ヴァトラスが何か言っている。
(《天馬》……ありがとう………)
ありがとうは分かった。しかし、《天馬》とは一体何なのだろう?
けれど、今はそれを考えるよりも、自分の事を心配した方が良かった。
そう、俺は意識を失って倒れているのだから。
「急げ!ヴァトラスを回収後、すぐにこの場から離れるぞ」
ロフの罵声が総員を動かす。その横で腰掛けている艦長グラナは、
霊戦機ヴァトラスの霊力値を見ていた。
「霊力“測定不能”か………。なるほど、維持しているって言うのも頷ける」
「しかし艦長、操者の霊力が高くても、霊戦機の方が………」
「ああ。耐えられない。だから、霊力を維持しているんだろう。
おそらく、先代の《霊王》も知っていたんだろう」
グラナは苦笑しつつも、喜んでいた。
“霊王”が目覚めた。これで奴らと対等に戦えるのだ。
ただ問題なのは、彼が協力して戦ってくれるかどうかである。
「艦長、ヴァトラスの回収が終わりました。操者は医務室の方に」
「よし、イシュザルト浮上。進路、王都アルフォリーゼ」
『了解。イシュザルト浮上。進路、王都アルフォリーゼ』
人工知能イシュザルトが応答し、イシュザルトが浮上する。
天を翔る《天馬》
自然を守る《巨神》
大地の守護《地龍》
武の象徴《武神》
炎の雄叫び《炎獣》
空を舞う《星凰》
頭の中で、その言葉が浮かんでいた。
六つの訳の分からない言葉。しかし、聞き覚えのある単語があった。
《天馬》。あの時、ヴァトラスは確かにそう言った。
救う、と言う事は、他の五つの言葉にあるのも救うのだろうか?
ヴァトラスは何も答えてくれない。その時、また言葉が浮かんでいた。
その言葉は悲しく、そして何かを感じさせる。
宿命を背負う《霊王》と《覇王》
「…………」
気づけば、どこかの部屋の中だった。コクピットではなく、ベッドの上。
薬の匂いがする。どうやら、病院か何からしい。
「気づきましたか?」
隣から声がした。黒髪が印象的だった。
15、6歳ぐらいの女の子。瞳が淡い緑。ハーフなのだろうか?
「…………?」
「あ、地球の言語能力だから、言葉が分かりませんね。今すぐ、言葉が通じるようにしますね」
「……地球………?じゃあ、ここは…………?」
口を開いて見る。少女が微笑んだ。
なぜ微笑んだのか分からない。しかし、温かい感じがしていた。
「言葉が通じますね。良かった………」
「一体、ここは………?」
起き上がろうとする。すると、彼女は「まだ駄目です」と言って止められた。
「まだ、戦闘が終わって三十分も経っていません。もう少し眠っておかないと、大変ですよ」
「…………」
「霊力の消費が激しかったんです。それで、今日は一日安静にしていた方が良いと、
フィルツレント───地球で言うお医者さんの事です。が言っていました」
どうやら、彼女はただ看病してくれていただけらしい。
そして、ここは地球ではないと、はっきり分かった。
「霊力………?それに、戦い………?」
「はい……誰も望んでいない………」
少女の顔が暗くなる。うつむき、小刻みに震えていた。
どうやら、「戦い」と言う言葉に反応して何かを思い出したようだ。
成す術も無く、ただハヤトは彼女の目に浮かんでいる涙を拭こうとしていた。瞬間────。
「姉ちゃん、操者は目を覚ましたか?」
自動ドアなのか、ドアが横に開き、一人の男が入ってくる。
外見からして、歳はハヤトよりも下だろう。
「……え、ええ。今、起きたばかりよ」
少女は涙を拭き、振り返った。ハヤトは手を元に戻し、少し頬を赤くしていた。
少年が、そんな二人の様子を見て、にやりと笑みをこぼす。
「ははん。何か進展でもあったようだな」
「ア、アラン………」
「だって、姉ちゃんの顔赤いぜ」
アランと呼ばれた少年は笑っていた。少女の顔が赤い。
「霊戦機ヴァトラスの操者だよな。俺は、アラン・シュクラッツ・エルナイド。
ちなみに、シュクラッツって言うのは地球で言う科学者の事だぜ」
「私は、アリサ・エルナイドと申します。アランの姉です」
「……俺はハヤト。神崎勇人だ」
そう名乗ると、少女───アリサが「ハヤトさん、ですか?良いお名前ですね」と言ってきた。
普通の名前なのに、なぜ彼女は良い名前などと思ったのだろうか。
「一体、ここは………?」
「あんたが聞きたいのは、“この世界”の事だろ?
ここはネセリパーラ。まあ、地球から言えば“異世界”ってわけだな」
「異世界………?」
「ああ。現に、地球には霊戦機とか無いだろ?」
アランの言葉に、ハヤトは頷いた。
確かに地球には、あんな巨大なロボットはいない。しかも、完全な二足歩行のロボットは。
二足歩行のロボットは、色々な企業が作っているが、どれも猫背に近いものがある。
「この世界で何が起きているんだ?何であんなロボットがあるんだ?」
「それは、婆ちゃんが話すって言っていたから、心配すんなって」
アランはそう答えて、部屋から出て行った。
「霊力値測定不能、か。次元が違うな」
「確かに、普通の操者は霊力200が最高ですからね」
「艦長が言っていた先代の《霊王》でも、霊力400だったらしいからな」
三人の男は、ただその数値を見ているだけだった。
青髪であるアルス・ガスタル。白銀の髪でバイザーをかけているシュダ・レステル。
そして、伸ばしている髪を後ろで束ねているロル・アシュレックスン。
「ま、霊力だけで怨霊機が倒せるわけがない」
「確かにな。それは、誰よりも経験しているからこそ言えるが」
「しかし、意外と素質があるようですよ」
そう言って、ロルがヴァトラスの戦闘値を映した。
ハヤトは無理に体を起こし、体に激痛が走っていた事に気づいた。
ヴァトラスに乗って動かしただけで、体中が痛い。
「………っ」
激痛が走る。しかし、ここがどこなのか知りたい。
今まで看病してくれていた彼女───アリサは、どこかへ行っている。
とにかく、今はヴァトラスの乗る事だけを考えた。
「……くっ………!」
やっとの思いで立ち上がり、部屋を出る。
渡り廊下のようだが、誰もいない。チャンスだった。
「よし………」
「ハヤトさんっ」
そう思った瞬間、早くも見つかった。アリサだ。
しかし、彼女一人だけじゃない。他にも同じ歳位の女の子達が三人ほどいる。
「まだ寝ていないと、治りません」
「……もう大丈夫だよ……早くヴァトラスに………」
「駄目です。霊力の消耗や、戦闘でのダメージがあるんですから、今は休んで下さい」
そう言われ、部屋に戻される。
ハヤトが苦痛に歪んでいるのに気づいたか、支えながらアリサはベッドに寝かせつけた。
「結構凄くない?まだダメージとか残ってても、立ち上がれるなんて」
「私達の場合、霊力の方が問題だからね」
「ハヤトさん、ご紹介します。リューナさんとミーナさん。そしてルーナさんです」
ふと、アリサの手が差す方を見る。二人は同じ顔・髪型で、もう一人は金髪だった。
名前を言われても、誰が誰なのか、全く分からない。
「アリサ、それじゃ分からないわよ。私はミーナ・シリーズ」
「あたしはリューナ。あんたは?」
「ハヤト。神崎勇人」
ややぶっきらぼうに名乗る。リューナと言う少女が突っかかってきた。
「あんたね、目の前にレディがいるのよ!?」
「………で?」
「で、じゃない!あたしを見て何も思わないわけ!?」
「………双子?」
リューナの後ろにいる同じ顔・髪型の子を指差して訊いてみる。
リューナは小刻みに震えていた。怒りに燃えているのだろう。
「そうよ。文句ある?」
「いや、ない。ただ………」
「ただ………?」
「……何でも無い」
ハヤトの耳が赤くなる。それを見たリューナが、何かに反応した。
「さては、あたし達の事『可愛い』とでも思ったんでしょ?」
「だ、誰もそんな事は言ってない!ただ、彼女は大人しいな、と思って………」
「そう言えば、やけに大人しいわね、ルーナ」
リューナはルーナと呼んだ少女の顔を窺う。
双子の妹・ルーナは顔をうつむかせているが、リューナが何かに気づいた。
「ルーナ、早く自己紹介しないと、私が取っちゃうわよ?」
「リュ、リューナッ」
慌てて少女が前に出てきた。しかも、顔を真っ赤に染めて。
「あ、ル、ルーナ・シュレント・フェルナイルです………」
「ハヤト。よろしくな」
「は、はい………」
そして、会話は止まるリューナがルーナの顔を覗く。
何かに気づいたのか、リューナとルーナが部屋の隅まで移動した。
『どうやら、ルーナ、一目惚れね』
『リュ、リューナッ』
『照れちゃって♪でも、今日からは姉妹としてじゃなく、ライバルね』
『え?じゃあ………』
『もちろん、あたしも狙ってるもん』
『えぇ〜!?』
「なあ、何をコソコソと話してるんだ?」
「男の子には、“知らぬが仏”よ」
「……そうなのか?」
勇人は首を捻る。ミーナは浮かれた顔で双子の元へ向かった。
何かを耳元に告げ、二人が顔を見合わせる。
「………?」
「ミ、ミーナ!何で、ここでシュダが出てくるのよ!?」
「あら、違ったの?」
「違うわよ!」
リューナが怒鳴る。ミーナはニヤリと何かを悟った。
『まあ、一目惚れも良いけど、多分負けるわよ』
『だ、誰によ!?』
『あの子』
再びコソコソと話している。今度はアリサの方を見た。
その時のリューナとルーナの表情は、完全に落ち込んでいた。
「ハヤトさん、地球ってどんな所ですか?」
「あ、ああ。あまり詳しく説明できないけど………」
と言っても、地球と言う世界は、全く説明できるわけが無い。
勇人はその後、何も言えずに口篭もる。それを見たアリサが、
「説明できませんか?」
「あ、うん……ごめん………」
「謝らなくて良いですよ」
なぜか分からないが、アリサの微笑んだ顔を見ると、顔が赤くなる。
あいつ───サエコの時には何の違和感も無いのに、なぜか、彼女と話すと楽しい。
「ちょっと、二人の世界に入らないように」
リューナが白い目で警告する。
「二人の世界って………あのな…………」
「とにかく、あたしも混ぜなさい!」
「そう言う意味じゃないと思うけど?リューナ」
後ろでミーナが呆れた。ルーナは赤面したまま、その場に立っているままである。
「で、俺に何をしろって?」
アランはブリッジでコーヒーを飲んでいるグラナに訊いた。
霊王が目覚めたと言う報告をした直後に「まだ仕事がある」と言われたのだ。
「フォーカス───つまり、おじいさんが元《星凰》なのは知っているね?」
「ああ。ついでに、元《霊王》と親友だったって事も」
「だったら、話は早いね」
グラナがアランの耳元で何かを告げる。それを聞いて、アランはニヤリと笑った。
「本当か、婆ちゃん?」
「ああ。そうおじいさんから聞いてるよ」
「なるほどね〜。よし、俺にできる事があったら、何でもするぜ!」
胸を張ってアランが答えた。
「……一体、いつになれば、全て分かるのだろうか………?」
ハヤトは複雑な想いで、そう思った。
アリサら四人は、なぜかお茶会を始めている。
「……もしかして、俺には知る権利が無いってわけなのだろうか………?」
首をがくりと落とす。
その時、部屋中に警報が鳴り響いた。
王都アルフォリーゼに到着間近で、イシュザルトが何かの反応を捉えた。
ネセリパーラでは考えられない霊力値。間違い無い、怨霊機だ。
「イシュザルト、怨霊機の種類は?」
『分類《魔獣》と確認。ただちに出撃を判断』
「アラン」
イシュザルトの言葉を聞いて、即座に格納庫にいるアランへ通信を取る。
『資材が無いんだぞ!霊力機の出撃は無理だ!』
「霊戦機は?」
『ヴァトラスは───自己修復できるからって、今の操者には負担が大きい!』
「打つ手なしか………」
グラナは深く溜め息をついた。
「ロフ、砲門を全部開いて。それから、陛下にも通信を」
「砲門は全て開いたのですが、陛下との通信が出来ません」
「……怨霊機の仕業か?」
「そのようです」
霊力機は、イシュザルトに格納されている五機だけではない。
王都を守る為に、何機か置いてある。
しかし、王都に通信が取れない以上、応援が来る事はまず低い。
「とにかく、イシュザルトで何とかするしかないね」
グラナは目の前に映るモニターを見ながら呟いた。
「……敵………?」
頭に何か伝わってくる。
間違い無い、ヴァトラスだ。そう気づいたのは、遅くなかった。
「……戦えるか?」
うわ言のように、訊いてみる。
ヴァトラスは「操者次第」と答えてきた。
「俺だったら、大丈夫だ」
激痛を堪え、ベッドから立ち上がる。再びアリサが止めに入った。
「駄目です。今は大人しく………」
「このままだと、皆死ぬぞ!」
ハヤトは怒鳴った。アリサが驚いたかのような顔でこちらを見ている。
すぐにドアを開き、通路へと出た。
「ヴァトラスは……どこだ………?」
ふと、思った。意識が無かった時にここまで運ばれたのだから、どうすれば良いか分からない。
試しに念じてみる。ヴァトラスと会話するように。
しかし、何も無かった。
「こう言う時に、役に立たないな………」
「ハヤトさん、戦う気ですか?」
アリサが訊いてくる。ハヤトは軽く頷いた。
「なぜ、この世界に来た理由も知りたいしな」
「たとえ、死んだとしても、ですか?」
「そうやって、後ろ向きには考えないんだ。死ぬなんて、絶対に無いからね」
思いっきり前向きな一言だった。アリサはうつむいたが、すぐに顔を上げる。
「……分かりました。だったら、私も行きます」
「行きますって……俺と一緒に戦う気か?」
「はい。まだ体に負担がかかってもおかしくありません。
でしたら、私も乗って、少しでも負担がかからないようにすれば…………」
当然、ハヤトは「駄目だ」と断ろうとした。
しかし、アリサは真剣な表情だった。言葉が詰まる。
「本当に、戦う気か?」
「はい」
「……俺の負けだ。とにかく、ヴァトラスがいる所に案内してくれ」
そう答えると、アリサは頷いた。
「強さは、相手が上か」
「右舷第四装甲まで大破!」
オペレーターの言葉に、グラナは深刻だった。
イシュザルトは確かにネセリパーラ最強の戦艦だが、怨霊機に比べれば弱い。
「艦長、主砲を使いますか?」
「そうだね。さしずめ、出力は10%で撃つか」
副長のロフと悪ふざけで言ってみる。総員は青ざめた顔をしていた。
「――――!艦長、格納庫から一機出撃しました!霊力値は……800を維持!?」
「維持?まさか………イシュザルト」
『データ表示。霊力値800で維持中。機体データ、霊戦機ヴァトラスと確認』
グラナはその言葉を聞いて軽く笑みをこぼした。
目の前のモニターに映し出される一機の機影。しかし、イシュザルトが、
『霊戦機ヴァトラスに二つの生体反応を確認』
「二つ?ヴァトラスは一人乗りのはずだが?」
『モニターに映します』
イシュザルトが、ヴァトラスのコクピット内の状況を映す。
そこに映っていたのは、紛れも無い、自分の孫娘の姿である。
「操作は覚えているか。よし、頼むぜ、ヴァトラス」
手に握る青い球体に力を込め、ヴァトラスが宙を舞う。
アリサの話によれば、霊力で動いてくれるらしい。
確かに神崎家の人間はかなり高い霊力を持つ霊力者が多い。
「技を使う時も、霊力が消費するのか?」
「はい。そう、お婆様は言っていました」
「そうか。けど、何とかなる」
一緒に乗るアリサの言葉を聞いて、ハヤトはヴァトラスに剣を握らせた。
しかし、顔は赤かった。なぜなら、本来一人乗りのコクピットに二人で乗っているからだ。
「やっぱり、恥かしいな………」
「どうかしましたか?」
「いや、何でも無い」
戦闘に集中し、ヴァトラスを動かす。
剣を横に構え、怨霊機を捉えた。
「身華光剣、玄武正伝掌ッ!」
瞬時に抜刀。怨霊機の腹部を見事に捉え、吹き飛ばす。
今回の敵は、どうやら幻影などと言った事はしてこないようだ。
しかし、ヴァトラスが最初乗った時よりも動きが速くなっている。
(《天馬》って言う言葉と、何か関係があるのか?)
今、ヴァトラスは「《巨神》を救って欲しい」と頭に伝えてくる。
あの時ヴァトラスが伝えていた言葉は、理解出来ていない。
「ハヤトさん、右に!」
「しまった!?」
考え事をしていた。怨霊機に右側の突かれ、ヴァトラスの応戦が間に合わない。
「できるか………?身華光剣、盾剣乱舞ッ!」
剣を無数に振り、防御に役立てる。
怨霊機の繰り出してきた鈎爪を食い止めたが、攻撃が出来ない。
「くっ!」
短く言葉を漏らし、怨霊機との間合いを取る。
いくら速さが上がったと言え、怨霊機と戦うのには辛い。
「……どうする………?どうすれば………」
迷いが隙を作る。そこを怨霊機は見逃さなかった。
鈎爪が再び襲い掛かる。
「しまった!この!」
すかさず盾剣乱舞で防ごうとしたが、遅すぎた。
鈎爪が右肩を捉え、跡が残る。
「くっ!?」
「きゃっ………」
アリサが小さく声を漏らす。
ヴァトラスの動きは鈍くなかった。いや、何か別なものを感じた。
一瞬、ヴァトラスが己の意志で動いた。
(そんなわけないか)
そう思う。いや、思いたい。
しかし、そうはならなかった。ヴァトラスが剣を肩上に上げた。
剣に霊力が集中され、振り落とされる。怨霊機が後退して避けた。
「今のは………衝凱光剣…………」
集中し、球体に力を込める。
剣を無数に振り、攻撃しようと思った。しかし、ヴァトラスは剣を振り落とした。
「今度は白虎地裂撃!?一体、何が!?」
グラナはヴァトラスの動きを見て悟った。
「どうやら、“アルトシステム”が動いたようだね」
「アルトシステム……ですか?」
「ああ。アルト(=最強)を追い求めて作られたシステムだ。
唯一、ヴァトラスに組み込まれていて、操作が難しい」
「大丈夫なのですか、そんなシステムがあって?」
「どうだろうね。アルトシステムを味方にすれば、かなりの力になるけどね」
獣蔵でも、アルトシステムは扱いきれなかったシステムだ。
しかし、彼ならアルトシステムを味方に出来る、そうグラナは思った。
「どうすれば………?」
怨霊機の攻撃は止まらず、ヴァトラスも勝手に動き、相当な負担が襲い掛かる。
しかし、最初に戦った時よりは楽だった。
「………?」
突然、アリサが気を失ったかのようにハヤトの方に身を任せた。
その時分かった。彼女が今までの負担を持ってくれていた事を。
「……そうか……ごめんな………」
髪をそっと撫でる。さらさらとしていて、それで綺麗な髪。
初めて会ったばかりの彼女に、こんな思いをさせてしまった事に罪悪感を持った。
彼女が今までにしてくれた事には、とても感謝していた。
「今度は……俺の番だよな………!」
ヴァトラスが勝手に動いて戦っても良い。けれど、今はアリサの為にも早く終わらせたい。
彼女が笑うと、なぜかこっちも楽しくなる。少し照れるが。
「…………」
ただ黙って静かに集中していた。
どんなに攻撃されても、ヴァトラスが動いても、眉一つ動かない。
その時、不思議な感覚だった。
まるで、“不可能な事を可能にできる”ような感覚。
「…………!」
一瞬、剣を振り上げる。霊力が込められ、青白く光り輝く。
額に紋章が浮かび上がる。古代の太陽のような《霊王》の称号。
「身華光剣最終奥義!」
ヴァトラスが、今度は言う事を聞いてくれた。
霊力がまだ上がっていく。しかし、負担は無い。むしろ、心強い。
まるでヴァトラスと心が通じ合っているかのように。
「四聖剣王斬!」
振り落とす。衝撃波とかまいたちが、怨霊機を襲った。
装甲を切り刻まれ、怨霊機が怯む。
「まだだ!朱雀爆輪剣!」
剣を無数に振るう。炎が生じ、それがかまいたちとなって怨霊機を襲う。
しかし、今度は避けられた。いや、そのまま逃げられてしまった。
「逃げられた……けど、良かった………」
なぜか安心してしまう。一秒でも早く、彼女と話がしたかったからだ。
アリサには、ちゃんとした形で礼が言いたかった。
「艦長、あれは………?」
ロフがヴァトラスの動きを見て訊く。
今までに無い華麗な動き。そして、再び表示された「霊力計測不能」の文字。
「怨霊機に攻撃されていても、動じなかった。かなりの集中力だ。
もしかすると、彼は“聖域(=ゾーン)”に入っているかもしれない」
「“聖域”ですか?」
「ああ。究極の集中力を持つ“神々の領域”に入った時に、そう言うのさ」
アルトシステムも、どうやら“聖域”によって味方になっているようだ。
彼は今までに無いほどの力を持っている。それは、最初の戦いで知っていたが、改めて思い知らされた。
「獣蔵も、鼻が高いだろうね」
くすりと笑い、グラナはコーヒーを口にしていた。
余談
「ぶえっくしょん!誰じゃ、わしの噂をしとるのは?」
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