翌日の放課後。亜美は一人でそこにいた。 街中の裏道に入ったところに存在する、古いバー。 その場の雰囲気、周りの人間に怯える。 「う……うぅ……」 「お嬢ちゃん、こんな所に一人で来たのかい?」 そこへ、一人の中年男性が近づいて来る。亜美は後ろへ下がった。 どう見ても、怪しい感じのする男性。 「お嬢ちゃんだったら、オジサン奮発するよ」 「あ、あの……」 「こんな所じゃなくて、良い所に行こう。ねぇ?」 そう言って、亜美の手を取る。亜美は振り払おうとした。 しかし、離れない。男性が引っ張り、亜美の肩を抱く。 恐怖のあまり、逃げようにも逃げられない亜美。その時、小石が飛んで来て男性の額に直撃した。 「ぐぁ!?」 「ふ、ふぇ……?」 「誰だ、石を投げたのは!?」 男性が睨む。その先に、一人の男が立っていた。 凛とした表情で、サングラスをかけたオールバックの男。 「その少女から離れろ」 「離れろ? 人様に石をぶつけておきながら、離れろだと?」 「離れろ」 サングラス越しに睨む。中年男性は臆したのか、亜美の肩から手を離し、間髪入れずに逃げた。 男が近づく。 「なぜ、こんな所にいる? ここは、お前のように純粋な心を持った少女が来るべき場所ではない」 「あ……ご、ごめんなさい……」 「何をしにここに来た?」 「えっと……む、村瀬将射さんを探していて……」 「俺をだと?」 サングラスの男――――村瀬将射がやや目を見開く。亜美は驚いた。 「ふぇ……む、村瀬さんですか?」 「……ああ。俺が村瀬将射だ」 「村瀬さん……ふぇぇぇ〜っ」 そう聞いて、突然泣き出す。流石の村瀬も驚いた。 周囲の人間達が二人の方へ顔を向け、睨む。溜め息をつきつつ、村瀬が亜美の手を引いた。 「場所を変えよう。近くに喫茶店か何かあったはずだ」 飛鳥が『レザリオン』の活動を行っているショップ。そこに、勇治はいた。 チーム『レザリオン』のトレーニングを黙って見ている。 『おわっ!? 資質使わなかったら、避けれなかった……』 『使うなって言っただろ、歩!』 辛うじて攻撃を回避したと思われるドライヴが、飛鳥のセルハーツに一撃で倒される。 その強さは、勇治の知るセルハーツとは違っていた。 見ただけで分かる。パワーアップしたセルハーツの強さは、全くの別物だ。 そして、飛鳥の技のキレが増している。半年前とは比べ物にならない。 「あれが、今の飛鳥か……」 「勇治君!」 そこに、明日香が現れる。勇治は無視して飛鳥の方を見ていた。 明日香が話し掛ける。 「久しぶりだね。飛鳥君に用があるの?」 「無い。飛鳥のセルハーツを見に来ただけだ」 「そ、そうなんだ……」 話が続かない。明日香は苦笑するしかなかった。 「そ、そう言えば、亜美ちゃんは元気? 『チーム・エンジェル』はどんな感じになってるの?」 「…………」 「え、えっと……」 「飛鳥に伝えろ。最強は俺だと」 そう言って立ち去る。何かを言う前に、明日香は眼中になかった。 落ち着いた雰囲気の喫茶店。そこで、村瀬は亜美にパフェを奢った。 ようやく泣き止んだ亜美が、村瀬に頭を下げる。 「ごめんなさい……お願いがあって来たのに、奢ってもらって……」 「気にするな。お前に奢る位なら安い事だ」 「あ、ありがとうございます……」 注文したコーヒーを一口飲み、訊く。 「それで、俺に何の用だ? 俺は、お前の兄の敵だぞ」 「えっと……その……」 亜美が唇を軽く噛み、決心したかのように言った。 「お願いがあります。村瀬さん、『チーム・エンジェル』に入ってください」 意外な一言だった。村瀬の目が少しだけ大きく開く。 「……チームに入れだと?」 「はい。今の『チーム・エンジェル』じゃ、お兄ちゃんが言うような最強のチームにはなれないし……」 「最強のチーム? そうか、今年からルールが変更されたのだったな」 トーナメントにおける、ルールの変更。それは、シングル・コンビ・チーム戦における変更である。 チームに所属するコネクターの場合、シングル・コンビのトーナメントには参戦できない。 そのルールは、今年から変更され、トーナメント参加の幅を広くすると言うものだった。 村瀬が首を横に振る。 「悪いが、断らせてもらう。さっきも言ったが、俺は荻原勇治にとっては敵だ。チームの調和が無くなる」 「それは……それは私がどうにかします。だって、私は『チーム・エンジェル』のリーダーだから!」 「…………」 「お願いします。お兄ちゃんが何を考えているか分からないけど、私は村瀬さんが必要だと思います」 勇治の考える最強のチーム。それは、どんなメンバーが必要なのかは分からない。 しかし、これだけは分かる。 兄が親友でもあり、ライバルでもある飛鳥と思う存分戦うには、兄自身が強くなる必要がある。 「お兄ちゃんは強いけど、今より強くなるなら、村瀬さんみたいな人がチームにいないと……」 「……良いのか? 俺は、兄より強いぞ」 「大丈夫です。お兄ちゃんなら、きっと村瀬さん以上に強くなります」 その言葉を聞いた村瀬が、少しだけ笑う。 あの兄あって、この妹あり。レガリアと言う差があったとは言え、自分が勇治に負けたのも納得できる。 「……良いだろう。『チーム・エンジェル』に加わらせてもらう」 「本当ですか!?」 「ああ。その代わり、俺の事は将射で良い」 「はい! ありがとうございます、将射さん!」 翌日。勇治はまたも紡を使って特訓していた。 いや、特訓と言うよりは、もはやイジメに近い。 ディル・ゼレイクの射撃が、今日も紡のドライヴを相手に映える。 「いや、勇治さん、これ鬼でしょ!?」 「関係ない」 「関係あるって!?」 繰り出される、容赦の無い攻撃。必死になって、紡は回避する。 しかし、それは長くなかった。完全に捉えられた紡のドライヴは、あっと言う間に破壊される。 「回避できるわけねぇだろ……」 「この程度か……」 これなら、まだ光哉の方が十分相手になる。そう、勇治は思った。 コクピットランサーから降り、溜め息をつく。 「所詮、紡程度じゃ意味が無い」 せめて、長い間耐えられるほどの耐久力があればと思うが、それも期待できない。 「時雨の奴が入れば、少しはマシになるだろうが」 それでも飛鳥には勝てない。飛鳥が作ったチーム『レザリオン』には。 飛鳥のメンバーの集め方を見ても分かる。間違いなく、飛鳥は何か狙いがある。 トーナメントで優勝するには、最低でもあと一人、相当な実力を持ったコネクターが必要だ。 色々と考えている勇治に、紡がゆっくりと近づき、話し掛ける。 「勇治さん、俺もう帰って良いッスか? 今日はこれから彼女と予定が……」 「あと2時間続けるぞ」 「2時間!? つーか、今日はもうこれで勘弁を……」 「却下だ。今のままで、お前が使い物になるわけがないだろ」 「うわ、酷ぇ……」 「使い物にならないのは、お前の方だろう? 『マグナム・カイザー』荻原勇治」 その言葉に勇治が反応する。勇治にとって、最も見たくない顔がそこにあった。 かつて、強敵だった『ダーク・フォース』の一人、『アサルト・ハンター』村瀬将射。 勇治がドライヴを構え、睨みつける。 「貴様は……!」 「久しぶりだな。あまり、強さは変わっていないようだが」 「……!」 「お兄ちゃん、ダメッ!」 勇治の目が見開く。村瀬の後ろに亜美がいた。 「亜美……!?」 「将射さんは、今日から『チーム・エンジェル』に入るんだから、仲良くだよ!」 「何……!?」 「そう言う事だ。これからは仲間として宜しく頼む」 村瀬が握手を求める。勇治は拒否した。 「断る」 「お兄ちゃん!」 「亜美は黙っていろ。こいつをメンバーに加える気は無い」 亜美を睨む。亜美は初めて、兄である勇治から恐怖を感じた。 兄が今よりも強くなるには、同じかそれ以上の強さを持った人間と特訓する事。 しかし、やはり相手が悪かった。 (でも、私が知ってるお兄ちゃん以上の強さの人って……) 知っているのは飛鳥や他の『フォース・コネクター』程度。皆それぞれ別チームだ。 因縁の中でも、兄にはこの人が必要だ。そう、亜美は思った。 勇治を睨みつけ、亜美が声を上げる。 「黙らない! 私がリーダーだもん! 私が決めた事だから、お兄ちゃんは文句言わないで!」 「何を言っている。こいつだけは絶対に断る」 「じゃあ、お兄ちゃんが抜けて!」 「何……!?」 勇治の目が見開く。 「亜美、お前何を……」 「『チーム・エンジェル』は私のチームだもん! だから、文句があるならお兄ちゃんがチームから抜けて!」 亜美の言葉に、勇治が言葉を失う。それを見ていた紡は逃げるタイミングを完全に逃していた。 村瀬が「そう言う事だ」と勇治の前に出る。 「リーダーである彼女が決めた事に従う。それが、それが普通だ」 「…………」 「まだ何か言いたそうだな」 「……うるさい」 勇治が村瀬を睨みつける。そして、ドライヴを構えた。 「お前を認める気はない。チームに入ると言うのなら、俺とバトルしろ」 「お兄ちゃん!」 「亜美、これは俺のケジメだ。黙っていろ」 「お兄ちゃん……」 「良いだろう。そのバトル、受けて立つ」 ――――タ〜リラ〜リラ〜ン♪ 突然、目の前のバトル・フィールドが海のフィールドとなり、そこから審判が姿を見せる。 頭にゴーグル、口元にシュノケール。そして、海パン姿に浮き輪を持った中年の男性がそこにいた。 「ただ今より、このバトルは公式バトルと認められました。 審判は私、モリ森田! ようやく出番が回って来ました!」 「そう言えばいたなぁ、審判……って、ここって海限定じゃないよな……」 審判の姿を見つつ、紡が言う。なぜ今のうちに逃走しないのかは不明。 モリ森田が説明する。 「今回行われるバトルはシングル! 対戦者は――――」 「とっとと始めろ。説明とかは聞く気ない」 勇治が言う。モリ森田が肩を落とした。 「……聞く気ない……せっかくの出番なのに……」 「早くしろ。審判退場させるぞ」 「し、失礼致しました! それでは、両者コネクトを!」 勇治の脅しに、モリ森田が進める。もはや、『フォース・コネクター』のやる事ではない。 コクピットランサーに乗り込み、ドライヴを接続する。 フィールドは海。そこに構築された2体のドライヴ。 勇治が乗るディル・ゼレイク。そして、村瀬のレイ・マキシマムだ。 「レイ・スペル・ショット無しで俺に勝てると思うな」 『あんな物は無くても、俺はお前の攻撃を全て防ぐ事が出来る』 勇治の言葉に対し、村瀬が挑発する。勇治が奥歯を噛み締めた。 「準備は宜しいですね? それでは、コネクト・バトォォォル、ファイッ!」 モリ森田による開始が告げられた直後、ディル・ゼレイクが動く。 「フレアマグナム」 放たれる高速の弾丸。村瀬は目を鋭くした。 弾丸一つ一つに中心点が見える。そこを狙い、全弾を撃ち落す。 「……っ!」 『戦い方も変わらないようだな』 「黙れ」 ディル・ゼレイクの全武装の砲門が開く。 「フルバースト・フレア」 『遅い。ミラージュ・スペル』 攻撃しようとした勇治に対し、村瀬のレイ・マキシマムが弾丸をディル・ゼレイクとは全く別の方向へ撃つ。 そして、瞬時に二発目を撃ち、一発目の弾丸に当て、方向を転換させてディル・ゼレイクに攻撃した。 呆気なく、右肩に弾丸を撃ち込まれる。勇治の目が見開かされる。 「何……!?」 『その程度か、戦い方だけでなく、強さも変わらないとはな』 「くっ……!」 『話にならない。この勝負は俺の棄権で終わりだ』 そう言って、レイ・マキシマムが銃を下す。勇治がその姿を見て、銃を放った。 その瞳は、完全に馬鹿にされた。そう捉えている瞳。 放たれた攻撃を、村瀬は簡単に撃ち落とす。 『無駄だと言っているだろう。お前の攻撃は全て、『金剛の瞳』で迎撃できる』 「ふざけるな……! 棄権だと? 俺を馬鹿にしているのか!?」 『そう捉えてもらって良い。レガリアの力が無ければ戦えないお前は、俺と戦う価値は無い』 レイ・マキシマムがコネクト・アウトする。それを見ていたモリ森田は唖然としていた。 が、すぐに我に戻り、判定を言い渡す。 「え、えー……対戦相手の棄権により、勝者『マグナム・カイザー』荻原勇治!」 勇治の勝利。しかし、勇治は納得がいかなかった。 「すまないな、今の状態でチームに入る事は出来ない」 「将射さん、そんな……」 コクピットランサーから降りた村瀬が亜美に言う。そして、今だ降りて来ない勇治の方を見て言った。 「あいつに伝えておけ。一週間時間をやる。それまでに強くなれと」 そう言って、立ち去って行く。逃げる事を忘れていた紡が、その姿に見惚れていた。 「勇治さんの攻撃を全部阻止して、あの格好良さ……よし、俺はあの人について行くぜ!」 その瞬間、後ろから頭を軽く叩かれる。 「ふざけた事を言わないように。あとで酷い目に遭う事になるわよ?」 と、いつの間にか来ていた朧が言う。 「う、確かに……」 「お兄ちゃん、大丈夫かな……」 「大丈夫よ。今は、そっとしておいた方が良いけれど」 亜美の頭を撫でながら言う。 そして、勇治はコクピットランサーに乗り込んだまま、歯を噛み締めていた。 次回予告 明日香「勇治君、大丈夫かな?」 飛鳥 「大丈夫だって、勇治だから」 明日香「飛鳥君、今回は流石に冷たいんじゃ……」 飛鳥 「勇治があのまま終わるわけないだろ。俺のライバルなんだから」 明日香「そうだけど……」 次回、CONNECT13.『決断する時』 勇治 「亜美を泣かせる気はない。それが、俺の答えだ」 明日香「次回は勇治君対村瀬将射さん再び!?」 飛鳥 「今のままで勝てないんだから、強くなる必要があるんだよな……。 って、嫌な予感がするのは俺だけか?」 明日香「飛鳥君……」 |
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