先代『マグナム・カイザー』に相談に乗ってもらった次の日、放課後の掃除時間に飛鳥は頭を抱えていた。 その理由は当然、昨日、自分が取ってしまった行動の事である。 「……何で、あんな行動取ったんだよ、俺……?」 ほうきを教室のベランダにかけ、両手で髪を掻く。そして、昨日の出来事を思い出して頬を赤くする。 「……柔らかったよな……」 「何が柔らかいんだ?」 話し掛けてきた勇治に驚き、赤く染まった頬を隠すように大きく顔を横に振る。 そんな飛鳥の行動を見て、勇治が言う。 「熱でもあるのか? 馬鹿は風邪を引かないはずだが」 「テメェより馬鹿じゃねぇよ!」 そう言った後に溜め息をつく。 「本当に熱があるんじゃないのか?」 「……かもな。掃除サボって帰るかな、本気で」 そんな事を言っている矢先に、担任から「蓮杖、逃げるなよ」と言われるのだった。 「……飛鳥君とキスしちゃったんだよね、私……」 同時刻、ショップでまだ信じられない明日香の姿があった。 ふと、ポスターに載っている『フォース・コネクター』の4人の写真を見て、顔を紅潮させる。 特に、飛鳥の写真を見て。 「うう〜……明日、どんな顔して会えば良いんだろう……」 確かに飛鳥の事は好きだ。けれど、突然の事でまだ頭の中が整理できていない。 「……このままじゃ、駄目だよね……?」 ――――赤光! これで決めます、紅牙ッ! ショップ内に声が響く。明日香はバトル・フィールドの方を見た。 女性型で深紅の機体。その戦い方は、とても真っ直ぐで、人一倍熱い想いが伝わるほど。 最強チーム『ランドライザー・コマンド』のサブリーダー・鳴澤紅葉だった。今、彼女がバトルをしている。 そう思ったのだが、バトルは終了を告げられた。 「……そう言えば、鳴澤さんはAランクなんだよね」 SRランクの人間と――――『フォース・コネクター』とコンビが組めるランク。 彼女はそのランクに立っている。そして、上を目指している。 紅葉がコクピットランサーから降りたのを確認し、近づく。 「鳴澤さん!」 紅葉が明日香に気づく。 「……星川さん。何か自分にご用ですか?」 「あの……鳴澤さん、私とバトルしてくれるかな!?」 突然の申し込み。紅葉が目を見開く。 「バトル、ですか? 自分と?」 「うん……! 今日はドライヴ持ってないから明日、ハンデなしでバトルしてくれるかな?」 「ハンデなし、ですか? しかし、ランクの差からすれば星川さんにとっては不利な状況ですよ……?」 「……うん。でも、早く上のランクに上がらなきゃいけないの。それが、私の返事になるから……」 「……話が分からないのですが、その申し出は受けて立ちます」 「本当!?」 「ええ。明日、自分は星川さんと全力を持ってバトルいたします」 その言葉に、明日香は大きく頷いた。 「……とは言ってみたものの、どうしよう……?」 夜。自室で明日香はバトルの申し込んでから、ずっと悩んでいた。 明日、飛鳥は約束通り、ドライヴを持ってきてくれるはず。 けれど、問題はそれじゃなかった。まだ、どんな顔をして会えば良いのか考えていない。 それに久々のアローナディアだ。本当に大丈夫なのか不安がある。 「……でも、いつまでも飛鳥君に頼ってたら駄目だよね……今度のバトルは、私だけの実力で勝たないと……」 そんな時、玄関のチャイムが鳴る。一体誰だろうと思った。 明日香の母がすぐに出て、「あら、飛鳥ちゃんじゃない」と言う声がして驚く。 「え!? 飛鳥君!?」 『飛鳥ちゃん、こんな時間にどうしたの? もう10時過ぎよ?』 『あ、えっと……明日香、いますか? って、いない方が変か……』 『明日香なら自分の部屋にいるわよ。お茶の用意するから、一人で明日香の所に行ってくれるかしら?』 『あ、はい……』 こんな時間にお茶の用意と言うのもどうかと思うが、飛鳥が来るなんて意外だった。 階段を昇ってくる音が聞こえる。そして、ドアをノックする音も聞こえた。 『明日香、俺だけど、入っても良いか……?』 「あ、う、うん。良い、よ……?」 ややぎこちない。飛鳥がドアを開けて部屋に入って来た。 飛鳥の顔を見てすぐに頬を赤くする。そして、なるべく顔を見ないように話し出した。 「あ、飛鳥君……ど、どうしたの、こんな遅くに……!?」 「紅葉から電話で『明日、星川さんとバトルをいたします』なんて聞いたからさ」 そう言って、飛鳥がドライヴを渡す。 「これ……?」 「シルフィーナディア。アローナディアをパワーアップさせた明日香の新しいドライヴ」 「シルフィーナディア……? 名前変わったんだ……」 「あ、いや、別に名前はアローナディアのままでも良いよ。ただ、俺がそう呼んでるだけだから……」 あはは、と苦笑する。明日香は首を横に振った。 「ううん、シルフィーナディアで良いよ。飛鳥君が付けてくれた名前だし……」 「そう、か……?」 「うん。ありがとう、飛鳥君」 「でも……」と言葉を付け足す。飛鳥は明日香の表情に首を傾げた。 ドライヴを握り締めて、暗い表情を見せる。 「……私、明日のバトル勝てるかな……? 新しいドライヴで……」 「勝てるさ。今までは、明日香が弱かったんじゃなくて、アローナディアが追いついてなかった」 「え?」 「明日香の実力にアローナディアがついていけなかったんだ。3年間気づけなかった、ごめんな」 「う、ううん……だって、アローナディアを直してくれたんだもん。それだけで十分だよ」 まだ暗いが笑顔になる。飛鳥は明日香の唇を奪った。 昨日と同じ突然の行動に、明日香は目をパチパチとさせ、赤く染まった頬をさらに赤くした。 「あの……飛鳥君……」 「明日のバトルに勝つ為の願掛け。明日香には俺がいる。だから、明日香は勝てるよ」 「……うん」 不意打ちで通算2回もキスされた明日香だったが、やはり飛鳥が好きだと自分の中で思うのだった。 次の日。ショップのバトル・フィールド前に、すでに紅葉は来ていた。 明日香が来たのを確認し、ドライヴを取り出す。 「今日のバトル、手加減はしませんので」 「うん。私も、負けないから」 そう言ってドライヴを取り出す。 ――――そのバトル、合意と確認しましたっ! バトル・フィールド中心に穴が開き、そこからタキシードを纏ったおじさんが出てくる。 「このバトルは公式バトルと認められました。審判は私、久々に登場します、リュウマチ小暮さんですっ!」 「……そう言えば、最近存在自体忘れてました」 サラリと紅葉が呟く。 「えー、今回のバトルはシングル戦! 先に戦闘不能または、降参した方が負けです。 また、今回のハンデは対戦者の希望によりなしとします。それでは、両者、コネクトを!」 「参ります、ドライヴ・コネクト!」 「ドライヴ・コネクト!」 バトル・フィールドに戦乙女をイメージされ、両肩にウイングユニットを持つドライヴが構築される。 アローナディアをパワーアップさせた新型のドライヴ・シルフィーナディア。 明日香がその性能をチェックする。 「アローナディアと違うのは、両肩のアクティブ・ウェポンとカラーリングだけかな……?」 いや、性能もアローナディアと比べて増している。 「武装は……専用のプラズマライフルにプラズマセイバー、あとリアクターウイングにシールドバスター……」 強化されているのは性能だけではなく、武装もだった。 しかも、アローナディアより武装が随分と多い。 シルフィーナディアの前に、紅葉の乗るクリムゾン・ティアーズが構築される。 『新しいドライヴですね』 「うん……。今日初めて動かす事になるけど、手加減しないでね」 『ええ。バトルの前に、そう約束しましたので……』 二体のドライヴが構築されたのを確認し、審判がその腕を振り上げる。 「それでは、コネクト・バトル……ファイトォォォッ!」 合図と共に、クリムゾン・ティアーズがショット・ランサーを構える。 そして、シルフィーナディアへと刃先を向けた。 『ランドライザー・コマンドがサブリーダー、鳴澤紅葉! 参ります!』 クリムゾン・ティアーズが瞬時に槍を繰り出す。 『赤光!』 瞬速の突き。シルフィーナディアが両肩のウイングユニットからバリアを張り、受け止める。 その防御力に紅葉は目を見開いた。当然、明日香も。 『赤光を!?』 「……防御できた……? シールドウイングよりも防御力が高いって事、だよね……?」 飛鳥から少し詳しい事を聞けば良かったと思う。実は、あの後二人とも黙っているだけだったからだ。 クリムゾン・ティアーズが再び槍を構え、シルフィーナディアと距離を置く。 紅葉はその防御力の高さに、自分の甘さを痛感した。 『……なるほど、やはり彼の作ったアクティブ・ウェポンには、生半可な攻撃は通用しませんか……!』 そう思うと、余計に気合が入る。 『そのドライヴの強さ、素直に評価できます。しかし、コネクターの強さはドライヴで決まりません』 「う、うん。今日のバトル、私は絶対に勝つから!」 『自信に満ちていますね。しかし、それでこそ、このクリムゾン・ティアーズの相手に相応しい!』 クリムゾン・ティアーズがシールドを投げ、ミサイルの雨をシルフィーナディアの周辺に降らす。 しかし、シルフィーナディアの上空でミサイルが全て爆発した。紅葉が驚く。 シルフィーナディアの両肩のリアクターウイングからビームが発射され、自動で迎撃していた。 明日香もリアクターウイングの自動動作に唖然とする。 「あれ……?」 リアクターウイングに備わっている迎撃機能は、アローナディア時のシールドウイングと同じ。 しかし、自動迎撃とは思わない。 「……飛鳥君に詳しく教えてもらってた方が良かったよね、間違いなく」 苦笑する。 同時刻、飛鳥は違うショップのバトル・フィールドで『ダーク・コネクター』とバトルしていた。 その敵の数は11体。10体は格段に強いわけでもなく、ものの数分で倒されている。 しかし、厄介なのは最後の敵だ。流石は『ダーク・コネクター幹部』だと痛感する。 「……残ったのはあんただけだぜ、”全てを悟りし者”ガルノア!」 『幹部でないとは言え、10体もの相手を数分で倒せるか。流石は、ソード・マスターだ』 「そんな事はどうでも良い! お前達『ダーク・コネクター』は何が目的だ!?」 『それは、私を倒して聞き出してみろ』 「望むところ!」 セルハーツが駆ける。巨大な剣を持つガルノアのドライヴ――――オーガノスが牙を向いた。 巨大な剣が大地に強く叩きつけられ、地割れが起きる。飛鳥はそれを瞬時に見切った。 空へと舞い、剣を振りかざす。 「エアブレードッ!」 放たれる風の刃。オーガノスは巨大な剣でガードした。 その瞬間を狙って、セルハーツが急接近し、軌跡を描く。 「ミラージュ・ブレイドッ!」 『――――!』 オーガノスがその動きを見切り、避ける。飛鳥は舌打ちしつつ驚いた。 「あの距離でミラージュ・ブレイドを避けた!?」 『間一髪と言ったところか』 「ミラージュ・ブレイドを見切れた……あれができるのは、『鷹の瞳』だけ……ガルノア、あんたは……!」 『察しの通りだ、ソード・マスター。私は、お前と同じ鷹の瞳を持つ人間だ』 その言葉に目を見開く。ガルノアはやはり実力だけではなかった。 『ソード・マスター』が持つと言われている、見切りの素質『鷹の瞳』。 ガルノアが『鷹の瞳』で飛鳥を睨んだまま、言葉を続ける。 『この私に鷹の瞳を使わせた。やはり、常戦無敗の名は伊達ではないようだな、ソード・マスターよ』 「……何が言いたい?」 『その瞳……お前は、先代のソード・マスター以上に良い瞳をしている』 そして、自分が知っている人物に似ている瞳だ。ガルノアは剣を収めた。 その行動に飛鳥は疑う。 「余裕のつもりか、ガルノア!?」 『違う。今は、お前の強さを確かめたいと思っただけだ』 「俺の強さ……?」 『アイス・ドールが、自分の妹にバトルを挑みに向かった』 「明日奈が!?」 『これ以上、私はお前と戦う事はしない。お前とのバトルは、アサシン・ブレードが動き出した時だ』 『行け』とガルノアが言葉を進める。飛鳥は歯を噛み締めた。 ここでガルノアを倒しておけば、今後の奴らとのバトルでは楽になれる。 しかし、明日奈が明日香にバトルを挑んだ。それだけは放っておけなかった。 あの二人を戦わせる前に、自分が明日奈に答えを出さなければならない。 「……ガルノア、次にバトルする時は見せてやるよ、本当の『ソード・マスター』の強さを! あんたが何で明日奈の事を教えてくれたのかは、その時にでも聞き出す……!」 『私に勝てればな』 「勝つさ。お前らみたいな『ダーク・コネクター』に俺は負けない!」 セルハーツがコネクト・アウトする。ガルノアはしばらくその場にいた。 彼の瞳はやはり似ている。自分が初めて負けた相手の瞳に。 『……様子を見に言った方が良いようだな』 バトルが始まって10分。明日香はようやくシルフィーナディアの性能に慣れた。 リアクターウイングは、シールドウイングを発展させたアクティブ・ウェポン。 自動迎撃機能は、リアクターウイングの本質が見せる”単なるおまけ”だ。 「そして……これが……!」 リアクターウイングの砲身がクリムゾン・ティアーズに向けられる。 「シルフィーナディアの新しい武器、レイブラスター!」 放たれる二つのビーム。クリムゾン・ティアーズはジャンプして上手く避けた。 刹那、シルフィーナディアが右腕に装備しているシールドから砲身を見せ、構える。 『しまっ……』 「お願い!」 放たれる。クリムゾン・ティアーズは防御できず、そのまま直撃を受けた。 地面に叩きつけられ、その鼓動を止める。紅葉は思わず舌打ちしてしまった。 審判であるリュウマチ小暮が判定を下す。 「勝者、星川明日香ぁぁぁ!」 勝利が告げられる。明日香は小さく両手でガッツポーズをした。 ドライヴ本体に浮かぶ「C」の文字が「B」に変わる。 「なお、今回のバトルによって、Bランクへとランクアップが認められます。おめでごうございます!」 「ランクアップ……そう言えば、上のランクの人に勝てば、できたんだよね……?」 すっかり忘れていた。それが今の明日香だった。 紅葉が「もう少し特訓する必要がありますね」と呟きつつ、コネクト・アウトする。 ――――Bランク? まだまだね。 刹那、氷の刃が空から降り注がれる。シルフィーナディアはリアクターウイングで防御した。 砂煙が舞う中に見える影。飛鳥のセルハーツと同じカラーリングを施した女性型のドライヴ。 明日香はそのドライヴを見て目を見開いた。 「明日奈!?」 『ドライヴを始めて3年……ようやくBランクなんて、まだ弱いわね、明日香』 「…………」 セルハーツに似たドライヴ――――ハデスハーツが右手に持つ炎の魔剣を突き向ける。 『私と勝負なさい、明日香』 「え……!?」 『飛鳥は誰にも渡さない。たとえ、明日香、あなたでも……!』 ハデスハーツが左手に持つ氷の魔剣から、氷の刃を放つ。シルフィーナディアはそれを防いだ。 明日香は紅葉とのバトルが終わった後で良かったと安心する。そうでなければ、巻き込んでいた。 シルフィーナディアのリアクターウイングの砲身が、静かにハデスハーツに向けられる。 「明日奈、私も飛鳥君が好き……だから、飛鳥君は譲れない」 『そんなの分かっているわ。だからこそ、ここであなたを仕留めるのよ!』 ハデスハーツの持つ二本の魔剣が、互いを挑発するかのように眩しい光を放っていた。 次回予告 こんにちは、明日香です。 明日奈とバトルする事になった私。やっぱり、明日奈とは戦わなきゃ駄目なのかな……? だって、私と明日奈はたった二人だけの姉妹なんだし……。 次回、CONNECT17.『明日奈の答え』 ドライヴ・コネクト! 明日奈、目を覚まして! |
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