CONNECT21.『今明かされる全て』前編


 バトルの終了と同時に、飛鳥はコクピット・ランサーで深い深呼吸を一回だけした。
 今までにない疲労感。コクピット・ランサーを開けて、明日香が顔を覗きこませて来る。
「飛鳥君……大丈夫?」
「……まぁ、ね」
 明日香に手伝ってもらって、コクピット・ランサーから出てくる。
 そして、セルハーツを入れているドライヴを見る。
「……あの技、一体何だったんだ……?」
 セルハーツにドライヴを変えてから、最強を誇るミラージュ・ブレイドを超える謎の技。
 間違いなく、その強さはバスターファルシオンと言う『ドライヴ=レガリア』の力を超えている。
 しかし、クールダウン300秒はとても大きいと思った。
 足を一歩踏み出そうとした途端、ふらつく。明日香がそれを支えた。
「……ごめん」
「ううん。ベンチで少し休む?」
「……そうだね。できれば、冷たい紅茶も飲みたい」
「それはワガママ」
 軽く頬にキスをする。飛鳥の頬がやや朱色に染まっていった。
 そんな飛鳥の姿を遠くから見て、顔をニヤニヤとさせている優と郁美の姿がある。
「ただのはとこ同士にしては、仲良いわね、あすあす♪ ほっぺにチュッだなんて」
「もしかして、付き合い始めたのかしら?」
「……お二人とも、何が言いたいんですか……」
 頬を赤くしたまま、飛鳥が訊く。しかし、否定はできなかった。
 その隣で明日香も頬を赤くして、下を向いている。「やっぱりね」と優が微笑む。
「まぁ、あすあすが明日香ちゃんを好きだって事分かってたし、恋人同士になれて良かったね、あすあす」
「……って、俺、まだ明日香から答え聞いてないんですけど……」
「何言ってんの、色男♪ その様子じゃ、明日香ちゃんもオッケーに決まってるでしょ」
 ポンポンと頭を叩かれる。飛鳥は何も言えなかった。
 いや、言える訳がない。特に、先代である彼女達には。
 そんな飛鳥達に近づく一つの影。飛鳥がそれに気づくと、明日香もその方向を見た。
 明日香と同じ顔立ちで、髪を一本の三つ編みにしている。
「明日奈……」
「……こうやって、顔を見せるのは久しぶりね、飛鳥」
「……そうだな」
 飛鳥が少しだけ微笑む。そして、すぐにドライヴを取り出した。
 明日奈もドライヴを取り出し、飛鳥に渡す。二つのドライヴを持って、飛鳥が訊く。
「本当に良いんだよな?」
「……ええ。『ダーク・コネクター』じゃなくても、あなたは私を見てくれるから」
「……分かった。『ソード・マスター』の名において、コネクター・星川明日奈のランクダウンを開始する」
 飛鳥のドライヴから明日奈のドライヴに光が転送され、明日奈のドライヴの液晶に映る文字が「E」になる。
 まだ『ドライヴ・マスター』から了承は得ていないが、それくらい、どうにかしてみせる。
 明日奈にドライヴを返す。
「まだ正式じゃないけど、これで、普通のコネクターに戻れるはずだ」
「……ありがとう」
「別に良いよ。……明日奈、前に明日奈が訊いて来た事の答えだけど……」
「明日香が好きなんでしょう?」
「……ああ」
 飛鳥が頷く。「そう」と明日奈は明日香の方を見て微笑んだ。
「これで、次の恋が探せるわね、私も」
「……ごめん」
「飛鳥が謝る理由はないわ。でもね……」
 明日奈が腕を飛鳥の首に回し、背伸びをする。
 飛鳥と明日奈の唇が重なる。飛鳥は目を見開いた。そして、明日香はそれを見て頬を膨らませた
 明日奈が飛鳥から離れ、自分の唇を指でさする。
「あ、明日奈……!? 一体何を……!?」
「ファーストキスは、飛鳥にあげたかったから」
「って、そんな簡単に……って、明日香!?」
 恐る恐る明日香の方を見る。頬を膨らませ、嫉妬している明日香の姿が目に入った。
「……飛鳥君なんて、大嫌い!」
「ちょっと待て……明日奈がいきなりやってきたのに、俺のせい……!?」
「私の事好きって言ったのに、明日奈とキスするんだもん……飛鳥君なんて大嫌いなんだから!」
「……俺加害者かよ、おい!? つーか、俺がやったんじゃな――――」
 そして今度は明日香が飛鳥の首に腕を回し、キスをする。飛鳥、連続の不意打ち。
 パチパチと目を閉じたり開けたりする飛鳥。明日香が頬を赤くしたまま言う。
「これからは気をつけてね?」
「……あ、う、うん……」
 飛鳥の顔がさらに紅潮を続ける。このままいけば、頭でお湯が沸かせるのではないかと思わんばかりに。
 優が後ろから飛鳥の首を絞める。「このこのー」と嬉しそうな顔をしながら。
「可愛い子二人とキスなんて、あすあすモテモテね〜」
「うぐっ!? ……優さん……首……首絞めて……」
「ん〜? 何か言った〜?」
「だから……首絞めて……」
「あ〜、大丈夫大丈夫♪」
「大丈夫なわけあるかぁぁぁ!」
 どうにか振り払う。「あー、やっぱり怒られたー」と可笑しそうに優が言う。
「ま、それはともかく、喫茶店でお祝いしよっか〜。あすあす、お金持ってるよね〜?」
「……って、俺の祝いなのに、俺が払うんですか……」
「違う違う。明日香ちゃんがあすあすと付き合う事になったお祝い
「そっちかよ!? って、俺も関係する事――――って、え……あぁ……!?」
「ん? どうしたの?」
 飛鳥の表情の変化にすぐ気づく。明日香が飛鳥の見ている方角へ目を向けた。
 スーツに身を包んだサラリーマンの男性が一人。その目の鋭さは、飛鳥に似ていた。
 明日香と明日奈がその姿を見て驚くが、一番驚いていたのは飛鳥だった。
 ここにはいないはずの人が――――まだ日本に帰ってくる予定じゃない人が、なぜかそこにいる。
「父さん……何で……!?」
「たまたま日程が早まったのでな。それで……」
 父が飛鳥を睨む。
「なぜ、こんな所にいる? 私はドライヴを許可した覚えはないぞ」
「それは……」
 言葉に詰まる。確かに、父には黙ってドライヴを始めていた。
 しかし、予想外だ。まさか、突然日本に帰ってくるなんて、絶対に思ってもいない。
 飛鳥の焦る表情を見ながら、父が口を開く。
「今すぐドライヴをやめなさい」
「え……!?」
「今すぐ引退するんだ、飛鳥。ドライヴを捨てなさい」
「……嫌です」
 首を横に振る。
「父の言う事を聞きなさい」
「嫌です! ドライヴは俺にとって大切なものです! 俺に居場所をくれた大切なものなんだ!」
「馬鹿な事を言うな。私の言う事を聞きなさい」
「嫌です! 俺はドライヴを――――自分の居場所を失いたくない!」
「飛鳥!」
 父の平手が飛鳥の頬を叩く。飛鳥は父を睨みつけた。
 歯をぐっと噛み締め、拳を強く握る。
「俺は絶対にドライヴをやめない! 大体、何で父さんは、ドライヴだけは認めてくれないんだ!」
「そんな事は知らなくても良い」
「知らなくて良いわけがない! 父さん、どうしてドライヴだけ認めてくれないんだよ!」
「お前は知らなくても良い事だ。とにかく――――」
「全てを話したらどうだ、蓮杖常世」
 一人の男が現れる。ひげを伸ばしている長身の男。年は父と同じくらいか。
 男を見て、父がやや目を見開く。
「久しいな、蓮杖常世。あれから、16年振りか」
「……ガルノアか……正確に言えば、16年半だ。飛鳥が生後半年だったからな」
「ガルノア!? な、何で父さんがガルノアを……!?」
「私が全てを悟りし者であり、そして初代『ソード・マスター』候補と呼ばれていたからだ」
「――――!?」
 飛鳥が目を見開く。父はガルノアを鋭く睨んだ。
「何を話す気だ」
「蓮杖常世よ、お前の息子はもう、コネクターの道を歩んでいる。それも、『ソード・マスター』の道を」
「……『ソード・マスター』だと……?」
「そうだ。全てを話せ、蓮杖常世よ。お前の息子の為にも」
 その言葉に、父は少しばかり黙り込む。
 飛鳥の方を見る。一体何がどうなっているか分からない表情を浮かべている。
 しばらくして、父がその重い口を開けた。
「……今から19年前の話だ。まだ小型化、安価になっていないドライヴに私は出会った。
 その時は、今で言う『フォース・コネクター』を決めるバトルが行われていた」
「19年前……俺が生まれる前……」
「そして、初代の『ソード・マスター』を決める最後のバトルにおいて、そこのガルノアは一人の女性に負けた。
 資質と呼ばれる『鷹の瞳』を持つ女性。私はその大会で、その女性と出会ったのだ」
「……それって、まさか……!?」
「そうだ。私の妻であり、お前の母である春香は、初代の『ソード・マスター』になった人だ」
 父の言葉に、飛鳥は目を見開いた。



次回予告

 明日香「こんにちは、明日香です」
 亜美 「亜美です! お、驚きですよね、飛鳥さんのお母さんが初代『ソード・マスタ』だったなんて……」
 明日香「うん。飛鳥君も知らなかった事だし……昔、何かあったのかな?」
 勇治 「分かるのは、飛鳥は馬鹿だと言う事だ」
 飛鳥 「…………」
 勇治 「……熱でもあるのか、お前? いつものツッコミがないぞ」
 飛鳥 「…………」
 勇治 「……すまん、俺が悪かった。だから、ツッコミを頼む」

  次回、CONNECT22.『今明かされる全て』後編

 明日香「次回は後編! 皆、楽しみにしててくださいね♪」
 勇治 「飛鳥、頼むからツッコミを入れてくれ……」
 飛鳥 「…………」
 亜美 「い、いつもの飛鳥さんのキャラじゃない……(^^;」



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