CONNECT16.『ランクアップ』


 先代『マグナム・カイザー』に相談に乗ってもらった次の日、放課後の掃除時間に飛鳥は頭を抱えていた。
 その理由は当然、昨日、自分が取ってしまった行動の事である。
「……何で、あんな行動取ったんだよ、俺……?」
 ほうきを教室のベランダにかけ、両手で髪を掻く。そして、昨日の出来事を思い出して頬を赤くする。
「……柔らかったよな……」
「何が柔らかいんだ?」
 話し掛けてきた勇治に驚き、赤く染まった頬を隠すように大きく顔を横に振る。
 そんな飛鳥の行動を見て、勇治が言う。
「熱でもあるのか? 馬鹿は風邪を引かないはずだが
「テメェより馬鹿じゃねぇよ!」
 そう言った後に溜め息をつく。
「本当に熱があるんじゃないのか?」
「……かもな。掃除サボって帰るかな、本気で」
 そんな事を言っている矢先に、担任から「蓮杖、逃げるなよ」と言われるのだった。



「……飛鳥君とキスしちゃったんだよね、私……」
 同時刻、ショップでまだ信じられない明日香の姿があった。
 ふと、ポスターに載っている『フォース・コネクター』の4人の写真を見て、顔を紅潮させる。
 特に、飛鳥の写真を見て。
「うう〜……明日、どんな顔して会えば良いんだろう……」
 確かに飛鳥の事は好きだ。けれど、突然の事でまだ頭の中が整理できていない。
「……このままじゃ、駄目だよね……?」

 ――――赤光! これで決めます、紅牙ッ!

 ショップ内に声が響く。明日香はバトル・フィールドの方を見た。
 女性型で深紅の機体。その戦い方は、とても真っ直ぐで、人一倍熱い想いが伝わるほど。
 最強チーム『ランドライザー・コマンド』のサブリーダー・鳴澤紅葉だった。今、彼女がバトルをしている。
 そう思ったのだが、バトルは終了を告げられた。
「……そう言えば、鳴澤さんはAランクなんだよね」
 SRランクの人間と――――『フォース・コネクター』とコンビが組めるランク。
 彼女はそのランクに立っている。そして、上を目指している。
 紅葉がコクピットランサーから降りたのを確認し、近づく。
「鳴澤さん!」
 紅葉が明日香に気づく。
「……星川さん。何か自分にご用ですか?」
「あの……鳴澤さん、私とバトルしてくれるかな!?」
 突然の申し込み。紅葉が目を見開く。
「バトル、ですか? 自分と?」
「うん……! 今日はドライヴ持ってないから明日、ハンデなしでバトルしてくれるかな?」
「ハンデなし、ですか? しかし、ランクの差からすれば星川さんにとっては不利な状況ですよ……?」
「……うん。でも、早く上のランクに上がらなきゃいけないの。それが、私の返事になるから……」
「……話が分からないのですが、その申し出は受けて立ちます」
「本当!?」
「ええ。明日、自分は星川さんと全力を持ってバトルいたします」
 その言葉に、明日香は大きく頷いた。



「……とは言ってみたものの、どうしよう……?」
 夜。自室で明日香はバトルの申し込んでから、ずっと悩んでいた。
 明日、飛鳥は約束通り、ドライヴを持ってきてくれるはず。
 けれど、問題はそれじゃなかった。まだ、どんな顔をして会えば良いのか考えていない。
 それに久々のアローナディアだ。本当に大丈夫なのか不安がある。
「……でも、いつまでも飛鳥君に頼ってたら駄目だよね……今度のバトルは、私だけの実力で勝たないと……」
 そんな時、玄関のチャイムが鳴る。一体誰だろうと思った。
 明日香の母がすぐに出て、「あら、飛鳥ちゃんじゃない」と言う声がして驚く。
「え!? 飛鳥君!?」
『飛鳥ちゃん、こんな時間にどうしたの? もう10時過ぎよ?』
『あ、えっと……明日香、いますか? って、いない方が変か……』
『明日香なら自分の部屋にいるわよ。お茶の用意するから、一人で明日香の所に行ってくれるかしら?』
『あ、はい……』
 こんな時間にお茶の用意と言うのもどうかと思うが、飛鳥が来るなんて意外だった。
 階段を昇ってくる音が聞こえる。そして、ドアをノックする音も聞こえた。
『明日香、俺だけど、入っても良いか……?』
「あ、う、うん。良い、よ……?」
 ややぎこちない。飛鳥がドアを開けて部屋に入って来た。
 飛鳥の顔を見てすぐに頬を赤くする。そして、なるべく顔を見ないように話し出した。
「あ、飛鳥君……ど、どうしたの、こんな遅くに……!?」
「紅葉から電話で『明日、星川さんとバトルをいたします』なんて聞いたからさ」
 そう言って、飛鳥がドライヴを渡す。
「これ……?」
「シルフィーナディア。アローナディアをパワーアップさせた明日香の新しいドライヴ」
「シルフィーナディア……? 名前変わったんだ……」
「あ、いや、別に名前はアローナディアのままでも良いよ。ただ、俺がそう呼んでるだけだから……」
 あはは、と苦笑する。明日香は首を横に振った。
「ううん、シルフィーナディアで良いよ。飛鳥君が付けてくれた名前だし……」
「そう、か……?」
「うん。ありがとう、飛鳥君」
「でも……」と言葉を付け足す。飛鳥は明日香の表情に首を傾げた。
 ドライヴを握り締めて、暗い表情を見せる。
「……私、明日のバトル勝てるかな……? 新しいドライヴで……」
「勝てるさ。今までは、明日香が弱かったんじゃなくて、アローナディアが追いついてなかった」
「え?」
「明日香の実力にアローナディアがついていけなかったんだ。3年間気づけなかった、ごめんな」
「う、ううん……だって、アローナディアを直してくれたんだもん。それだけで十分だよ」
 まだ暗いが笑顔になる。飛鳥は明日香の唇を奪った。
 昨日と同じ突然の行動に、明日香は目をパチパチとさせ、赤く染まった頬をさらに赤くした。
「あの……飛鳥君……」
「明日のバトルに勝つ為の願掛け。明日香には俺がいる。だから、明日香は勝てるよ」
「……うん」
 不意打ちで通算2回もキスされた明日香だったが、やはり飛鳥が好きだと自分の中で思うのだった。



 次の日。ショップのバトル・フィールド前に、すでに紅葉は来ていた。
 明日香が来たのを確認し、ドライヴを取り出す。
「今日のバトル、手加減はしませんので」
「うん。私も、負けないから」
 そう言ってドライヴを取り出す。

 ――――そのバトル、合意と確認しましたっ!

 バトル・フィールド中心に穴が開き、そこからタキシードを纏ったおじさんが出てくる。
「このバトルは公式バトルと認められました。審判は私、久々に登場します、リュウマチ小暮さんですっ!」
「……そう言えば、最近存在自体忘れてました
 サラリと紅葉が呟く。
「えー、今回のバトルはシングル戦! 先に戦闘不能または、降参した方が負けです。
 また、今回のハンデは対戦者の希望によりなしとします。それでは、両者、コネクトを!」
「参ります、ドライヴ・コネクト!」
「ドライヴ・コネクト!」



 バトル・フィールドに戦乙女をイメージされ、両肩にウイングユニットを持つドライヴが構築される。
 アローナディアをパワーアップさせた新型のドライヴ・シルフィーナディア。
 明日香がその性能をチェックする。
「アローナディアと違うのは、両肩のアクティブ・ウェポンとカラーリングだけかな……?」
 いや、性能もアローナディアと比べて増している。
「武装は……専用のプラズマライフルにプラズマセイバー、あとリアクターウイングにシールドバスター……」
 強化されているのは性能だけではなく、武装もだった。
 しかも、アローナディアより武装が随分と多い。
 シルフィーナディアの前に、紅葉の乗るクリムゾン・ティアーズが構築される。
『新しいドライヴですね』
「うん……。今日初めて動かす事になるけど、手加減しないでね」
『ええ。バトルの前に、そう約束しましたので……』
 二体のドライヴが構築されたのを確認し、審判がその腕を振り上げる。
「それでは、コネクト・バトル……ファイトォォォッ!」
 合図と共に、クリムゾン・ティアーズがショット・ランサーを構える。
 そして、シルフィーナディアへと刃先を向けた。
『ランドライザー・コマンドがサブリーダー、鳴澤紅葉! 参ります!』
 クリムゾン・ティアーズが瞬時に槍を繰り出す。
『赤光!』
 瞬速の突き。シルフィーナディアが両肩のウイングユニットからバリアを張り、受け止める。
 その防御力に紅葉は目を見開いた。当然、明日香も。
『赤光を!?』
「……防御できた……? シールドウイングよりも防御力が高いって事、だよね……?」
 飛鳥から少し詳しい事を聞けば良かったと思う。実は、あの後二人とも黙っているだけだったからだ。
 クリムゾン・ティアーズが再び槍を構え、シルフィーナディアと距離を置く。
 紅葉はその防御力の高さに、自分の甘さを痛感した。
『……なるほど、やはり彼の作ったアクティブ・ウェポンには、生半可な攻撃は通用しませんか……!』
 そう思うと、余計に気合が入る。
『そのドライヴの強さ、素直に評価できます。しかし、コネクターの強さはドライヴで決まりません』
「う、うん。今日のバトル、私は絶対に勝つから!」
『自信に満ちていますね。しかし、それでこそ、このクリムゾン・ティアーズの相手に相応しい!』
 クリムゾン・ティアーズがシールドを投げ、ミサイルの雨をシルフィーナディアの周辺に降らす。
 しかし、シルフィーナディアの上空でミサイルが全て爆発した。紅葉が驚く。
 シルフィーナディアの両肩のリアクターウイングからビームが発射され、自動で迎撃していた。
 明日香もリアクターウイングの自動動作に唖然とする。
「あれ……?」
 リアクターウイングに備わっている迎撃機能は、アローナディア時のシールドウイングと同じ。
 しかし、自動迎撃とは思わない。
「……飛鳥君に詳しく教えてもらってた方が良かったよね、間違いなく」
 苦笑する。



 同時刻、飛鳥は違うショップのバトル・フィールドで『ダーク・コネクター』とバトルしていた。
 その敵の数は11体。10体は格段に強いわけでもなく、ものの数分で倒されている。
 しかし、厄介なのは最後の敵だ。流石は『ダーク・コネクター幹部』だと痛感する。
「……残ったのはあんただけだぜ、”全てを悟りし者”ガルノア!」
『幹部でないとは言え、10体もの相手を数分で倒せるか。流石は、ソード・マスターだ』
「そんな事はどうでも良い! お前達『ダーク・コネクター』は何が目的だ!?」
『それは、私を倒して聞き出してみろ』
「望むところ!」
 セルハーツが駆ける。巨大な剣を持つガルノアのドライヴ――――オーガノスが牙を向いた。
 巨大な剣が大地に強く叩きつけられ、地割れが起きる。飛鳥はそれを瞬時に見切った。
 空へと舞い、剣を振りかざす。
「エアブレードッ!」
 放たれる風の刃。オーガノスは巨大な剣でガードした。
 その瞬間を狙って、セルハーツが急接近し、軌跡を描く。
「ミラージュ・ブレイドッ!」
『――――!』
 オーガノスがその動きを見切り、避ける。飛鳥は舌打ちしつつ驚いた。
「あの距離でミラージュ・ブレイドを避けた!?」
『間一髪と言ったところか』
「ミラージュ・ブレイドを見切れた……あれができるのは、『鷹の瞳』だけ……ガルノア、あんたは……!」
『察しの通りだ、ソード・マスター。私は、お前と同じ鷹の瞳を持つ人間だ』
 その言葉に目を見開く。ガルノアはやはり実力だけではなかった。
『ソード・マスター』が持つと言われている、見切りの素質『鷹の瞳』。
 ガルノアが『鷹の瞳』で飛鳥を睨んだまま、言葉を続ける。
『この私に鷹の瞳を使わせた。やはり、常戦無敗の名は伊達ではないようだな、ソード・マスターよ』
「……何が言いたい?」
『その瞳……お前は、先代のソード・マスター以上に良い瞳をしている』
 そして、自分が知っている人物に似ている瞳だ。ガルノアは剣を収めた。
 その行動に飛鳥は疑う。
「余裕のつもりか、ガルノア!?」
『違う。今は、お前の強さを確かめたいと思っただけだ』
「俺の強さ……?」
アイス・ドールが、自分の妹にバトルを挑みに向かった』
「明日奈が!?」
『これ以上、私はお前と戦う事はしない。お前とのバトルは、アサシン・ブレードが動き出した時だ』
『行け』とガルノアが言葉を進める。飛鳥は歯を噛み締めた。
 ここでガルノアを倒しておけば、今後の奴らとのバトルでは楽になれる。
 しかし、明日奈が明日香にバトルを挑んだ。それだけは放っておけなかった。
 あの二人を戦わせる前に、自分が明日奈に答えを出さなければならない。
「……ガルノア、次にバトルする時は見せてやるよ、本当の『ソード・マスター』の強さを!
 あんたが何で明日奈の事を教えてくれたのかは、その時にでも聞き出す……!」
『私に勝てればな』
「勝つさ。お前らみたいな『ダーク・コネクター』に俺は負けない!」
 セルハーツがコネクト・アウトする。ガルノアはしばらくその場にいた。
 彼の瞳はやはり似ている。自分が初めて負けた相手の瞳に。
『……様子を見に言った方が良いようだな』



 バトルが始まって10分。明日香はようやくシルフィーナディアの性能に慣れた。
 リアクターウイングは、シールドウイングを発展させたアクティブ・ウェポン。
 自動迎撃機能は、リアクターウイングの本質が見せる”単なるおまけ”だ。
「そして……これが……!」
 リアクターウイングの砲身がクリムゾン・ティアーズに向けられる。
「シルフィーナディアの新しい武器、レイブラスター!」
 放たれる二つのビーム。クリムゾン・ティアーズはジャンプして上手く避けた。
 刹那、シルフィーナディアが右腕に装備しているシールドから砲身を見せ、構える。
『しまっ……』
「お願い!」
 放たれる。クリムゾン・ティアーズは防御できず、そのまま直撃を受けた。
 地面に叩きつけられ、その鼓動を止める。紅葉は思わず舌打ちしてしまった。
 審判であるリュウマチ小暮が判定を下す。
「勝者、星川明日香ぁぁぁ!」
 勝利が告げられる。明日香は小さく両手でガッツポーズをした。
 ドライヴ本体に浮かぶ「C」の文字が「B」に変わる。
「なお、今回のバトルによって、Bランクへとランクアップが認められます。おめでごうございます!」
「ランクアップ……そう言えば、上のランクの人に勝てば、できたんだよね……?」
 すっかり忘れていた。それが今の明日香だった。
 紅葉が「もう少し特訓する必要がありますね」と呟きつつ、コネクト・アウトする。

 ――――Bランク? まだまだね。

 刹那、氷の刃が空から降り注がれる。シルフィーナディアはリアクターウイングで防御した。
 砂煙が舞う中に見える影。飛鳥のセルハーツと同じカラーリングを施した女性型のドライヴ。
 明日香はそのドライヴを見て目を見開いた。
「明日奈!?」
『ドライヴを始めて3年……ようやくBランクなんて、まだ弱いわね、明日香』
「…………」
 セルハーツに似たドライヴ――――ハデスハーツが右手に持つ炎の魔剣を突き向ける。
『私と勝負なさい、明日香』
「え……!?」
『飛鳥は誰にも渡さない。たとえ、明日香、あなたでも……!』
 ハデスハーツが左手に持つ氷の魔剣から、氷の刃を放つ。シルフィーナディアはそれを防いだ。
 明日香は紅葉とのバトルが終わった後で良かったと安心する。そうでなければ、巻き込んでいた。
 シルフィーナディアのリアクターウイングの砲身が、静かにハデスハーツに向けられる。
「明日奈、私も飛鳥君が好き……だから、飛鳥君は譲れない」
『そんなの分かっているわ。だからこそ、ここであなたを仕留めるのよ!』
 ハデスハーツの持つ二本の魔剣が、互いを挑発するかのように眩しい光を放っていた。



次回予告

 こんにちは、明日香です。
 明日奈とバトルする事になった私。やっぱり、明日奈とは戦わなきゃ駄目なのかな……?
 だって、私と明日奈はたった二人だけの姉妹なんだし……。

 次回、CONNECT17.『明日奈の答え』

 ドライヴ・コネクト! 明日奈、目を覚まして!



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