第七章 奇跡の光、最後の剣


 ファイナルヴァトラスが――――ハヤトが負けた。死んでしまった。
 イシュザルトのブリッジで、シュウハが眼鏡をかけているにも関わらず、その霊力を解放した。
 怒りによる霊力の解放。コトネがすぐに落ち着かせる。
「感情に任せた解放はやめな。今の状況を考えるんだよ」
「……今は、敵を倒します。姉さん、イシュザルトを」
 その言葉に、コトネは軽く頷いた。
 ハヤトが倒れた今、最後の手段はイシュザルトの力だけだ。
 イシュザルトの主砲形態に、《霊王》に最も近いと言われたシュウハの力があれば、その真価が見出せるはず。
 艦長席のコンピュータを起動させ、青い球体が現れる。
 それを見て、ロフは目を見開いた。
「な、何を!?」
「……ハヤトが倒れたんだ。今、あの野郎を倒せるのはイシュザルトぐらいなもんだよ」
 強さで言えば、間違いなく相手の方が上なのは分かっている。
 しかし、イシュザルトを動かすのは《霊王》の血筋を持つ人間だ。
 少しでも可能性に賭けたい。
 シュウハが青い球体に手を置く。
「全員、衝撃に備えな! イシュザルトに全てを賭けるよ!」

 ――――待って、コトネ姉さん、シュウハ兄さん!

 声が聞こえた。霊力を集中させようとしたシュウハの動きが止まる。
 光が目の前に集まり、一人の人間が現れた。
 ハヤトと同じ姿をしている彼は、その強い瞳でコトネを見る。
『ハヤトはまだ死んでいない。それに、あの敵はハヤトじゃないと倒せないんだ』
「……あの馬鹿が死んでいないのは分かってるよ。死なないって言ったからね。そうだろ、マサト?」
 青い球体から手を離し、コトネは目の前に現れたハヤトのもう一つの人格だったマサトに訊く。
「何で、あの馬鹿じゃないと倒せないんだい?」
『それは、ハヤトが《太陽王》だから。アリサさんとの想いがあるから』
《太陽王》は敵が恐れる存在であり、ハヤトとアリサの想いは誰よりも強い想いで溢れている。
 マサトがモニターの方を見る。
『今、ハヤトはまた暗闇の中を彷徨ってる……。だから、アリサさんの想いが必要になるんだ』
「……あたしらには、何もできないってわけだね?」
『うん……。でも、ハヤトがもう一度立ち上がるまでに時間を稼がないといけない!』
「だから、イシュザルトを使うんだよ。シュウハ!」
「……分かっています」
 シュウハが霊力を集中する。
『霊力を感知。これより、イシュザルトは主砲形態へと移行を開始します』



 イシュザルトの格納庫で、アリサはその場で崩れた。
 ヴァトラスの瞳の光が消えた。涙が溢れ出し、悲しみが心を押し潰していた。
「ハヤト……さん……、ハヤトさん……嫌……そんなの嫌……!」
 ハヤトが死んだ。アリサにとって、それだけが衝撃的だった。
 アランは声を掛けようにも、掛ける言葉がない。
「ハヤトさん……ハヤトさん……ハヤトさんっ……」
 泣き崩れ、ただ画面に映るヴァトラスに向かって呼び掛けるアリサ。
「……死なないでっ……失いたくないからっ……」

 ――――大丈夫。ハヤトはまだ生きてるよ。

 声が聞こえた。優しい声が。光が溢れ出し、アリサの手を優しく握る。
 溢れ出す光が少女の姿を作っていく。それを見てアリサは驚いた。
 肩までしかない黒髪で、どこか落ち着いている笑顔。
「……サエコ……さん……!? サエコさん……!?」
『うんっ。やっと……やっと、アリサさんとお話ができるね』
 サエコの姿に驚いたアリサは、すぐに顔を俯かせた。
 死ぬ覚悟を持って戦いを選んだハヤトを止める事が出来なかった。
「…………」
『……アリサさん、ハヤトはまだ生きているよ』
「え……?」
『今、ハヤトは暗い場所で彷徨っているの……だから、アリサさん、ハヤトの事を想い続けて!』
「……でも……」
 画面越しだったとは言え、目の前で見たあの光景が頭から離れない。
 生きているかもしれない。けれど、今度こそ失ってしまいそうで恐い。
「……私は……私はハヤトさんを止められなかった……。だから、もう……」
『アリサさん!』
 サエコが大声を上げる。
『ハヤトを信じなきゃ! ハヤトは、どんな時でもアリサさんの事を想っていたよ!
 自分の過去に打ち勝つ時も、どんなに強い敵と戦う時も……ずっとだよ!?』
「……ハヤトさんが……?」
『アリサさんは、ハヤトにとって、とても大きな存在だよ。だから、ハヤトは今、生きたいって思ってる。
 アリサさんとずっと一緒にいたいから……アリサさんにずっと側にいて欲しいから!』
「……私は……!」
 涙が零れ落ちてくる。
「私は……私だって……ハヤトさんを信じたい……。でも……でも……怖いんです……」
『……だったら、なおさらハヤトの事を想うの。そうすれば、必ず想いは応えてくれるからっ』
 想いは応えてくれる。その言葉にアリサは静かに頷いた。
 涙を拭き、まだ悲しさが残るが、アリサに笑顔が戻る。
 どんなに不安でも、怖くても、ハヤトの事だけを想えば良い。信じれば良い。
「……私、もう一度信じてみます。ハヤトさんとの想いを……もう一度……」
『うん。……ハヤトが好きになった人が、アリサさんで本当に良かった……』
 今まで大好きだった人は、自分が死んだ事でその責任を背負っていた。
 けれど、アリサがいてくれたから乗り越えられた。
 アリサになら、ハヤトを――――大好きだった幼馴染を任せても良い。
 サエコの全身が眩しい光を放つ。
「……っ、サエコさん!」
『……そろそろ時間みたい……』
「そんな……」
『そんな顔しないで。私……アリサさんとお話して良かったと思うから。
 幸せになってね、アリサさん。ハヤトの想い、うーんと受け止めてねっ』
「……はい。あなたの分まで、私……ハヤトさんの事を想い続けます。ずっと……」
『うん。アリサさんだったら、ハヤトの事任せられる。ハヤトと幸せになるように祈っているからねっ』
「はい。……ありがとう、サエコさん」
 サエコが光と共に消える。アリサは手を合わせ、祈る。
 ハヤトは生きている。だから、この想いは彼にきっと届く。
「……ハヤトさん、私はあなたを信じています……」
 その姿を見つつ、アランは思った。「……俺、出番ないよなぁ」と。



《冥帝王》がヴァトラスを無造作に放り投げる。ヴァトラスは、ただ空中に漂うだけだ。
 始末したはずだったが、霊戦機の意思が動いたのか、コクピットを外した。
 まだ死んでいない。致命傷を負っただけだろう。
『……すぐに破滅へと導いてやろう』
 深紅の翼がヴァトラスの方へ向けられる。
『エンド・オブ・レー……――――』
 瞬間、大地の双龍が現れ、襲い掛かる。《冥帝王》は空間を遮断した。
 霊戦機の一機が立ち上がった。それも、霊力を解放しつつ。
『……立てるか、弱き存在』
「俺は弱くねぇぇぇええええええっ!」
《双龍》の霊戦機グレートリクオー。操者のゼロは、勢いが余るほどの霊力を解放させた。
 剣を手にし、グレートリクオーが咆哮を上げる。
 そして、その咆哮に《斬魔》の霊戦機ヴィクトリアスが応えた。
 いや、全霊戦機が立ち上がる。最大の敵を前に、一つの希望を信じて。
「まだ……ハヤトが死んだとは思えない。ヴィクトリアス、力を!」
「《冥帝王》だろうがなんだろうが、テメェの思い通りにはさせねぇ!」
 ロバートとアルスが突撃する。ヴィクトリアスとギガティリスが剣を手にした。
 二刀の剣に青い光と金色の光、巨大な剣には水の球体が。
「光牙! 獅王裂鳴斬!」
「アクア・メテオバニッシュゥゥゥッ!」
『我に通用すると思っているか』
 空間を遮断し、二人の攻撃を受け止める《冥帝王》。
 その隙を見て、《蒼炎》の霊戦機ディレクダートが咆哮を上げる。グレートリクオーも続いた。
「ファイナル・フレア」
「これが本当のド・ラ・イ・バ・ル・グラウンドだぁぁぁっ!」
 全砲門からの怒涛の攻撃と、大地に拳を突き刺し、《冥帝王》の真下から波動が襲い掛かる。
《冥帝王》は空間を遮断して無効化する。
 一閃が空を翔ける。生み出された残影と光り輝く鳳凰が突撃した。
「スターダスト・フェニックス!」
(ペガサス・グランドクロス!)
『愚かだ、霊戦機よ!』
 攻撃を受け止め、闇の雷を放つ。ギガティリスがそれを防御した。
 ギガティリスの持つ結界の範囲を広げる。しかし、闇の雷には無意味だった。
 雷が霊戦機を襲う。再び大地に倒れる霊戦機は、かなりの損傷だ。
 深紅の翼を神々しく広げ、《冥帝王》が彼らを見下す。
『貴様達では我は倒せん。《太陽王》すら超える力を持つ我にはな』
「……それはない。ハヤトはお前のような奴には負けない」
 ディレクダートが再び全砲門を構える。陽平は信じていた。
 親友はここで倒れず、再び立ち上がる。
《冥帝王》がディレクダートの姿を見て、その翼に闇の力を込める。
『愚かな事を言うでないぞ、愚かな存在よ』
「……太陽……の……鼓動……!」
『何……!?』



 イシュザルトの格納庫。アリサはハヤトを感じた。
 画面の方を見る。ヴァトラスがその翼を大きく広げ、眩しい光を放った。
「ハヤトさんっ……」
 生きていた。涙が溢れ出し、嬉しさがこみ上げてくる。
 それを見てアランも驚いた。気のせいか、イシュザルトが動こうとしている。
 いや、動いていたが止まった。
「……まさか、主砲形態になろうとしてた?」
 何の警告もなしに主砲形態に変形しようとしていた、そう考えると血の気が引く。
 しかし、それが止まったと言う事は、ブリッジの方でも気づいたようだ。
「姉ちゃん、兄貴なら勝てるよなっ……!?」
「……ええ。ハヤトさんならきっと……!」
 再び祈る。今度は、無事に帰ってきて欲しい。
 画面上に映るヴァトラスが、神の剣を大きく振りかざした。



 ハヤトは意識を取り戻した。瞬間、今の自分がどうなっているのか知る。
 ヴァトラスが自分の意思で動き、コクピットを避けてくれていた。
 そして、不思議と身体が軽い。激痛がなく、力が自然に漲ってくる。
「……俺は……まだ死ねない……ッ!」
 ヴァトラスが眩い光を放つ。純白の翼が大きく広げられ、神々しく羽ばたいた。
《冥帝王》はその姿を見て驚く。まだ力が残っていた事に対して。
『まだ戦えると言うのか、《太陽王》よ!』
「……ああ。全世界が平和になるまで……アリサとの約束を守る為にも俺は死なない!」
 ヴァトラスが剣を手にする。柄に光の鳥の称号が描かれ、黄金に輝く白銀の剣が。
 神の剣ヴァルキュリア。最強の剣を手に、ハヤトは持てる力全てを引き出した。
 黄金の光が神の剣に集まる。
「これで最後だ! お前を必ず倒す、《冥帝王》!」
 神の剣を空へ振りかざす。
「……地球よ、ネセリパーラよ! 平和を願う皆の想い力よ! 俺に……俺に力を!」
『よかろう。滅ぶが良い、《太陽王》!』
《冥帝王》が漆黒の闇を生み出す。
『ナイトメア・スペリオル!』
「レジェンドッ、ヴァァァドッ!」
 放たれ、激しいぶつかりを始める黄金の波動と漆黒の波動。
 ハヤトが奥歯を噛み締める。それほどまで、相手の力が上だった。
 両手の球体に力を込め、ファイナルヴァトラスが剣を強く握る。
「くっ……ぐぅっ……!」
『貴様では我を倒す力などない!』
「くっ……羽ばたけ……羽ばたいてくれ……!」
 剣に光が集まる。黄金と純白の光、そして虹色に輝く光が神の剣を輝かせた。
「羽ばたけ……羽ばたけ……! 羽ばたけ!」
 光が剣から溢れる。ヴァトラスが咆哮を上げ、ハヤトは光り輝く瞳で敵を睨みつけた。
 黄金の波動が漆黒の波動を呑み込む。
『何!?』
「羽ばたけ、光の鳥ッ! 唸れぇぇぇ、レジェンド・ヴァァァドォォォオオオオオオッ!」
 黄金の波動を純白の光が包み、光の鳥となって《冥帝王》に直撃した。
 神の剣の光は消えていない。眩い光を放ち、黄金に輝く刀身が伸びる。
「これが……皆の……、俺とアリサの想いの力だッ!」
 振り落とす。《冥帝王》は何もできないまま両断された。
 黄金の筋が走る《冥帝王》の装甲。光が溢れ、光の粒子が発せられている。
『馬鹿……な……!? 《太陽王》如きが……我を……倒せるはず……ない……!』
「俺一人の力じゃない! 俺にはアリサとの想いがある。それが、俺の力だ!」
『……ぐ……我滅びても……この星は救われぬ……! 貴様の負けだ、《太陽王》!』
《冥帝王》の身体が、足元から光の粒子となって消えていく。
 ハヤトは敵の言葉に、神の剣を突き向けた。
「そんな事は、俺が絶対に阻止する! 平和を願う想いがある限り、俺達は絶対に負けない!」
 決意の瞳。ヴァトラスがその言葉に唸りを上げる。
 光となり、《冥帝王》が滅んでいく。暗黒の空が青く澄み渡る空へと変わる。
 純白の翼が神々しく羽ばたかれ、羽根が光に包まれて美しく舞う。

 ヴァトラスの手にする神の剣が、終焉を告げるように眩しい輝きを放っていた。



 第六章 全ての根源、究極の敵

 最終章へ

 戻る

 トップへ




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送