突如現れた光の柱。それをイシュザルトから見ていたセレスティムは目を見開いた。
「あれは……!?」
『霊戦機ヴァトラスの反応を確認』
「ヴァトラス!? まさか、このタイミングで……!」
 聖戦で最も知れ渡る伝説の機体・霊戦機。その中でも、《霊王》が乗る最強の霊戦機。
 同じように見ていたリュート、ソフィアが言葉を漏らす。
「あれが、父さんが言っていた霊戦機……それも、ヴァトラス……」
「本物の霊戦機……凄い、霊力機が霞んで見えるような気になってきちゃった……」
「……ヴァトラスが目覚めたなら、ゼイオも間違いなく……!」
 倒せる。心の中で確信する。






宿命の聖戦
〜THE FINAL LEGEND〜



第二部 平和への継承者

美紗編
序章 力の目覚め


 霊戦機ヴァトラスの名を呼んだ美紗は、まだ頭の中で整理出来ていなかった。
 突然聞こえた声に導かれるまま、その名を呼んだ。
 そして気づけば、見た事も無い場所に座っている自分がいる。
「これって……!?」

 ――――初めまして、新たなる主よ。

 声が聞こえる。頭の中に聞こえて来た声と同じ声。
「え、えっと……?」

 ――――我が名は霊戦機ヴァトラス。主が今乗っている機体の名だ。

「……じゃあ、ここってロボットの中……?」

 ――――そうだ。かつて、主の父も私に乗った。

「お父さんが……」
 まだ信じられなかった。これが、母の言っていた話に出て来た霊戦機。
 父が聖戦と呼ばれる戦いで乗り、平和の為に戦った存在。
 その霊戦機に今、自分が乗っている。
「…………」

 ――――手元にある球体を握れ、主。一先ず、目の前の敵を倒す。

「は、はい……!」
 言われるがままに手元の近くにある球体を握る。ヴァトラスの瞳が光った。
 剣を構え、グルヴァル・ゼイオに斬りかかる。剣がグルヴァル・ゼイオの左肩に傷を入れた。
『グォォォオオオオオオッ!?』
「動いたの? 握っただけなのに……」

 ――――本来ならば、主の意思で操作してもらうのが良いが、今回は我だけで戦おう。

「ち、ちょっと待って! お母さん達がまだ近くに!」

 ――――分かっている。敵を吹き飛ばせば良い。

 ヴァトラスが手をグルヴァル・ゼイオに向ける。

 ――――主よ、霊力を集中せよ。

「え……? む、無理だよ……私、霊力は……」
『グォォォオオオオオオッ!』
 戸惑う美紗の前に、グルヴァル・ゼイオが襲い掛かる。



 イシュザルトのブリッジ。アウィードを無理やり霊力機に乗せたアランは、その光景を見て驚いた。
「ヴァトラス!? まさか、美紗が!?」
 グルヴァル・ゼイオの前に、その姿を現した霊戦機ヴァトラス。まさか、それを美紗が目覚めさせたとは思わなかった。
「……てっきり、ロードの方が選ばれると思ったんだけどな……」
 美紗を見た時、間違いなく母親似だと思った為、ヴァトラスには乗れないと思っていた。
 しかし、流石は《霊王》の血筋だ。ヴァトラスが美紗を選んだのも頷ける。
「けど、初めて霊戦機に乗った状態で、ゼイオは倒せない……!」
 いくら霊戦機とは言え、グルヴァル・ゼイオを倒すには、ある程度戦える操者でなければならない。
 一度も霊力機にすら乗った事のない美紗が、ヴァトラスの操縦を出来る訳がない。
「……《霊王》の力が目覚めれば良いが、確率は……」
 低い。だからこそ思う。かつての霊戦機操者がこの場にいれば、と。



「あれが霊戦機ヴァトラス……!」
「映像で見るのと違って、本物は全然違うわね……神々しいって言うか……」
「まさに、神が創りし存在か……」
 グルヴァル・ゼイオを追ったディーバ、フローレンス、アウルの三人が息を呑んだ。
 全世界を救いし存在である霊戦機。今まで、映像等で何度か見た事はあったが、本物は映像等とは違った。
 あれを元に開発された霊力機が、とても小さな存在に思える。
「乗っているのは、アラン様が連れて来た地球人か?」
「そうじゃないの? 確か、《霊王》だけは血筋なのよね?」
「そうだ。そう、アラン様は言っていたな。レイザ、霊力等で分かるか?」
『登録データに該当者なし。ディーバの言うとおり、地球人かと』
『同じく。どうしますか、ディーバ?』
 目の前のコンピュータ――――イーヴァが訊いてくる。ディーバは頷いた。
「どれだけの強さか知らないが、こっちはこっちで攻撃するだけだ」
「傷一つ与えられないのに?」
「当然だ。街中でゼイオを暴れさせる訳にはいかない」
「了解。だってさ、リィナル」
『了解。セレスアリサはグラシエルブラストを最大出力で発射準備します』
「レイザ、こっちも同じくグラシエルブラストだ」
『了解、アウル! こちらも最大出力で準備する!』



 グルヴァル・ゼイオの一撃がヴァトラスを襲う。ヴァトラスは辛うじて耐えた。
 コクピットの中で、美紗が悲鳴を上げる。
「……攻撃……!?」

 ――――無事か、主よ?

「う、うん……えっと、ヴァトラスは……?」

 ――――我は問題無い。気にせず、霊力を集中するが良い。

「む、無理だよ……私、霊力の扱い方とか何も……」
 何も知らない。分かっているのは、自分が持つ霊力は父譲りだと言う程度。
 美紗の言葉に、ヴァトラスが低い唸りを上げて語り掛ける。

 ――――問題無い。主が守りたいと言う想いがあれば。

「想い……?」

 ――――そうだ。守りたいと想う事が出来るならば、自ずと霊力も集中できる。

「…………」
『グォォォオオオオオオッ!』
「――――!?」
 グルヴァル・ゼイオがその腕を振り下ろす。ヴァトラスが剣で受け止めた。
 目の前で起こる激突。美紗は目を逸らした。
 これが、母達が言っていた戦い。正直、恐怖で一杯だった。
「……無理だよ、私には……お父さん……」
 父のように戦えない。こう言うのは、ロードの方が性に合っている。
 グルヴァル・ゼイオにヴァトラスが押される。その時、美紗には見えた。
 ヴァトラスの後ろに見える母の姿が。逃げるたくさんの人々の姿が。
「お母さん……! それに、たくさんの人が……」
 このままヴァトラスが倒れたら、後ろにいる人間は皆巻き込まれる。
 手元の球体を強く握り、そして唇を強く噛み締めて、美紗は目の前の敵を見た。
「……怖いけど、後ろにはお母さん達がいる……皆を守らないと……!」
 どうすれば良いのか分からない。しかし、自分が守らなければ、母達が危ない。
「お願い……お父さん、私に勇気を……お母さんを、皆を守りたいの……!」

 ――――その想い、しかと聞いたぞ。

「え――――!?」
 ヴァトラスを中心に、光の柱が再び空へと昇る。グルヴァル・ゼイオが吹き飛ばされた。
 ヴァトラスの胸に、そして美紗の額に称号が浮かび上がる。《霊王》の称号が。
「これ……!?」

 ――――これが、解放。主の父より、主に継がれた《霊王》の力。

「《霊王》……お父さんの力……」
 ヴァトラスが高々と唸りを上げる。剣を構え、吹き飛ばしたグルヴァル・ゼイオへと剣先を向けた。

 ――――集中せよ、主。主が守りたいと言う想いにて、あの敵を倒す。

「……うん!」
 美紗が頷く。彼女の中で眠っていた《霊王》の力が、ここに目覚めた瞬間だった。



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