漆黒に包まれた地。そこに、ロードの乗るアスティードは連れられた。
 ロードが漆黒の機体を睨みつける。
「テメェ……何なんだ、ここは!?」
『ここは、お前の中に眠る”力”を目覚めさせる為の場所』
 漆黒の機体が剣を手にする。そして、アスティードに突きつけた。
『お前には目覚めてもらう。お前が持つ、その”力”を引き出す為に』
「”力”……!?」
『そう。お前が父親から譲り受けた力』
「父さんの……!?」
 ロードが目を見開く。
「どう言う事だ!? 一体、何を知ってるんだ、テメェは!?」
『話はここまでだ。我は暗黒騎士シュヴァルツ、そして、暗黒機ヴェイルフェイラ
 漆黒の機体――――ヴェイルフェイラの瞳が光る。
『見せてもらうぞ、その力を』






宿命の聖戦
〜THE FINAL LEGEND〜



第二部 平和への継承者

ロード編
序章 父の真実


 ゼルサンス国、軍の作戦会議室。そこに、メルはガリュドスとレイオニスの二人を呼び出した。
 理由は一つ。現れた謎の敵との遭遇と、ロードについて。
「話は分かった。謎の敵については、アルフォリーゼ国にも連絡を取って、調査を行おう」
 レイオニスが答える。
「問題はロード、だったか? 地球人である彼についてだ」
「確かに。まさか、このタイミングで敵に連れ去られるとは……」
「向こうは、ロードさんの”力”を目覚めさせると言っていましたけど……」
 メルの言葉に、ガリュドスが反応する。
「”力”……? まさか、《覇王》の力を目覚めさせると言う事か……!?」
「《覇王》? 《霊王》の間違いではないのか?」
 レイオニスの言葉に、ガリュドスが首を横に振る。
「……その敵が欲しいのは、間違いなく《覇王》の力。《霊王》と《覇王》は光と影のようなもの」
 つまり、《霊王》の力を秘める人間であれば、《覇王》として目覚めさせる事も可能のはず。
 敵の目的は、ロードを《覇王》として目覚めさせ、手駒にする事だろう。
「敵の狙いがそうであれば、取る方法は一つしかない……」
「……あの時のように、元の姿に戻ると言う事か?」
「……ああ。彼――――ロード様が敵になるのであれば、その時は私自らの手で……」
 殺す。その意志を見たメルは、息を呑むだけだった。



 シュヴァルツの乗るヴェイルフェイラの剣がロードのアスティードに襲い掛かる。
「ガイア!」
『了解。霊剣ザンクトゥアーリウム、ファイアスピリット!』
 アスティードが剣を手にし、剣に炎が走る。そして、ヴェイルフェイラの剣を受け止めた。
 シュヴァルツがやや感心する。
『意思を持った機体か。良く操者をサポートしている』
『ロード、ライトニングスピリットに切り替えるぞ』
「ああ! 見せてやるぜ、俺の技を!」
 アスティードの剣に雷が走る。
「雷牙天翔斬!」
 下段に構えた状態から、一気に振り上げる。シュヴァルツは呆気なく受け流した。
『その程度か』
「このっ……!」
 ロードが続けて剣を振るう。シュヴァルツは再度受け止めた。
『お前が持つ技、霊力共に未熟過ぎる。攻撃する際に霊力を意識できていない証拠だ』
「うるせぇ! んな事、言われなくても……!」
 分かっている。今まで自分なりに修業していたが、それでは十分に戦えなかった事も。
 だからこそ、今、こうしてシュヴァルツと戦っても勝てるとは思えない。
 シュヴァルツがロードの攻撃を全て受け止めながら言う。
『お前は何も知らな過ぎる。それでは困るのだ』
「何が困るってんだ!?」
『我を楽しませてみろ。目覚めろ、その”力”に』
「何が力だ! 訳分かんねぇ事ばっか言いやがって――――!?」
 瞬間、ドクン、と強く鼓動が打った。ロードが目を見開く。
「何だ……? 一体、何が……!?」
『……来たか』
 シュヴァルツが呟く。目の前に敵がいるにも関わらず、ロードはその意識を失った。



 ロードが目を覚ますと、見慣れた風景が目の前にあった。
 神崎家――――自宅のリビングだ。
『地球……? 帰って来た……!?』
 いや、違う。そう思ったのは、リビングから見える台所に立つ人影で分かった。
 母だ。それも、自分が知っている母と違って、まだ若い。
『母さん……? いや、でも若過ぎるような……』
 鼻歌交じりで料理をする母。とても嬉しそうだ。
「味はこんな感じ……あとは、帰って来るのを待つだけ」
 そう言って、母がロードの方に振り返り、歩いて来る。が、そのままロードを通り過ぎた。
「もう少ししたら、お父さん帰って来るからね。ロード、美紗」
『――――!?』
 驚く。母が話し掛けているのは、リビングに置いてあるベビーベッドで寝ている赤ん坊だった。
 そこで分かった。ロードは、過去を見ているのだと。
 自分がまだ赤ん坊だった頃の過去。まだ、父が生きていた時間。
「ただいま」
 と、後ろから聞こえて来た声に反応して、ロードが振り返る。そこには、父の姿があった。
 写真でしか見た事がない、会いたくても会えない父。
『父さん……!』
「おかえりなさい、ハヤトさん」
「ただいま。二人はまだ寝てるみたいだな」
 赤ん坊のロードと美紗を見ながら、父――――ハヤトが言う。母であるアリサが頷いた。
「二人とも、今日はたくさん遊びましたから」
「そうか。……ようやく、神崎家の内部も落ち着いてきた。もう少しすれば、もっと一緒の時間は作れると思う」
「はい。二人も喜びます」
『…………』
 父は、母がいつも話してくれた通りの人だった。優しく、家族を大切にする人。
 だからこそ、ロードは思う。なぜ、父は死んでしまったのか。
『どうして、父さんは死んだんだ……ガリュドスが言ってた戦いのせいじゃないなら、どうして……』
 その時、ロードは暗闇に包まれた。



 次に視界がハッキリした時、ロードは目を見開いた。
 突然、ベビーベッドの前から吹き飛ばされたかのように、母がその場に座り込む。
「…………」
『母さん!? 一体、何が……!?』
「アリサ!」
 父が母に駆け寄る。母――――アリサの手を握り、ベビーベッドの方を見る。
「……嘘だろ、こんな事って……!」
 父が歯を噛み締める。そして、母に言った。
「……シュウ兄に連絡してくれ。すぐに、ここに来るように……!」
「ハヤトさん、これって……」
「話はシュウ兄が来てからだ」
 そう言って、ベビーベッドで眠る二人の家族を見る。それは、どこか悲しげだった。

 父が伯父であるシュウハを呼び出してから、三十分も経たなかった。
 そして、父がシュウハに事情を話す。それを聞いたロードは、耳を疑った。
「お前がそう言うなら、間違いはないだろう。二人に、それぞれの王の力が受け継がれてしまった事については」
「……ああ。美紗に《霊王》、ロードに《覇王》の力が宿っている」
『《霊王》、《覇王》……』
 ガリュドスから聞いた話を思い出す。父が終わらせたと言う戦いの事を。
 その事を思い出しながら、父が話す内容に耳を傾ける。
「今は、まだ二人が幼いから抑えておけば良いけど、このままじゃ……」
「美紗とロード、二人によって聖戦が始まると言う事だな?」
「……ああ」
「そんな……」
 父の隣に座っていた母が驚く。
「どうしようもないんですか……?」
「難しいでしょう。受け継がれてしまった以上、宿命を変える方法は……」
「……ある」
 父が言う。そして、立ち上がった。
 ベビーベッドで眠る二人の前に立ち、まずは美紗の前に手を向ける。
「ハヤト、まさか……!?」
「……俺の力なら、《霊王》と《覇王》の宿命を変える事ができる」
「待て、ハヤト――――!?」
 父の手から光が発せられる。その時、父の瞳の色が黄金に変わっていた。
 シュウハが父の腕を掴んで止める。
「待て。その力は……」
「ああ。ヴァトラスがいない状態で使えば、俺の命は削られる」
「そうだ。だからこそ、その力は――――」
「けれど、ヴァトラスがいる状態だと逆に強過ぎる。下手すれば、この子達が死ぬかもしれない。
 それに、今やっておかないと力は強くなって、二人による聖戦を止められなくなる」
「ハヤト!」
「家族で《霊王》と《覇王》のふざけた戦いは、俺の時だけで十分なんだよ!」
 腕を掴む手を振り払い、発せられる光を美紗へ送る。それを見ていたロードは息を呑んだ。
 光が美紗の身体を包み込む。
「《霊王》の力は、いざと言う時……本当に力が必要な時に目覚めるようにする。
 こうする事で、俺から継いだ高い霊力も抑える事ができる」
「……ロードの方はどうする気だ?」
 シュウハが訊く。ハヤトは頷き、今度は。美紗の隣で眠るロードへと手を向ける。
「ロードは……《覇王》は、その在り方を変える」
「在り方……?」
 アリサが首を傾げる。ハヤトはすぐに答えた。
「《覇王》は支配の存在じゃなく、友を――――《霊王》と共に戦う為の存在。
 強大な敵が現れたとしても、二人の王が力を合わせれば、必ず倒す事ができる。それが《覇王》の在り方」
 闇の力で全世界を支配し破滅させる存在から、闇の力で《霊王》と共に強大な敵と戦う存在へ。
 そうする事で、二人の王による聖戦は起こらない。万が一、謎の敵が出現しても、二人の王として戦える。
 光をロードへと送った後、ハヤトの顔が歪み、胸元を手で押さえる。
「ぐっ……」
「ハヤトさん!」
「大丈夫……それに、まだ終わっていない……!」
 そう言って、今度は二人へと手を向ける。
「ロード、美紗……俺はこれから先、父親としてお前達に何もしてやれない。ごめんな……」
 向ける両手から、光が発せられる。
「けれど、お前達にこれだけはできる……もしも、戦いが起きた時の為に必要になる力を、お前達二人に……。
 美紗には、想いによって発動する無限の光を。ロードには、光の鳥の力を……」
 自分の持つ力。それがあれば、戦いが起きた時でも問題は無い。二人に発せられる光が徐々に小さくなる。
 光が消えた瞬間、ハヤトがその場に崩れた。アリサが駆け寄り、後ろから抱き締める。
 胸元を手で押さえつつ、ハヤトは声を出した。
「……シュウ兄、アリサを……ロードと美紗のどちらか一人が当主になるまで……アリサを神崎家当主代理にする……。
 神崎家補佐として……アリサと二人を頼む……」
「……分かった」
「アリサ……」
 後ろから抱き締めるアリサの手を握る。
「アリサ……ごめん、一緒にいるって約束……破って……ごめん……」
「ハヤトさん……」
「美紗……アリサのような素敵な女性になれ……。ロード……大切な人を守れるような男になれ……」
『父さん……』
「……産まれて来てくれて……ありがとう……。お前達は……俺にとって大切な……大……切……な……」
 握る手の力が抜け、そのまま瞳を閉じる。
「ハヤトさん? ハヤトさん……ハヤトさん!」
 アリサの瞳から涙が流れる。全て見ていたロードは目を疑った。
 ハヤト――――父はこの時、死んでしまった。自分達に”光”を与えた事で。
 そして、再びロードの意識は失われた。



『――――ド。ロード、しっかりしろ! ロード!』
「――――!?」
 意識を取り戻す。気づけば、アスティードのコクピットだった。
 自分の名前を呼ぶガイア、目の前に立つ敵の姿がはっきりと見える。
「……ここは……俺は……」
『どうだった? お前が知りたかった、父親の真実は?』
 シュヴァルツが訊いてくる。
『お前が持つ”力”。それは、父親から託された力、それが真実だ』
「…………」
 ロードの瞳から、涙が流れ落ちる。
「……父さんは、俺と美紗に力をくれたせいで……」
『そうだ。お前が持つ運命を変える為に命を落としたのだ』
「俺の……運命……」
 愕然とするロードを前に、シュヴァルツが剣を構える。
『さあ、剣を構えろ。そして目覚めろ、支配の王である《覇王》として』
「……父さん……!」
 歯を噛み締め、流れる涙を止めようと剣を構えるロード。
 それを見たシュヴァルツが、不敵な笑みを浮かべていた。



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