第六章 全ての根源、究極の敵


 ファイナルヴァトラスとダークネス・ジハードがその力をぶつける。
 剣と剣が激しい音を響かせ、衝撃波が巻き起こった。
「はぁぁぁ!」
『おぉぉぉ!』
 剣と剣を何度もぶつけ合う。その強さは互角だった。
 戦いの中、ハヤトは光と闇がぶつかる度に聞こえる鼓動を感じた。
(……?)
 太陽の鼓動が熱くなっている。その鼓動は、何か嫌な感覚だった。
 光でも闇でもない何か恐ろしい鼓動。太陽の鼓動がそれに反応している。
 しかし、それは雷魔も同じなはず。《太陽王》と《邪神王》は宿命の相手同士だから。
 太陽の剣に光を込める。
「レジェンド・ヴァァァァァァドッ!」
『ダァァァクディスグレイザァァァアアアアアアッ!』
 放たれる光の波動と闇の波動。ぶつかり、そして相殺する。



 イシュザルトのブリッジ。二人の戦いを見つつ、ジャフェイルは口を開いた。
「互角……いや、彼の方が上か」
 彼の調子に問題がなければ、間違いなく《邪神王》など敵ではないはずだ。
“覚醒(=スペリオール)”する前の状態で、同じ力を手にした者と互角に戦えた。
 あの時の強さに、“覚醒”の力が加われば敵なしである。
「しかし、“覚醒”の力を持つ者が二人も存在するとは……。しかも、やはり対立する存在同士。
 これは、何かが起きるか……?」
「《太陽王》と《邪神王》は、《霊王》と《覇王》のような宿命を持っていると?」
「そうだ。もしかすれば、ヴァトラス=ウィーガルトも《太陽王》だったのかもしれない」
 初代《霊王》として戦い、平和を唱えたヴァトラス=ウィーガルト。
 もし、《霊王》が《太陽王》から誕生した王なら、ある程度頷ける。
 今まで語られてきた聖戦は、一五〇〇年前以上の昔から繰り広げられていた。
 激闘を繰り広げる二人の王の戦い。その中で、イシュザルトが警告を出した。
『強大な力を感知。発生源――――ファイナルヴァトラス、ダークネス・ジハード』
「何……!?」
 人工知能イシュザルトが、ブリッジの画面全体にそれを表示する。
 二人が戦っている場所に、二人とは違った力が存在していた。
 とてつもなく強大な力だ。“覚醒”の力を持つ二人など、足元にも及ばないほどに。
「これは……」
「どうやら……まだ敵はいるみたいだね」
 艦長席の机に手を置き、コトネが呟いた。
 イシュザルトが感知している強大な力は、二人がぶつかり合う度に溢れている。
「ハヤト、気をつけな。早く目の前から感じる力が何のか気づく為にも」
 険しい顔のまま、小さく呟いた。



 ハヤトと雷魔が戦う中、ロバート達は何も出来なかった。
 いや、霊戦機達が動かないのだ。二人から感じる別の力によって。
「動いてくれ、ヴィクトリアス……!」
 大地に足を着き、ヴィクトリアスは二刀の剣をぎゅっと握るだけだった。
 何かが起きる。それはロバートも感じていたが、それが一体何なのか分からなかった。
 ディレクダートが全砲門を構える。しかし、攻撃はしない。
 霊戦機達は戦えなかった。これから起きる何かに反応して。
「……ハヤトに何かが起きるのか?」
「違うな。こいつら怯えてやがる。とてつもない力に」
「闇、いえ……それ以上の何か、ですかね」
 ロバートの言葉に、アルスと澪が呟く。
 ただ、ハヤトの戦いを見るだけしか出来ない。悔しさが込み上げてきた。
 俺達の誓い。ハヤトの言葉に共感して、すぐにこの状態は、とても不快感がある。
「くっ……黙って見るしかないのか……!」
 拳を強く握る。



 イシュザルトの格納庫で、アリサはアランに頼んで現状を見せてもらっていた。
 ハヤトの戦い方は、いつもと変わらない。
「ハヤトさん……」
 信じていても、どこか不安があった。
 感じる。何かとても嫌な予感がする。アランが二人の戦いを見ていった。
「姉ちゃん、兄貴なら勝てるって! だって、姉ちゃんとの約束があるんだろ?」
「でも……嫌な予感がするの……。ハヤトさんに何か起こりそうで……」
「何言ってんだよ! 兄貴なら大丈夫だって!」
 アランはそう言うが、胸騒ぎは激しくなるばかりだった。
 手を合わせて祈る。勝たなくても良い。無理して平和を掴まなくても良い。
 今は、ただ無事に帰ってきて欲しい。それがアリサの心情だった。



 雷魔との戦いで、強大な力を感じて鼓動が高鳴るのに気づいた。
 ヴァトラスが唸りを上げる。そして、すぐにその場から離れた。
「――――!? ヴァトラス!?」
『どうした、ジハード!』
 ダークネス・ジハードも同じだった。何かを感じて、互いに距離を置く。
 先ほどまで戦っていた場所に、雷が走っている。漆黒の雷が。
 太陽の鼓動が反応した。強く、そして熱く。
「……!? な、何が――――!?」
 漆黒の雷が空高くまで昇り、空一面が漆黒へと変わる。
 ヴァトラスとダークネス・ジハードが高々と咆哮を上げた。
 漆黒の雷が走った場所から、深紅の光が溢れ出す。
 禍々しい漆黒の装甲を纏った全身が現れ、六枚の深紅の翼が大きく広げられる。
 まるで暗黒の神を思わせるその姿は、全身を恐怖に震わせた。
 血塗られた深紅の瞳がハヤトと雷魔を睨む。
『……我はついに目覚めた……! 我は《冥帝王》。全てを破滅へと導く神なり……!』
「な……《冥帝王》……!?」
『こいつか……ジハードが恐れてやがるのは……!』
 お互い、愛機が動こうとしなかった。《冥帝王》がファイナルヴァトラスの方を見る。
『感謝するぞ、《太陽王》よ。貴様が破壊神を倒した事で、我は目覚めたのだからな』
「何だと……!?」
『破壊神は我が分身。封印が解けるまでに、貴様と《邪神王》を殺す為に生み出した存在だ』
 二人の王に封印され、その封印が解けた時、やはり邪魔な存在なのはその二人の王だ。
 消しておく必要があった。その力を目覚めさせる前に。
 しかし、目覚めたのならば、自らの手で消すだけである。
《冥帝王》が翼を神々しく羽ばたかせる。そして、闇の雷が下された。
「――――! 神の盾アリアス!」
『ジハード!』
 神の盾でヴァトラスが、堕天の翼でダークネス・ジハードが防御する。
 太陽の剣を手に、ハヤトが力を集中した。雷魔も漆黒の剣に力を集中する。
「レジェンド・ヴァァァァァァドッ!」
『ダァァァクディスグレイザァァァアアアアアアッ!』
 放たれる光の波動と漆黒の波動が襲い掛かる。
 しかし、《冥帝王》は二人の攻撃を前に恐れず、片手を前に出す。
 二つの波動が一瞬にして無力化された。
『サタン・イカロス』
 再び闇の雷が下される。ハヤトは神の盾で辺り一面まで防御した。
 その姿を見て、六機の霊戦機が動き出す。戦う為に。
《冥帝王》はそれを逃さなかった。手を振りかざした瞬間、霊戦機達が大地に屈する。
 ハヤトの方を睨み、両拳に闇を集めた。
『他の存在など邪魔だ。先に貴様を仕留めてくれる、《太陽王》』
「俺はこんなところで死ねないんだ。それに、この戦いは終わらせるんだ!」
 ファイナルヴァトラスが《冥帝王》に挑む。ハヤトは剣を振るった。
 赤熱と黄金の光が剣を込められる。
「メテオ・オブ・シャインッ!」
『ダァァァク・エクスプロォォォドォォォオオオオオオッ!』
 ハヤトの後に雷魔が続く。《冥帝王》は目の前の空間を遮断した。
 二人の攻撃を無効化する。刹那、ダークネス・ジハードが懐に飛び込んだ。
 右拳に力を込める。
『貴様の力をもらう! 邪王破刃牙ァァァッ!』
 右拳が襲う。しかし、受け止められた。
《冥帝王》の深紅の瞳にダークネス・ジハードの姿が映る。
『愚かだな、《邪神王》』
『愚かなのはテメェだ……! 死ね、俺に力を奪われてな!』
 ダークネス・ジハードが咆哮を上げる。
『滅べ! メテオ・ジャッジメントォォォッ!』
 胸の中心から深紅の波動が無数に放たれた。
 無数の波動が《冥帝王》を容赦なく襲う。その威力は今までの攻撃を遥かに上回っていた。
 波動に呑み込まれた《冥帝王》。しかし、その姿は無傷だった。
 雷魔が目を見開く。《冥帝王》がダークネス・ジハードを捉えた。
『天滅』
 深紅の翼がダークネス・ジハードを襲い、全身を切り裂く。
 そして、翼から無数の波動が放たれ、ダークネス・ジハードの全身を撃ち抜いた。
『ぐぉぉぉっ!?』
『さらばだ。エンド・オブ・レーベン』
 闇の球体がダークネス・ジハードから生まれ、そのまま呑み込まれる。刹那、潰された。
 一瞬だった。《邪神王》が一瞬にして倒されたのだ。
「雷魔! 嘘だろ……あんな一瞬で……!?」
 太陽の鼓動が疼く。ヴァトラスも咆哮を上げた。
《冥帝王》を倒す為に必要な存在である《邪神王》が倒された事に、ヴァトラスが恐怖を抱いている。
 いや、怒りだった。封印が解かれた相手を前に、恐れていた自分に怒りを抱いたのだ。
 純白の翼を神々しく羽ばたかせる。《冥帝王》はふっと笑みを溢した。
『貴様だけで倒せると思うか、《太陽王》よ』
「……思うんじゃない。倒すんだ。そうだろ、ヴァトラス!」
 ハヤトの言葉に、ヴァトラスが太陽の剣を振り上げる。
 翼が赤熱に燃え上がり、黄金の炎が《冥帝王》を取り囲んだ。
「太陽凰! 光・翼・斬ッ!」
 振り落とされる剣。《冥帝王》はその一閃を瞬時に見切り、受け止めた。
 ハヤトが素早く次の攻撃に移る。
「光陽聖霊破ッ!」
『ダーク・ノヴァ』
 青く、そして黄金の光を放つ波動が放たれると同時に、《冥帝王》が闇の波動でそれを相殺する。
『滅びの旋律よ……』
《冥帝王》の翼が神々しく羽ばたかされ、深紅の光が空へと昇る。
 闇一面の空から波動の雨が降り出し、ネセリパーラの大地を襲った。
 ハヤトは舌打ちし、神の盾で周囲を防御したが、防ぐ事ができなかった波動は大地に突き刺さる。
 ヴァトラスが唸りを上げる。大地が傷ついた事で。
「くっ……神の槍グーングニルッ! 神の剣ヴァルキュリアァァァッ!」
 太陽の剣が消え、右手に神の剣、左手に神の槍が現れる。
「うぉぉぉおおおおおおっ!」
 神の槍に赤熱の刀身が現れ、胸に浮かぶ光の鳥の称号が強い光を放つ。
 黄金の光が神の剣に込められ、ヴァトラスが《冥帝王》を睨む。
「シャイン・フォォォォォォスッ!」
 ハヤトにとって、諸刃の剣であり、最強の必殺技が放たれる。



 イシュザルト格納庫でハヤトの戦いを見ていたアリサは、すぐに通信を繋いだ。
 しかし、無駄だった。アランが意外な行動に出た姉を止める。
「ど、どうしたんだよ、姉ちゃん!? いきりなり通信繋ぐなんて……」
「……ダメ。やっぱりダメ……ダメなんです……ハヤトさんっ」
 彼が覚悟を決めた。それがすぐに分かった。
 あの技――――シャイン・フォースは彼の命をさらに削る技だ。
 止めないといけない。この戦いでもし平和が訪れても、ハヤトがいなくなる事が嫌だ。
 通信を繋ごうと必死になる。
「ハヤトさんっ……お願い……。もう戦わないでっ……」
「姉ちゃん、兄貴なら大丈夫だって!」
「大丈夫じゃないわよ! ハヤトさんは……ハヤトさんは……!」
 ここまで取り乱れる姉の姿を見たのは初めてだ、そうアランは思う。
 必殺技を放ち、敵に挑むヴァトラスの姿。しかし、それは阻止された。
 神の槍を片手で受け止める《冥帝王》。ハヤトは目を見開いた。
『な……シャイン・フォースを……!?』
『これが、《太陽王》の力か?』
《冥帝王》がヴァトラスの左腕を引きちぎる。ヴァトラスが悲鳴を上げた。
 ハヤトにも激痛が伝わる。その時、心臓にも激痛が走った。
 胸元を強く抑える。視界が乏しくなっていき、ただ激痛を堪える事しかできない。
 アリサがハヤトの異変に気づく。
「ハヤトさん……ハヤトさんっ!」
『……げ……ん……か……!?』
 シャイン・フォースの為に力を解放した事で、再び神の剣の代償が襲った。
『ぐっ……まだ……ま……だ……!』
『終わりだ、《太陽王》』
《冥帝王》の腕がヴァトラスの胸部を貫く。
「……!? いやぁぁぁああああああっ――――」

 ファイナルヴァトラスの瞳が、静かに輝きを失った――――



 第五章 俺達の誓い

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