうだ。
それに空気の循環もほとんどないから、岩を掘る事によって生じる粉塵などを吸い込んで、じん肺症と言う気管支系の病気にかかったりした。
それゆえ比べたら、空気が澱んでるくらいは仕方ないと冒険者は語る。
因みに入って早々道が左右に分かれているが運よく左の道に対象がいれば討 伐や救出は短時間でこなせる。

(3)レッドエクスタシー
元ネタは特撮ヒーロー『レッドマン』の『Battle−6 VSドラコ』でヒーローであるレッドマンがドラコを倒した後、
ドラコの死体に重なるように倒れたのを見たファンの通称。この時、レッドマンの槍であるレッドアローが折れ曲がっていたのだが、
その場の流れと勢いで撮り直す発想は製作者の中で誰一人としていなかったそうな。



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