CONNECT32.『魔王の降臨』


 大地に倒れたディル・ゼレイク。飛鳥が何度も勇治の名を叫ぶ。
「勇治! 勇治ッ! 返事をしてくれ、勇治ぃぃぃッ!」
 しかし、全く返事がなかった。気を失っているのだろうか。
 ディル・ゼレイクのパワーゲージを確認する。まだ0%ではなかった。
 まだ勇治は負けていない。まだ、『マグナム・カイザー』のままだ。
 イブリスが言う。
『もはや、彼は戦えないでしょう。アサルト・ハンター、最後にトドメを』
『当然だ』
 レイ・マキシマムが両腕を前面へと稼動させ、脚部を真っ直ぐに伸ばして合わせる。
 機体全体が真横になり、大地に接する面からスラスターが出現し、宙へと浮く。
 レイ・マキシマムは巨大な銃へと変形した。



 バトル・フィールドの外、バトルを観ていた晃鉄が目を見開く。
「あれは、ドラウニプル・モードか……!?」
「ドラウニプル……?」
「将射のレイ・マキシマムは、巨大な銃へと変形する機構を搭載している。
 その銃の名をドラウニプル。神話で登場する、9夜ごとに8つに増える腕輪の名をつけた形態だ」
「あ、あの……あの銃の形態と関係ないような気が……」
 明日香が疑問に思う。晃鉄は首を横に振った。
「あの形態がそう呼ばれているのは、あの形態で開く砲門の数を言うんだ。
 9つの砲門を見せる形態。その数から、あの名がついた」
「もしかして、強いんですか……?」
「……強い。威力は間違いなく、『サタン・オブ・マグナム』と互角だと言われている」
「え……!?」



 ドラウニプル・モード。それは、『アサルト・ハンター』の最終兵器。
 9つの砲門を開き、狙いをディル・ゼレイクへと向けた。
『これで本当に最後だ、マグナム・カイザー』
 砲門全てにエネルギーがチャージされる。飛鳥はセルハーツをどうにかして立たせようとした。
 勇治が立てない今、敵の攻撃を防げるのは自分しかいない。
 セルハーツ達の周囲の重力を分析し、方法を考える。
 まず、『バスターファルシオン』を思いついたが、この重力では解き放つ事もできない。
「重力すら上回る機動性さえ使えれば……!」
 昔の事を思い出す。Bランクの頃の、制御できなかったセルハーツ。
 あの時のセルハーツは、今の自分でも動かす事はできない。
 しかし、他の方法が思いつかない。飛鳥が「くそっ!」と歯を噛み締める。
「このまま勇治を倒させるわけには……レガリアを奴らに渡すわけには……!」
『……この重力をどうにかする方法……』
 朧がドライヴの状態を確認する。まだオーディーンは十分動ける。
 斬鉄剣を使えば、この重力を断って動けるかもしれない。
『……イブリスは絶対に倒す……!』
「お兄ちゃん、起きて! お兄ちゃん!」
 亜美が叫ぶ。それを聞いた朧が亜美の方を見る。
「このままじゃ負けちゃうよ! お兄ちゃん、目を覚まして! 負けないで!
 飛鳥さんともう一度バトルするんでしょ!? 『マグナム・カイザー』のままでバトルするんでしょ!?
 嫌だよ! お兄ちゃんが『マグナム・カイザー』じゃなくなるの、私は絶対に見たくないよ!」
『亜美ちゃん……』
 朧が悩む。『アサルト・ハンター』の攻撃は今にも放たれそうだ。
 オーディーンを盾にすれば、『マグナム・カイザー』は助けられる。
 しかし、そうなるとイブリスを倒す事ができなくなる。
『…………』
「お兄ちゃん、起きて……! 起きてよぉ……」
『少女には悪いが、これで終わりだ。ナイン・ヘッド・ラグーン』
 レイ・マキシマムの9つの砲門から、一斉に波動が放たれる。
『……!』
 瞬間、朧が動いた。オーディーンが斬鉄剣にエネルギーを込め、斬鉄剣をイブリスに向けて投げる。
 エヴィル・アスラフィルへと放たれた斬鉄剣。イブリスはすぐに避けたが、重力制御が解けた。
 動けるようになったオーディーンが立ち上がり、大地に倒れるディル・ゼレイクをそこから吹き飛ばす。
 レイ・マキシマムの射線上に入ったオーディーン。9つの波動を全て受ける。
『ああああああっ!?』
「――――朧さん!?」



 朧によって、『マグナム・カイザー』は倒せなかった。イブリスが舌打ちする。
『朧め……!』
「ミラージュ・ブレイドォォォッ!」
 刹那、エヴィル・アスラフィルの右肩をセルハーツが両断した。
 動けるようになった瞬間に飛鳥は動いていた。
『な……ソード・マスター……!?』
「イブリス、これで終わりだ!」
『……くっ』
 エヴィル・アスラフィルが消える。あのイブリスが撤退した。
 すぐに勇治の方を見る飛鳥。ディル・ゼレイクは無事だった。
「勇治は無事……!? けれど、朧……!」
 あの攻撃を受けて、オーディーンが平気だとは思えない。



 レイ・マキシマムの攻撃によって、オーディーンは胸部以外の全てを破壊された。
 転がり落ちるオーディーンの胸部。亜美のエル・センティアが胸部を拾い上げる。
「朧さん、しっかりしてください! 朧さん!」
『……どうして、でしょうね……? あなたが悲しむ……姿を見たくないって思った……』
「え……!?」
『あなたは妹に……美月に似てる……だから……』
 朧が微笑む。
『……だから、あなたの力になりたいって思えた……』
「朧さん……」
『大丈夫……あなたのお兄さんなら、きっと勝てる……から……』
 オーディーンの胸部が消えていく。亜美が目を見開いた。
「お……朧さん……!? 朧さん!? 消えちゃ嫌だよ、朧さん! 朧さぁぁぁぁぁぁんっ……!」
 涙が流れる。それを見た飛鳥が優に叫んだ。
「優さん!」
「分かってる。妹ちゃんと一緒にコネクト・アウトして、朧はどうにかしとく」
「お願いします」



 意識が蘇る。まだバトル・フィールドにいるらしい。
 ディル・ゼレイクは辛うじて生き延びているようだ。
「……あ……み……」
 妹の名を小さな声で呼ぶ。その時、泣き声が聞こえた。
「……亜美……なぜ泣いている……?」
 何が起きたか分からない。しかし、間違いなく妹は泣いている。

 ――――誰が泣かした? 誰が亜美を泣かした?

 目の前に見えるのは、『アサルト・ハンター』のドライヴ。

 ――――奴か。奴が亜美を泣かしたのか。

 ディル・ゼレイクがサタン・オブ・マグマムを強く握る。

 ――――よくも亜美を泣かしたな。貴様だけは許さない……!

 ――――そう、貴様だけは絶対に……! よくも……よくも亜美を……

「――――亜美を泣かしたなぁぁぁぁぁぁっ!」

 ディル・ゼレイクが立ち上がる。サタン・オブ・マグナムが黄金に輝いた。
 銃身が若干伸び、銃口が大きく開く。開いた銃口から、禍々しい銃口が姿を見せた。



 ファルシオンセイバーが反応し、飛鳥も嫌な感じに襲われた。
 ディル・ゼレイクが立ち上がっている。データを確認しつつ、飛鳥が目を見開く。
「射撃攻撃力がいつもの数十倍……!? って、まさか……」
「……よくも亜美を……俺の妹を泣かしたな……! よくも……よくもっ……!」
「……思いっきりキレてるし……。しかも、サタン・オブ・アブソリュートかよ……」
 黄金の輝きを放ち、禍々しい銃口を持った『サタン・オブ・マグナム』の真の姿。
 勇治の状態から、この場にいるのは危険だと飛鳥が判断する。
 途端、優が飛鳥に訊いて来た。
「あすあす、ゆうゆうってばキレてる? 初めて見たんだけど」
「……思いっきりキレてますよ。そりゃもう完璧に」
「ゆうゆうのシスコン度は凄いわね〜。とにかく、こっちは妹ちゃんとコネクト・アウトするから」
「お願いします。俺は、先の事を考えて、ここに残りますんで」
「ま、勝負はついたでしょ。無事生き残りなさいね、あすあす」
 そう言って、優の獅王紅蓮姫が亜美のエル・センティアと共にコネクト・アウトする。
 優の言葉に飛鳥は苦笑した。確かにその通りだからだ。
 飛鳥が危険だと判断したのは、勇治と相手のバトルによる被害と言うわけではない。
 危険なのは、勇治が見境なく攻撃する状態になっているからだ。
「……ったく、亜美ちゃんの事でキレるなって前に言ったのに」
 肩を落とす。勇治のあの状態を見るのは、これで二度目だ。
 前も亜美の事で怒り、見境ない状態だったのは言うまでもない。
「さて、しばらく様子を見るか。このバトルは、どうせ勇治の勝ちだしな」



 立ち上がったディル・ゼレイク。『アサルト・ハンター』が少しだけ笑みを浮かべた。
 レイ・マキシマムがドラウニプル・モードから人型へと戻る。
 面白い。まだ戦うと言うのなら、こちらも容赦なく相手をしてやる。
『グランドクロス・ショット』
 レイ・スペル・ノヴァから銃弾が十字のになって放たれる。
 勇治がそれを鋭く睨みつけ、サタン・オブ・アブソリュートが銃声を轟かせた。
 十字状に放たれた銃弾全てを一発で撃ち落し、連続でもう一発撃つ。
『アサルト・ハンター』が襲い掛かる銃弾の中心点を見抜き、そこを狙って撃つ。
 しかし、襲い掛かる銃弾は散る事無く、レイ・マキシマムの右肩を奪い去った。
『な……!?』
「貴様は亜美を泣かした……! 貴様だけは絶対に許しはしないッ……!」
 勇治が睨みつける。それに応えるかのように、ディル・ゼレイクのカメラアイが一瞬だけ強く光る。
 サタン・オブ・アブソリュート。それは、絶対的な貫通弾を撃つ最強の銃。
 全てを断つ力を持つ『バスターファルシオン』と並ぶ脅威の『ドライヴ=レガリア』。
 もはや、『アサルト・ハンター』はその銃弾を撃ち落す事はできない。

 怒りに満ちた勇治の反撃は、ここからだ……!



次回予告

 明日香「こんにちは、明日香です」
 飛鳥 「飛鳥です」
 明日香「勇治君って、怒ると凄いんだね……」
 飛鳥 「と言うより、危険だな。敵味方関係なく攻撃してくるし
 明日香「……怒らせたらダメって事だね」
 飛鳥 「……だな」

  次回、CONNECT33.『友情の天翔蒼破絶靭斬』

 飛鳥 「次回は、ついに『アサルト・ハンター』との決着!」
 明日香「けど、タイトルからすると、飛鳥君がメインな感じが……」
 飛鳥 「そりゃ、俺が主役だから」
 明日香「……どうせなら、私の出番増やして欲しいのに……」(←妙に出番の少ないヒロイン)
 飛鳥 「それは作者に言わないと。なぁ、作者?」
  ※……訊くな。



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