第四章 太陽の鼓動


 ハヤトは完全に疲れきっていた。《魔王》との戦いで。
 アリサのお陰で少しは体力を回復できただろうが、もう全力で戦う事など不可能に近かった。
 破壊神ルナルク・ゼオライマーがヴァトラスを捉える。
『《神王》よ、その力の片鱗を持つ者……』
「片鱗……?」
『我らが王の恐れる力。そう、貴様の持つ神の力を秘めた武具に、貴様は選ばれた』
 ルナルク・ゼオライマーが深い赤の刀身を持つ剣を生み出す。
『あの存在は、我らが王にとって邪魔になる。あの存在の片鱗を持つ者は、ここで消す必要がある』
「……悪いけど、ここで死ぬわけにはいかない!」
 ヴァトラスが剣を振り上げる。ハヤトは限界を感じつつ、霊力を剣に込めた。
 剣を振り落とし、翼を持つ龍の波動が放たれる。ルナルク・ゼオライマーはすぐに防御した。
 自分の周りの空間のみを遮断し、攻撃を無力化する。
 力の差は、やはり相手の方が大きい。
「……分かってる。もう限界なのは、分かっているんだ」
 ヴァトラスの唸りに、ハヤトは頷く。しかし、ここで戦わないわけにはいかない。
 深紅の破壊神ゴージア・バルオームが迫る。
『まだその鼓動は目覚めていない。仕留めるならば、今のみ!』
 巨大な剣を暗雲の空へ掲げる。
『マグマアフレイド』
 巨大な剣を振り落とし、灼熱の炎を放つ。ヴァトラスは翼を大きく羽ばたかせた。
 風を生み出し、炎を掻き消す。しかし、灼熱の炎はヴァトラスに迫る。
 咄嗟に神の剣を手にする。一閃が炎を無力化した。
「ぐっ……!?」
 心臓に激痛が走る。ハヤトの歪んだ表情に、アリサはあっと小さな声を上げた。
 少しずつだが、神の剣を振るう代償に襲われるのが早くなっている。
「くそっ……少しずつ限界に近づいているのか……」
「ハヤトさん……」
「……大丈夫。この位、まだ……!」
 ハヤトのその言葉に、アリサはどこか疑問を抱いていた。



 ぶつかり合う《獣神》と《深淵》。そのぶつかりの中、アルスは怨霊機の操者カオスの心を感じた。
 悲しみから憎悪に染まり、そして闇の力を得た男。
 似た悲しみを持つ彼に対し、アルスは強く歯を噛み締める。
「獣神爆撃乱打ぁぁぁっ!」
 額に《獣神》の称号が浮かび上がり、ギガティリスが乱打を繰り出す。
 グリムファレスは幻影によって姿を消し、背後に回るが、すぐに反応された。
 左拳には水の球体が存在している。一心同体のアルスと霊戦機の力は、かなりのものだった。
「アクアウィザァァァディストォォォッ!」
 左拳に集まっていた水の球体がグリムファレスに直撃し、弾ける。一気に氷が走った。
 動きが取れなくなる怨霊機を前に、ギガティリスが容赦なく剣を手にする。
「アクア・メテオバニッシュゥゥゥッ!」
 剣先に水の球体が集まり、一気に振り落とされる。
 真っ向から怨霊機を両断するギガティリスの剣。アルスの渾身の一撃だ。
 怨霊機が悲痛の咆哮を上げる。カオスも咆哮を上げた。
『うぉぉぉおおおおおおっ!?』
「……悲しみを背負ったんなら、それから逃げずに乗り越えやがれ!」
 ギガティリスが親指を下へ向ける。
「もう十分だろ。とっとと、お前の大切な奴のところに行け」
 怨霊機に光が集まり、大爆発を起こす。アルスはそれを見届けた後、空を見上げた。
 暗黒に覆われたネセリパーラの空。ギガティリスが唸りを上げる。
「おう。次は、もっと強い奴が相手だな」
 拳を強く握り、ギガティリスが空を舞う。



 ヴァトラスが大地に屈した。ハヤトの限界を感じ、ヴァトラスが動かなくなった。
 心臓の激痛に顔を歪ませるハヤトの前に、破壊神サン・デュオームが巨大な斧を構える。
『覚悟せよ、《神王》……パルチメザン』
 斧を振り上げ、暗雲から雷が唸りを上げる。刹那、ペガスヴァイザーが止めた。
 空間遮断によってこちらの攻撃は阻止されたが、どうにか敵の攻撃を邪魔する事ができた。
『我の邪魔をするか、霊戦機よ』
「あらあら。申し訳ありませんが、彼を死なせるわけにはいかないと言う事らしいので」
 にっこりとした笑顔で、澪がサン・デュオームを前に剣を手にする。
「手加減は致しません。本気で参らせて頂きます」
『ふざけた事を……。王の霊戦機以外の力など、我の前では無力だ』
 斧を振り落とし、真空の刃を放つ。ペガスヴァイザーは一瞬のうちに避けた。
 生み出された残影が光り輝く、サン・デュオームを十字に切り刻みつつ、包囲する。
(ペガサス・グランドクロス!)
 光り輝く幻影全てがサン・デュオームを襲う。



 ルナルク・ゼオライマー、ゴージア・バルオームの二体の前に、ブレイガストが立ち塞がる。
 正直、レファードは恐怖に震えていたが、ブレイガストの想いが勇気を奮い立たせた。
『我らに立ち向かうか、人間よ』
「……ぼ、僕だって戦えます……! 皆の為に……僕だって……!」
 ブレイガストが鳳凰の姿から人型へ変形する。そして、両腕の砲身を向けた。
「す、スターライトニング!」
 放たれる雷撃。しかし、すぐに空間遮断によって無力化される。
 ゴージア・バルオームが巨大な剣を振り上げる。
『死ね』
「ファイナル・フレア」
 後方から放たれる蒼炎の獅子の波動。ゴージア・バルオームはそれを受け止めた。
 空間を遮断し、攻撃を無力化する。刹那、無数のレーザーが空から放たれた。
 空間遮断が間に合わず、ゴージア・バルオームの深紅の装甲に傷が入る。
「隙を突けば攻撃できるようだな」
 左肩の荷電粒子マグナム砲を構えるディレクダートの姿。陽平は敵を睨んだ。
 ハヤトの乗るヴァトラスを見る。ハヤトが限界なのか、大地に片膝をついていた。
 ディレクダートに力が漲る。陽平の中で、友を守ると言う想いが溢れ出す。
「ハヤトは死なせん。覚悟しろ」
『面白い。そのような弱い力で我に傷を負わせるとはな』
 ゴージア・バルオームが剣を構える。
『その命、もはや無いと思え、弱き人間よ!』
「それは、こちらの台詞だ!」
 光の道がゴージア・バルオームの元まで現れる。その道の先には、ヴィクトリアスがいた。
 青い光を放つ剣が、ゴージア・バルオームを捉える。
「光牙! 獅王裂鳴斬ッ!」
 獅子の如き斬撃。ゴージア・バルオームは素早く受け止めた。
 巨大な剣に亀裂が入る。その隙に、ディレクダートが荷電粒子マグナムを放つ。
 接近において最大の力を誇る《斬魔》と、最大の火力を誇る《蒼炎》の攻撃が、さらに傷を負わせた。
「間に合ったな……」
「まだだ。ハヤトが立ち上がるまで、奴らの動きを止める」
 陽平の言葉に、ロバートが頷く。



 破壊神ルナルク・ゼオライマーは、そのままヴァトラスを見下した。
 剣に闇を集中させ、深く赤い光が溢れ出す。
 ハヤトは歯を噛み締めつつ、ヴァトラスを奮い立たせた。
「くっ……こ……のぉぉぉっ……!」
 ヴァトラスの関節がギシギシと悲鳴を上げる。操者の疲れは、霊戦機にも影響を及ぼしていた。
 荒く息を吐き捨て、ハヤトが手元の球体を握る。その時、アリサは彼を止めた。
「ハヤトさん、もう……もう戦わないでください!」
「……戦う……んだ……! 全世界を……救う為にも……」
「ハヤトさん!」
 パシッ。乾いた音がコクピット内に響く。ハヤトは頬を叩かれた。
 アリサ本人も、自分の行動に意外だったのか、「ごめんなさい」とすぐに謝る。
「アリサ……」
「……無理しないでください。ハヤトさんは、ハヤトさんのままで良いんです」
「……俺の……まま……?」
「焦らないでください。私が……私が、いつでも側にいますから……」
 微笑む彼女の言葉。ハヤトは優しく彼女の髪を撫でた。
 確かにその通りだ。俺にはアリサがいる。アリサが側にいるから戦える。
「……ありがとう」
「どういたしまして。二人の想いの力を見せてあげましょう」
「そうだな……」
 唇を重ね、すぐに離す。軽いキスだったが、想いは十分だった。
 ヴァトラスが唸りを上げる。ルナルク・ゼオライマーは剣を振り上げた。
『想いの力? ふざけた事を……これで、終わりにしてくれよう、《神王》よ』
 剣が振り落とされ、闇の波動が放たれる。瞬間、ハヤトの中で鼓動が高鳴った。
 ヴァトラスの目の前に、黄金に輝く盾が現れ、闇の波動を無力化した。
 頭の中に声が響いてくる。

 ――――汝の想い。我は汝の強き想いに応えよう。我が名は神の盾アリアス。

 そして、ヴァトラスを囲むかのように、神の剣と神の槍が姿を見せる。
 三つの武具が黄金の光を発し、ヴァトラスがその光に包まれていく。
「……!?」
 ハヤトには何が起きたのか分からなかった。再び、声が響いてくる。

 ――――今こそ、汝の中に眠る力を目覚めさせる時。

 ――――星の守護たる力。汝よ、我が力を受け取れ。

 ――――全ては、闇の根源を倒す為に。

 神の槍、神の盾、神の剣の声が聞こえる。ハヤトの中で高鳴る鼓動は、全身を燃え上がらせた。
「――――!? うぉぉぉおおおおおおっ!」
 ヴァトラスを包み込む光が、辺り一面を眩しく照らす。その光がヴァトラスの姿を変えた。
 純白かつ、白銀に輝くボディ。純白の翼は、まるで本物のように羽ばたき、羽根が舞う。
 胸に輝く、透き通った青い宝玉に称号がある。大きく翼を広げた光の鳥の称号。
 青い目に宿る光が満ちた瞳は、操者と霊戦機が心を一つに合わせた証。

 ハヤトとヴァトラスの"覚醒(=スペリオール)"。全世界を救う真の力。

『馬鹿な……目覚めただと……!?』
 その姿に、ルナルク・ゼオライマーが驚きを見せる。ハヤトもやや唖然としていた。
「これは……? いや、俺は覚えている……」
 そう、光の鳥の記憶。神の剣、神の槍、神の盾を手にする王の記憶。
「……《太陽王》。そして、これがファイナルヴァトラス、お前の本当の『進化』なんだよな?」
 ヴァトラスが唸りを上げる。アリサが不思議そうな目でハヤトを見ていた。
 今までとは違うハヤトの雰囲気。敵を睨む彼の瞳は、太陽の如く光り輝いている。
 神の剣を手にし、ヴァトラスがルナルク・ゼオライマーに挑む。
『蘇ったか、《太陽王》……! 我らが王が最も恐れる存在よ……』
「……これで、形勢逆転だ。覚悟しろ、破壊神!」
『そう思うな。ゴージア・バルオーム、サン・デュオームよ』
 ルナルク・ゼオライマーの元に、他の霊戦機を相手にしていた破壊神二体が集う。
 破壊神の全長は三体とも、ヴァトラスを遥かに上回る。しかし、ハヤトは恐れなかった。
 ただ、相手が大きな存在なだけ。今のヴァトラスなら、十分倒せると確信できた。
 ゴージア・バルオームが巨大な剣を振り落とす。
『死ね』
「――――!」
 振り落とされる剣を前にして、ヴァトラスが神の盾で防御する。
 神の剣に赤熱と黄金の光が走る。
「メテオ・オブ・シャインッ!」
 神の剣が振り落とされ、赤熱の黄金の波動が無数に放たれた。
 ゴージア・バルオームはすぐに空間を遮断し防御するが、神の剣の前では無力に終わった。
 無数の波動が全身を貫き、光が溢れ出す。
『馬鹿な……!?』
「まずは……一体!」
 ゴージア・バルオームが光の粒子となり、滅ぶ。その姿を見て、破壊神二体が同時に襲い掛かる。
 やはり、《太陽王》が相手となると、一体では厄介な存在だ。
『パルチメザン』
『破滅の旋律よ……』
 放たれる轟雷と漆黒の波動。ハヤトがアリサの肩を抱く。
「しっかり掴まっていろよ、アリサ」
「え……――――きゃっ!?」
 ヴァトラスが翼を大きく広げ、空高く舞い上がる。その時、アリサはハヤトの服を強く握っていた。
「羽ばたけ、太陽の翼ぁぁぁッ!」
 純白の翼を神々しく羽ばたかせ、羽根が光と共に舞い散る。
 光と共に舞い散る羽根が、破壊神の攻撃を光へと変え、さらに襲い掛かった。
 そして、ヴァトラスがサン・デュオームへと接近する。
「光陽聖霊破ッ!」
 接近し、左手から波動を放つ。青く、そして黄金の光を放つ波動がサン・デュオームを襲った。
『な……人間如きが……!?』
「二体目!」
 そして、光の粒子となり、サン・デュオームが滅ぶ。ルナルク・ゼオライマーは笑みを溢した。
「お前で最後だ! 今こそ見せてやる、俺の力を! 想いの力を! 《太陽王》の力を!」
『愚かな……。他の二体と我とでは強さは違うぞ』
 ルナルク・ゼオライマーが巨大な漆黒の球体を生み出す。
『奈落の底へ落ちるが良い、サタン・オブジェクト』
 放たれる漆黒の球体がヴァトラスを襲う。しかし、ハヤトはただ集中しているだけだった。
 ヴァトラスが神の盾で攻撃を防ぐ。そして、神の剣に黄金の光が走った。
 純白の翼が赤熱に燃え上がり、神々しく羽ばたく。
「太陽凰! 光・翼・斬ッ!」
 赤熱に燃え上がった純白の翼から、黄金の炎が放たれ、ルナルク・ゼオライマーを包囲する。
 神の剣が振り落とされ、一閃がルナルク・ゼオライマーを襲った。
 刹那、七つの光の切り筋が刻まれる。
『ぐぉぉぉ!?』
「これで……最後だッ……!」
 ヴァトラスに光が集まる。大気が震えていた。
「神の槍グーングニルッ! 神の剣ヴァルキュリアッ!」
 神の槍を極限まで短く持ち、神の剣と共に光を放つ。
「うぉぉぉおおおおおおっ!」
『我を甘く見るなと言ったはずだ、《太陽王》よ! 闇なりし結界よ、全てを闇へ変えよ!』
 光を放つヴァトラスに対し、ルナルク・ゼオライマーが闇を生み出す。
 闇がヴァトラスを覆い、光を遮ったはずだが、ヴァトラスの光だけは変わらなかった。
 ハヤトは苦痛に顔を歪ませつつも、その光に満ちた瞳で敵を睨む。
「必殺! シャイン・フォォォスッ!」
 神の槍を前に突き出し、ヴァトラスが一閃となって駆ける。
 神の槍がルナルク・ゼオライマーの空間遮断とぶつかる。しかし、神の槍の前に、空間遮断は通用しなかった。
 空間遮断を貫き、神の槍が神の剣の力を全て引き出す。
「光と無の力、受けてみろッ、ルナルク・ゼオライマーッ!」
 そして振り落とされた神の剣。ルナルク・ゼオライマーを完璧に両断する。
 神の剣に込められていた光が全身から溢れ、徐々に塵となっていく。
『まさか……我がここで終わるか……』
「……光と……光と無の裁きを……受けろ!」
 体力の消耗が激し過ぎる必殺技を、二度も使ったせいか、全身の激痛に耐えられそうにない。
 アリサがハヤトと唇を重ねる。少しでも、体力を回復させる為に。
『……これで良い……。これで……全てが破滅へ導かれる……』
 誰にも聞こえるような小さな言葉を吐き捨て、ルナルク・ゼオライマーが消滅する。
 ヴァトラスが光を放ち、空を覆う闇を掻き消す。そして、元の姿へと戻る。
 アリサが離れると、ハヤトは少しずつ息を整え始めた。
「……ありがとう……アリサ……」
「はい。ようやく、ハヤトさんのお役に立てました」
「……アリサは、俺の役に立っているよ、ずっと……」
 ハヤトが再びアリサとキスをする。アリサはそのまま瞳を閉じた。



 イシュザルトのブリッジで、コトネはその戦闘数値を見た。
 全てにおいて、ハヤトが一度は苦戦を強いられた《邪神王》を遥かに上回っている。
「なるほど、これがあいつの"覚醒"って訳だね」
 これが、ハヤトの秘めた力であり、最大の力だ。その証拠に、ヴァトラスは本来の『進化』を遂げた。
 いや、変だと思った。『進化』したなら、元の姿に戻ると言う事はありえないはずだ。
 どこか胸騒ぎがする。
「……嫌な予感……いや、まだ何か嫌な力が存在してるね」
 煙草を銜えつつ、心の中でそう確信した。



 "覚醒"の力は、ハヤトにとって危険だった。
 唇を重ねていたアリサを離し、その顔色を変えていく。
「は、ハヤトさん……!?」
「くっ……あ……!?」
 何か強い力で握り締められたかのように心臓が苦しい。いや、身体全てが激痛に襲われる。
 激痛に耐えられなり、ハヤトが吐血する。その濃い色の血は、アリサの目を見開かせた。
「がはっ……ぐっ……」
「ハヤトさん!?」
「……ア……アリ……サ……」
 途絶える意識。アリサの顔が不安に満ちていく。ヴァトラスが唸りを上げた。
 ハヤトを抱きしめ、アリサが悲痛の叫びを上げる。
「……さん……ハヤトさん! ……死なないでっ……死なないでぇぇぇぇぇぇッ……ッッッ!」

《太陽王》の目覚めが、全ての破滅へと導こうとしている――――



 第三章 斬魔の剣

 第五章へ

 戻る

 トップへ




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送