「ま、待って……光哉君……」 「早く、沙由華! もう始まってる!」 歓声が湧き上がる特設ステージ。そこに、二人は到着した。 飛鳥を心の師匠としている時雨光哉、そして彼女の如月沙由華。 特設ステージ入口でチケットを渡して入る。そして、バトル・フィールドを見て目を見開いた。 「師匠が……押されてる……!?」 信じられなかった。自分の中では、師匠はその実力で相手を早くも追い込んでいると思っていた。 しかし、現実は違った。飛鳥は対戦相手にかなりの苦戦を強いられている。 否、逆に不利な状態だ。 「飛鳥さん、調子悪いのかな……?」 「……分からない。けれど、師匠がそれだけで苦戦なんて……」 同時刻。チーム『レザリオン』もようやく特設ステージに到着した。 明日奈が溜め息をつく。 「全く……こんな日に寝坊なんて最低ね、あなた達」 「う、うるせぇ! つか、何度も言ってるだろ、寝坊じゃなくて電車が遅れたって!」 「歩は完璧に寝坊だよね……」 「う、うるさいな……」 冷やかな言葉に、蓮と歩が愚痴る。 そんな中、明日香がメンバー全員分のチケットを受付に渡し、半券の残りを明日奈に渡した。 明日奈が明日香の様子を見ながら言う。 「何をそんなに慌てているの?」 「だって……最近の飛鳥君、凄く変だったし……。私、凄く不安で……」 「大丈夫よ、飛鳥なら。あっちのザコと違って」 「……おい」 ザコと言う言葉に、蓮が反応する。明日香は急いで観客席に走った。 バトルはすでに始まっている。しかし、まだバトルは終了していない。 それどころか、バトルは信じられない展開だった。 「飛鳥君!」 声を上げる。バトルは、飛鳥が苦戦していた。 明日奈達も駆けつけ、バトルを見て驚く。 「マジかよ……飛鳥が苦戦してやがる……」 「何で……!? あいつは『ソード・マスター』だろ!? なのに、何で!?」 「飛鳥さん、最近調子悪かったみたいだし、それが原因なんじゃ……」 「…………」 蓮、歩、瑞樹がそれぞれ不安に話す中、明日奈はバトルを見て不思議に思った。 「……やっぱり変ね。いつもの飛鳥だったら、苦戦なんてしないわ」 「え……?」 明日香が明日奈を見る。明日奈が続けた。 「飛鳥が凄いのは、資質やドライヴの性能に頼らなくても勝てるセンスなのよ」 どんなに強大な敵が現れようと、その技量で乗り越えていくバトルセンス。 それが蓮杖飛鳥と言うコネクターだ。 「飛鳥が資質を使う時ってどんな時か分かるでしょ?」 「確か、避け切れない時だよね?」 「ええ。飛鳥が避け切れないと思った時だけ」 それ以外は、どんな攻撃でも軽々と避けられる。それほど、飛鳥のバトルセンスは高い。 「けれど、飛鳥は『鷹の瞳』を使わないでダメージを受けているわ」 「分かるの、明日奈?」 「当然よ。私達の知ってる飛鳥は、どんな時でも回避してみせる飛鳥なのよ」 しかし、今の飛鳥は違う。回避が出来ていない。 攻撃と言う攻撃を見切る飛鳥のセンス。それが無理でも、資質で乗り越えるのが飛鳥だ。 「飛鳥が最近変だった理由が分かったわ」 「飛鳥君が変だった理由……?」 「ええ。……飛鳥は今、資質が全く使えないのよ」 「そんな……!?」 小野寺の放つサンダー・ビットが執拗にセルハーツを狙う。飛鳥は舌打ちした。 (くそっ……ライトニング・ストライクが通用しなかった相手に、どう戦う……!?) あの技なら倒せると思った。だが、それは無理だった。 動揺が焦りを生み、セルハーツの操作が鈍くなる。小野寺はそれを逃さなかった。 『疾』 真空刃を放つ。セルハーツの左腕が吹き飛ばされた。 「何……!?」 『遅いな、おい。獣』 再び真空刃が放たれる。飛鳥は瞳を鋭くした。 しかし、『鷹の瞳』は発動しない。迫り来る真空刃の動きが見切れない。 歯を噛み締めつつ、セルハーツを動かして回避する。 「……ストームッ!」 そして、カウンター。サンダー・ビットの隙を突いて、剣帝に直撃した。 が、剣帝は吹き飛ばされていない。 「くっ……!」 『無駄だって言ってるだろ? 天才の俺に、お前は絶対に勝てねぇんだよ』 再び、サンダー・ビットがセルハーツに襲い掛かる。 バトルを見ながら、先代『マグナム・カイザー』の優は首を傾げた。 それに気づいた先代『ストーム・クラウン』の郁美が話し掛ける。 「どうかした、優?」 「……しい」 「え?」 「おかしい。プラズマセイバーから繰り出された技とは言え、あんなにもダメージがないって有り得ない」 「防御力が高いとかじゃないの?」 「違う」 優が持っていた小型ノートPCを開く。 「あすあすは基本、プラズマセイバーで戦う。きーから教わった事を含めて。 それに、あすあすを知ってる人間なら、あすあすの技がどれだけの威力を持つかも大体分かる」 「確かにそうね」 「なにより、一番おかしいと思ったのは、あのライトニング・ストライクだっけ? あの技は、あの事件を解決した時の技。そんな技すら通用しない方がおかし過ぎる」 「あの事件……ググロ事件、ね」 思い出す。あの時、飛鳥はライトニング・ストライクによって、あの事件を解決した。 その技が通用しないのは、些か疑問が残る。 PCのキーボードを叩き、優が自分のドライヴを接続する。 「先代権限で、ちょっと調べてみますか。あの剣帝って言うドライヴの事を」 小野寺の攻撃。ついに、飛鳥は追い詰められた。 セルハーツがこれ以上後退できない。バトル・フィールドの端に来てしまったようだ。 「くっ、ヤバイな……!」 後ろに下がれないと言う事は、回避の幅も狭まると言う事。 サンダー・ビットがセルハーツの周囲を囲む。 「囲まれたか……くそっ……!」 『これで、もう逃げられないな。俺の勝ちだ』 剣帝が剣を振り上げる。 『無限烈風殺』 凄まじい斬撃が繰り出される。斬撃がセルハーツを襲い、辺りは視界を遮るほどの砂埃に包み込まれた。 小野寺を始めとした誰もが、『ソード・マスター』の敗北を確信した。 砂埃が収まり、再び視界が蘇る。そこに、セルハーツの姿はなかった。 『何!?』 周囲を見渡す。が、セルハーツの姿は見当たらない。 否、上空にいた。ゴッドランチャーを構えている。 『なるほど、ゴッドランチャーで回避したって事か』 「…………」 小野寺は知らない。セルハーツが本来の機動性で回避した事を。 そして、飛鳥はゴッドランチャーを利用して小野寺と距離を取る。 「……『鷹の瞳』が使えれば……!」 『鷹の瞳』さえ使えれば、攻撃は回避できる。飛鳥はそう思った。 直後、自分の言葉に首を傾げる。 「……何で、そんな事を思ってんだ、俺?」 『鷹の瞳』は、あくまで”見切る”だけ。それ以外は、いつもと変わらない。 そう、いつもと変わらないのだ。『鷹の瞳』が使えなくても、いつもと同じなら、何も問題はない。 「……そうだ。問題は『鷹の瞳』じゃない……セルハーツの攻撃が通用しない事だ」 回避はできる。『鷹の瞳』は、回避できないと予測した時の非常事態に使う力。 しかし、それは今の問題点じゃない。今は、なぜ、セルハーツの攻撃が通用しないかだ。 それが、このバトルに勝つ為の残された方法。資質が使える、使えないは関係ない。 「バカだろ、俺……資質なんて、使えなくても良いじゃないか」 『鷹の瞳』があるから、『ソード・マスター』じゃない。強いから、『ソード・マスター』だ。 「『鷹の瞳』が使えないからって、別に負けるってわけじゃない。それは、今までと変わらない」 今まで持っていた力がなくても、勝てれば問題ない。 「……そうか。俺が今やるべき事は、悩む事じゃない……今やるべき事は、このバトルに勝つ事だ!」 セルハーツが剣を構える。プラズマセイバーではない、黄金の刀身を持った実体剣を。 母のドライヴからセルハーツに受け継がれた剣。飛鳥が静かに小野寺を睨む。 「……ここからが本番だ。『ソード・マスター』としての俺の強さ、見せてやるぜ! 小野寺!」 突撃する。それを確認した小野寺が、サンダー・ビットを放つ。 『散れ。サンダー・ビット!』 サンダー・ビットがセルハーツを囲む。飛鳥が「無駄だ!」と叫ぶ。 「輝凰! 斬・王・陣ッ!」 大地に剣を刺し、エネルギーを放出させる。周囲のサンダー・ビットを破壊した。 しかし、サンダー・ビットがまだ数機存在している。飛鳥は一つの賭けに出た。 機動性を活かし、剣帝へと迫る。 『自分から負けに来るか? だがな!』 剣帝が剣を振り上げる。 『俺はまだ、本気で戦ってねぇんだよ! サンダー・ビット!』 サンダー・ビットが剣帝の剣へと集まり、次々と合体していく。 サンダー・ビットによって構成された刀身。それを見た飛鳥は、突撃を止めた。 「……合体して、剣になった……!?」 『こいつが神魔・絶。こいつを使う事になるとは思わなかったけどな』 剣帝が構える。刀身に凄まじい雷が発生した。 『お前の負けだ、蓮杖飛鳥! 雷聖龍絶衝ッ!』 振り下ろす。龍の姿をした雷がセルハーツへと放たれた。 飛鳥もエアブレード・ストームで対抗する。が、雷の龍の前に儚く散った。 『無駄だ。こいつは、俺が奥義って呼ばれる技をより強くした技だからな』 「くそっ……このままじゃ……!」 雷の龍がセルハーツに迫る。飛鳥は歯を噛み締めた。 このままだと負ける。しかし、まだ負けるわけにはいかない。 まだ、あの場所――――母と同じ最強の領域に辿り着いていない。だから、負けたくはない。 「……るか……! 負けるかっ……負けてたまるかぁぁぁっ!」 瞳が鋭くなる。その時、目の前に広がる”世界”が変わった。 分かる。雷の龍との距離が、動きが、時間が、視界に全ての何もかもが分かる。 「……!」 セルハーツを操作し、雷の龍を回避する。それを見た小野寺の目が見開かされた。 『何!?』 そして、飛鳥も同じだった。目を大きく見開いたまま、「今のは……!?」と驚く。 「『鷹の瞳』……!? いや、そんなレベルじゃない……今のは、何がどうなって……!?」 分かっているのは、今のは『鷹の瞳』とは全く違う何か。今までとは違う何か。それだけ。 小野寺が舌打ちしながら、再び剣を構える。 『ふざけるなよ……! あの技を避けただと……そんな訳がねぇだろ!』 剣から、再び凄まじい雷が発生する。それを見た飛鳥は、応じるかのように剣を構えた。 「力を貸してくれ、セルハーツ……。俺と一緒に、最強の領域を目指す為に……!」 もう一度、あの技を放たれても回避はできるだろう。しかし、倒す事はできない。 もはや、小野寺を倒すには、あの技しかない。 セルハーツのカメラアイが一瞬だけ光り輝き、周囲を凄まじき闘気に覆われる。 「うぉぉぉおおおおおおっ!」 剣が眩い光を放ちながら、”究極の光剣”へと姿を変える。闘気が灼熱の如く燃え上がる。 小野寺が『何をやっても無駄だ!』と飛鳥に叫ぶ。 『俺には誰も勝てねぇんだよ! 天才の俺には誰にも!』 剣帝が剣を振り下ろす。 『雷聖龍絶衝ッ!』 「天翔蒼破ッ! 絶・靭・斬ッ!」 セルハーツも剣を振るう。雷の龍と一直線に伸びる波動が同時に放たれた。 放たれた二つの技が激しくぶつかる――――事はなく、雷の龍は呆気なく散った。 波動はそのまま剣帝を呑み込み、大爆発を起こす。 審判が確認を取り、判定を下した。 「ウィナー、蓮杖飛鳥〜! コングラッチュレイショ〜〜〜ン☆」 飛鳥の勝利。飛鳥は小さくガッツポーズをしながら、その勝利を噛み締めた。 特設ステージの観客席。バトルを見ていたほとんどの観客が興奮し、歓声を上げる。 その歓声に耳を塞ぎながら、バトルを観に来ていた『チーム・アレス』の天鷹姫里が黒石曜に話し掛ける。 「やったね。蓮杖君、勝ったじゃない」 「はい。蓮杖君、勝ってくれました……」 負けて欲しくなかった。だからこそ、この勝利が嬉しかった。 そんな彼女の様子を見た大滝美里が、ニヤリと笑みを浮かべる。 「なになに? 蓮杖君と何かあったの!?」 「な、何もありません……ただ、負けないって……」 「ふーん……いつの間にか蓮杖君とそんな話してたんだぁ」 「曜ちゃんと蓮杖君は仲良しさんですよからねぇ」 「ち、違います! 私にとって、蓮杖君は憧れと言うか、その……」 次第に曜の頬が赤く染まっていく。その様子を、『チーム・アレス』の三人はニヤニヤと楽しんでいた。 「俺が負けただと……天才の俺が負けた……だと!?」 コクピットランサーから降りて、小野寺は敗北の実感がなかった。 今回のバトルでも、何の問題もなく勝てたはず。しかし、現実は敗北している。 そんな彼の前に飛鳥が現れ、握手を求める。 「……良いバトルだった。正直、負けるって自分で思った」 「情けでもかけてるのか、お前……!」 「違う。久々に強い相手とバトルができた。それだけだ」 「ふざけるな!」 小野寺が飛鳥の首元を掴む。 「俺が負ける訳がねぇ! 天才の俺が、テメェみたいな奴に負けるなんて有り得ねぇんだよっ!」 「…………」 「俺は強いんだよ! テメェらみたいな奴には絶対に負けねぇほど強ぇんだ!」 「そりゃ、違法すれば誰にも負けないでしょうね」 と、言われる。先代『マグナム・カイザー』の優がそこにいた。 そして、先代『ストーム・クラウン』の郁美が小野寺の腕を掴み、飛鳥の首元から手を離させる。 「何だよ、テメェら!?」 「先代の『フォース・コネクター』。文句ある?」 「先代!?」 「……優さん、違法って……?」 飛鳥が訊く。優が自分の持ってるPCを飛鳥に見せた。 「ドライヴの性能、凄いでしょ?」 「凄いって言うか……桁違いでしょ、これ……」 「プロ仕様だからね。これでも、普通のレベルなのよ?」 「これで普通……って、プロ?」 「そ。あすあすがバトルしたドライヴは、プロ仕様のドライヴよ」 それを聞いた飛鳥が目を見開く。小野寺は「違う!」と焦りつつも声を上げた。 プロ仕様。つまり、DPL用に作られたドライヴ。 その性能は一般的なドライヴと圧倒的に違い、DPL以外での使用は認められていない。 小野寺はプロ仕様ドライヴを使って、バトルしていたのだ。優が話を進める。 「プロ仕様のドライヴは、DPL以外では使えない。どんな手使ったか知らないけど、立派な違法ね」 「……そうか、だから……」 だから、高威力のゴッドランチャーなどの攻撃すら通用しないわけだ。 動揺しているのか、小野寺から大量の汗が流れる。 「とりあえず、晃鉄がすぐここに来るから、あすあすはきーの所に行きなさい」 「……何で、輝凰さんの所なんですか?」 「私には分かってるのよ。『鷹の瞳』が戻ってるでしょ、あすあす」 「……!」 「でも、その表情は違和感があるとみた。きーの方が資質について詳しいから、きーの所に行きなさい」 「……はい。ありがとうございます」 優と郁美に頭を下げ、飛鳥は輝凰の元へ向かって行った。 ちなみに、飛鳥の元に行こうとしていた明日香達『レザリオン』メンバーだったが、 大滝美里率いる『チーム・アレス』に捕まり、主役を除いて祝勝会をやっていたりするのは余談である。 次回予告 明日香「飛鳥君、大復活だね!」 明日奈「そうね。相手が違法してたとは言え、プロ仕様に勝てるなんて流石だわ」 飛鳥 「いや、あれは天翔蒼破絶靭斬のお陰だし……勝てたのは偶然だって」 明日香「偶然って、飛鳥君……」 飛鳥 「つーか、主役いないのに祝勝会やってどうするんだよ……」 明日香「それは、大滝さんが……」 明日奈「かなり強引だったわね……流石に疲れたわ」 次回、CONNECT09.『レア・ウェポン狩り』 ガルノア「知りつつも法を破るか。ならば、『全てを悟りし者』である私自らが裁きを下そう」 明日香「次回は、とんでもない事件が発生!?」 明日奈「大丈夫よ。ガルノアの強さは、あの最強のコネクターより上だから」 明日香「そ、そうなのかな……」 蓮 「…………」(←相変わらず明日奈にバカにされる最強のコネクター) 飛鳥 「……蓮、流石に落ち込んでるだろ」 |
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