CONNECT15.『ソード・マスター候補だった二人』


「え!? 明日奈が……!?」
「……ああ。明日奈は、奴らの幹部になっている」
「そんなっ……」
 トーナメント戦が無効になった後のショップで、飛鳥は今回の事を明日香に話した。
 明日香が信じられないと言った顔のまま、飛鳥の服を掴む。
「どうして明日奈が!? ねぇ、飛鳥君!?」
「俺にも分からない……けれど、今の明日奈は、俺の敵としか……」
「敵って……明日奈は私のお姉ちゃんだよ!? 飛鳥君のはとこだよ!?」
「分かってるよ!」
 飛鳥が怒鳴りを上げ、明日香がびくっと怯む。「ごめん」と飛鳥は呟いた。
「……でも、明日奈をどうやったら助けられるか分からないんだ。今の俺じゃ、明日奈は……」
 間違いなく、言葉は聞かない。飛鳥は拳を強く握った。
 新しい『ダーク・フォース』がまさか紫電だとは思わなかった。そして、明日奈の事も。
 そんな時、『チーム・アレス』のリーダー・大滝美里が話し掛ける。
「あ、あのさ、蓮杖君」
「……何?」
「これ……曜のブラックダイヤモンドなんだけど……」
 ドライヴが差し出される。液晶の画面には、「Drive-Data Lost...」と表示されていた。
 飛鳥がそのドライヴを手にし、強く握る。
「今回の事は俺に責任がある。だから、このドライヴは俺に直させてくれないか……?」
「う、うん。それは別に構わないけど……。そっちの方が良さそうだし」
「じゃあ、前に戦った時のデータを元に直してみるよ。……黒石さんは?」
「今、姫里と千里が慰めてるけど、当分立ち直れそうにない、かなぁ……」
「…………」
 ドライヴを受け取ったまま、ポケットに入れる。飛鳥のドライヴが静かに反応した。
 いや、ファルシオンセイバーだ。意思を持つレガリアが、悲しんでいる。
「飛鳥君……」
「……悪い。少しの間だけ一人で動かせてくれ。少なくとも、アサシン・ブレードを倒すまでは」
 その言葉と共に、飛鳥は自分のドライヴを強く握り締めるのだった。



 それから数日後。夏休みが終わり、2学期の始業式が行われた。
 放課後、勇治が飛鳥を呼び止める。
「飛鳥、これからチームの打ち合わせを行う」
「悪いけど、俺はパスだ。今はそんな場合じゃない」
「何を言っている。チームの打ち合わせは絶対だ」
「そんな場合じゃないって言っているだろ、馬鹿! 『ダーク・フォース』が動き出したんだ!」
「奴らが動き出しただと?」
 勇治が腕を掴む。
「奴も動いているのか?」
「知るか。今分かっているのは、剣だけだ」
「どうする気だ?」
「しばらく一人で動こうと思う。奴の狙いは、俺だしな」
 奴――――紫電は自分に恨みを持っている。それは間違いない。
 だからこそ、明日香達を巻き込むわけにはいかない。
「今から、あの人に相談してみようと思う。色々と」
「そうか。よろしく伝えてくれ」
「ああ」



 ショップで明日香はアクティブ・ウェポンを見ていた。
「アローナディアの修理はまだ終わってないけど、いつまでもグロウファルコンに頼っちゃ駄目だよね……」
 飛鳥が先代『ソード・マスター』に勝利した時まで使用していたドライヴ・グロウファルコン。
 今ではあまり使われていないが、飛鳥が使えば間違いなく敵なしの最強を誇る。
 そんなドライヴは、自分には扱いこなせない。
「やっぱり、あまり重くないアクティブ・ウェポンの方が良いかな。女性型だし……」
「明日香ちゃんは防御タイプだから、シールド系が良いんじゃない?」
「うーん……でも、シールド系は飛鳥君の作ってくれたシールドウイングがあるし……え?」
 素直に驚く。『ストーム・クラウン』のマリアが横でアクティブ・ウェポンを見ていた。
 明日香の方を向いて、「やっほー」と挨拶する。
「一人でどうしたの? 飛鳥は?」
「それが、しばらく『一人で動きたい』って……」
「飛鳥がそれを言うって事は、何かあったって事よね」
 そう言った事に関しては、やはり『フォース・コネクター』の一人でもある。
「ん〜、もしかして優姉さまが呼ばれたの事と繋がりがあるっぽいね」
「優さんって、確か先代の『マグナム・カイザー』ですよね?」
「うん。ちょっと用があって電話したら、飛鳥が先約入れてたっぽいのよ。ちょっと覗きに行く?」
「覗きにって……場所分かるんですか?」
「うん。優姉さまに教えてもらってるし♪」
 ドライヴを取り出して、マリアは早速場所を確認した。



 とあるショップの喫茶店。飛鳥は紅茶のおかわりを注文していた。
 いくらなんでも遅い。待ち合わせの時間よりも1時間半経っている。
「お待たせ、あすあす」
「……何がお待たせ、ですか……。1時間半の遅刻ですよ」
「気にしない気にしない」
 そう言いつつ、先代『マグナム・カイザー』である優はウェイトレスに飲み物を注文する。
「で、話って?」
「……『ダーク・フォース』が――――ラグレオスセイバーを振るう奴が動き出しました」
「あらら。それで?」
「そいつが、あの紫電です」
「紫電? 紫電って、あの?」
 飛鳥が頷く。優は「ふーん」と言って注文していたクリームソーダを受け取る。
 スプーンでアイスを一口食べると、ストローでソーダを飲んだ。
 紅茶にミルクを入れて、飛鳥がスプーンでかき混ぜつつ話す。
「あいつのせいで、この間のSRランクアップ・トーナメントは中止になりました」
「うんうん。で、私を呼んだ理由は?」
「……優さんは、確か刀系のアクティブ・ウェポンを持ってましたよね? それも二本」
 優のドライヴ、アクティブ・ウェポンを手掛ける技術力は天賦の才能とも言える。
 剣、刀と言った実体のある接近戦型アクティブ・ウェポンを作るのはそう簡単ではない。
 これは、普通の鍛冶と同じだ。実体剣と言うものは、その製作に熟練したコネクターじゃないと難しい。
 アイスを食べて、優が「あるよ」と言い出す。
「でも、今になって実体剣はいらないんじゃないの、あすあすの場合?」
「……確かに、ファルシオンセイバーがありますし、シンクレアとカタルシス以上の実体剣は作れません」
「じゃあ、何で刀系の武器が欲しいの?」
「ダーク・コネクターにドライヴのデータを消去された人のドライヴを直す為です」
「それって、『チーム・アレス』の黒石さんって娘?」
 飛鳥が目を見開く。
「知ってるんですか!?」
「うん。何度かバトル見てたし。なるほど、あの子のドライヴ消されちゃったんだ」
「……はい。それで、俺が直すついでにパワーアップを。だから、刀系の武器が欲しいんです」
「ま、実体剣とか作るの難しいからね」
「ええ。俺でもゴウさんに教えてもらわなかったら、2週間で作れませんでしたし」
「つくづく、大滝美里と言う子は凄いと思います」と付け足す。
 いくら偶然とは言え、意外と硬度のある実体剣を作れたのは凄いと思う。
 優が話を進める。
「あすあすから見て、黒石さんは『ソード・マスター』になれると思う?」
「無理ですね。少なくとも、俺がいる限りは『ソード・マスター』の座は渡しません。
 それに、黒石さんには『資質』がない。正直、なれるかどうかは、他のSRコネクターにもよります」
「まね。『資質』がないと意外と難しいもんね。でも、例外は色々といるでしょ?」
「ええ。ゴウさんの前の『ディフェンド・キング』に、郁美さんの前の『ストーム・クラウン』ですよね」
「ピンポーン! っと、本題に戻して……ほい」
 ドライヴを取り出して操作し、飛鳥にSDカードを渡す。
「これは?」
「さっき言ってたアクティブ・ウェポン。本当に手馴れた人間じゃないと扱えないから、気をつけてね」
「大丈夫ですよ、黒石さんは剣術やってるみたいですし。あとは、俺が手を加えるだけです」
「ふーん。そう言えば、明日香ちゃんの方のドライヴも修理しているんでしょ?」
「ええ。もう少しで、新型ができますよ」
「それは楽しみね。あすあすの新型は結構楽しみなのよ。ね、明日香ちゃん?」
 そう言って横に目をやる。飛鳥はその方向に振り向いた。
 なぜか服を交換して、さらにはサングラスをかけて正体を隠している二人の姿があった。
 深く肩を落とす。
「……明日香」
「あ、えっと……その……」
「え〜とね、凄く気になったって言うか……ほ、ほら、飛鳥には明日香ちゃんって言う彼女がいるからさ〜」
「……だから、付き合ってないってば」
 溜め息をつく。優が可笑しそうに口元を押さえて笑っていた。
「あすあす、話した方が良いんじゃない? 気になってるんでしょ、明日香ちゃん」
「え? あ、はい……」
「気になってるって、紫電――――明日奈と一緒に現れた奴の事?」
 そう飛鳥が訊くと頷く。飛鳥は「そうだな」と呟いた。
 残っている紅茶を飲み干し、軽く息を吐く。
「……3年前、俺がドライヴを始めて3ヶ月でSRランクになったって言うのは知ってるだろ?」
「うん」
「それから2週間で、俺は『ソード・マスター』候補のナンバー2になった。そして、紫電はナンバー1だった。
 けれど、あいつは先代『ソード・マスター』に挑戦を申し込んでも、先代は断り続けた」
「え? どうして?」
「……俺がいたからだよ」
 わずか3ヶ月でSRランクの上がり、そして候補ナンバー2になった飛鳥。それを先代は気にしていた。
 紫電の挑戦を断り続け、そして彼にこう言った、「蓮杖飛鳥とバトルしろ。真に強い奴と俺は戦う」と。
「そして、俺は紫電とバトルして勝利し、そのまま『ソード・マスター』の座を手に入れた」
「それって……」
「ああ。俺からすれば、信じられない事。でも、紫電からすれば、許せない事だった」
 必死の思いでSRに上がり、候補トップだったのに『ソード・マスター』とバトルできなかった紫電。
 そして、たった3ヶ月半しかドライヴをやっていない飛鳥に負けて、Eランクに落ちた。
 飛鳥は『ソード・マスター』の座についた。それが、紫電には許せない事だった。
 そのバトル以来、飛鳥は紫電の事を気にしていたが、彼がSRに戻って来る事はなかった。
「あいつを知っている奴に聞いた話じゃ、Eで調子を崩して負け続けた。そこをイブリスが目をつけたんだ。
 そして、あいつは俺への復讐を果たす為に『ダーク・フォース』になった」
「…………」
「……俺は、紫電と決着をつける必要がある。レガリアなしで決着をつけなきゃいけない」
「……明日奈は?」
「明日奈には、俺の気持ちをぶつける。俺の答えを――――明日奈の質問に俺は答えなきゃいけない」
 なぜ、明日奈が『ダーク・コネクター幹部』になったのかは分からない。
 しかし、幹部最強の”絶望へ誘う者”イブリスが絡んでいるのは間違いない。
 ほとんどの『ダーク・コネクター』をスカウトしているイブリス。必ず倒しておく必要がある相手。
 飛鳥の表情を見つつ、優がデコピンを炸裂させる。
「あすあす、いつもと変わらない、あすあすのバトルをすれば良いんだからね?
 あいつらの相手をするのは『ソード・マスター』だけの役目じゃないの。それは分かるよね?」
「……はい。奴らと戦うのは、俺やゴウさん、勇治、マリアの『フォース・コネクター』の役目です」
「そ。ゆうゆうにも言っておいて。『あの銃を持つ奴には気をつけろ』って」
「言っておきます。あいつは、俺の相棒なんで」
 その言葉に、優は頷いた。



 帰り道。明日香と一緒の道を歩く。飛鳥がふと立ち止まった。
「明日香、グロウファルコン返してくれるか?」
「別に良いけど、アローナディア、直ったの……?」
「まだ。でも、あと二日はあれば直る」
「本当!?」
 飛鳥が頷く。これは本当だった。
 明日香に合わせて改良を施して、修理だけは終えたアローナディア。
 しかし、それだけで飛鳥は手を止めていなかった。
「明後日はちょうど休みだろ? だから、その日に返すよ。前とは比べ物にならないほど凄いアローナディアを」
「うん。期待してる」
 明日香がグロウファルコンが入っているドライヴを渡す。その時、飛鳥は明日香を引き寄せた。
 突然の事で驚いた明日香だったが、その後の行動でさらに驚かされた。
 唇が重なる。顔全体が紅潮し、ゆでだこの様になる明日香。
 飛鳥が「明日奈に答える前に、明日香に言うよ」と言葉を続ける。
「明日香が好きだ。誰よりも明日香が好きだ」
「え……!?」
「早くAランクに上がって、コンビ組もうぜ。それまで、俺は待ってるから」
 そして飛鳥は走り去る。意外な行動を取っておきながら、実は飛鳥の方が、顔が赤かったりする
 自分の唇を指でさする。
「告白、だよ……ね……? ……キス……されちゃった……」
 飛鳥の言葉が、まだ信じられない明日香だった。



次回予告

 こんにちは、明日香です。
 えっと……飛鳥君に告白されて二日後。どんな顔して会ったら良いんだろう……恥かしいな……。
 どうしよう……私、どうすれば良いんだろう……?

 次回、CONNECT16.『ランクアップ』

 ドライヴ・コネクト! えっと……飛鳥君の事で頭が一杯でバトルどころじゃないよ……。



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