第三章 斬の心、獣の心


 戦艦イシュザルトの格納庫。そこでアランは目を輝かせていた。
 全て揃った霊戦機。これで怨霊機と互角になり、さらには中身も見られるので嬉しいのだ。
「おっしゃ! これで改造なんかも出来るぜ!」
「いやはや、霊戦機は改造などしなくても大丈夫です」
 ほのぼのと後ろから声をかけるシュウハ。アランが妙な顔をする。
「どう言う事だ?」
「七機全てが目覚めた。時期に『進化』するでしょう」
「……あのよ、前から聞きたかったんだけどさ。本当に『進化』なんてするのか?」
 アランの最もな質問に、シュウハはふっと笑う。
「しますよ。ヴァトラスが『進化』している今、他の霊戦機は黙っていないでしょう」
 この時、シュウハは《武神》と《巨神》から力を感じていた。
 操者と心を通わせると感じる力。《霊王》の血を引いているからなのか、それをシュウハは感じる事が出来る。
「ハヤトが戻ってくるまでには、霊戦機の『進化』を終わらせる必要がありますね」
 自分の乗る霊力機ブレーダーを見つつ、シュウハは呟いた。



 偶然にも《炎獣》に選ばれた加賀見陽平は、マサトの事を知っても驚かなかった。
 ただ、何事もないように頷く。
「なるほど。二重人格の人間を見るのは初めてだ」
「……驚かないんだ」
「驚いても、今は単に人格が違うだけだからな」
「……ハヤトから聞いていた通りだ」
 ハヤトが打ち解けるほどだが、こうもマイペースな友人は知らない。
 マサトは思う。ハヤトはどうやって彼と親友と言う仲になったのか。
「しかし、ここは日本ではないのか?」
「そうです。ここはネセリパーラ。地球からすれば、異世界と呼ばれる世界です」
 陽平にアリサが説明を始める。
「今から一五〇〇年くらい前に、この世界で一つの戦いが行われているのです。
 それが今で言う聖戦で、加賀見さんは聖戦で戦う霊戦機の操者に選ばれたんです」
「ふむ……。つまりは、亀田から借りたゲームと似ているな。しかし、神崎はやけに詳しいようだが?」
「ええ。私は、この世界の人間ですから……」
 陽平の眉がピクリと動く。
「私の本名は、アリサ・エルナイドで、ハヤトさんとは他人なんです」
「そうなのか?」
「うん。でも、ハヤトとアリサさんは深い絆で結ばれている」
 マサトが微笑む。そして、手の平を見た。
「ハヤトはまだ、過去を乗り越えられていない。けれど、今過去を乗り越えないと、ハヤトは死ぬ。
 だから僕が変わりに戦うんだ。皆が強くなるまで」
「皆?」
「うん。霊戦機と、霊戦機に選ばれた皆」



 イシュザルトに設けられた訓練室で、ロバートは二本の剣を振るった。
 霊力により放たれた幾つもの波動を叩き落していく。
「くっ……」
 全てを落とす事が出来ず、波動を数発受ける。ロバートは舌打ちした。
 霊戦機を手足のように動かす為には、まず自分が強くならなければならない。
 今までは剣術をある程度教わったくらいで勝てたが、今回は駄目だ。
《破邪》と言う強敵の前では、今の自分などただの操者でしかない。
「これ位で止めるぞ、良いか?」
「いや、もう一度頼む。もう少しだけ見切れるようになりたい」
「そう言うが、無茶は危険だぞ。戦闘による霊力の消費は、かなりの痛手だからな」
 白銀の髪でバイザーをかけている霊力機操者・シュダが一言言っておく。
「それにしても、良く考えたものだ。剣の腕を上げる為に無数の波動を避ける特訓とは」
「ここまでしないと、俺は追いつけない。《破邪》と呼ばれた怨霊機操者と互角に戦うには、これ以外にない」
「しかし……」
 シュダがロバートの剣の腕を見て言う。
「剣の腕はかなりだと思うぞ。あとは、いかに霊戦機を動かせるかどうかだと思う」
「いや、あれで限界だ」
 霊戦機の声が聞けるお陰で、戦い方は全て知っている。
 しかし、ヴィクダートが先代達の技を持っているとは言え、まだ完全に扱えていない。
 だからこそ、自分の腕を上げ、ヴィクダートに上手く意思を伝える必要がある。
 ロバートは再び剣を握り、シュダが放つ無数の波動を前に構え直した。



 ロバートが特訓を行っている訓練室とはまた別の訓練室で、アルスは霊力を集中する。
 構えた右の拳に水が集まり、球体を作り出した。
「――――はぁっ!」
 目の前に立つ標的に、水の球体を持った右拳で殴る。
 水の球体が弾け、標的が瞬時に凍った。アルスがさらに殴り続ける。
「おぉぉぉっ!」
 凍りついた標的を素手で殴る。氷の破片が飛び散り、標的が形を崩していく。
 拳に水を纏い、最後の一撃を与える。標的が砕け散った。
 霊力により水の球体を作り出し、それを敵にぶつける事で動きを封じる。
 そし後、連続で攻撃を続けて粉砕するアルス固有の必殺技、アクアウィザーディストだ。
「……そろそろ新技が欲しいな」
 どこか、まだ足りない。そう感じる。それに、アクアウィザーディストは隙が大きい。
 命中すれば一撃で相手を倒せるほどの威力だが、使えるのは一、二回が関の山だ。
「とりあえず、水を撃つようなものを考えるか」
 思い立った行動にでる男だった。



 イシュザルトのブリッジ、ジャフェイルは人工知能イシュザルトを元に調べていた。
 新たに誕生した怨霊機には、今までと違った称号があった。気になる。
『過去データ該当無し』
「今までの聖戦では現れていない称号か」
 繰り返されていく聖戦の中で、こんな事は初めてのようだ。
 しかし、なぜ今頃になって、新たなる怨霊機が誕生したのか気になる。
 それに、霊戦機ヴァトラスを赤子同然とも言えるほどの差を見せた存在。
「グラナの言う闇は、それほど大きいものか? いや、これがグラナの孫娘のアリサが感じた闇か」
「しかし、今までこのような事はなかったと言いましたが、なぜ?」
「それは私にも分からない。ただ、今のままでは全世界を救う事など無理だ」
 ジャフェイルの言葉に、ロフは息を呑む。
 まだ操者が霊戦機に乗り慣れていないと言う事もあるが、差が大き過ぎる。
 今の霊戦機では、怨霊機に勝てるほどの力を持っていない。
「彼が《霊王》から《神王》へ進化したのは、おそらく本当の敵と戦う為だろう。
 いや、彼はまだ“進化している途中”だと言っても良いかもしれない。グラナの言葉を信じた場合に」
「艦長の言葉、ですか?」
「そうだ。『彼はまだ秘めた力を持っている』とグラナは言っていた」
「まだ力を秘めている……? その力は――――」
『怨霊機反応確認。霊力反応数、三機』
 人工知能イシュザルトの言葉。ロフがモニターを睨む。
 巨大な棍棒を持った機体、肩にミサイルを積んだ機体、巨大な腕を持つ機体の姿。
 イシュザルト艦内の通信を開き、ロフが叫ぶ。
「霊戦機、霊力機操者、すぐに出撃だ! 霊力機は援護体制でいけ!」
『ちょっと待ったぁ! 霊力機はスピリットの調子が悪くて上手く起動しねぇぞ!
 それに、霊戦機は目覚めたばっかのせいで、どうにか整備を終えたのがたったの一機だ!』
「何!?」
 通信機から聞こえてくるアランの返答に、ロフが目を見開く。
「つまり、出撃できるのは一機だけか!?」
『いや、ヴァトラスとヴィクダート、エルギガスが出撃できる。あとのは全部整備中だ!』
 全て揃った霊戦機だったが、すぐに駄目となった。
 アランが言うには、目覚めたばかりの状態は稼動部の負担が強く、それを修理する必要があるらしい。
 頭を抱えるロフ。その時、格納庫から起動音が聞こえた。
『副長さん、開けてくれますか? ヴァトラスが出せって言っているんです』
『ヴィクダートもだ。出撃許可を』
『まぁ、相手が三体なら、こっちも三体で挑むだけだろ?』
 モニターに映し出される三体の霊戦機。操者である彼らの瞳は、まさに戦士の瞳だった。
 ジャフェイルが、そんな彼らの姿を見て昔を思い出していた。
「昔、獣蔵やフォーカスと一緒に戦った頃を思い出すな……。出撃させても大丈夫だろう」
「……そうですね。よし、イシュザルト、格納庫を開け! 頼むぞ、霊戦機操者!」
『了解。イシュザルト、出撃ハッチ開きます』



 棍棒を持った怨霊機グリムファレスの操者である彼は、持っていた胸のペンダントを掴んでいた。
 脳裏に浮かび上がる過去。自然に霊力の解放が増していく。
 巨大な腕を持つ怨霊機の操者がそれを指摘した。
『落ち着け、カオディクス・グラウシェルド。戦う前から解放しても無意味だぞ』
『黙れ! 貴様に指図される気はねぇんだよ!』
『まぁまぁ、カオスは落ち着いたらどうです?』
『チッ』
 肩にミサイルを積んだ怨霊機の操者に言われ、カオスはその怒りを堪えた。
 怨霊機グリムファレスが唸りを上げる。
『分かってる! 貴様は大人しく俺に従え!』
『おやおや、怨霊機と心を一つにしなければ負けますよ?』
『ふん、誰が負けるだと!?』
 グリムファレスが棍棒を構えてミサイルを積んだ怨霊機を睨む。
『落ち着きなさいと言っているのです。それに、怨霊機アムルギアを相手に勝つ事はできませんよ?』
 ミサイルを積んだ怨霊機アムルギアの操者が優しく睨み返す。カオスは舌打ちした。
 確かに、こいつだけは油断できない。自分達を駒のように動かす奴のように。
 グリムファレスが再び唸りを上げる。今度は、獲物が見えた事を教えているようだ。
『戦艦イシュザルトか……。さて、楽しませてもらうぞ、霊戦機よ!』
『この間の借りを返してやるぜぇぇぇ!』
『今が狙い時ですか。少々つまらないと感じますがね』
 三体の怨霊機が、共に唸りを上げた。



 イシュザルトの前に立つ三体の霊戦機は、近づいてくる影を睨んでいた。
 ヴァトラスが霊剣ランサーヴァイスの持ち手を長くし、槍へ変形させる。
「霊槍ランサーヴァイス。僕は剣より、こっちの方が良いかな」
「ハヤトのように剣術を使わないのか?」
 槍を持つヴァトラスを見つつ、ロバートが訊く。マサトは答えた。
「僕は剣術が使えないんだ。草木の言葉は聞けるけどね」
「いや、そっちの方が凄いのだが……」
 マサトにとって、自然と会話する事は普通だ。そして、それがヴァトラスの力を引き出している。
 ハヤトとマサトは対照的なタイプだ。自分の力で戦うか、機体の力で戦うか。
 もし、この二つが一つになれば、まだハヤトは強くなれるのだ。
「ハヤトが自分の過去と戦っている間、僕達はこの戦いを出来るだけ終わりへ進ませないといけない」
「……前から思っていたが、ハヤトは過去に何かあったのか?」
「……うん。だから、ハヤトはたまに悲しい瞳になるんだ」
 詳しい事は聞けずじまいだった。しかし、これ以上訊くのも止めた。
 二人の前にエルギガスが立つ。アルスが怒鳴りを上げた。
「テメェら、無駄話してる場合か! 来るぞ!」
 アルスの一声に、二人が構える。そして、奴らは現れた。
 一機は見た事がある。これで六機。マサトは静かに敵を睨みつけた。
「ハヤトが本当に戦う敵を除いて、これで全部の怨霊機が揃ったね、ヴァトラス」
 ヴァトラスが唸りを上げる。霊槍ランサーヴァイスを怨霊機の方へ向けた。
 棍棒を持った怨霊機グリムファレスが、ヴァトラスを睨む。
『今日こそは貴様をぶっ殺してやるぜぇぇぇ、《霊王》ぉぉぉっ!』
「ふん、たかが棍棒を振り回す奴が吼えてんじゃねぇ」
 ヴァトラスの前にエルギガスが立つ。怨霊機グリムファレスの操者・カオスはエルギガスを睨んだ。
『貴様、今俺を侮辱しやがったなぁぁぁ!』
「文句があるなら掛かって来い。お前くらいなら、この拳だけで十分だ!」
『面白ぇ……まずは貴様から殺してやらぁぁぁっ!』
 グリムファレスが棍棒を振り落とす。エルギガスが拳で受け止めた。
 瞬間、拳に水が纏われる。アルスがグリムファレスを捉えた。
「ウォォォタァァァ、ヴァティカルッ!」
 グリムファレスの胸元を殴り、吹き飛ばす。カオスは咆哮する。
 グリムファレスが棍棒を振り回し、闇の光を生んだ。
 狙いはエルギガス。カオスの額に《深淵》の称号が浮かぶ。
『ダァァァク・エクスプロォォォドォォォオオオオオオッ!』
 放たれた巨大な光の球。エルギガスは両腕を前に出した。
 アルスの霊力により光の壁が作られ、グリムファレスの攻撃を受け止める。
 エルギガスの本来持つ守護の力を利用した巨神結界。アルスは苦笑した。
 今のは自分でやった事ではなく、エルギガスの意思がやった事だ。
「すまねぇな、エルギガス」
(敵の攻撃は大体理解した。我の結界でどうにでもなる)
 この時、カオスの怒りは頂点に達しようとしていた。



 アルスが戦闘を始めて直後、巨大な腕を持つ怨霊機がヴァトラスを襲い掛かる。
 マサトは聖霊破を放ち、どうにか避けた。
『《破邪》や《漆龍》が言っていた通りだな。鈍い動きだ』
「……僕は《霊王》じゃない。その資格を持っている人間じゃない」
『ならば、なぜ霊戦機に乗る? そのような言い訳は通じないぞ!』
 怨霊機の腕に爪が装備される。
『《魔神》の怨霊機デスペランサの餌食となれ、剛爪魔神閃!』
 怨霊機デスペランサが両腕の爪に漆黒を纏い、突撃してくる。
 ヴァトラスが自らの意思で動く。翼が赤熱に燃え上がった。
 翼から無数の赤熱を纏うレーザーが放たれる。ヴァトラスの武器バニシング・バーン。
 デスペランサが両腕の爪で赤熱のレーザーを全て防御する。
『その程度で倒そうと考えていたか、《霊王》よ!』
「……! ヴァトラス、どうする……!?」
(刻は近い。主よ、このまま戦い続ける!)
「刻……? そうだね、僕はヴァトラスを信じるよ……!」
 ヴァトラスがランサーヴァイスを槍から剣に変えた。



『おやおや、どうやら私の相手はあなたのようですね』
「そうだな。しかし、俺は負けるわけにはいかない」
『その意気です。《血煙》の力を持つ私も本気で戦えます』
 ミサイルを両肩に積む怨霊機アムルギアがヴィクダートを睨む。
 ヴィクダートが二本の剣を手に構えた。ロバートは霊力を剣に込める。
「疾風雷鳴剣!」
『早速ですか。しかし、無駄な事です』
 アムルギアが両肩のミサイルを放つ。その数は計り知れなかった。
 雷を剣に走らせながら駆け抜けるヴィクダートをミサイルが襲い掛かる。
 ロバートは舌打ちした。大量のミサイル相手に剣を走らせる。
 額に《武神》の称号が浮かび、雷が走る剣に炎が加わった。
「武神双破斬!」
 剣を振るい、ヴィクダートがミサイルを一掃していく。
 しかし、ミサイルの数は圧倒的に多かった。ヴィクダートの全身をミサイルが直撃していく。
「ぐぁぁぁ……!?」
『無駄ですよ。私の攻撃からは、誰も逃れる事などできません』
「……くっ……そんな事は……!」
『ありえるのです。なにせ、まだ進化を遂げていない霊戦機よりも強いのですから』
 アムルギアが静かに掌をヴィクダートへ向ける。
『《武神》の弱点は遠距離戦。アムルギアにとって、それは勝機にも繋がる』
「……それはどうだろうな……?」
 ヴィクダートが二本の剣の持ち手同士を組み合わせる。
 ロバートはすぐにその武器を構えた。
「ヴァイスクラッシャー!」
 ヴィクダートが力強く投げる。高回転していくヴァイスクラッシャーは、そのままアムルギアへ向かっていく
 接近戦に強いヴィクダートが唯一使える対中距離武装ヴァイスクラッシャー。
 アムルギアは向かってくるヴァイスクラッシャーを前に、掌を構えた。
『ブライルノヴァ』
 小さく囁き、アムルギアが掌から波動を放つ。ヴァイスクラッシャーは吹き飛ばされた。
 瞬時にヴィクダートが動く。しかし、《血煙》はすぐにミサイルを放つ。
 ミサイルがヴィクダートを襲い、ヴァイスクラッシャーを襲う。ヴァイスクラッシャーが砕け散った。
 刀身を失い、柄だけとなった剣が地面に叩きつけられる。
 ロバートは目を見開いた。ヴィクダートの主武器を失った事に。
「剣が……!?」
『これでは、もう攻撃できませんね。さぁ、どうしますか、《武神》よ?』
《血煙》は静かに笑みを溢した。



 イシュザルト格納庫。そこで、一人の馬鹿が吼える。
「俺の出番はまだかぁぁぁぁぁぁっ!?」
 霊戦機リクオーの足元で吼えるゼロ。それをミーナは遠くから白い目で睨んでいた。
 あれが霊戦機操者で、パートナーは自分と言う事を信じたくない。
 ゼロの叫びに、アランの怒りが頂点に達する。
「だぁぁぁ、うるせぇんだよ、馬鹿男! こっちは霊戦機の整備やスピリットの調整で忙しいんだよ!」
「うるせぇぇぇ、俺に出番をくれぇぇぇぇぇぇ!」
「うるさい」
 途端、撃たれる。ゼロはその場に倒れ込んだ。
 ゼロの叫びが我慢できず、ついに陽平が動いた。BB弾の込められたガスガンで見事こめかみを当てている。
「〜〜〜〜!?」
「黙れ」
 声にもならない悲鳴をあげるゼロに対し、陽平は容赦なくガスガンを連射する。
「ぎゃぁぁぁああああああっ……」
「黙れと言っている」
「いや、そこまでにしてて、とりあえず。じゃないと、死ぬから」
 ミーナが一先ず止める。陽平はガスガンをポケットに戻した。
 ゼロはと言うと、全身をピクピクと動かし、どうにか生き長らえていた。
 ミーナが呆れ果てたままゼロに言う。
「ゼロ、少しは静かにしておかないと、死ぬわよ?」
 この言葉が、ゼロの耳に入る事はない。



 アルスの霊力によって、エルギガスの拳に水が覆われる。
「ウォォォタァァァ、バティカルッ!」
『っざけるなぁぁぁ!』
 棍棒を振り回し、エルギガスの攻撃を受け止める。アルスは次の攻撃を行う。
「ハンマァァァ、ブレイクゥッ!」
 エルギガスが渾身の力を込めて殴る。グリムファレスは吹き飛ばされた。
 ハンマーブレイクはエルギガスの拳で殴ると言う普通の攻撃だが、その威力は大きい。
 グリムファレスの操者カオスが咆哮を上げる。
『殺す殺す殺す殺ぉぉぉぉぉぉすっ!』
「殺す殺すってうるせぇんだよ、テメェは!」
 両者、同時に構える。エルギガスは右の拳に水の球体を作り、グリムファレスは棍棒に闇を集める。
 そして、同時に駆け抜けた。
『死ねぇぇぇぇぇぇ!』
「アクアウィザァァァディストォォォオオオオオオッ!」
 エルギガスがグリムファレスに向かって殴り込む。その時、グリムファレスの姿が消えた。
 まるで影のように消えたグリムファレス。アルスが目を見開かせる。
 エルギガスの後ろに現れたグリムファレスが、静かにエルギガスを捉えていた。
『馬鹿がぁぁぁっ! 深淵殺塵蓮華ぇぇぇっ!』
 巨大な棍棒がエルギガスの背中を突く。そして、棍棒が二つに分離し、乱打が続いた。
 エルギガスは結界を張ろうにも、グリムファレスの攻撃に邪魔されている。
「ぐぉぉぉ!?」
『終わりだぁぁぁああああああ!』
 二つに分離した棍棒に闇の力が宿り、エルギガスを叩きつける。
「な……に……!?」
 エルギガスが大地に平伏した。



 イシュザルトのブリッジ。ジャフェイルはグリムファレスの動きを見て立ち上がった。
 影のように消えるその姿は、間違いなく《死神》の怨霊機だ。
「……そうか、あの怨霊機達は新たに誕生したのではない。『進化』したのか……!」
「ジャフェイル殿、なぜ『進化』したと分かるのですか……!?」
「《深淵》の怨霊機の幻影だ……! あれは、《死神》の持っていた力。
 まさかだとは思ったが、間違いない。敵も『進化』している……!」
「で、では、このままでは……!?
 ロフの脳裏に考えたくもない予想が横切る。ジャフェイルは静かに頷いた。
「……このままでは、彼らは負ける」
 誰もが、その言葉を疑いたかった。



 ヴィクダートの盾までもが破壊され、ロバートはピンチに陥った。
 武装を失ったヴィクダートは攻撃する術が無く、ただ《血煙》の攻撃を避ける。
 しかし、《血煙》は強かった。全ての攻撃に霊力を注ぎ、ヴィクダートに命中させている。
「ぐっ……くそっ……!」
『まだ立てますか……まぁ、武装がない状態で立っても意味はありませんがね』
 アムルギアが掌をヴィクダートへ向ける。
『《破邪》には悪いですが、今楽にしてあげましょう。なかなか楽しかったですよ、《武神》の操者さん』
「ま……まだ……!」
『抵抗はしない方が良いです。その方が、楽に殺せますから』
「――――ファイアッ!」
 アムルギアを襲う銃弾。しかし、アムルギアはミサイルを撃って無力化した。
 イシュザルトの甲板に一つの影がある。全身を武装で覆った霊力機の姿が。
 ロバートはその霊力機を見て目を見開く。
「……どうやら、間に合ったか」
「……あ、あなたは……!?」
 ロバートの言葉に、彼――――シュダ=レステルは静かに頷いた。
『こらぁぁぁ、シュダ! ゴルドンはまだ調整中だ!』
「大丈夫だ。スピリットがなくとも動ける」
『そう言う問題じゃねぇぇぇ!』
 アランからの通信を切り、シュダの乗る霊力機ゴルドンは銃を構えた。
 アムルギアが唸りを上げる。
『私の邪魔をしますか。良いでしょう、あなたから殺してあげましょう』
「生憎だが、俺は死ぬ気などない」
『それは、私を倒してから言った方が良いですよ』
 アムルギアの全身が闇に包まれる。そして、額に称号が刻まれた。
 漆黒の煙の中に見えるドクロ。《血煙》の称号と共に、操者がゴルドンを睨みつける。
『ブラッディ・クロスティアァァァッ!』
 アムルギアから放たれる漆黒の波動。それは、まるでヴァトラスのバニシング・バーンのようだ。
 漆黒の波動は意思を持っているのか、空を舞う。その時、ゴルドンが漆黒の波動に襲われた。



 ハヤトはついに、その真実を知った。
《覇王》の力を捨てた父が、なぜ再び《覇王》の力を得たのか。
『…………』

 十七年前、一人の男の子が新たに誕生した。
 その子の泣き声を聞いて、母も涙を流している。無理もなかった。
 男の子は双子だった。けれど、先に生まれた兄の方は死産だった。
 男の子の名前はハヤト。しかし、事はこれで終わりではなかった。
「殺せ! そのような恐ろしい赤子など!」
「『守護の儀式』を受け入れぬほど壮大なる霊力を持つ子など、不吉をもたらすのみ!」
「いくら《霊王》の血を継ぐとは言え、呪われた子は神崎家を滅ぼすぞ!」
 今は先代《霊王》である神崎獣蔵の家で、しかも安らかに眠るハヤトを抱えた母と父。
 神崎家の長老達は、すぐにでもその決断を下した。
『守護の儀式』。まだ生まれたばかりの子が己の霊力の無意識な解放で命を落とさないようにする為の儀式。
 しかし、ハヤトには儀式が通用しなかった。その頃から、霊力が無限大だったのだ。
 長老達がハヤトの父である凌駕を睨みつける。
「《覇王》の血を持つ男を受け入れなければ、この赤子も死なずに済んだのだ!」
「そうだ! 元を正せば、《覇王》の血をこの赤子が継いでしまったのが原因だ!」
「やはり殺せ! 壮大なる霊力を持ち、《覇王》の血を継いだ赤子など!」
「……誰にも殺させはせん!」
 長老達の言葉に、祖父の獣蔵はついにその口を開いた。
「獣蔵よ、馬鹿げた事を言うでない! この赤子は、神崎家を滅ぼすだけだ!」
「そうだ! だからこそ今のうちに殺すのだ!」
「《覇王》の血を継いだのならば、この神崎家にとって敵同然!」
「――――静まれ!」
 獣蔵の怒鳴りが部屋中に響く。その時、母に抱かれて寝ていたハヤトが起きてしまい、泣き出した。
 母が泣き止ませようとする。獣蔵は静かにハヤトの頭を撫でた。
「起こしてしまったか。すまんな、じじいの声は大きかったの」
 優しく我が孫に話しかける獣蔵。長老達と再び顔を見合わせる。
「確かに、ハヤトの霊力は高過ぎる。しかし、ただ高いだけじゃ。
 ならば、ハヤト自身が霊力を制御できるようになるまで、封印しておけば良い」
「封印だと!? 獣蔵、その封印が長く続くと思っておるのか!」
「封印が解けた場合には、再び封印すれば良いだけじゃ。ハヤトは、わしが責任を持って一人前に育て上げる」
 自分だけで無限の霊力を制御できるようになるまでは封印する。しかし、それだけでは駄目だ。
 獣蔵が静かに父と母の方を見る。
 このような事は絶対にしたくはないが、これも新たなる命を失いたくない為に仕方がない。
「……凌駕、真弓よ。ハヤトの霊力が無限だと言う事は、ここで決意せねばならん。
 ハヤトが一人前の霊力者として育つまで、お前らは『鬼』となれるか?」
「……『鬼』、ですか?」
「そうじゃ。我が子を愛する事を禁じ、我が子を“他人同様”とする事じゃ」
 霊力を制御するには、それ相応の修行が必要となる。
 ハヤトの場合、無限の霊力を制御するには幼い頃から一人で身につけていかなければならない。
 獣蔵にとって、それは賭けだった。我が孫にとっての唯一の手段でも。
 凌駕がハヤトの頭を優しく撫で、その決意を口にした。
「……『鬼』になれば、ハヤトは大丈夫なのですね?」
「……そうじゃ。ある意味賭けになるがの」
「……ハヤトの為ならば、私は……『鬼』となりましょう……!」
 我が子を愛さず、他人として扱う。いや、それよりも酷いだろう。
 しかし、それが唯一残された手段なら、迷わず『鬼』になるしかない。
 獣蔵が母の方を見る。
「真弓よ、お前はどうじゃ?」
「……この子が幸せになるのなら、私も構いません……」



『――――!? ちょっと待てよ、つじつまが合わないぞ!』
 光の鳥を鋭く睨み、ハヤトが怒鳴りを上げる。
 両親が心を『鬼』にして自分を育てていたのは分かる。しかし、一つだけ違う。
 幼い頃の記憶に残っている父の姿は、日を増していく度に憎悪に満ちていた。
 それだけは確実に覚えている。
『あそこまで優しい心を持った人間が、どうやってあそこまで憎悪を持った人間に変われる!?
 光の鳥、答えろ! 親父に何が起きた!? なぜ親父は覇王として再び闇の力を得た!?』

 ――――それについては、我が全てを語ってやろう、《霊王》よ。

『――――!?』
 突然の闇。ハヤトはその力を感じた。
 憎悪に満ちた脅威的な力。光の鳥がその闇を睨みつける。

 ……お前は、どうやって彼の心の中に……!?

 簡単な事だ。我もお前と同じようにこの人間の心の中にいたのだ。

『……!?』
 闇が姿を現せる。漆黒の鎧を纏った堕天使のような存在。
 その姿は、ネセリパーラへ再び来た時に戦った敵と似ている。
『お前は……!?』
『我が名はルナルク・ゼオライマー。全てを滅ぼす為に存在せし破壊神なり』
『破壊、神……!?』
 ハヤトの中で何かが熱くなっていく。敵だとすぐに分かるが、この感覚が分からない。
 全身が焼けるように熱い。何かがルナルク・ゼオライマーに反応している。
『一体……お前は……!?』
『どうやら、己の中にある“記憶”を知ったか。仕方ない、すぐに楽にしてやろう』
 ルナルク・ゼオライマーが漆黒の剣を出す。ハヤトは舌打ちした。
 こっちには剣がない。戦おうにも、相手の強さが威圧感だけで感じ取れる。
 光の鳥がハヤトの前で翼を大きく羽ばたかせる。

 君を死なせはしない……。君は、この世界の希望だから……。

『邪魔をするな、光の鳥よ』

 僕の役目は、彼を守り、彼に伝える事……!

『我に挑む気か? 面白い、まずはお前を消滅させよう』
 ルナルク・ゼオライマーが静かに光の鳥を睨む。



 シュダに襲い掛かる漆黒の波動を見て、マサトはすぐに動いた。
 額に浮かび上がる《神王》の称号が、ヴァトラスを唸らせる。
「お願い……聖霊天掌破!」
《血煙》の怨霊機へ向けて放つ。しかし、すぐにデスペランサが邪魔をする。
『お前の相手は俺だ、《霊王》!』
「あなたと戦ってる場合じゃないんです! 仲間を守らないと……!」
『守る? そう言う事は、俺を倒してから言うものだ!』
 デスペランサが爪を振るう。ヴァトラスがランサーヴァイスを槍に変えて応戦した。
 しかし、やはり操者の力で動いている方が強い。マサトは顔を歪ませた。
 今のヴァトラスは自分の意思で戦っている。自分には霊力がないから。
(主よ、刻を待て。もう少し待つのだ)
「ヴァトラス……。ごめんね、僕に戦う力がないから……」
(気にするな。それに、私がここまで戦えるのは主のお陰だ)
 ヴァトラスのささやかな励まし。それがとても嬉しい。
 マサトは軽く深呼吸をし、ヴァトラスと心を通わせる。途端、声が聞こえた。

 ――――滅ぶ為にある戦い……!? 嘘だ! 俺はそんな事信じない!

「――――!? ハヤト……!?」
 ようやく聞けたハヤトの声。しかし、ハヤトは何かと対峙しているのがすぐに分かった。
 何があったのか分からない。けれど、ハヤトの方でも敵が現れている。
「……敵は……他にいるの……!?」



 ゴルドンに襲い掛かる漆黒の波動。ロバートはヴィクダートを奮い立たせ、漆黒の波動を全身で受け止めた。
 ヴィクダートを伝って激痛が体中を走る。
「がぁぁぁぁぁぁっ……」
『自らを盾にして、あの攻撃を受け止めますか。流石です』
「くっ……」
 ヴィクダートが立ち上がる。しかし、すでに限界だった。
 けれど戦わなければならない。強くなる為に、この戦いを終わらせる為に。
 ヴィクダートに光が集まる。ロバートの霊力がヴィクダートに力を与えていく。
『武器がない状態でどう戦うのでしょうか?』
「……たとえ剣がなくとも戦う……! 俺は、《武神》の操者なのだから……!」
『そうですか。しかし、その心意気も終わりです。フレア・ディリムレクト』
 アムルギアが咆哮を上げ、胸から巨大な漆黒の波動を放った。



 アルスは歯を噛み締めた。幻影に騙された事で怒りに震えていた。
 自分が愚かだった。ここまで力の差を見せつけられた自分が。
 カオスが棍棒でエルギガスを叩きつける。
『ははははははっ! 死ね死ね死ねぇぇぇっ!』
「……くそが……死ね死ねうるせぇつってんだろがぁぁぁ!」
 グリムファレスを跳ね除け、エルギガスが奮い立つ。
 アルスは手元の球体を強く握った。エルギガスが目を光らせる。
「……俺はそんなに強くない……けどな、俺にだって戦う志はある!」
 エルギガスに光が集まる。アルスの霊力がエルギガスに力を与えている。
 カオスはニヤリと笑みを溢した。その反面、怒りがあった。
 棍棒に闇を集め、巨大な光の球体を作る。
「……俺はテメェなんざに負けねぇぇぇ!」
『貴様はこれで終わりなんだよ! 死ねぇぇぇっ!』
 グリムファレスが光の球体――――ダーク・エクスプロードを放つ。



《魔神》との戦闘、ハヤトの事を考えながら、マサトは二人のピンチに反応した。
 とっさに動き出そうとするが、ヴァトラスが言う事を聞いてくれない。
「ヴァトラス、どうして!? 助けないと危ないんだよ!?」
(大丈夫だ。刻が、ようやく訪れた)
「え……?」
 途端、辺り一面に光が溢れた。マサトが目を見開く。
 そして、光が怨霊機の攻撃を無力化する。
「雷光斬裂閃!」
「ウォォォタァァァ、バティカルッ!」
 雷の走る二本の剣がアムルギアの装甲を切り刻み、水を纏った拳がグリムファレスを殴る。
 黒曜石のように輝く漆黒の装甲、両肩にはシールドを装備し、背中の赤いマントが風になびく機体。
 そして、巨大な腕に爪があり、背中に巨大なロケットのようなものを装備した機体。
 ロバートとアルスは自分達の目を疑った。
「これは……!?」
「こいつは……!?」
(汝、斬の心を持ちて真なる闇を断つ者)
(我、獣の心にて友を守りし盾)
 声が聞こえる。
(汝、斬の心を持ちて、新たなる剣を手にする時。我が名は《斬魔》の霊戦機ヴィクトリアス!)
(獣の心、我はその心を持ち、友を守る新たな巨神。我が名は《獣神》! 《獣神》の霊戦機ギガティリス!)
「《斬魔》……? これが『進化』、か……?」
「かなりの力だな……よし、ここからが勝負だ、ギガティリス!」
 ヴィクトリアスが剣を構え直す。新しくなった二本の剣を敵に向けた。
 白銀に輝き、敵を見透かすような美しさを持つ二本の剣に雷と炎が駆け抜ける。
《血煙》は瞳を閉じ、喜びの笑みを浮かべた。
『ようやく進化しましたか。しかし、アムルギアの攻撃は避けきれる事などできません』
 アムルギアが無数のミサイルを撃つ。ロバートは集中した。
 雷と炎が駆ける二本の剣から、閃光の刃が伸びる。
「斬魔双撃破!」
 閃光の刃が振り下ろす。雷と炎が無数の矢となって放たれ、ミサイルを全て撃破した。
 ヴィクトリアスは素早く剣の持ち手を組み合わせる。
「斬魔旋風!」
 剣を高回転させ、竜巻を放つ。アムルギアは防御する。
 しかし、それは無意味な行動だった。ヴィクトリアスが剣を構え、光を集める。
 ロバートの額に称号が浮かぶ。二本の剣を持つ王のような騎士――――《斬魔》の称号。
 剣が青い光を放ち、アムルギアを捉える。
「斬魔神明剣!」
 青い光を放つ二本の剣が、《血煙》の怨霊機の装甲を斬り砕く。



 カオスの怒りが頂点に立つ。とどめのダーク・エクスプロードが止められた事で。
 グリムファレスが咆哮を上げ、ギガティリスを睨みつける。
『おぉぉぉおおおおおおっ!』
「さっきまでの礼はきっちりと返してやる!」
 ギガティリスの右拳に水の球体が生まれる。
「アクアウィザァァァディストォォォオオオオオオッ!」
『死ね死ね死ねぇぇぇっ!』
 グリムファレスが棍棒を振り落とす。ギガティリスは棍棒に狙いを定めて殴った。
 水の球体が弾け、グリムファレスの棍棒が凍りつく。
「ウォォォタァァァ、バティカルッ!」
『甘いんだよ、馬鹿がぁぁぁっ!』
 ギガティリスが水を纏った拳で殴ろうとした瞬間、グリムファレスの姿が影のように消える。
 アルスは霊力を拳に集中したまま、ギガティリスの意思に任せた。
 カオスが後ろから棍棒を振り落とす。ギガティリスがグリムファレスの動きを読んだ。
「テメェの動きは、ギガティリスのお陰で分かる!」
 アルスの額に称号が浮かぶ。拳を構えた獣士を思わせる《獣神》の称号が。
 ギガティリスの拳が光り輝く。
「獣神爆撃乱打ぁぁぁっ!」
 ギガティリスの乱打がグリムファレスを襲う。



『馬鹿な……進化しただけであそこまで強くなるのか!?』
「強くなります! だって、僕達は一人で戦っているんじゃない。霊戦機と一緒に戦っているんです!」
 デスペランサを目の前に、ヴァトラスが霊剣ランサーヴァイスを構える。
「ヴァトラス、君の中にあるハヤトの力を引き出して!」
 ヴァトラスが唸りを上げる。マサトはヴァトラスを信じた。
 霊剣ランサーヴァイスに光が集まり、閃光の刃を作り出す。
 それは、ハヤトが《神王》となって得た必殺の剣であり、父を超えた証。
「いけ、神王閃光斬!」
 剣を振り落とす。《魔神》は両腕の爪で閃光の剣を受け止めたが、すぐに大地に叩きつけられた。
 マサトは感じていた。ヴァトラスの中にある満ちた力を。想いによって強くなる力を。
「ハヤトとアリサさんの想いは凄いな……ヴァトラス、君を強くしていくよ」
 王の力以外でも、ハヤトは別の力を秘めている。それがとても良く分かる。
 デスペランサの操者が、舌打ちする。
『……ようやく本気を出したか……、《霊王》!』
『いやいや……まさか三度も攻撃を受けるとは……次は容赦しません……!』
『殺す殺す殺す殺すぅぅぅぅぅぅっ!』
 怨霊機三体が集まる。ヴァトラスは再び閃光の刃を作り出した。
 瞬間、空から闇の雷が降る。マサトは目を見開いた。
 胸を抉り取られる様な感覚。ヴァトラスが怒りに燃えるかのように唸りを上げる。
 空が暗黒に覆われ、そこに奴らは姿を現した。
 血塗られた紅い全身で、己の背丈と同じように長い巨大な剣を持つ機体と緑色の全身で巨大な斧を持つ機体。
『見つけたぞ、《霊王》だ』
『戦闘中だったか。まぁ、我々には関係ない』



 ハヤトの心の中。光の鳥がルナルク・ゼオライマーと力をぶつける。
 しかし、ルナルク・ゼオライマーの方が圧倒的だった。

 ……この聖戦は終わらせなければならない。平和の為にも……!

『終わる事などできん。なにせ、この聖戦は滅びの為に存在するのだ』
『滅ぶ為にある戦い……!? 嘘だ! 俺はそんな事信じない!』
 ハヤトがルナルク・ゼオライマーを睨む。
『この戦いは、二人の王から始まった戦いだ! だったら、その二人の血を継ぐ俺が終わらせる!』
『無駄だ。なにせ、聖戦を作ったのは我と、光の鳥だからな』
『――――!?』
 ハヤトが目を見開かせる。信じたくなかったからだ。
 全世界を願う光の鳥が、破壊神と言う敵と聖戦を作った。
 分からなくなる。どちらが本当なのか、全く分からない。
『迷え。そして、破滅への道を見る前に楽にしてやろう』
 ルナルク・ゼオライマーが剣をハヤトに向け、闇の力を集める。

 本当の闇が、彼らを破滅への道へ誘う――――



 第二章 七つの聖なる心が集う時

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