夏休みも終わりに近づいてきたこの日、飛鳥はショップで明日香と待ち合わせをしていた。 「お待たせ。遅くなってごめんね」 「いや、俺も今来たところだよ。亜美ちゃんは?」 「亜美ちゃんは、『今日は夏休みの宿題やるんで行けないです』って……」 「……勇治と同じか。やっぱ、兄妹だな……」 似ているところは似ている。そう飛鳥は思った。 「ま、良いか。今日はバトルしに来たわけでもないし」 「え? じゃあ、今日はどうしてショップに行こうって言ったの?」 「今日は、SRランクアップのかかったトーナメント戦だからだよ」 飛鳥は店頭のあるポスターに指を差して答える。 SRランク・トーナメント。その名の通り、SRランクへのランクアップできるトーナメント戦。 SランクのコネクターがSRランクへとなるには、このトーナメントに出る事が絶対である。 「3ヶ月に1度しかないし、どんな奴がSRになるのか見たいんだ」 「へぇ……。じゃあ、今日はそれを見るんだね?」 「うん。バトルが見れる喫茶店にでも行ってのんびりとね」 ショップ内の喫茶店。やや人が多い。 適当な場所を見つけ、そこに腰掛ける。 「少し遅かったかな。どのトーナメントも1回戦が終わってる」 「でも、結構トーナメント戦って凄いんだね」 「SRは最高位ランクだからね。でも、それに見合うほど、厳しいランクでもあるけど」 敗北した瞬間、使用していたドライヴの使用禁止とEランクへ有無を言わずランクダウンされる。 それが、SRの恐ろしさでもある。つくづく、自分達は生き残れてるよな、と飛鳥は思った。 トーナメントの2回戦目が始まろうとする時、「あ、ソード・マスターだ!」と言われ、飛鳥が肩を落とす。 「……誰だよ、ワザと人の事ばらしてるのは……」 「あっははー、冗談冗談。B組の蓮杖君、こんな所で何してんの?」 「B組とはいちいち言うな」とぼやきつつ、飛鳥が彼女に答える。『チーム・アレス』のリーダー・大滝美里だ。 そして、そのチームメンバーである姫里と千里の二人。しかし、肝心の主戦力がいない。 「……あれ? 黒石さんは?」 「聞いてない? 曜、今日のトーナメント戦に出てるよ」 「出てるって……SRの!?」 「うん。『蓮杖君ともう一度バトルがしたい』って言ってたし」 そうミ美里が言うと、なぜか明日香の機嫌が悪くなった。 やや唖然としつつ、飛鳥が言う。 「SR受けてるんだ、黒石さん。ま、競争率高いから、どうなるかは分からないけど」 「あ、それ酷いんじゃない!? 曜はうちの主戦力よ!?」 「その主戦力がバトルする相手は、皆同じかそれ以上の実力者だけど?」 「う……」と美里が言葉を詰まらせる。確かにそうなのだ。 トーナメント戦に出てくるのは、皆同じ強さかそれ以上の強さなのは当然の事。 だからこそ、Sランクのままでいる奴らが多い。 「ま、なんとなくだけど、黒石さんはSRに上がれそうな気がする」 「でしょ!? なんせ、曜は努力家なんだし、こう言う時の曜は強いw――――」 大爆発音が響く。飛鳥はモニターを凝視した。 バトル・フィールドが煙に包まれて、何も見えなくなっている。 すぐに席を立ち上がって、近くのコンピュータに向かう。 「乱入……しかも、乱入したのはEランク!? 相手はSR候補だぞ!?」 コンピュータに接続して、状況を確認する。その時、ドライヴが強い反応を示した。 いや、レガリアが共鳴している。画面にファルシオンセイバーが表示され、超音波のような音を出している。 「ファルシオンが反応している……まさか……!?」 バトル・フィールドの爆煙が消え、乱入したドライヴの全貌が明らかになる。 燃え盛る炎のような赤い装甲。左腕に盾を装備しており、右手には横幅のやや広い刀身の剣があった。 背中に見える長い槍を見て飛鳥は目を見開く。 「あれはダーク=レガリア! 奴らが動き出したのか……!?」 2回戦を行っていた『チーム・アレス』のメンバーである曜は、突如乱入を仕掛けてきた相手に身構えた。 自分とバトルをしていたドライヴは、すでに機能を失っている。 赤熱の装甲のドライヴ。とてつもない殺意を感じながら、ブラックダイヤモンドが刀を振るった。 「飛燕・裂十字!」 放たれる十字の真空刃。刹那、一瞬で消された。 曜が目を見開く。赤熱のドライヴが襲い掛かってきた。 刀身が漆黒の剣が振り落とされる。ブラックダイヤモンドは刀で受け止めたが、その一撃に耐えられず砕けた。 「久遠が……!?」 『フレイムヴァイパァァァッ!』 赤熱のドライヴが左腕のシールドを取り外す。火炎放射器のようなものが姿を見せた。 炎が鞭状に放出され、ブラックダイヤモンドの持つもう一本の刀を破壊する。 『熱月ゥゥゥッ!』 そして、剣による素早い斬撃が繰り出された。曜は全感覚を加速させ、見切ろうとした。 刹那、斬撃の動きは早く、ブラックダイヤモンドの左腕が両断される。 「あああっ……!?」 ブラックダイヤモンドが大地に倒れる。赤熱のドライヴはそのまま剣を振り上げた。 炎が剣に纏われる。そして、振り落とされた。 『灼熱の終焉ッ!』 「ミラージュ・ブレイドッ!」 瞬間、一体のドライヴが炎の剣を受け止める。赤熱のドライヴに乗る彼は目を見開いた。 鮮やかな青い装甲。『ソード・マスター』の証である剣。 そのドライヴ――――セルハーツに乗る飛鳥は、軽く息を吐いた。 「……大丈夫、黒石さん?」 「は、はい……蓮杖君、あのドライヴは……!?」 「あのドライヴは……いや、あいつは――――」 『……蓮杖……! 蓮杖! 蓮杖飛鳥ぁぁぁぁぁぁっ!』 突然の咆哮。飛鳥は「やはり」と舌打ちした。 相手との距離を取り、曜に説明する。 「……あのドライヴは『灼熱のレーヴァティン』。あいつ――――紫電は、『ダーク・フォース』だ!」 セルハーツがレーヴァティンと呼んだドライヴと激突する。 互いの剣が強い反応を示し、反発しあう。レーヴァティンが背中の槍を手にした。 剣を纏う炎がさらに強くなる。飛鳥は集中力を上げ、瞳を鋭くする。 『熱月ッ!』 「フラッシングソードッ!」 両者の斬撃が繰り広げられる。曜は感嘆とした。 常戦無敗の『ソード・マスター』と互角を張る敵。そして、飛鳥の実力の深さ。 圧倒的にまだ弱いと痛感されるようなものだった。まだ、飛鳥は自分との戦いでかなりの余裕を持っていた。 ブラックダイヤモンドは主武装である二本の刀を失い、もう戦う事もできない。 「……SRになるのは、まだ早過ぎますね」 『――――そうよ。あなたじゃ、飛鳥を倒せるわけないの』 「――――!?」 目の前で起きている戦いを前に呟いた時、後ろからブラックダイヤモンドの腹部に何かが刺さった。 「エアブレードッ!」 『フレイムヴァイパァァァッ!』 両者の技と技が炸裂し、激しいぶつかり合いが続く。飛鳥は舌打ちした。 強い。以前戦った時とは、全く比べ物にならないほどに。 流石は、『ソード・マスター』の座に一番近いコネクターと呼ばれた奴だ。 『灼熱の終焉ッ!』 「ミラージュ・ブレイドッ!」 再び剣同士がぶつかり、激しい音が響き渡る。 その時、空からレーザーの雨が降り注がれた。飛鳥がそれに気づき、目を鋭くする。 『鷹の瞳』でレーザーの流れを見切り、全て避ける。それは、まさに神業だった。 レーザーを全て避けた後、剣を構え直し、飛鳥が仕掛けた。 『そこまでよ、飛鳥。動けば、この子が死ぬだけ』 「――――!?」 攻撃を止め、レーヴァティンとの距離を取る。そして、すぐに声のした方向を見た。 セルハーツに似た青い装甲の女性型ドライヴ。右に持つ剣でブラックダイヤモンドの腹部を刺している。 飛鳥はそのドライヴを見て、静かに口を開いた。 「……ハデスハーツ……まさか、明日奈なのか……!?」 『そうよ。久しぶりね、飛鳥』 「……嘘だろ……? お前が……明日奈、お前が……ダーク・コネクターだなんて……!?」 『本当よ。私はダーク・コネクター幹部の一人、アイス・ドール』 ハデスハーツが左に持つ剣をブラックダイヤモンドの首元に向ける。 『動いたら、この子を殺すわ』 「……くっ、明日奈!」 『蓮杖ぉぉぉっ!』 後ろからレーヴァティンが襲い掛かる。飛鳥は舌打ちした。 振り落とされる剣を受け止めてレーヴァティンを吹き飛ばし、ハデスハーツの方を睨む。 「明日奈! 彼女を放せ!」 『それはできないわ。だって、あなたは私を好きじゃないから』 「え……?」 『答えて、飛鳥。私の事、好き? 明日香よりも好き?』 「…………」 答えられない。それが、飛鳥の答えだった。明日奈が「そう」と呟く。 『私の事、嫌いみたいね』 「違う! そんなんじゃない! ただ……」 『ただ? 何?』 「…………」 『明日香の事が好きだから、私は嫌いなんでしょ、飛鳥?』 「それは……」 『どうして明日香なの? どうして私じゃ駄目なの!?』 ハデスハーツがブラックダイヤモンドの腹部に突き刺していた剣を引き抜く。そして、構えた。 クリスタルのように美しい赤い刀身から、炎が伸びる。 『私は……私はこんなに飛鳥が好きなのに! 大好きなのに! どうして明日香を選ぶの!?』 鞭のように伸びた炎が振り落とされる。同時に、レーヴァティンも動いた。 飛鳥が瞳を鋭くし、二体の動きを見切る。瞬間、一筋のビームがハデスハーツを襲う。 明日奈はそれを上手く避け、攻撃してきた相手を睨んだ。 両肩にゴッドランチャー、腰にビーム砲を持ったドライヴ。それは紛れもなくローズウェルと言うドライヴだ。 「大滝……!? って、また何か異様に重そうなドライヴだな」 「これぞ、ローズウェル・ブラストカスタム! そりゃもう、火力なら負ける気ないわよ!」 「でも、重いだろう、その武装は……」 「それを言ったら元も子もないわよ、それ言ったら……。って、そうじゃないでしょ!」 ローズウェルがビームセイバーをブラックダイヤモンドへ投げる。 「曜、それ使って一気に片付けなさい!」 「……はい、ありがとう美里さん!」 ブラックダイヤモンドがハデスハーツへとビームセイバーを構える。 その姿を見て、明日奈は左手の剣を肩上に構えた。 クリスタルのような青い刀身から霧が発生し、二体の周りだけ覆う。 「一閃!」 曜は構わずビームセイバーを振るう。しかし、その先には何もなかった。 後ろからハデスハーツが姿を見せ、青い刀身の剣を振るう。ブラックダイヤモンドが瞬時に凍りついた。 「え……!?」 『弱いわね、あなた。こんなんじゃ、SRなんて絶対に無理よ』 冷たい言葉を吐きつつ、さらに赤い刀身の剣を振るう。凍ったブラックダイヤモンドが、今度は燃え上がる。 そして、再び青い刀身の剣で凍らせ、赤い刀身の剣で燃え上がらせる。その繰り返しによる斬撃が続く。 ブラックダイヤモンドの装甲は破壊され、その原型を失っていった。 「ああああああ!?」 『ハルバード・ヴェルジュ。自分の弱さを思い知りなさい』 美里との馬鹿げたやり取りを終えた瞬間、レーヴァティンが襲い掛かる。飛鳥は「しつこい!」と応戦した。 ぶつかり合う剣が、響きのいい音を出す。その時、ブラックダイヤモンドの反応が消えたのに気づいた。 「――――黒石さん!?」 『蓮杖飛鳥ぁぁぁああああああっ!』 レーヴァティンが剣に灼熱の炎を巻きつかせる。飛鳥は剣を大きく振り上げた。 「人の名前ばっか叫んでうるさいんだよ、テメェはぁ!」 ファルシオンセイバーが眩い光を放つ。 「輝凰! 斬・王・陣ッ!」 大地に突き刺す。ファルシオンセイバーにエネルギーが込められ、それが大地へと放出された。 セルハーツの周囲から無数の光の波動が大地から天空へと放たれ、レーヴァティンの全身を打ち抜いていく。 先代『ソード・マスター』に教わった必殺技。セルハーツが続けてゴッドランチャーを構えた。 レーヴァティンへと砲身を向ける。その時、大地が割れた。 割れた大地から、姿を見せる新たなドライヴ。巨大な剣が目立っていた。 「な!? 今度は”全てを悟りし者”ガルノアだと!?」 『……安心しろ、私は戦いに来たのではない』 巨大な剣を持つドライヴがレーヴァティンの方へ視線を向ける。 『撤退の命令です、アサシン・ブレード。そして、アイス・ドール』 『撤退だと!? ふざけるな!』 『撤退です。まだ、あなたはダーク=レガリアの力を完全に引き出されていない。 このままでは、あなたはソード・マスターに負けるでしょう』 『……チッ。仕方ねぇ!』 レーヴァティンが姿を消す。 『ソード・マスター、一つだけ忠告しよう。今のアサシン・ブレードは、お前よりも強い』 「……何だと? どう言う事だ!?」 『言った通りだ。少なくとも、ファルシオンセイバーの真の姿を見せない限りは、勝ち目などないだろう』 姿を消す。そして、明日奈もそれに続いた。 飛鳥が「待て!」と叫ぶ。さっきまでとは違い、落ち着いた口調で明日奈が言う。 『飛鳥、私だけを見て。私だけを愛して……』 「明日奈……」 『あなたが好きよ。明日香よりも、誰よりもあなたが好きよ、飛鳥……』 ハデスハーツが姿を消す。飛鳥は自分の情けなさに痛感した。 そして、今回のSRランクアップ・トーナメント戦は、『ダーク・コネクター』の乱入で無効となった。 次回予告 飛鳥です。 紫電が現れ、厄介な事になった。しかも、敵には明日奈もいる。 黒石さんのドライヴの事もあるし、あの人に相談に乗ってもらうか……。 次回、CONNECT15.『ソード・マスター候補だった二人』 ドライヴ・コネクト! 今回は俺だけでどうにかできそうにない、かな……。 |
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