CONNECT14.『灼熱と狂気の剣』


 夏休みも終わりに近づいてきたこの日、飛鳥はショップで明日香と待ち合わせをしていた。
「お待たせ。遅くなってごめんね」
「いや、俺も今来たところだよ。亜美ちゃんは?」
「亜美ちゃんは、『今日は夏休みの宿題やるんで行けないです』って……」
「……勇治と同じか。やっぱ、兄妹だな……」
 似ているところは似ている。そう飛鳥は思った。
「ま、良いか。今日はバトルしに来たわけでもないし」
「え? じゃあ、今日はどうしてショップに行こうって言ったの?」
「今日は、SRランクアップのかかったトーナメント戦だからだよ」
 飛鳥は店頭のあるポスターに指を差して答える。
 SRランク・トーナメント。その名の通り、SRランクへのランクアップできるトーナメント戦。
 SランクのコネクターがSRランクへとなるには、このトーナメントに出る事が絶対である。
「3ヶ月に1度しかないし、どんな奴がSRになるのか見たいんだ」
「へぇ……。じゃあ、今日はそれを見るんだね?」
「うん。バトルが見れる喫茶店にでも行ってのんびりとね」



 ショップ内の喫茶店。やや人が多い。
 適当な場所を見つけ、そこに腰掛ける。
「少し遅かったかな。どのトーナメントも1回戦が終わってる」
「でも、結構トーナメント戦って凄いんだね」
「SRは最高位ランクだからね。でも、それに見合うほど、厳しいランクでもあるけど」
 敗北した瞬間、使用していたドライヴの使用禁止とEランクへ有無を言わずランクダウンされる。
 それが、SRの恐ろしさでもある。つくづく、自分達は生き残れてるよな、と飛鳥は思った。
 トーナメントの2回戦目が始まろうとする時、「あ、ソード・マスターだ!」と言われ、飛鳥が肩を落とす。
「……誰だよ、ワザと人の事ばらしてるのは……」
「あっははー、冗談冗談。B組の蓮杖君、こんな所で何してんの?」
「B組とはいちいち言うな」とぼやきつつ、飛鳥が彼女に答える。『チーム・アレス』のリーダー・大滝美里だ。
 そして、そのチームメンバーである姫里と千里の二人。しかし、肝心の主戦力がいない。
「……あれ? 黒石さんは?」
「聞いてない? 曜、今日のトーナメント戦に出てるよ」
「出てるって……SRの!?」
「うん。『蓮杖君ともう一度バトルがしたい』って言ってたし」
 そうミ美里が言うと、なぜか明日香の機嫌が悪くなった
 やや唖然としつつ、飛鳥が言う。
「SR受けてるんだ、黒石さん。ま、競争率高いから、どうなるかは分からないけど」
「あ、それ酷いんじゃない!? 曜はうちの主戦力よ!?」
「その主戦力がバトルする相手は、皆同じかそれ以上の実力者だけど?」
「う……」と美里が言葉を詰まらせる。確かにそうなのだ。
 トーナメント戦に出てくるのは、皆同じ強さかそれ以上の強さなのは当然の事。
 だからこそ、Sランクのままでいる奴らが多い。
「ま、なんとなくだけど、黒石さんはSRに上がれそうな気がする」
「でしょ!? なんせ、曜は努力家なんだし、こう言う時の曜は強いw――――」
 大爆発音が響く。飛鳥はモニターを凝視した。
 バトル・フィールドが煙に包まれて、何も見えなくなっている。
 すぐに席を立ち上がって、近くのコンピュータに向かう。
「乱入……しかも、乱入したのはEランク!? 相手はSR候補だぞ!?」
 コンピュータに接続して、状況を確認する。その時、ドライヴが強い反応を示した。
 いや、レガリアが共鳴している。画面にファルシオンセイバーが表示され、超音波のような音を出している。
「ファルシオンが反応している……まさか……!?」
 バトル・フィールドの爆煙が消え、乱入したドライヴの全貌が明らかになる。
 燃え盛る炎のような赤い装甲。左腕に盾を装備しており、右手には横幅のやや広い刀身の剣があった。
 背中に見える長い槍を見て飛鳥は目を見開く。
「あれはダーク=レガリア! 奴らが動き出したのか……!?」



 2回戦を行っていた『チーム・アレス』のメンバーである曜は、突如乱入を仕掛けてきた相手に身構えた。
 自分とバトルをしていたドライヴは、すでに機能を失っている。
 赤熱の装甲のドライヴ。とてつもない殺意を感じながら、ブラックダイヤモンドが刀を振るった。
「飛燕・裂十字!」
 放たれる十字の真空刃。刹那、一瞬で消された。
 曜が目を見開く。赤熱のドライヴが襲い掛かってきた。
 刀身が漆黒の剣が振り落とされる。ブラックダイヤモンドは刀で受け止めたが、その一撃に耐えられず砕けた。
「久遠が……!?」
『フレイムヴァイパァァァッ!』
 赤熱のドライヴが左腕のシールドを取り外す。火炎放射器のようなものが姿を見せた。
 炎が鞭状に放出され、ブラックダイヤモンドの持つもう一本の刀を破壊する。
『熱月ゥゥゥッ!』
 そして、剣による素早い斬撃が繰り出された。曜は全感覚を加速させ、見切ろうとした。
 刹那、斬撃の動きは早く、ブラックダイヤモンドの左腕が両断される。
「あああっ……!?」
 ブラックダイヤモンドが大地に倒れる。赤熱のドライヴはそのまま剣を振り上げた。
 炎が剣に纏われる。そして、振り落とされた。
『灼熱の終焉ッ!』
「ミラージュ・ブレイドッ!」
 瞬間、一体のドライヴが炎の剣を受け止める。赤熱のドライヴに乗る彼は目を見開いた。
 鮮やかな青い装甲。『ソード・マスター』の証である剣。
 そのドライヴ――――セルハーツに乗る飛鳥は、軽く息を吐いた。
「……大丈夫、黒石さん?」
「は、はい……蓮杖君、あのドライヴは……!?」
「あのドライヴは……いや、あいつは――――」
『……蓮杖……! 蓮杖! 蓮杖飛鳥ぁぁぁぁぁぁっ!』
 突然の咆哮。飛鳥は「やはり」と舌打ちした。
 相手との距離を取り、曜に説明する。
「……あのドライヴは『灼熱のレーヴァティン』。あいつ――――紫電は、『ダーク・フォース』だ!」
 セルハーツがレーヴァティンと呼んだドライヴと激突する。
 互いの剣が強い反応を示し、反発しあう。レーヴァティンが背中の槍を手にした。
 剣を纏う炎がさらに強くなる。飛鳥は集中力を上げ、瞳を鋭くする。
『熱月ッ!』
「フラッシングソードッ!」
 両者の斬撃が繰り広げられる。曜は感嘆とした。
 常戦無敗の『ソード・マスター』と互角を張る敵。そして、飛鳥の実力の深さ。
 圧倒的にまだ弱いと痛感されるようなものだった。まだ、飛鳥は自分との戦いでかなりの余裕を持っていた。
 ブラックダイヤモンドは主武装である二本の刀を失い、もう戦う事もできない。
「……SRになるのは、まだ早過ぎますね」
『――――そうよ。あなたじゃ、飛鳥を倒せるわけないの』
「――――!?」
 目の前で起きている戦いを前に呟いた時、後ろからブラックダイヤモンドの腹部に何かが刺さった。



「エアブレードッ!」
『フレイムヴァイパァァァッ!』
 両者の技と技が炸裂し、激しいぶつかり合いが続く。飛鳥は舌打ちした。
 強い。以前戦った時とは、全く比べ物にならないほどに。
 流石は、『ソード・マスター』の座に一番近いコネクターと呼ばれた奴だ。
『灼熱の終焉ッ!』
「ミラージュ・ブレイドッ!」
 再び剣同士がぶつかり、激しい音が響き渡る。
 その時、空からレーザーの雨が降り注がれた。飛鳥がそれに気づき、目を鋭くする。
『鷹の瞳』でレーザーの流れを見切り、全て避ける。それは、まさに神業だった。
 レーザーを全て避けた後、剣を構え直し、飛鳥が仕掛けた。
『そこまでよ、飛鳥。動けば、この子が死ぬだけ』
「――――!?」
 攻撃を止め、レーヴァティンとの距離を取る。そして、すぐに声のした方向を見た。
 セルハーツに似た青い装甲の女性型ドライヴ。右に持つ剣でブラックダイヤモンドの腹部を刺している。
 飛鳥はそのドライヴを見て、静かに口を開いた。
「……ハデスハーツ……まさか、明日奈なのか……!?」
『そうよ。久しぶりね、飛鳥』
「……嘘だろ……? お前が……明日奈、お前が……ダーク・コネクターだなんて……!?」
『本当よ。私はダーク・コネクター幹部の一人、アイス・ドール
 ハデスハーツが左に持つ剣をブラックダイヤモンドの首元に向ける。
『動いたら、この子を殺すわ』
「……くっ、明日奈!」
『蓮杖ぉぉぉっ!』
 後ろからレーヴァティンが襲い掛かる。飛鳥は舌打ちした。
 振り落とされる剣を受け止めてレーヴァティンを吹き飛ばし、ハデスハーツの方を睨む。
「明日奈! 彼女を放せ!」
『それはできないわ。だって、あなたは私を好きじゃないから』
「え……?」
『答えて、飛鳥。私の事、好き? 明日香よりも好き?』
「…………」
 答えられない。それが、飛鳥の答えだった。明日奈が「そう」と呟く。
『私の事、嫌いみたいね』
「違う! そんなんじゃない! ただ……」
『ただ? 何?』
「…………」
『明日香の事が好きだから、私は嫌いなんでしょ、飛鳥?』
「それは……」
『どうして明日香なの? どうして私じゃ駄目なの!?』
 ハデスハーツがブラックダイヤモンドの腹部に突き刺していた剣を引き抜く。そして、構えた。
 クリスタルのように美しい赤い刀身から、炎が伸びる。
『私は……私はこんなに飛鳥が好きなのに! 大好きなのに! どうして明日香を選ぶの!?』
 鞭のように伸びた炎が振り落とされる。同時に、レーヴァティンも動いた。
 飛鳥が瞳を鋭くし、二体の動きを見切る。瞬間、一筋のビームがハデスハーツを襲う。
 明日奈はそれを上手く避け、攻撃してきた相手を睨んだ。
 両肩にゴッドランチャー、腰にビーム砲を持ったドライヴ。それは紛れもなくローズウェルと言うドライヴだ。
「大滝……!? って、また何か異様に重そうなドライヴだな」
「これぞ、ローズウェル・ブラストカスタム! そりゃもう、火力なら負ける気ないわよ!」
「でも、重いだろう、その武装は……」
「それを言ったら元も子もないわよ、それ言ったら……。って、そうじゃないでしょ!
 ローズウェルがビームセイバーをブラックダイヤモンドへ投げる。
「曜、それ使って一気に片付けなさい!」
「……はい、ありがとう美里さん!」
 ブラックダイヤモンドがハデスハーツへとビームセイバーを構える。
 その姿を見て、明日奈は左手の剣を肩上に構えた。
 クリスタルのような青い刀身から霧が発生し、二体の周りだけ覆う。
「一閃!」
 曜は構わずビームセイバーを振るう。しかし、その先には何もなかった。
 後ろからハデスハーツが姿を見せ、青い刀身の剣を振るう。ブラックダイヤモンドが瞬時に凍りついた。
「え……!?」
『弱いわね、あなた。こんなんじゃ、SRなんて絶対に無理よ』
 冷たい言葉を吐きつつ、さらに赤い刀身の剣を振るう。凍ったブラックダイヤモンドが、今度は燃え上がる。
 そして、再び青い刀身の剣で凍らせ、赤い刀身の剣で燃え上がらせる。その繰り返しによる斬撃が続く。
 ブラックダイヤモンドの装甲は破壊され、その原型を失っていった。
「ああああああ!?」
『ハルバード・ヴェルジュ。自分の弱さを思い知りなさい』



 美里との馬鹿げたやり取りを終えた瞬間、レーヴァティンが襲い掛かる。飛鳥は「しつこい!」と応戦した。
 ぶつかり合う剣が、響きのいい音を出す。その時、ブラックダイヤモンドの反応が消えたのに気づいた。
「――――黒石さん!?」
『蓮杖飛鳥ぁぁぁああああああっ!』
 レーヴァティンが剣に灼熱の炎を巻きつかせる。飛鳥は剣を大きく振り上げた。
「人の名前ばっか叫んでうるさいんだよ、テメェはぁ!」
 ファルシオンセイバーが眩い光を放つ。
「輝凰! 斬・王・陣ッ!」
 大地に突き刺す。ファルシオンセイバーにエネルギーが込められ、それが大地へと放出された。
 セルハーツの周囲から無数の光の波動が大地から天空へと放たれ、レーヴァティンの全身を打ち抜いていく。
 先代『ソード・マスター』に教わった必殺技。セルハーツが続けてゴッドランチャーを構えた。
 レーヴァティンへと砲身を向ける。その時、大地が割れた。
 割れた大地から、姿を見せる新たなドライヴ。巨大な剣が目立っていた。
「な!? 今度は”全てを悟りし者”ガルノアだと!?」
『……安心しろ、私は戦いに来たのではない』
 巨大な剣を持つドライヴがレーヴァティンの方へ視線を向ける。
『撤退の命令です、アサシン・ブレード。そして、アイス・ドール』
『撤退だと!? ふざけるな!』
『撤退です。まだ、あなたはダーク=レガリアの力を完全に引き出されていない。
 このままでは、あなたはソード・マスターに負けるでしょう』
『……チッ。仕方ねぇ!』
 レーヴァティンが姿を消す。
『ソード・マスター、一つだけ忠告しよう。今のアサシン・ブレードは、お前よりも強い』
「……何だと? どう言う事だ!?」
『言った通りだ。少なくとも、ファルシオンセイバーの真の姿を見せない限りは、勝ち目などないだろう』
 姿を消す。そして、明日奈もそれに続いた。
 飛鳥が「待て!」と叫ぶ。さっきまでとは違い、落ち着いた口調で明日奈が言う。
『飛鳥、私だけを見て。私だけを愛して……』
「明日奈……」
『あなたが好きよ。明日香よりも、誰よりもあなたが好きよ、飛鳥……』
 ハデスハーツが姿を消す。飛鳥は自分の情けなさに痛感した。

 そして、今回のSRランクアップ・トーナメント戦は、『ダーク・コネクター』の乱入で無効となった。



次回予告

 飛鳥です。
 紫電が現れ、厄介な事になった。しかも、敵には明日奈もいる。
 黒石さんのドライヴの事もあるし、あの人に相談に乗ってもらうか……。

 次回、CONNECT15.『ソード・マスター候補だった二人』

 ドライヴ・コネクト! 今回は俺だけでどうにかできそうにない、かな……。



<< CONNECT13.     CONNECT15. >>     戻る     トップへ





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送