光の力と闇の力が激突を繰り返す。ハヤトはその力を引き出しつつあった。
「メテオ・オブ・シャインッ!」
剣が眩しい光に包まれ、無数の波動を放つ。その威力は飛躍的に上がっていた。
今までは赤熱の炎だったが、光に変わっている。
ハヤトにとって、光の力はさらなる強さとなっていた。
『そうだ、そうやって力を出せ! 全力の貴様を倒してこそ、その力を手に入れる価値があるからな!』
「価値だと? ふざけるな! こんな力があるからこそ、悲しみが溢れ生まれるんだ!」
『そんなもんは知らん。俺はただ、究極の力を手に入れれば、それだけで良いんだよ!』
その言葉に、ハヤトが光の瞳を鋭くして睨む。
「だったら、俺はこの力をお前なんかに渡せない! 俺には、守る人がいるから!」
『ふん、《邪神王》に勝てると思っているのかぁ!?』
ダークネス・ジハードが漆黒の闇を右拳に集める。ハヤトは舌打ちした。
敵が使ってくる技は分かっている。しかし、それに対抗する手段が思い浮かばない。
『邪王破刃牙ァァァッ!』
「くっ……、疾風幻影斬!」
瞬間的に動き、カウンターを繰り出す。しかし、どこか違和感があった。
ダークネス・ジハードの攻撃を避けたのだが、ヴァトラスの反応が鈍く感じる。
いや、体力が消耗している。まるで、初めてヴァトラスに乗った時のようだ。
「……"光の守護力"は霊力と同じか……」
ヴァトラスが唸りを上げる。ハヤトは剣を大きく振り構えた。
赤熱の翼が現れ、閃光の刀身が伸びる。それを見てダークネス・ジハードも再び拳を構える。
「闇鳳凰ッ! 光・翼・斬ッ!」
『邪王破刃牙ァァァッ!』
イシュザルトのブリッジ。ジャフェイルがハヤトの戦い方を見て呟く。
「……素質の塊だな、やはり。獣蔵とは全く違った戦い方が出来ている」
「先代の《霊王》、ジュウゾウ=カンザキでしたか? 一体、どんな戦い方を?」
「周りからの人間から見れば、まるで華麗な舞いを踊っているような戦い方をしていた」
一つの武術に拘らず、己が持つ武術全てを活かした戦い。それが、神崎獣蔵だった。
片手で剣術を繰り出し、空いている手で格闘戦を行う。そして、攻撃は全て《天馬》のような動きで避ける。
一言で言えば、我に敵無し。そう言っても良い。
ジャフェイルが言葉を続ける。
「獣蔵の強さの領域は次元が違っていた。あの聖戦の中で獣蔵が一度だけ負けたなど、今でも信じ難い」
「負けたって……先代の《霊王》より強かったのですか、相手は!?」
「そう言う事になる。あの頃は流石の獣蔵も落ち込んでな。自分の弱さを悔やんでいた」
別名『心見透かす者』と呼ばれていた《覇王》を前に、獣蔵は圧倒的な敗北を味わった。
相手に一撃も当てる事が出来ず、防戦一方の状態。獣蔵にとって全て初めての経験である。
「《覇王》に負けて、獣蔵は無心の戦いを習得しようと必死になった。
あの時は本当に驚いた。修行の為に、あいつは初めて人に頭を下げたのだからな」
「それで、《覇王》にはどうやって勝てたのですか?」
「一瞬で相手を斬る『無の太刀』だ。あいつは、一振りでも不可能と言われていた太刀を手に入れた」
誰もが見切る事の出来ないと言われている最強の太刀。それが獣蔵の新たな太刀となった。
当時はヴァトラスの力を借りて得た太刀だが、今では獣蔵にとって基本となっている。
「『無の太刀』を振るう事が出来るには、『無の太刀』を見切れる事が絶対的な条件となる。
そして、『無の太刀』の真実を追究しない限り、絶対に振るう事はできない太刀だ」
「真実、ですか?」
「そう。だからこそ、ハヤト君も『無の太刀』を編み出そうとしても、編み出せないままなのだ」
まだ『無の太刀』の真実を掴めていない。ジャフェイルの言葉は、どこか厳しかった。
霊戦機ギガティリスが操者を乗せ、戦場に赴く。そして、すぐに激闘を始めた。
巨大な棍棒を持つ《深淵》の怨霊機グリムファレス。アルスの額に《獣神》の称号が浮かび上がる。
《深淵》の操者であるカオスの額にも称号が浮かび上がった。
『ダァァァク・エクスプロォォォドォォォオオオオオオッ!』
「アクアウィザァァァディストォォォッ!」
放たれる漆黒の球体。ギガティリスが渾身の力を持って殴る。瞬間的に凍った。
背中のミサイルを手に持ち、アルスはその狙いを定めた。
『うおぉぉぉおおおおおおっ!』
「黙っていろ、棍棒野郎ッ!」
ミサイルを数発放つ。グリムファレスが棍棒で叩き落す。
ギガティリスが拳で応戦し、グリムファレスと激しいぶつかりを繰り返す。
瞬間、グリムファレスの姿が影のように消えた。《深淵》の持つ幻影の力だ。
ギガティリスの背部に姿を現し、棍棒を二つに分離させる。
『深淵殺塵蓮華ぇぇぇっ!』
「甘く見るな! 獣神爆撃乱打ぁぁぁッ!」
互いに乱撃を始める。しかし、それに勝利したのはグリムファレスだった。
棍棒に闇の力を集める。
『終わりだぁぁぁ!』
「――――終わりなわけねぇだろが!」
ぶつかり合う拳と棍棒で、真の勝者はアルスだった。《獣神》の称号が眩しく光り輝く。
ギガティリスの拳が棍棒を粉砕し、怨霊機を殴る。
カオスの怒りが頂点に立ち、怨霊機が咆哮を上げた。
『貴様ぁぁぁああああああっ!』
「はぁぁぁああああああっ!」
両者の拳がぶつかる。それも、激しい衝撃波を生み出しながら。
「唸れぇぇぇ、ギガティリスゥゥゥウウウウウウッ!」
ギガティリスが獅子の如く雄叫びを上げ、背中の剣を手にする。
巨大な身体が空高く舞い上がり、剣先には水の球体があった。
カオスが拳を強く握り締め、ギガティリスへと向かう。
『死ねぇぇぇええええええっ!』
「アァァァクアッ、メテオバニッシュゥゥゥウウウウウウッ!」
剣先に集った水の球体が怨霊機を覆い、一瞬で凍らせる。
しかし、それだけでは終わらない。ギガティリスが連続で殴り、剣が振り落とされる。
全身を覆った氷が砕け、怨霊機の装甲を砕いた。
グレートリクオーの強烈な技の前に、デスペランサが倒れる。
必殺技を放った時に消費した霊力のせいで、ゼロは体力に限界が来たのか、前にうな垂れた。
「ちょっと、大丈夫、ゼロ!?」
「……おぉ。ぶっつけ本番であれ使って死ぬ〜……」
「……矛盾してるわよ、どこか。それよりも、あの技は何なのよ、一体?」
《双龍》へと『進化』したグレートリクオーの力を全て引き出した技、ドライバル・グラウンド。
あれほどの技を霊戦機がゼロに伝えているわけがない。ゼロが脱力した声で答える。
「あれなぁ……じーちゃんの未完成の技ぁ……」
「未完成!? どこが!?」
「……本当ならぁ、もっと遠いとこから使えるんだけど……俺無理……」
《地龍》の力を引き出して放つ地龍裂斬剣を元に、さらなる威力を持ち、距離を置いても使える技。
それが、祖父の目指していた技であり、グレートリクオーの放ったドライバル・グラウンドだ。
ゼロも祖母から幼い頃に聞いているだけで、実際にどんな技なのか謎でもある。
デスペランサが立ち上がり、グレートリクオーを睨みつける。
『……やるじゃないか、《地龍》……、いや、《双龍》!』
「おぉぅ……まだ立てるのかぁ……!?」
「これ以上はこっちが無理じゃない……!」
相手もかなりのダメージを負っているが、こっちも肝心の操者が霊力を消費し切っている。
デスペランサが爪に漆黒の闇を集める。
『喰らえ……、剛爪魔神閃ッ!』
「のぉぉぉ……!?」
グレートリクオーが背中の長い砲身二つを肩に装備する。
『何……!?』
「おぉぉぉ〜……」
怒涛の波動がデスペランサを襲った。
ペガスヴァイザーが《漆龍》の攻撃を避けつつ、反撃を行う。
《神馬》の力による残影は、怨霊機にとって絶大的な効果を示していた。
『チッ、ふざけた事をやるな……! だが、こいつ――――ドラグデイルを甘く見るな!』
怨霊機ドラグデイルが咆哮を上げ、その姿を変えていく。
龍の頭部が外れ、全体を変形させる。翼が右腕に装備され、頭部が左腕に装備された。
人型となったドラグデイルが、ペガスヴァイザーに牙を向く。
『覚悟しろ、ドラグデイルの本領を見せてやる!』
「あらあら?」
(変形した程度で何が変わる? 俺を甘く見てもらうのは困るな)
ペガスヴァイザーが翼を大きく広げる。ドラグデイルが動き出した。
今までとは段違いの機動性で、瞬間的にペガスヴァイザーの後ろへ回り込む。
そして、右腕の翼を振り構えた。
『ヘルウインガー!』
(神馬残影!)
ドラグデイルの右腕の翼から漆黒の刃が放たれたが、ペガスヴァイザーが一瞬で避けた。
上空に舞い上がり、ペガスヴァイザーが剣を突き向ける。
(操者よ、全てを引き出せ。これで終わりにする)
「あらあら? それでは、行きましょうか」
ペガスヴァイザーの全身が眩しい光に包まれ、光り輝く残影が現れる。
瞬間、生み出された残影がドラグデイルを十字に斬り刻み、無数の残影が包囲する。
(ペガサス・グランドクロス!)
光り輝く残影が全て、ドラグデイルに襲い掛かった。
ハヤトの攻撃が見事、ダークネス・ジハードに勝利した。
ヴァトラスが赤熱の翼を生やしたまま、静かに剣を敵へ向ける。
『ぐっ……貴様ぁぁぁああああああっ!』
雷魔が怒りに震える。ダークネス・ジハードがさらなる力を引き出した。
ヴァトラスが低い唸りを上げる。ハヤトは舌打ちした。
「……分かってる。動きが鈍くなっているのもな」
光の力を意識して出しているのは良いが、逆に体力の消耗も激しい。
ダークネス・ジハードが剣を振り落とす。漆黒の刀身が現れ、ヴァトラスに襲い掛かる。
ヴァトラスは太陽の剣から光の刀身を伸ばし、素早く対抗した。
ぶつかり合う光と闇。衝撃波が生まれ、大気を震えさせる。
――――光の鳥に選ばれた者よ、汝は何故戦う?
激しいぶつかり合いの中、声が聞こえた。
頭の中に響いてくる声。ハヤトがその声に反応する。
答えよ。汝は何故戦う?
「……守りたいから、だろ」
独り言のように、そして悩む事なく、ハヤトはその声に対して答えた。
「……大切な人を失う悲しみがどれほど重いか、俺はこの戦いの中で知った。
だから、俺は守りたい。俺にとって大切な人を。俺を支えてくれる人と一緒にいるこの星を」
それが答えか?
「そうだ。それが、俺の答えだ。それ以外に何も無い!」
ハヤトの答えに、声が何も語り掛けて来なくなる。ヴァトラスが小さく唸った。
ダークネス・ジハードの漆黒の刀身が無力化される。それも瞬間的に。
ハヤトは目を見開いた。ヴァトラスの右手に持っていた太陽の剣が消え、眩しい光が集まっていく。
汝の強い意志による答えに、我も力を貸そう。
黄金に輝く白銀の剣が現れる。柄には光の鳥の称号が描かれており、神の槍と同じ感覚がする。
ハヤトの持つ"光の守護力"が強く反応した。
「これは……!?」
我は神の剣ヴァルキュリア。無を司る剣であり、真なる魔を断つ剣。
「ヴァルキュリア……。剣、か……」
しかし、忘れるな。我が力は悲しき力。その一振りが悲しみを生み出す。
「……悲しみ、か」
ヴァトラスが静かに唸りを上げる。ダークネス・ジハードが距離を置く。
『ダァァァクディスグレイザァァァアアアアアアッ!』
放たれた漆黒の波動。ハヤトは舌打ちした。
レジェンド・ヴァードを放とうにも時間がない。
我を振れ、主君よ。我は無を司る剣だ。
「この……!」
神の剣を手に、ヴァトラスが構える。霊力で生み出された赤熱の翼が羽ばたいた。
「闇鳳凰ッ! 光・翼・斬ッ!」
赤熱の翼が漆黒の波動とぶつかり、神の剣が振り落とされる。
神の剣から伸びた光の刀身が漆黒の波動を無力化した。
粒子となって消えていく漆黒の波動。ハヤトは唖然とした。
「消えた……!? いや、これが無の力……、なのか……?」
無を司る剣。それは、まさに最強の剣とも言って良いかもしれない。
ハヤトは、なぜその力が悲しき力なのかすぐに分かった。
「……全てを無に還す事が出来る。そう言う事か」
一つ間違えれば、大切な物を無に還して失ってしまう。だから悲しい力なのだ。
ふと思い出す。祖父の操る『無の太刀』を。
あの太刀を振るう時、いつも祖父はどこか恐怖を抱かせるほどだった。
過去に一度、敗北を味わった祖父が生み出した祖父にとって最強の太刀。
神の剣を見つつ、ハヤトは考える。
「『無の太刀』は連続の太刀じゃない……、一振りで六太刀……それが、じじいの『無の太刀』なのか……!」
神の剣を構える。ハヤトは"聖域(=ゾーン)"に入っている状態から、さらに集中力を高めた。
周りから感じる大気の音だけを聞く。
「――――いくぞ!」
ヴァトラスが唸りを上げ、ダークネス・ジハードに向かって行く。
雷魔はダークネス・ジハードの拳に霊力を集中した。
漆黒の剣を手に、ダークネス・ジハードが咆哮を上げる。
『羅刹魔動斬ッ!』
「凱歌! 神王剣聖斬ッ!」
剣同士がぶつかる。しかし、漆黒の剣は神の剣の前に無力化された。
ダークネス・ジハードを斬る。ヴァトラスがダークネス・ジハードの背後を過ぎ、ハヤトは静かに囁いた。
切り筋の入った部分を中心に、七つの光る切り筋がダークネス・ジハードに刻まれる。
一振りにして七つの『無の太刀』。ヴァトラスが唸りを上げた。
「……出来た。俺だけの『無の太刀』が……!」
『……き、貴様ぁぁぁっ……!』
ダークネス・ジハードに再び怒りが込められる。ハヤトは目を見開いた。
「……無の力が発動していない……!?」
神の剣で斬ったのだから、ダークネス・ジハードは滅ぶだけのはず。
しかし、ダークネス・ジハードは強大な力によって傷を負ったくらいだった。
舌打ちする。その時、ダークネス・ジハードの前に一機の怨霊機が現れた。
魔術師を思わせる《幽鬼》の怨霊機。操者が雷魔を止める。
『《邪神王》よ、今回はここで引き上げましょう。今は、その方が身の為です』
『貴様、俺に指図する気か!?』
『今は引くのです。強大な力を手に入れる方法が見つかりましたので』
『……仕方ねぇ。今回は、貴様の指図を聞いてやろうじゃねぇか』
ダークネス・ジハードがヴァトラスを睨む。
『次に戦う時には、貴様の力を手に入れてやるからな、《神王》!』
「……望むところだ。この聖戦を終わらせる為にも、必ずお前に勝つ!」
『ふん、貴様には絶対に負けん』
そう言って姿を消す。ハヤトは歯を噛み締めた。
最強の力を引き出す"覚醒(=スペリオール)"の出来る敵。その強さの前に、歯が立たなかった。
神の剣や"光の守護力"がなければ、間違いなく負けていた。
「……強くなりたい。アリサを守る為にも、もう誰も悲しませないようにする為にも……!」
その言葉に、ヴァトラスは悲しげな唸りを上げるのだった。
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