「……皇綾華です。……まだ……ですけど……しますね。えーと……」
「……ウヤ……トウヤってば……。初日から居眠りは不味いよぉ。おーい……」
 担任の挨拶中、彼は机に突っ伏したまま眠りについていた。
 隣の席に座る友人が彼を起こそうと呼びかけるが、反応が全く無い。
「…………」
 担任が彼に気づく。
「……ちょ、ちょっと、トウヤ! ヤバイぞぉ〜」
 必死に呼びかけるが、やはり反応が無い。担任がコツコツと歩き始める。
 友人は溜め息をついた。
「先生、こっちに来てるよ……。ねぇ、トウヤって……僕、知〜らないっと……」
 まぁ、人は眠りにつくとあまり起きないからね、と言いたげに、友人は他人の振りをした。
 担任が前屈みで彼の寝顔を見る。そして、静かに呟いた。
「……やっと見つけた」
「……?」
 薄っすらと目を開ける。何気なく視線をやった先には、胸の谷間があった。
「――――!?」
 慌てて視線を逸らそうとしたのだが、体勢を崩し、椅子ごとひっくり返る。
 教室に響き渡る豪快な音。担任が彼の顔を覗き、可笑しそうな笑顔を見せる。
「おはよう。風見透夜君」
「え……? あっ、お、おはよう……ございます……」
 そう言った直後、出席簿で叩かれる。クラス中から笑い声が聞こえた。
 隣に座る友人がうんうんと頷く。
「出席簿は意外と脳に来るからねぇ……」
「風見君、先生が目の覚める良い方法を教えてあげよっか?」
「は、はぁ……」
 とりあえずその場を立ち上がるトウヤ。担任が廊下の方へ指を差す。
「廊下に立つ」
「はぁ? 小学生じゃあるまいし……」
「それじゃ、もう一回いく?」
 出席簿をくるりと90度回転させる。
「せ、先生、”縦”は危険です……」
「……立っときます」
 ここで愚痴れば、間違いなく今度は”縦”で叩かれる為、トウヤは素直に従った。
 廊下へ向かうトウヤに対し、担任がもう一言加える。
「あっ、バケツもね」
「…………」
 肩を落とすトウヤだった。

 4月8日、金曜日。
 その日が日常の終わりだと、トウヤはまだ気づいていなかった……





聖霊機ライブレード正伝 君の想いが俺に届くまで・・・ 第0話 全てのはじまり

 放課後。隣の席に座る友人・西園寺晃一郎と一緒に下校する。 「いやぁ〜、新学期早々やってくれるよね。あぁ〜、もしかしてあの先生の気を惹こうとしてたとか?」 「……ンなんじゃねぇよ」  ややぶっきら棒に答えるトウヤ。晃一郎がニタニタと笑う。 「まぁ、トウヤにはカスミちゃんがいるもんね。同じ歳、家は隣、幼なじみ……う〜ん、完璧じゃない」 「……だから、何度言ったら分かるんだ?  あいつとは幼なじみだが、付き合ってるとかそう言う関係じゃねぇよ」 「またまたぁ〜。でも、そう言うクールなところがまた良いんだよね〜」  そんな事を言っている晃一郎だが、本心は「……やっぱり鈍いなぁ、トウヤは」である。  晃一郎の言葉に、トウヤはムッとなった。 「悪かったな、暗くて」 「もぉ! そんな事一言も言ってないだろ? ご両親の事は気の毒だったけど、そろそろ……」 「…………」  両親。その言葉に、トウヤの表情が曇った。  晃一郎はそんなトウヤの顔を見て、あっと思い出す。 「あ、ご、ごめん……」  忘れていた。そんな感じだった。  そんな時、眼鏡をかけた女生徒が廊下の向こうから近づき、彼らに気づく。  蘇芳佳澄美。晃一郎が先ほど言っていたトウヤの幼なじみだ。  晃一郎が「噂をすれば」と彼女の方へ振り向く。 「カスミちゃんも今帰り?」 「ううん。これから部活」 「そっかぁ、それは残念。明後日の『ダブルデート大作戦』の打ち合わせをしようと思ってたのに」  晃一郎が残念そうな顔をして言う。  カスミは頬を朱色に染めて、目を見開いていた。 「だ、ダブルデートって……」 『照れる事ないだろ? 千尋ちゃんもその為にセッティングしたようなものなんだから』 『でも……こう言うのは自然に……』 『あのトウヤが自然に気づくと思う?』  小声で会話する二人。トウヤが気づくか気づかないかと言えば、もちろん答えは後者だ。  あの鈍感が自然に気づけば、それだけで天変地異でも起こってしまう。 『でしょ?』と晃一郎が訊くと、カスミは黙り込んだままだった。 「……おい、何コソコソ話してんだ?」 「別に何でもないよ」  首を傾げるトウヤに、晃一郎がさらっと言葉を返す。 「そ、そう言えば朝、トウヤちゃんのクラスから笑い声が聞こえたけど……」 「あっ、そうそう! 今日ね、トウヤったら朝からやってくれたんだよ」  二人の会話に、トウヤは思い出したくない光景を思い出した。  そっぽを向け、ムッとした表情で晃一郎に言う。 「……先、行ってるぞ」 「あっ、トウヤちゃん……」 「え? おーい、トウヤ〜」  晃一郎の呼びかけを無視するトウヤ。そのまま歩き去っていく。 「ごめん、この話はまた今度。それじゃ!」 「う、うん……」  カスミに手を振り、晃一郎が後を追いかける。  下駄箱で靴を履き替え、追いついた晃一郎を無視したまま歩く。  晃一郎はそんなトウヤの周りを動き回る。 「もう〜。そんなに拗ねなくても良いだろぉ〜」 「あーっ、うっとうしい! まとわりつくな!」 「そうそう。感情は表に出した方が良いよ。内に秘めるとロクな事考えないからね」  にこやかな笑顔を崩さない晃一郎に対し、トウヤがどこか白い目で彼に言う。 「……お前、変わったよな」 「そうだよ。トウヤとカスミちゃんが変えてくれたんだ。  だから、今度は僕がトウヤを変えてあげる番なのさ。僕の愛の力で!」 「いらん」  そう言ってすぐに歩き出す。とっさに晃一郎は肩を掴んだ。 「まぁ、そう言わずにさ……。あっ、そうだ。今日さ、これから……」  ―――― 「――――!?」  突然耳に入った妙な音。トウヤが空を見上げる。 「どうかした?」  晃一郎も空を見上げる。それは、日常の終わりを告げる光景だった。  それは空に浮かぶ二つの点であった。  しかし、見つめているうちにだんだんはっきりとしてきた。  落ちてくる白銀のロボットと、それを追う黒く塗装された翼のようなものを持つロボット。  白銀のロボットのほうが先に学校の校庭に落ち、そして、その直後に黒いのロボットが着陸する。  二体のロボットは、互いに剣を構え対峙した。 「ろ、ロボットぉ!? こ、晃一郎、とにかくここを離れ……」 「と、トウヤ、ロボットだよ、ロボット! 感動だなぁ……巨大ロボットだよぉ!」  満面の笑顔を見せる晃一郎を見て、トウヤは肩を落とした。  そう言えば、晃一郎はロボットマニアだった。確かに、目の前でこんな光景を見れば、嬉しいはずだ。  晃一郎が目を輝かせる。 「そうか! ついに人類は巨大ロボットを完成させたんだ!」 「いや、それはない」  あっさりと言葉を返す。 「く、クールだね……。でも、目の前に……」 「確かに目の前にいるが、これは何かの間違いだ。そんな事より、逃げるぞ!」  晃一郎の肩を掴む。「えぇ〜」と晃一郎は嫌がった。  まだ巨大ロボットをこの目で拝んでおきたい。トウヤは肩を掴む手に力を入れた。 「死にてぇのか!? さっさと来い!」 「い、痛いって……分かったよぉ……」  落ち込みつつ、晃一郎が頷く。その時、白銀のロボットが動いた。黒いロボットも反応する。  二体のロボットは数合打ち合う。黒いロボットの放つ一撃を捌きそこね、白銀のロボットが倒れた。  倒れた拍子に、白銀のロボットの胸のあたりにあるハッチが開き、一人の少女が飛び出す。 「ぐぉ!?」  見事トウヤに命中する少女。そのまま倒れ、少女がトウヤに馬乗りになる形だ。  頭を抑えつつ、少女が泣きそうな顔をする。 「いったぁーい……」 「……あぁ、目の前にロボットがぁ……。これは天佑? 僕に乗って戦えと言う大宇宙の意志!?」  トウヤの事などお構いなしに、晃一郎は目の前に倒れた白銀のロボットを見て興奮する。 「ふふ、ふふふふふふ……」 「ちょっと、あんた! 何する気!?」  ロボットに近づき、ハッチの開いている部分に手を伸ばして登る晃一郎。  少女はそんな彼を見て怒鳴った。 「……おい」 「あっ、こんなところに良い石が」 「……おい」 「よーし、えい!」  自分が下敷きにしている人物の言葉など聞こえていないのか、少女は手頃な石を晃一郎に投げる。 「うごっ!?」  石が見事直撃し、晃一郎が大地に落ちる。 「うぅっ……。む、無念……」 「よしっ!」 「……おい、人の上に乗ったまま、何ガッツポーズとってやがんだ?」 「え!? あ、ああ、ごめん!」  少女が慌てて離れる。トウヤは起き上がると、晃一郎の元まで歩いた。  肩を持ち上げ、引きずる。 「ったく、大体お前は……――――!?」  上を見ると、黒いロボットがそこまで来ていた。トウヤは目を見開いたまま唖然とする。  そして衝撃が起こり、白煙が辺りを包む。  地面の破片が頬をかすめ、一筋の切り口から、血が少しだけ流れた。 「痛っ……一体何がどーなって……!?」  白煙が消え、手に晃一郎の肩を持っていた感触が無い事に気づく。 「こ、晃一郎!? どこ行ったんだ!? まさか、さっきので……」  そう言えば、あの女の子もいない。トウヤは額に汗を浮かべた。  黒いロボットが迫る。 「くっ、このままじゃ……」  浮かび上がる光景。辺り一面が炎の包まれた光景が脳裏に浮かび上がる。  トウヤは歯を噛み締め、黒いロボットを睨みつけた。 「……もう、あんな事は……! 大切な人を失うのはごめんだ!」  大地に倒れこんでいる白銀のロボットのハッチまで駆け込む。そして乗り込んだ。  少し躊躇ったが、ここまで来たらどうにでもなれと言った感じだ。  ハッチからコクピットだと思われる場所に乗り込み、シートに座る。  しかし、当然、何も分からなかった。 「ど、どうやって動くんだ!? 動け、動いてくれよ!」  トウヤの言葉に、白銀のロボットが応えたのか、シートの両脇にある赤い球体が光り出した。 「こいつに触るのか……よし」  赤い球体に手を置く。ハッチを閉じ、白銀のロボットが立ち上がった。  大地に突き刺さる剣を手に、黒いロボットを前に構える。 「立ち上がった……!? 何で分かるんだ? ……映像が頭に直接送られてる……?」  まるで、自分の視界がロボットの視界になっているようだった。  トウヤが右手に力を加えると、ロボットが反応し、剣を振り落とす。 「動いた……。こいつ、頭で考えるだけで動くのか? それだったら……!」  白銀のロボットが剣を持って黒いロボットへ立ち向かう。  黒いロボットが一瞬で白銀のロボットを薙ぎ倒し、再び大地へ平伏す。  衝撃が伝わる。トウヤは球体に力を加えて、白銀のロボットを立ち上がらせた。 「この……!」  白銀のロボットがトウヤの意思で動き、剣を振り落とす。見事、黒いロボットに一撃を与えた。  否、受け止められていた。それほどまでに、黒いロボットは強かった。 「くっ……やべぇ……!」  黒いロボットが翼のようなものを白銀のロボットへ向ける。  光の粒子が集まり、放たれた。 「うわぁぁぁぁぁぁっ!」  そこで、トウヤの記憶は途切れた――――                                       to be continued...



 第1話 日常との別れ

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