CONNECT37.『暗黒へと染まる刃』


 次の日、飛鳥は学校を休んだ。行く気がなかった。
 少しでも早くこよみを助けたい。そんな思いで必死だった。
「ここも奴らの反応はない、か……」
 舌打ちする。学校を休んでショップにいた。
 理由は、『ダーク・コネクター』を探す為。こよみを助ける為。
 自分が知るショップはほとんど探したが、全く反応がない。
「くそっ、こよみさん……!」
 奥歯を噛み締める。その時、ドライヴから着信音が鳴り響いた。
 如何にも脱力感漂う着信音。相手が誰なのか調べる必要などない。
 渋々と電話に出る。
「もしもし?」
『俺だ。今どこだ?』
 相手は当然勇治だった。いつも通りの口調で訊いてくる。
「お前はどこだよ?」
『学校だ。今終わったところだがな』
「そうか、もうそんな時間なのか」
 近くの時計で時間を確認する。すでに16時近い。
 確認すると少しだけ空腹感があるのに気づく。
『それで、どこにいる?』
「昔行ってたショップだ。相変わらず、品揃いが悪くて人気も少ないぜ」
『あそこか。俺もそこへ行く必要があるか?』
「その様子だと、聞いてるみたいだな」
 訊く。勇治は何も躊躇う事無く会話を続ける。
『俺は必要ないか?』
「ああ。俺一人で助けてみせる。こよみさんは、必ず助けてみせる」
『分かった。話はそれだけだ』
 電話が切れる。飛鳥は軽く溜め息をついた。
 勇治には悪いと思っている。しかし、これは自分の問題だ。
 ゴウや先代『フォース・コネクター』は関係ない。自分だけの問題。
 ドライヴが強い反応を示す。「ようやく見つけた」と飛鳥が呟く。
「……こよみさん、必ず助けますから……!」



 飛鳥のいるショップの喫茶店。そこで、優と郁美はたまたま仕事を抜け出していた
 見つけたのか、飛鳥の姿に「やれやれ」と、優が肩を落とす。
「こよちゃんに必死ねー、あすあすってば」
「偶然とは言え、流石に驚くわね」
「と言うより、呆れる。明日香ちゃんって彼女がいるのに。ま、イブリスの動き次第で、助っ人に回りますか」
 そんな優に、郁美が少しだけ笑みを漏らす。
「結局、飛鳥が心配なのね、優は」
「当たり前でしょ。なんたって、あすあすは私達が認めた子なんだし」
 初めてバトルを見た時から、必ず『ソード・マスター』になると思わせてくれたコネクター。
 先代『ソード・マスター』が見つけた後継者。
 飛鳥は誰よりも強くなる。だからこそ、今の状態が心配なのだ。
「それに、あすあすのバトルは見てて楽しいのよ。まだまだ磨かれいく感じで」
「優にとって、飛鳥は弟のようなものかしら?」
「まーね。自慢の弟ってところ?」
 そして互いに笑う。



 バトル・フィールドにセルハーツが構築される。飛鳥は周囲を見渡した。
『ダーク・コネクター』の反応はあった。間違いない、すぐに現れる。
 そう思った矢先、前方から巨大なドライヴが姿を見せた。
「グレート・ビックフット……!」
『ソード・マスター一人か……なるほど、イブリスの言ったとおりだ』
「どう言う意味だ?」
『知る必要などない。お前は、俺が始末するのだからな』
 巨大な拳が振り落とされる。飛鳥はすぐに見切った。
 拳を避け、剣を構える。風の刃が放たれた。
「エアブレード、フラッシングソードッ!」
 セルハーツが加速し、グレート・ビックフットの駆るジャイアント・サイクロプスに接近する。
 瞬間、横から雷の鞭が振るわれた。気づき、『鷹の瞳』を使って避ける。
 距離を取る。刹那、背後からもう一体、手足の長いドライヴが現れ、セルハーツに襲い掛かる。
『ヒャーハッハッハッハッハァッ!』
「このッ……!」
 ファルシオンセイバーを大地に突き刺す。
「輝凰! 斬・王・陣ッ!」
 突き刺した部分を中心にエネルギーを放出し、背後から攻撃してきたドライヴを遠ざけた。
 攻撃を全て避け防ぐ飛鳥。そのセンスは、『ダーク・コネクター』が複数でも凄まじかった。
 雷の鞭を振るったドライヴ――――ヴォルト・デュラハンに剣を突き向ける。
「お前ら幹部に用はない。『ナイトメア・クイーン』……こよみさんを出せ!」
『クイーン様の出番はありません。あなたは、私達の手で始末する事になっていますから』
 ヴォルト・デュラハンが雷の鞭を振るう。セルハーツはすぐに避けた。
 背後から、再び手足の長いドライヴ――――幹部の一人、アテ・デーモドコスが襲い掛かる。
 刹那、セルハーツがその場から姿を消した。
『ヒャハハハハァッ、消えやがったぜぇ!?』
「誰が消えるか……俺はここだ!」
 アテ・デーモドコスの上空から、セルハーツが剣を振り上げる。
「エアブレード・アトモスフィアッ!」
 風の刃を放つ。放たれた風の刃が拡散し、風の飛礫となって降り注がれる。
 風の飛礫がアテ・デーモドコスを撃ち抜く。
『ぬぁぁぁっ!?』
「ゴッドランチャー!」
 風の飛礫に撃ち抜かれたアテ・デーモドコスを、さらに巨大なビームが襲う。
 沈黙するアテ・デーモドコス。撃破までの時間は30秒とかかっていない。
 前に戦った時は別人のような強さ。グレート・ビックフットが仕掛ける。
『ブレイク・ヘルッ!』
 巨大な拳が大地へと振り落とされる。大地が割れた。
 それを見切って、飛鳥が反撃する。しかし、ダメージはない。
 ジャイアント・サイクロプスの拳を見て、飛鳥が口を開く。
「……『レア・ウェポン』ギガントハンド……!」
『良く分かったな、ソード・マスター』
 ギガントハンド。巨大ドライヴ専用として作られた右腕型のアクティブ・ウェポン。
 その威力は、間違いなく『ドライヴ=レガリア』を除くアクティブ・ウェポンの中で最強を誇る。
『だが、ギガントハンドだからと言って、お前に勝てる術などない』
 グレート・ビックフットが立ちはだかる。



 同時刻、明日香は落ち込んでいた。帰り道、何度も溜め息をつく。
「はぁ……」
 ショックだった。飛鳥は自分の事をなんとも思っていない。
 そう思う度に、胸が締め付けられる。正直、辛い。
「はぁ……」
「溜め息ばかりじゃ、辛いだけだよ」
 そんな明日香に一人の男性が話し掛ける。ゴウだった。
「ゴウさん……どうして、ここに……?」
「君が用があってね」
「私に……?」
「そう。飛鳥君とこよみちゃんの事でね」
 そう聞いて、明日香が顔を俯かせる。ゴウが苦笑した。
 予想通りの反応だ。これは、自分でも意外だった。
「やっぱり、気になるのかい?」
「……はい。飛鳥君……こよみさんと何があったんですか……?」
「こよみちゃんが誰なのかは知っているね?」
「はい。先代『ソード・マスター』の……輝凰さんの恋人ですよね?」
 ゴウが頷く。
「うん。そして、飛鳥君にとって掛け替えのない人でもある」
「え……!?」
「こよみちゃんはね、飛鳥君とドライヴを出会わせた子なんだ」
 3年前、先代『ソード・マスター』は「凄い奴を見つけた」と自分に言ってきた事を明日香に話す。
 偶然、飛鳥がこよみと出会い、そしてドライヴと言う世界を知った事。デビューした事。
 もし、こよみと出会わなければ、今の飛鳥はなかったと言っても良い。
「そして、一度だけ付き合った事があるらしい」
「一度だけ……?」
 胸が締め付けられる。明日香の思っている事が分かっているのか、ゴウが首を横に軽く振る。
「付き合ったと言っても、すぐに終わったんだよ」
「終わったって……どうしてですか?」
「二人が付き合った理由は、輝凰がこよみちゃんと別れたからだ」
「別れたんですか!?」
「そう。留学を理由に別れたんだ。日本に帰らないかもしれないと言う事でね。
 それで、こよみちゃんは飛鳥君と付き合う事で、輝凰の事を忘れようとした。けれど、忘れられなかった。
 そんな彼女の姿を見て、飛鳥君は自分の感情より、彼女の感情を優先したって言っていたよ」


「本当に、それで良かったのかい?」
 当時、ゴウの元を訪ねた飛鳥は、どこか無理をしているようにも思えた。
 しかし、隠すように「はい」と返事をする。
「……確かに、こよみさんは初恋の相手です。けど……俺じゃダメなんです。
 俺が好きになったこよみさんは、あの人の隣で笑ってるこよみさんだから……」
「だから、自分の気持ちを殺したのかい?」
「……はい。決めるのはこよみさんですよ? 俺が決めるわけにもいかないから……」
 そして、飛鳥が唇を噛み締める。
「……こよみさんの泣いてる顔見たら、好きだなんて言えないですよ……。
 笑っていて欲しいんです……泣いてるこよみさんを見たくない……見たくないって思ったから……」
「そうみたいだね」
「……これで良かったんですよね……!? 俺が取った行動は……間違ってないですよね……?」
 飛鳥の瞳から涙が流れる。そんな飛鳥の頭に、ゴウが手を置く。
「そう思うなら、間違っていない。君は、彼女の為に出来る事をやったんだから」
「はいっ……」


「そして、飛鳥君は決めたんだよ。こよみちゃんの笑顔を守るって。
 自分の為じゃなく、彼女本人の為に。輝凰の帰りを待つ彼女の為にね」
「……もしかして、飛鳥君が必死になってるのって……」
「そう。守れなかったらだよ。自分のせいで、彼女は『ダーク・フォース』になったと責めているからだよ」
「…………」
 明日香が黙る。飛鳥が言っていた「関係ない」と言うのは、こう言う事だった。
 守れなかった自分を責め、そして自分が助けないといけないから必死になっていた。
「飛鳥君……」
 胸が締め付けられる。飛鳥の気持ちが分からなかった事に対して。
 そんな時、ゴウのドライヴが反応する。
「……どうやら、出てきたみたいだね。優と郁美に連絡してくれるかい?」
「え……?」
「飛鳥君一人だけじゃ危険かもしれない。だから、その手助けをしてくれないかな? 飛鳥君の為にもね」
「……はいっ」



 ヴォルト・デュラハン、グレート・ビックフットの攻撃を避けつつ、セルハーツが反撃する。
 その時、セルハーツの攻撃が無効化された。
『アテ・デーモドコスは倒されてしまいましたか。あまり役に立たずに終わるとは』
 姿を見せる。その姿を飛鳥は睨んだ。
 ダーク・ブルーで施され、闇に染まる女神のレリーフが刻まれた盾を持ち、その姿を隠すドライヴ。
 そして、イブリスの駆るエヴィル・アスラフィル
「こよみさん……それに、イブリス……!」
『相手はソード・マスターただ一人。なのに、ダメージすら与えていないのですか?』
 そう言って、ヴォルト・デュラハンとグレート・ビックフットを睨む。
『申し訳ありません、ナイトメア・クイーン様……』
『まぁ、別に良いでしょう、ナイトメア・クイーン。作戦通り、ソード・マスターただ一人なのですから』
「こよみさん!」
 セルハーツが構える。
「こよみさん、すぐに助けます……!」
『前に言ったはずです。私はスティア。ダーク・フォースが一人、ナイトメア・クイーンだと』
「違う、あなたはこよみさんだ。だって、あなたは元々コネクターじゃない。ただの一般人だ。
 あなたは先代の大切な人。俺は、あなたを助ける。今のあなたは、あなたじゃない……!」
『先代ソード・マスターですか……』
 イブリスが不敵に笑う。そして、氷の飛礫を集結させて剣を生成し、逆手に構えた。
 剣が眩しい光を放っている。それを見た飛鳥が目を見開く。
「まさか――――!?」
『斬王陣』
 剣を大地に突き刺す。剣を中心に、大地からエネルギーが放出された。
 セルハーツがジャンプして攻撃を回避する。
 その姿を見て、「ほう」とイブリスが笑みを浮かべた。
『動きだけで、何をしようとしていたか分かりましたか……』
「……何で輝凰・斬王陣が使える!? この技は、俺と――――」
『先代ソード・マスターだけの技。ええ、確かにそうですよ』
 イブリスがエヴィル・アスラフィルの左腕を見せる。
『ダークハンド。このアクティブ・ウェポンは、ドライヴを吸収する事でコピーする事ができる』
「それはありえない。コピー自体、不可能だ……!」
『できるんですよ、ダークハンドであれば。お陰で、私は最強になれました』
「……どう言う事だ……!?」
『最強と呼ばれた先代ソード・マスターは、私が殺しました』
「――――!?」
 飛鳥が目を見開く。そして、自分の耳を疑った。
 イブリスの言葉を信じない自分がいる。先代『ソード・マスター』が死んだなんてありえない。
 あの人は自分が憧れた、最強のコネクターと呼ばれた人。
 飛鳥の反応を見て、イブリスが不敵な笑みを浮かべた。
『信じられない、と言った感じでしょうね。しかし、本当の事ですよ』
「嘘だ……そんなの嘘だっ!」
『嘘ではありません。これが証拠です』
 一本の剣を見せる。それを見た飛鳥が愕然とする。
 黄金に輝く、鳳凰の翼のような柄の剣。先代『ソード・マスター』が持っていた剣。
「先代の剣……そんな馬鹿な……」
 戦意を失ってしまったのか、セルハーツが構えを解く。イブリスがすぐに動いた。
 エヴィル・アスラフィルが重力を操り、セルハーツを大地に屈する。
 最後の一手は決まった。これで、あとは『ソード・マスター』ごとレガリアを手中に収めるだけ。
『ソード・マスターとファルシオンセイバー。二つとも、奪わせて頂きましょう』
 先代『ソード・マスター』の剣が闇に染まる。もはや、飛鳥には何もできなかった。



次回予告

 明日香「あ、飛鳥君が大ピンチ!?」
 優  「こりゃ本当にヤバイかも。お手上げって感じ?」
 郁美 「今のところ打つ手なし、ね」
 明日香「そんな、飛鳥君……ど、どうしよう……どうすれば……」(←思いっきり動揺中)

  次回、CONNECT38.『暗き闇を断つ鍵を』

 明日香「じ、次回は、飛鳥君が……飛鳥君が……」
 優  「もしもーし、次回予告できてないよ?」
 郁美 「私が代わりにやるわ。次回は超展開ね」
 明日香「あ、飛鳥君が……飛鳥君が……」(←壊れモードへ)
 優  「バッドエンド突入決定かもね」(←他人事のように)
 ゴウ 「心配ない! この俺がそんな事させん!」(←熱血モード)



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