第八章 鼓動、最強の剣


 光の力と闇の力が激突を繰り返す。ハヤトはその力を引き出しつつあった。
「メテオ・オブ・シャインッ!」
 剣が眩しい光に包まれ、無数の波動を放つ。その威力は飛躍的に上がっていた。
 今までは赤熱の炎だったが、光に変わっている。
 ハヤトにとって、光の力はさらなる強さとなっていた。
『そうだ、そうやって力を出せ! 全力の貴様を倒してこそ、その力を手に入れる価値があるからな!』
「価値だと? ふざけるな! こんな力があるからこそ、悲しみが溢れ生まれるんだ!」
『そんなもんは知らん。俺はただ、究極の力を手に入れれば、それだけで良いんだよ!』
 その言葉に、ハヤトが光の瞳を鋭くして睨む。
「だったら、俺はこの力をお前なんかに渡せない! 俺には、守る人がいるから!」
『ふん、《邪神王》に勝てると思っているのかぁ!?』
 ダークネス・ジハードが漆黒の闇を右拳に集める。ハヤトは舌打ちした。
 敵が使ってくる技は分かっている。しかし、それに対抗する手段が思い浮かばない。
『邪王破刃牙ァァァッ!』
「くっ……、疾風幻影斬!」
 瞬間的に動き、カウンターを繰り出す。しかし、どこか違和感があった。
 ダークネス・ジハードの攻撃を避けたのだが、ヴァトラスの反応が鈍く感じる。
 いや、体力が消耗している。まるで、初めてヴァトラスに乗った時のようだ。
「……"光の守護力"は霊力と同じか……」
 ヴァトラスが唸りを上げる。ハヤトは剣を大きく振り構えた。
 赤熱の翼が現れ、閃光の刀身が伸びる。それを見てダークネス・ジハードも再び拳を構える。
「闇鳳凰ッ! 光・翼・斬ッ!」
『邪王破刃牙ァァァッ!』



 イシュザルトのブリッジ。ジャフェイルがハヤトの戦い方を見て呟く。
「……素質の塊だな、やはり。獣蔵とは全く違った戦い方が出来ている」
「先代の《霊王》、ジュウゾウ=カンザキでしたか? 一体、どんな戦い方を?」
「周りからの人間から見れば、まるで華麗な舞いを踊っているような戦い方をしていた」
 一つの武術に拘らず、己が持つ武術全てを活かした戦い。それが、神崎獣蔵だった。
 片手で剣術を繰り出し、空いている手で格闘戦を行う。そして、攻撃は全て《天馬》のような動きで避ける。
 一言で言えば、我に敵無し。そう言っても良い。
 ジャフェイルが言葉を続ける。
「獣蔵の強さの領域は次元が違っていた。あの聖戦の中で獣蔵が一度だけ負けたなど、今でも信じ難い」
「負けたって……先代の《霊王》より強かったのですか、相手は!?」
「そう言う事になる。あの頃は流石の獣蔵も落ち込んでな。自分の弱さを悔やんでいた」
 別名『心見透かす者』と呼ばれていた《覇王》を前に、獣蔵は圧倒的な敗北を味わった。
 相手に一撃も当てる事が出来ず、防戦一方の状態。獣蔵にとって全て初めての経験である。
「《覇王》に負けて、獣蔵は無心の戦いを習得しようと必死になった。
 あの時は本当に驚いた。修行の為に、あいつは初めて人に頭を下げたのだからな」
「それで、《覇王》にはどうやって勝てたのですか?」
「一瞬で相手を斬る『無の太刀』だ。あいつは、一振りでも不可能と言われていた太刀を手に入れた」
 誰もが見切る事の出来ないと言われている最強の太刀。それが獣蔵の新たな太刀となった。
 当時はヴァトラスの力を借りて得た太刀だが、今では獣蔵にとって基本となっている。
「『無の太刀』を振るう事が出来るには、『無の太刀』を見切れる事が絶対的な条件となる。
 そして、『無の太刀』の真実を追究しない限り、絶対に振るう事はできない太刀だ」
「真実、ですか?」
「そう。だからこそ、ハヤト君も『無の太刀』を編み出そうとしても、編み出せないままなのだ」
 まだ『無の太刀』の真実を掴めていない。ジャフェイルの言葉は、どこか厳しかった。



 霊戦機ギガティリスが操者を乗せ、戦場に赴く。そして、すぐに激闘を始めた。
 巨大な棍棒を持つ《深淵》の怨霊機グリムファレス。アルスの額に《獣神》の称号が浮かび上がる。
《深淵》の操者であるカオスの額にも称号が浮かび上がった。
『ダァァァク・エクスプロォォォドォォォオオオオオオッ!』
「アクアウィザァァァディストォォォッ!」
 放たれる漆黒の球体。ギガティリスが渾身の力を持って殴る。瞬間的に凍った。
 背中のミサイルを手に持ち、アルスはその狙いを定めた。
『うおぉぉぉおおおおおおっ!』
「黙っていろ、棍棒野郎ッ!」
 ミサイルを数発放つ。グリムファレスが棍棒で叩き落す。
 ギガティリスが拳で応戦し、グリムファレスと激しいぶつかりを繰り返す。
 瞬間、グリムファレスの姿が影のように消えた。《深淵》の持つ幻影の力だ。
 ギガティリスの背部に姿を現し、棍棒を二つに分離させる。
『深淵殺塵蓮華ぇぇぇっ!』
「甘く見るな! 獣神爆撃乱打ぁぁぁッ!」
 互いに乱撃を始める。しかし、それに勝利したのはグリムファレスだった。
 棍棒に闇の力を集める。
『終わりだぁぁぁ!』
「――――終わりなわけねぇだろが!」
 ぶつかり合う拳と棍棒で、真の勝者はアルスだった。《獣神》の称号が眩しく光り輝く。
 ギガティリスの拳が棍棒を粉砕し、怨霊機を殴る。
 カオスの怒りが頂点に立ち、怨霊機が咆哮を上げた。
『貴様ぁぁぁああああああっ!』
「はぁぁぁああああああっ!」
 両者の拳がぶつかる。それも、激しい衝撃波を生み出しながら。
「唸れぇぇぇ、ギガティリスゥゥゥウウウウウウッ!」
 ギガティリスが獅子の如く雄叫びを上げ、背中の剣を手にする。
 巨大な身体が空高く舞い上がり、剣先には水の球体があった。
 カオスが拳を強く握り締め、ギガティリスへと向かう。
『死ねぇぇぇええええええっ!』
「アァァァクアッ、メテオバニッシュゥゥゥウウウウウウッ!」
 剣先に集った水の球体が怨霊機を覆い、一瞬で凍らせる。
 しかし、それだけでは終わらない。ギガティリスが連続で殴り、剣が振り落とされる。
 全身を覆った氷が砕け、怨霊機の装甲を砕いた。



 グレートリクオーの強烈な技の前に、デスペランサが倒れる。
 必殺技を放った時に消費した霊力のせいで、ゼロは体力に限界が来たのか、前にうな垂れた。
「ちょっと、大丈夫、ゼロ!?」
「……おぉ。ぶっつけ本番であれ使って死ぬ〜……」
「……矛盾してるわよ、どこか。それよりも、あの技は何なのよ、一体?」
《双龍》へと『進化』したグレートリクオーの力を全て引き出した技、ドライバル・グラウンド。
 あれほどの技を霊戦機がゼロに伝えているわけがない。ゼロが脱力した声で答える。
「あれなぁ……じーちゃんの未完成の技ぁ……」
「未完成!? どこが!?」
「……本当ならぁ、もっと遠いとこから使えるんだけど……俺無理……」
《地龍》の力を引き出して放つ地龍裂斬剣を元に、さらなる威力を持ち、距離を置いても使える技。
 それが、祖父の目指していた技であり、グレートリクオーの放ったドライバル・グラウンドだ。
 ゼロも祖母から幼い頃に聞いているだけで、実際にどんな技なのか謎でもある。
 デスペランサが立ち上がり、グレートリクオーを睨みつける。
『……やるじゃないか、《地龍》……、いや、《双龍》!』
「おぉぅ……まだ立てるのかぁ……!?」
「これ以上はこっちが無理じゃない……!」
 相手もかなりのダメージを負っているが、こっちも肝心の操者が霊力を消費し切っている。
 デスペランサが爪に漆黒の闇を集める。
『喰らえ……、剛爪魔神閃ッ!』
「のぉぉぉ……!?」
 グレートリクオーが背中の長い砲身二つを肩に装備する。
『何……!?』
「おぉぉぉ〜……」
 怒涛の波動がデスペランサを襲った。



 ペガスヴァイザーが《漆龍》の攻撃を避けつつ、反撃を行う。
《神馬》の力による残影は、怨霊機にとって絶大的な効果を示していた。
『チッ、ふざけた事をやるな……! だが、こいつ――――ドラグデイルを甘く見るな!』
 怨霊機ドラグデイルが咆哮を上げ、その姿を変えていく。
 龍の頭部が外れ、全体を変形させる。翼が右腕に装備され、頭部が左腕に装備された。
 人型となったドラグデイルが、ペガスヴァイザーに牙を向く。
『覚悟しろ、ドラグデイルの本領を見せてやる!』
「あらあら?」
(変形した程度で何が変わる? 俺を甘く見てもらうのは困るな)
 ペガスヴァイザーが翼を大きく広げる。ドラグデイルが動き出した。
 今までとは段違いの機動性で、瞬間的にペガスヴァイザーの後ろへ回り込む。
 そして、右腕の翼を振り構えた。
『ヘルウインガー!』
(神馬残影!)
 ドラグデイルの右腕の翼から漆黒の刃が放たれたが、ペガスヴァイザーが一瞬で避けた。
 上空に舞い上がり、ペガスヴァイザーが剣を突き向ける。
(操者よ、全てを引き出せ。これで終わりにする)
「あらあら? それでは、行きましょうか」
 ペガスヴァイザーの全身が眩しい光に包まれ、光り輝く残影が現れる。
 瞬間、生み出された残影がドラグデイルを十字に斬り刻み、無数の残影が包囲する。
(ペガサス・グランドクロス!)
 光り輝く残影が全て、ドラグデイルに襲い掛かった。



 ハヤトの攻撃が見事、ダークネス・ジハードに勝利した。
 ヴァトラスが赤熱の翼を生やしたまま、静かに剣を敵へ向ける。
『ぐっ……貴様ぁぁぁああああああっ!』
 雷魔が怒りに震える。ダークネス・ジハードがさらなる力を引き出した。
 ヴァトラスが低い唸りを上げる。ハヤトは舌打ちした。
「……分かってる。動きが鈍くなっているのもな」
 光の力を意識して出しているのは良いが、逆に体力の消耗も激しい。
 ダークネス・ジハードが剣を振り落とす。漆黒の刀身が現れ、ヴァトラスに襲い掛かる。
 ヴァトラスは太陽の剣から光の刀身を伸ばし、素早く対抗した。
 ぶつかり合う光と闇。衝撃波が生まれ、大気を震えさせる。

 ――――光の鳥に選ばれた者よ、汝は何故戦う?

 激しいぶつかり合いの中、声が聞こえた。
 頭の中に響いてくる声。ハヤトがその声に反応する。

 答えよ。汝は何故戦う?

「……守りたいから、だろ」
 独り言のように、そして悩む事なく、ハヤトはその声に対して答えた。
「……大切な人を失う悲しみがどれほど重いか、俺はこの戦いの中で知った。
 だから、俺は守りたい。俺にとって大切な人を。俺を支えてくれる人と一緒にいるこの星を」

 それが答えか?

「そうだ。それが、俺の答えだ。それ以外に何も無い!」
 ハヤトの答えに、声が何も語り掛けて来なくなる。ヴァトラスが小さく唸った。
 ダークネス・ジハードの漆黒の刀身が無力化される。それも瞬間的に。
 ハヤトは目を見開いた。ヴァトラスの右手に持っていた太陽の剣が消え、眩しい光が集まっていく。

 汝の強い意志による答えに、我も力を貸そう。

 黄金に輝く白銀の剣が現れる。柄には光の鳥の称号が描かれており、神の槍と同じ感覚がする。
 ハヤトの持つ"光の守護力"が強く反応した。
「これは……!?」

 我は神の剣ヴァルキュリア。無を司る剣であり、真なる魔を断つ剣。

「ヴァルキュリア……。剣、か……」

 しかし、忘れるな。我が力は悲しき力。その一振りが悲しみを生み出す。

「……悲しみ、か」
 ヴァトラスが静かに唸りを上げる。ダークネス・ジハードが距離を置く。
『ダァァァクディスグレイザァァァアアアアアアッ!』
 放たれた漆黒の波動。ハヤトは舌打ちした。
 レジェンド・ヴァードを放とうにも時間がない。

 我を振れ、主君よ。我は無を司る剣だ。

「この……!」
 神の剣を手に、ヴァトラスが構える。霊力で生み出された赤熱の翼が羽ばたいた。
「闇鳳凰ッ! 光・翼・斬ッ!」
 赤熱の翼が漆黒の波動とぶつかり、神の剣が振り落とされる。
 神の剣から伸びた光の刀身が漆黒の波動を無力化した。
 粒子となって消えていく漆黒の波動。ハヤトは唖然とした。
「消えた……!? いや、これが無の力……、なのか……?」
 無を司る剣。それは、まさに最強の剣とも言って良いかもしれない。
 ハヤトは、なぜその力が悲しき力なのかすぐに分かった。
「……全てを無に還す事が出来る。そう言う事か」
 一つ間違えれば、大切な物を無に還して失ってしまう。だから悲しい力なのだ。
 ふと思い出す。祖父の操る『無の太刀』を。
 あの太刀を振るう時、いつも祖父はどこか恐怖を抱かせるほどだった。
 過去に一度、敗北を味わった祖父が生み出した祖父にとって最強の太刀。
 神の剣を見つつ、ハヤトは考える。
「『無の太刀』は連続の太刀じゃない……、一振りで六太刀……それが、じじいの『無の太刀』なのか……!」
 神の剣を構える。ハヤトは"聖域(=ゾーン)"に入っている状態から、さらに集中力を高めた。
 周りから感じる大気の音だけを聞く。
「――――いくぞ!」
 ヴァトラスが唸りを上げ、ダークネス・ジハードに向かって行く。
 雷魔はダークネス・ジハードの拳に霊力を集中した。
 漆黒の剣を手に、ダークネス・ジハードが咆哮を上げる。
『羅刹魔動斬ッ!』
「凱歌! 神王剣聖斬ッ!」
 剣同士がぶつかる。しかし、漆黒の剣は神の剣の前に無力化された。
 ダークネス・ジハードを斬る。ヴァトラスがダークネス・ジハードの背後を過ぎ、ハヤトは静かに囁いた。
 切り筋の入った部分を中心に、七つの光る切り筋がダークネス・ジハードに刻まれる。
 一振りにして七つの『無の太刀』。ヴァトラスが唸りを上げた。
「……出来た。俺だけの『無の太刀』が……!」
『……き、貴様ぁぁぁっ……!』
 ダークネス・ジハードに再び怒りが込められる。ハヤトは目を見開いた。
「……無の力が発動していない……!?」
 神の剣で斬ったのだから、ダークネス・ジハードは滅ぶだけのはず。
 しかし、ダークネス・ジハードは強大な力によって傷を負ったくらいだった。
 舌打ちする。その時、ダークネス・ジハードの前に一機の怨霊機が現れた。
 魔術師を思わせる《幽鬼》の怨霊機。操者が雷魔を止める。
『《邪神王》よ、今回はここで引き上げましょう。今は、その方が身の為です』
『貴様、俺に指図する気か!?』
『今は引くのです。強大な力を手に入れる方法が見つかりましたので』
『……仕方ねぇ。今回は、貴様の指図を聞いてやろうじゃねぇか』
 ダークネス・ジハードがヴァトラスを睨む。
『次に戦う時には、貴様の力を手に入れてやるからな、《神王》!』
「……望むところだ。この聖戦を終わらせる為にも、必ずお前に勝つ!」
『ふん、貴様には絶対に負けん』
 そう言って姿を消す。ハヤトは歯を噛み締めた。
 最強の力を引き出す"覚醒(=スペリオール)"の出来る敵。その強さの前に、歯が立たなかった。
 神の剣や"光の守護力"がなければ、間違いなく負けていた。
「……強くなりたい。アリサを守る為にも、もう誰も悲しませないようにする為にも……!」
 その言葉に、ヴァトラスは悲しげな唸りを上げるのだった。



 第七章 龍の息吹、蘇る咆哮

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