第二章 少女の想い、神々の領域


 ヴァトラスが何か言っている。
(《天馬》……ありがとう………)
 ありがとうは分かった。しかし、《天馬》とは一体何なのだろう?
 けれど、今はそれを考えるよりも、自分の事を心配した方が良かった。
 そう、俺は意識を失って倒れているのだから。



「急げ!ヴァトラスを回収後、すぐにこの場から離れるぞ」
 ロフの罵声が総員を動かす。その横で腰掛けている艦長グラナは、
 霊戦機ヴァトラスの霊力値を見ていた。
「霊力“測定不能”か………。なるほど、維持しているって言うのも頷ける」
「しかし艦長、操者の霊力が高くても、霊戦機の方が………」
「ああ。耐えられない。だから、霊力を維持しているんだろう。
 おそらく、先代の《霊王》も知っていたんだろう」
 グラナは苦笑しつつも、喜んでいた。
 “霊王”が目覚めた。これで奴らと対等に戦えるのだ。
 ただ問題なのは、彼が協力して戦ってくれるかどうかである。
「艦長、ヴァトラスの回収が終わりました。操者は医務室の方に」
「よし、イシュザルト浮上。進路、王都アルフォリーゼ」
『了解。イシュザルト浮上。進路、王都アルフォリーゼ』
 人工知能イシュザルトが応答し、イシュザルトが浮上する。



 天を翔る《天馬》

 自然を守る《巨神》

 大地の守護《地龍》

 武の象徴《武神》

 炎の雄叫び《炎獣》

 空を舞う《星凰》

 頭の中で、その言葉が浮かんでいた。
 六つの訳の分からない言葉。しかし、聞き覚えのある単語があった。
《天馬》。あの時、ヴァトラスは確かにそう言った。
 救う、と言う事は、他の五つの言葉にあるのも救うのだろうか?
 ヴァトラスは何も答えてくれない。その時、また言葉が浮かんでいた。
 その言葉は悲しく、そして何かを感じさせる。

 宿命を背負う《霊王》と《覇王》



「…………」
 気づけば、どこかの部屋の中だった。コクピットではなく、ベッドの上。
 薬の匂いがする。どうやら、病院か何からしい。
「気づきましたか?」
 隣から声がした。黒髪が印象的だった。
 15、6歳ぐらいの女の子。瞳が淡い緑。ハーフなのだろうか?
「…………?」
「あ、地球の言語能力だから、言葉が分かりませんね。今すぐ、言葉が通じるようにしますね」
「……地球………?じゃあ、ここは…………?」
 口を開いて見る。少女が微笑んだ。
 なぜ微笑んだのか分からない。しかし、温かい感じがしていた。
「言葉が通じますね。良かった………」
「一体、ここは………?」
 起き上がろうとする。すると、彼女は「まだ駄目です」と言って止められた。
「まだ、戦闘が終わって三十分も経っていません。もう少し眠っておかないと、大変ですよ」
「…………」
「霊力の消費が激しかったんです。それで、今日は一日安静にしていた方が良いと、
 フィルツレント───地球で言うお医者さんの事です。が言っていました」
 どうやら、彼女はただ看病してくれていただけらしい。
 そして、ここは地球ではないと、はっきり分かった。
「霊力………?それに、戦い………?」
「はい……誰も望んでいない………」
 少女の顔が暗くなる。うつむき、小刻みに震えていた。
 どうやら、「戦い」と言う言葉に反応して何かを思い出したようだ。
 成す術も無く、ただハヤトは彼女の目に浮かんでいる涙を拭こうとしていた。瞬間────。
「姉ちゃん、操者は目を覚ましたか?」
 自動ドアなのか、ドアが横に開き、一人の男が入ってくる。
 外見からして、歳はハヤトよりも下だろう。
「……え、ええ。今、起きたばかりよ」
 少女は涙を拭き、振り返った。ハヤトは手を元に戻し、少し頬を赤くしていた。
 少年が、そんな二人の様子を見て、にやりと笑みをこぼす。
「ははん。何か進展でもあったようだな」
「ア、アラン………」
「だって、姉ちゃんの顔赤いぜ」
 アランと呼ばれた少年は笑っていた。少女の顔が赤い。
「霊戦機ヴァトラスの操者だよな。俺は、アラン・シュクラッツ・エルナイド。
 ちなみに、シュクラッツって言うのは地球で言う科学者の事だぜ」
「私は、アリサ・エルナイドと申します。アランの姉です」
「……俺はハヤト。神崎勇人だ」
 そう名乗ると、少女───アリサが「ハヤトさん、ですか?良いお名前ですね」と言ってきた。
 普通の名前なのに、なぜ彼女は良い名前などと思ったのだろうか。
「一体、ここは………?」
「あんたが聞きたいのは、“この世界”の事だろ?
 ここはネセリパーラ。まあ、地球から言えば“異世界”ってわけだな」
「異世界………?」
「ああ。現に、地球には霊戦機とか無いだろ?」
 アランの言葉に、ハヤトは頷いた。
 確かに地球には、あんな巨大なロボットはいない。しかも、完全な二足歩行のロボットは。
 二足歩行のロボットは、色々な企業が作っているが、どれも猫背に近いものがある。
「この世界で何が起きているんだ?何であんなロボットがあるんだ?」
「それは、婆ちゃんが話すって言っていたから、心配すんなって」
 アランはそう答えて、部屋から出て行った。



「霊力値測定不能、か。次元が違うな」
「確かに、普通の操者は霊力200が最高ですからね」
「艦長が言っていた先代の《霊王》でも、霊力400だったらしいからな」
 三人の男は、ただその数値を見ているだけだった。
 青髪であるアルス・ガスタル。白銀の髪でバイザーをかけているシュダ・レステル。
 そして、伸ばしている髪を後ろで束ねているロル・アシュレックスン。
「ま、霊力だけで怨霊機が倒せるわけがない」
「確かにな。それは、誰よりも経験しているからこそ言えるが」
「しかし、意外と素質があるようですよ」
 そう言って、ロルがヴァトラスの戦闘値を映した。



 ハヤトは無理に体を起こし、体に激痛が走っていた事に気づいた。
 ヴァトラスに乗って動かしただけで、体中が痛い。
「………っ」
 激痛が走る。しかし、ここがどこなのか知りたい。
 今まで看病してくれていた彼女───アリサは、どこかへ行っている。
 とにかく、今はヴァトラスの乗る事だけを考えた。
「……くっ………!」
 やっとの思いで立ち上がり、部屋を出る。
 渡り廊下のようだが、誰もいない。チャンスだった。
「よし………」
「ハヤトさんっ」
 そう思った瞬間、早くも見つかった。アリサだ。
 しかし、彼女一人だけじゃない。他にも同じ歳位の女の子達が三人ほどいる。
「まだ寝ていないと、治りません」
「……もう大丈夫だよ……早くヴァトラスに………」
「駄目です。霊力の消耗や、戦闘でのダメージがあるんですから、今は休んで下さい」
 そう言われ、部屋に戻される。
 ハヤトが苦痛に歪んでいるのに気づいたか、支えながらアリサはベッドに寝かせつけた。
「結構凄くない?まだダメージとか残ってても、立ち上がれるなんて」
「私達の場合、霊力の方が問題だからね」
「ハヤトさん、ご紹介します。リューナさんとミーナさん。そしてルーナさんです」
 ふと、アリサの手が差す方を見る。二人は同じ顔・髪型で、もう一人は金髪だった。
 名前を言われても、誰が誰なのか、全く分からない。
「アリサ、それじゃ分からないわよ。私はミーナ・シリーズ」
「あたしはリューナ。あんたは?」
「ハヤト。神崎勇人」
 ややぶっきらぼうに名乗る。リューナと言う少女が突っかかってきた。
「あんたね、目の前にレディがいるのよ!?」
「………で?」
「で、じゃない!あたしを見て何も思わないわけ!?」
「………双子?」
 リューナの後ろにいる同じ顔・髪型の子を指差して訊いてみる。
 リューナは小刻みに震えていた。怒りに燃えているのだろう。
「そうよ。文句ある?」
「いや、ない。ただ………」
「ただ………?」
「……何でも無い」
 ハヤトの耳が赤くなる。それを見たリューナが、何かに反応した。
「さては、あたし達の事『可愛い』とでも思ったんでしょ?」
「だ、誰もそんな事は言ってない!ただ、彼女は大人しいな、と思って………」
「そう言えば、やけに大人しいわね、ルーナ」
 リューナはルーナと呼んだ少女の顔を窺う。
 双子の妹・ルーナは顔をうつむかせているが、リューナが何かに気づいた。
「ルーナ、早く自己紹介しないと、私が取っちゃうわよ?」
「リュ、リューナッ」
 慌てて少女が前に出てきた。しかも、顔を真っ赤に染めて。
「あ、ル、ルーナ・シュレント・フェルナイルです………」
「ハヤト。よろしくな」
「は、はい………」
 そして、会話は止まるリューナがルーナの顔を覗く。
 何かに気づいたのか、リューナとルーナが部屋の隅まで移動した。

『どうやら、ルーナ、一目惚れね』
『リュ、リューナッ』
『照れちゃって♪でも、今日からは姉妹としてじゃなく、ライバルね』
『え?じゃあ………』
『もちろん、あたしも狙ってるもん』
『えぇ〜!?』

「なあ、何をコソコソと話してるんだ?」
「男の子には、“知らぬが仏”よ」
「……そうなのか?」
 勇人は首を捻る。ミーナは浮かれた顔で双子の元へ向かった。
 何かを耳元に告げ、二人が顔を見合わせる。
「………?」
「ミ、ミーナ!何で、ここでシュダが出てくるのよ!?」
「あら、違ったの?」
「違うわよ!」
 リューナが怒鳴る。ミーナはニヤリと何かを悟った。
『まあ、一目惚れも良いけど、多分負けるわよ』
『だ、誰によ!?』
『あの子』
 再びコソコソと話している。今度はアリサの方を見た。
 その時のリューナとルーナの表情は、完全に落ち込んでいた。
「ハヤトさん、地球ってどんな所ですか?」
「あ、ああ。あまり詳しく説明できないけど………」
 と言っても、地球と言う世界は、全く説明できるわけが無い。
 勇人はその後、何も言えずに口篭もる。それを見たアリサが、
「説明できませんか?」
「あ、うん……ごめん………」
「謝らなくて良いですよ」
 なぜか分からないが、アリサの微笑んだ顔を見ると、顔が赤くなる。
 あいつ───サエコの時には何の違和感も無いのに、なぜか、彼女と話すと楽しい。

「ちょっと、二人の世界に入らないように」
 リューナが白い目で警告する。
「二人の世界って………あのな…………」
「とにかく、あたしも混ぜなさい!」
「そう言う意味じゃないと思うけど?リューナ」
 後ろでミーナが呆れた。ルーナは赤面したまま、その場に立っているままである。



「で、俺に何をしろって?」
 アランはブリッジでコーヒーを飲んでいるグラナに訊いた。
 霊王が目覚めたと言う報告をした直後に「まだ仕事がある」と言われたのだ。
「フォーカス───つまり、おじいさんが元《星凰》なのは知っているね?」
「ああ。ついでに、元《霊王》と親友だったって事も」
「だったら、話は早いね」
 グラナがアランの耳元で何かを告げる。それを聞いて、アランはニヤリと笑った。
「本当か、婆ちゃん?」
「ああ。そうおじいさんから聞いてるよ」
「なるほどね〜。よし、俺にできる事があったら、何でもするぜ!」
 胸を張ってアランが答えた。



「……一体、いつになれば、全て分かるのだろうか………?」
 ハヤトは複雑な想いで、そう思った。
 アリサら四人は、なぜかお茶会を始めている。
「……もしかして、俺には知る権利が無いってわけなのだろうか………?」
 首をがくりと落とす。
 その時、部屋中に警報が鳴り響いた。



 王都アルフォリーゼに到着間近で、イシュザルトが何かの反応を捉えた。
 ネセリパーラでは考えられない霊力値。間違い無い、怨霊機だ。
「イシュザルト、怨霊機の種類は?」
『分類《魔獣》と確認。ただちに出撃を判断』
「アラン」
 イシュザルトの言葉を聞いて、即座に格納庫にいるアランへ通信を取る。
『資材が無いんだぞ!霊力機の出撃は無理だ!』
「霊戦機は?」
『ヴァトラスは───自己修復できるからって、今の操者には負担が大きい!』
「打つ手なしか………」
 グラナは深く溜め息をついた。
「ロフ、砲門を全部開いて。それから、陛下にも通信を」
「砲門は全て開いたのですが、陛下との通信が出来ません」
「……怨霊機の仕業か?」
「そのようです」
 霊力機は、イシュザルトに格納されている五機だけではない。
 王都を守る為に、何機か置いてある。
 しかし、王都に通信が取れない以上、応援が来る事はまず低い。
「とにかく、イシュザルトで何とかするしかないね」
 グラナは目の前に映るモニターを見ながら呟いた。



「……敵………?」
 頭に何か伝わってくる。
 間違い無い、ヴァトラスだ。そう気づいたのは、遅くなかった。
「……戦えるか?」
 うわ言のように、訊いてみる。
 ヴァトラスは「操者次第」と答えてきた。
「俺だったら、大丈夫だ」
 激痛を堪え、ベッドから立ち上がる。再びアリサが止めに入った。
「駄目です。今は大人しく………」
「このままだと、皆死ぬぞ!」
 ハヤトは怒鳴った。アリサが驚いたかのような顔でこちらを見ている。
 すぐにドアを開き、通路へと出た。
「ヴァトラスは……どこだ………?」
 ふと、思った。意識が無かった時にここまで運ばれたのだから、どうすれば良いか分からない。
 試しに念じてみる。ヴァトラスと会話するように。
 しかし、何も無かった。
「こう言う時に、役に立たないな………」
「ハヤトさん、戦う気ですか?」
 アリサが訊いてくる。ハヤトは軽く頷いた。
「なぜ、この世界に来た理由も知りたいしな」
「たとえ、死んだとしても、ですか?」
「そうやって、後ろ向きには考えないんだ。死ぬなんて、絶対に無いからね」
 思いっきり前向きな一言だった。アリサはうつむいたが、すぐに顔を上げる。
「……分かりました。だったら、私も行きます」
「行きますって……俺と一緒に戦う気か?」
「はい。まだ体に負担がかかってもおかしくありません。
 でしたら、私も乗って、少しでも負担がかからないようにすれば…………」
 当然、ハヤトは「駄目だ」と断ろうとした。
 しかし、アリサは真剣な表情だった。言葉が詰まる。
「本当に、戦う気か?」
「はい」
「……俺の負けだ。とにかく、ヴァトラスがいる所に案内してくれ」
 そう答えると、アリサは頷いた。



「強さは、相手が上か」
「右舷第四装甲まで大破!」
 オペレーターの言葉に、グラナは深刻だった。
 イシュザルトは確かにネセリパーラ最強の戦艦だが、怨霊機に比べれば弱い。
「艦長、主砲を使いますか?」
「そうだね。さしずめ、出力は10%で撃つか」
 副長のロフと悪ふざけで言ってみる。総員は青ざめた顔をしていた。
「――――!艦長、格納庫から一機出撃しました!霊力値は……800を維持!?」
「維持?まさか………イシュザルト」
『データ表示。霊力値800で維持中。機体データ、霊戦機ヴァトラスと確認』
 グラナはその言葉を聞いて軽く笑みをこぼした。
 目の前のモニターに映し出される一機の機影。しかし、イシュザルトが、
『霊戦機ヴァトラスに二つの生体反応を確認』
「二つ?ヴァトラスは一人乗りのはずだが?」
『モニターに映します』
 イシュザルトが、ヴァトラスのコクピット内の状況を映す。
 そこに映っていたのは、紛れも無い、自分の孫娘の姿である。



「操作は覚えているか。よし、頼むぜ、ヴァトラス」
 手に握る青い球体に力を込め、ヴァトラスが宙を舞う。
 アリサの話によれば、霊力で動いてくれるらしい。
 確かに神崎家の人間はかなり高い霊力を持つ霊力者が多い。
「技を使う時も、霊力が消費するのか?」
「はい。そう、お婆様は言っていました」
「そうか。けど、何とかなる」
 一緒に乗るアリサの言葉を聞いて、ハヤトはヴァトラスに剣を握らせた。
 しかし、顔は赤かった。なぜなら、本来一人乗りのコクピットに二人で乗っているからだ。
「やっぱり、恥かしいな………」
「どうかしましたか?」
「いや、何でも無い」
 戦闘に集中し、ヴァトラスを動かす。
 剣を横に構え、怨霊機を捉えた。
「身華光剣、玄武正伝掌ッ!」
 瞬時に抜刀。怨霊機の腹部を見事に捉え、吹き飛ばす。
 今回の敵は、どうやら幻影などと言った事はしてこないようだ。
 しかし、ヴァトラスが最初乗った時よりも動きが速くなっている。
(《天馬》って言う言葉と、何か関係があるのか?)
 今、ヴァトラスは「《巨神》を救って欲しい」と頭に伝えてくる。
 あの時ヴァトラスが伝えていた言葉は、理解出来ていない。
「ハヤトさん、右に!」
「しまった!?」
 考え事をしていた。怨霊機に右側の突かれ、ヴァトラスの応戦が間に合わない。
「できるか………?身華光剣、盾剣乱舞ッ!」
 剣を無数に振り、防御に役立てる。
 怨霊機の繰り出してきた鈎爪を食い止めたが、攻撃が出来ない。
「くっ!」
 短く言葉を漏らし、怨霊機との間合いを取る。
 いくら速さが上がったと言え、怨霊機と戦うのには辛い。
「……どうする………?どうすれば………」
 迷いが隙を作る。そこを怨霊機は見逃さなかった。
 鈎爪が再び襲い掛かる。
「しまった!この!」
 すかさず盾剣乱舞で防ごうとしたが、遅すぎた。
 鈎爪が右肩を捉え、跡が残る。
「くっ!?」
「きゃっ………」
 アリサが小さく声を漏らす。
 ヴァトラスの動きは鈍くなかった。いや、何か別なものを感じた。
 一瞬、ヴァトラスが己の意志で動いた。
(そんなわけないか)
 そう思う。いや、思いたい。
 しかし、そうはならなかった。ヴァトラスが剣を肩上に上げた。
 剣に霊力が集中され、振り落とされる。怨霊機が後退して避けた。
「今のは………衝凱光剣…………」
 集中し、球体に力を込める。
 剣を無数に振り、攻撃しようと思った。しかし、ヴァトラスは剣を振り落とした。
「今度は白虎地裂撃!?一体、何が!?」



 グラナはヴァトラスの動きを見て悟った。
「どうやら、“アルトシステム”が動いたようだね」
「アルトシステム……ですか?」
「ああ。アルト(=最強)を追い求めて作られたシステムだ。
 唯一、ヴァトラスに組み込まれていて、操作が難しい」
「大丈夫なのですか、そんなシステムがあって?」
「どうだろうね。アルトシステムを味方にすれば、かなりの力になるけどね」
 獣蔵でも、アルトシステムは扱いきれなかったシステムだ。
 しかし、彼ならアルトシステムを味方に出来る、そうグラナは思った。



「どうすれば………?」
 怨霊機の攻撃は止まらず、ヴァトラスも勝手に動き、相当な負担が襲い掛かる。
 しかし、最初に戦った時よりは楽だった。
「………?」
 突然、アリサが気を失ったかのようにハヤトの方に身を任せた。
 その時分かった。彼女が今までの負担を持ってくれていた事を。
「……そうか……ごめんな………」
 髪をそっと撫でる。さらさらとしていて、それで綺麗な髪。
 初めて会ったばかりの彼女に、こんな思いをさせてしまった事に罪悪感を持った。
 彼女が今までにしてくれた事には、とても感謝していた。
「今度は……俺の番だよな………!」
 ヴァトラスが勝手に動いて戦っても良い。けれど、今はアリサの為にも早く終わらせたい。
 彼女が笑うと、なぜかこっちも楽しくなる。少し照れるが。
「…………」
 ただ黙って静かに集中していた。
 どんなに攻撃されても、ヴァトラスが動いても、眉一つ動かない。
 その時、不思議な感覚だった。
 まるで、“不可能な事を可能にできる”ような感覚。
「…………!」
 一瞬、剣を振り上げる。霊力が込められ、青白く光り輝く。
 額に紋章が浮かび上がる。古代の太陽のような《霊王》の称号。
「身華光剣最終奥義!」
 ヴァトラスが、今度は言う事を聞いてくれた。
 霊力がまだ上がっていく。しかし、負担は無い。むしろ、心強い。
 まるでヴァトラスと心が通じ合っているかのように。
「四聖剣王斬!」
 振り落とす。衝撃波とかまいたちが、怨霊機を襲った。
 装甲を切り刻まれ、怨霊機が怯む。
「まだだ!朱雀爆輪剣!」
 剣を無数に振るう。炎が生じ、それがかまいたちとなって怨霊機を襲う。
 しかし、今度は避けられた。いや、そのまま逃げられてしまった。
「逃げられた……けど、良かった………」
 なぜか安心してしまう。一秒でも早く、彼女と話がしたかったからだ。
 アリサには、ちゃんとした形で礼が言いたかった。



「艦長、あれは………?」
 ロフがヴァトラスの動きを見て訊く。
 今までに無い華麗な動き。そして、再び表示された「霊力計測不能」の文字。
「怨霊機に攻撃されていても、動じなかった。かなりの集中力だ。
 もしかすると、彼は“聖域(=ゾーン)”に入っているかもしれない」
「“聖域”ですか?」
「ああ。究極の集中力を持つ“神々の領域”に入った時に、そう言うのさ」
 アルトシステムも、どうやら“聖域”によって味方になっているようだ。
 彼は今までに無いほどの力を持っている。それは、最初の戦いで知っていたが、改めて思い知らされた。
「獣蔵も、鼻が高いだろうね」
 くすりと笑い、グラナはコーヒーを口にしていた。



 余談
「ぶえっくしょん!誰じゃ、わしの噂をしとるのは?」



 第一章 過去の記憶と力の目覚め

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