第四章 父と子、霊王と覇王


 突然に目覚めた《武神》の霊戦機ヴィクダート。
 その姿は、重武装の怨霊機の表情を変えた。
『ヴァトラス以外の霊戦機!?馬鹿な、前の戦いで破壊されているはず…………』
「動揺している……今だ!」
 ハヤトは霊力を集中させた。剣に青白い光が走る。
 霊力値が上昇していく。ハヤトは力を解放した。
『霊力測定不能!?』
「四聖剣王斬ッ!」
 重武装の怨霊機の隙を突いて一撃。衝撃波とかまいたちが、剣から放たれた。
 切り刻まれる怨霊機の装甲。ダメージがあっても、まだ戦える。
『くっ、スカイダーク!』
 重武装の怨霊機の操者は、翼を持つ怨霊機────スカイダースと叫んだ。
 スカイダースは翼を羽ばたかせ、かまいたちの集合体を放つ。
「そう簡単に…………!」
 ハヤトはヴァトラスに霊力を集中させた。ヴァトラスが前屈みになる。
「三度も同じ攻撃をくらうと思うか!」
 避ける。剣から無数のかまいたちを繰り出し、かまいたちの集合体とぶつけさせながら。
 相手が風なら、こちらも風の力を借りるまで。少し思い出した。
 身華光剣術の剣技の一つ────朱雀爆輪剣の意味を。
「こう言う時は、あのじじいの修行も役立つものだよな」
 思わず苦笑してしまうほどだった。
 祖父の修行は、この戦いの為に。そして己を守る力の為にあったのだ。
 身華光剣術は、どうやら怨霊機との戦いの中で生まれた剣術なのだろうと思った。
「帰ったら、じじいを問い詰めるか」
 苦笑しつつ、馬鹿な事を考えてしまう。
 かまいたちの集合体は、繰り出した無数のかまいたちの前に散った。
 ヴィクダートは動く様子が無い。それは、最初にこの世界に来た時の自分と似た状況なのだろう。



「今思えば、ヴィクダートが操者を選んでも、すぐに戦えるわけ無いね」
 グラナはやっと思い出した。昔の戦いの事を。
 最初の頃、獣蔵を除いた二人の地球人である霊戦機操者は、かなり動揺していた。
「確かに、戦争の少ない世界の人間が、突然、こんな世界に来てしまったからな。
 霊戦機は、己に相応しい人間を操者にする。それが、たとえ地球人でも」
 ジャフェイルの言葉に、グラナは静かにヴァトラスを見ていた。
 霊戦機ヴァトラスを除く六機の霊戦機は、操者を選ぶ。
 操者は地球人かネセリパーラ人。しかし、ヴァトラスのみ、なぜか地球人なのだ。
 確かに、ネセリパーラに霊王の血を引く人間はいない。
「初代霊王ヴァトラス・ウィーガルトは、我が子に全てを託した。
 この宿命を終わらせると言う願いを、全世界を救うと言う願いの二つをね」
「そして、この宿命はまだ終わらず、続いている」
 一五〇〇年前、初代霊王は、神から霊戦機を与えられた。
 しかし、彼には不治の病があった。霊戦機の力を解放するだけで、体が耐えられなくなるのだ。
 初代霊王は心臓が弱く、気の強い人間だった。
「『霊戦機の力の解放は、自分を殺すかもしれない。けれど、戦うのが俺の宿命』」
「初代霊王が最後に告げた言葉か。その言葉と共に、我が子に託して、戦いの中で死んだ」
「それが、霊王の始まりだからね」
 この戦いで、死なない人間は、奇跡としか言えないほどである。
 特に、代々の霊王は必ずこの戦いで死んだのだ。
「獣蔵の頃から、霊王の歴史は変わってきているんだ」
 ジャフェイルは、少し笑った。



 重武装の怨霊機の操者は、小さく「ちっ」と吐き捨てた。
 霊力が測定不能にまで至る人間。そして、それを扱い慣れている人間。
『撤退するしかないか』
 スカイダースの方を見る。少しだけ、不安定な状態だった。
 やはり、《覇王》の言っていた通り、まだ“洗脳”が完全ではない。

「どう動いてくる気だ?」
 ハヤトは怨霊機二機の動きを見ていた。
 翼を持った怨霊機は、どちらかと言えば動きが妙である。
 けれど、好都合だった。まだ、全身に激痛が走っている。
「どうする…………?」
 額に汗が浮かび、気持ち悪かった。



「アラン」
『もう少しだって言ってるだろ!霊力機は、やっと資材が集まったんだからよ!』
 ロフは目の前で起こる戦いに、黙っているだけだった。
 ヴィクダートの復活は、戦況を大きく変えた。怨霊機に焦りの色が浮かんでいるのが分かる。
 あとは、霊力機の援護さえできれば、勝てる。
「イシュザルトは、このまま待機。ヴァトラスの霊力反応は?」
『霊力、現在測定不能』
 人工知能イシュザルトが答える。
「副長、先程からヴァトラスの操者の霊力属性を調べているのですが…………」
「属性は?」
 ロフは訊いた。
 霊力属性は、火・水・風・地・雷・光・闇・無の八つで構成されている。
 霊力を持たない人間は、必ず無の分類である。
「それが…………」
 オペレーターは、信じられないような言葉を発した。



『一度、退くか』
 重武装の怨霊機は、そう判断した。
 スカイダースは不安定な為、攻撃もままならない。
『スカイダース、退くぞ』
「逃がすか!」
 今まで動きを見ていた霊戦機が、目の前にまで迫ってくる。
 避けきれない。直撃だった。
「衝凱光剣!」
 装甲を貫き、ヴァトラスの剣が重武装の怨霊機の肩を打ち抜く。
 重武装の怨霊機は、少し後ろへと退いた。
『くっ…………』
 小さく声を漏らし、その場を消え去っていく。
 残ったのは翼を持つ怨霊機。
「厄介な敵を残してくれるよな…………」
 顔に苦痛の色が現われ始めてきた。今度こそ限界だった。
 その時、ヴァトラスとスカイダースと呼ばれる怨霊機は、共に倒れた。



 ロフは、しばらくの沈黙の後、口を開いた。
「霊戦機ヴァトラス及びヴィクダートを回収。ついでに、怨霊機もな」
「副長!?」
「大丈夫だ。今の状態じゃ、暴れる事はできん」
 ロフは言い張った。そして、モニターを見る。
 先程オペレーターに見せてもらった彼──ハヤトの霊力属性の結果だった。
「まさか、な」
 その結果は、信じられない事ばかりだった。



「ハヤトさんっ」
 ヴァトラスから降りてすぐに、アリサが駆け寄ってきた。
 どうやら、とても心配していたらしい。目には涙が少し浮かんでいる。
「大丈夫。少し疲れたけど」
 無理に笑顔を作り、ハヤトは答えた。アリサは不安そうな顔をしていた。
 そして、一緒に回収された怨霊機を睨む。
(なぜだ?俺は知っている…………?)
 変な感覚だった。知っている感覚。誰よりも知っているような。
「怨霊機、ですよね?」
「ああ……それも、かなり厄介…………」
 意識が途切れ、気を失う。アリサが非力ながらもハヤトを支える。
 連戦は、ハヤトにとって霊力と体力を限界にまで追い込んだのだった。



 気づけば、変なコクピットの中だった。目の前で、ロボットが戦っている。
 どうやら、俺もロボットに乗っているようだ。しかし、動かし方は分かるはずがない。
 そして、そのまま巨大な船によって、運ばれていった。

 ヴィクダートから降りてきたのは、青髪で少し大人びていた少年だった。
「よう、名前は?」
「ロバート・ウィルニース。お前達は…………?」
「俺はアラン・シュクラッツ・エルナイド。ちなみに、シュクラッツは地球で言う科学者。
 それで、ここは最強戦艦イシュザルトの格納庫」
「このロボットは?」
 青髪の少年────ロバートは、やはり地球人だ。
 どうやら、ハヤトとは違うところから召喚されている。
「霊戦機ヴィクダート。《武神》の守護を受ける機体」
「霊戦機?」
「そこんとこは、艦長から話を聞いた方が早いな」
 アランは、クルクルとスパナを回しながら答えた。



「霊力属性が、光と闇?」
「ええ。計測士が、彼が霊力を計測不能にまで引き出した時に調べた結果です」
 グラナは、モニターを見ながら、少し考えていた。
 ジャフェイルは「まだ彼は《霊王》の力を三割も引き出せていない」と言っていた。
 この霊力属性に関係しているのかどうかは、ハッキリと言って分からない。
「それで、操者は?」
「さすがに、連戦だった為に、気を失っています」
「一緒に回収した怨霊機は?」
「今、アランが調べていますが、どうやら操者は乗っていなかったと言う事です」
 ロフの言葉に、グラナは少し目を開いた。
 霊戦機と怨霊機には、操者は必要不可欠の存在である。
 しかし、回収した怨霊機に操者が乗っていないのは、変だった。
「妙だね。操者が乗っていないなんて」
「このイシュザルト所属の者が、操者と言う可能性は?」
「無いわけじゃない。けど、その場合、イシュザルトが気づく」
 グラナは不安だった。彼の霊力属性が。
 光と闇。相対する力を持つ彼は、《霊王》に選ばれた人間だが、何か嫌な予感がする。



 ハヤトは医療室で静かに眠って────いなかった。
 突然の激痛で、右手の甲が疼いている。同時に、額の《霊王》の称号も。
「あああああ…………っ!」
 連戦で消耗している体力のせいで、激痛に耐えられない。
「あああああ…………っ!」
「ち、ちょっと!一体どうしたわけ!?」
 リューナは焦っていた。医療室を訪れた途端、こうなのだから。
 ただ、彼の看病をし、少しでも距離を縮めようなどと考えながら。
「あああああ…………っ!」
「ど、どうすればいいのよ!?」
「とりあえず、フィルツレントを呼んだけど?」
「ルーナ!?」
 隣にいつの間にか、自分の双子の妹がいた。
 しかし、ハヤトに関しては、いくら姉妹と言えライバルである。
「抜け駆けは、許しませんよ、リューナ?」
「うっ…………」
 なぜか、ルーナが怖かった。後ろからオーラのようなものが見えるようで。
 ハヤトは、まだ激痛に襲われている。
「アリサは、ただ意識を失っているだけだって言ってたじゃない!」
「私に聞かないでよ。今は、フィルツレントを待つだけ」
 ルーナはリューナをなだめた。



 ロバートは、しばらくヴィクダートを眺めていた。
 左肩に盾を装備し、腰には二本の大剣がある。塗装は黒がメインの機体。
「異世界か…………」
 変な感じだった。信じられないほど落ち着いていて、不安などなかった。
 ただ、気になっていた、この世界で起きている事に。



 グラナとロフは、医療室へ向かった。
 激痛に苦しむハヤトの姿を見て、二人は苦笑する。
「艦長」
「ああ。ロフ、お前の勘は正しかったようだね」
 グラナは、ハヤトの右手を取った。軽く手の甲を見る。
 漆黒の翼が生え、竜巻が描かれている闇の称号。間違いなく《邪風》の称号だ。
 額には、古代の太陽を思わせる《霊王》の称号が光を発している。
「どうやら、霊戦機と怨霊機の称号が、互いに対立しあっているようだね」
「お婆様、どう言う事ですか?」
「彼は、ヴァトラスに《霊王》の称号を授った。しかし、同時に《邪風》に選ばれてしまったんだよ」
 アリサの問いに、グラナは答える。アリサは不安そうな顔で、ハヤトの手を握った。
 握った手からは、苦しさや悲しみが伝わってくる。
「あああああ…………っ!」
「ハヤトさん…………」
 激痛に襲われるハヤトの手を、自分の頬に当てる。
 激痛が治まるわけではない。けれど、こうしていたかった。
「ね、ねえ、グラナ、治せる方法ってないの!?」
「“治す”と言うのは、変だね。正確に言えば、“解く”だ。けれど、方法はない。
 あるとすれば、その役目を果す事か」
「役目?」
「この戦いに終止符を打つ事。それ以外は、命を絶つ事か」
 グラナの言葉に、リューナとルーナが顔を見合わせる。
「そんな事したら、ハヤトは死ぬじゃない!」
「けれど、死んだら…………」
「ああ。“鍵”である存在が消え、《覇王》によって全世界は滅ぶだろうね」



 激痛が、体中を走っていた。けれど、さらに嫌な感覚にも襲われた。
 怨霊機から感じた変な感覚。そして、俺はその感覚を今でも覚えている。
「この感覚は…………?」
 思い出したくない。本気でそう思った。
 いつ頃からだろう、人間不信と言えるようにまで、心を閉ざしたのは…………。

「おい、化け物、お前カンニングしてるだろ」
「そんなわけ…………!」
「けどよ、見たって言う奴いるぜ?」
 生まれた頃から、才能だけはあった。そして、自分から興味を持って勉強していた。
 運動だって、祖父から無理に剣術の修行さえ、させられなければ、普通の子供だった。
 そう、ただ勉強好きな子供だったのに…………。

「おい、聞いたか?化け物の親父って、実は裏の人間らしいぜ」
「マジかよ?うわっ、関わると殺されるじゃねえか!」
 気づけば、回りは噂と言う嘘の情報で俺を避けていた。
 俺の父────そう、俺が十歳の頃に行方不明になった人物。
 もちろん、父の顔なんて覚えているわけがない。

「聞きました?神崎さんの長男、クラスの子と喧嘩して、入院させたそうですよ」
「私は、隣町の高校生を病院送りにしたと聞きました」
 なぜ、皆、嘘をつくのだろう?
 どうして、それが本当かどうか確かめないのだろう?

 そもそも、どうして、俺に“天才と言う呪われた才能”があるのだろう…………。

 誰かが話し掛けてくる。
(辛いか?)
 辛い?当然だろ。今まで、辛くない事なんて、一度もない。
(憎いか?)
 ああ。憎い。俺を化け物呼ばわりしていた人達が憎い。
 人より勉強できて、人より運動できて、何が悪いって言うんだ!
(だったら、俺がお前の事を認めてやるよ。そう、“闇の力を持つ人間として”な)
 なぜか、嬉しい言葉だった。とても、優しいように思えた。



「あああああ…………っ」
「《霊王》と《邪風》が互いに力を引き出し、その衝撃が彼に伝わっている」
 グラナは舌打ちしていた。彼はまだ、《霊王》の力すら引き出せていない人間。
 なのに、《邪風》に選ばれ、今、こうして激痛に苦しんでいる。
「ハヤトさん…………」
 アリサが右手を握ろうとする。しかし、《邪風》の称号が彼女に反応して拒絶した。
 バチッ、と電気が流れるような痛みが、静かに伝わった。
「…………」
「無理だ。特に、霊力属性が光だけのアリサが、触れる事は出来ない」
 アリサは、エルナイド家では特別だった。
 確かに霊力は《星凰》を受け継いでいるせいか、高い。しかし、その力を引き出せない。
 そして、普通なら風と光の属性を持つのだが、光のみを属性として持っている。
「とは言え、霊力属性に光を持つ人間が触る事は、絶対に無理だ」
 怨霊機の主な霊力属性は闇。当然、《邪風》にも闇の力がある。
 グラナはアリサの肩を軽く叩いた。
「大丈夫だよ、彼なら、きっと乗り越えられる」
「でも…………」
「今は、彼を信じて待ってみなさい」
 グラナは優しく言葉を放った。



 アランは格納庫でガッツポーズを取った。
 こっそりと医療室に隠しカメラをつけていたのか、目の前のモニターには、医療室が映っている。
「これなら、姉ちゃんとの愛情度は、大丈夫だよな」
 あとは、どうやって進展させるか。アランは悩んだ。
 色々と観察してみたが、二人とも、結構な奥手だと判断できた。
「う〜ん、どうするかなぁ?」
「甘いわね、アラン」
 いつの間にか、ミーナが後ろに立っていた。怪しげに笑みを零している。
「こう言う時にはね…………」
 ミーナがアランに耳打ちをする。それを聞いて、アランは同じく怪しげな笑みを漏らした。
(……何をやっているんだ、あの二人は?)
 ロバートは遠くから様子を窺うだけだった。



「艦長は、まだ医療室なのか?」
「はい。副長、ヴィクダートの操者には?」
「ああ、一応全ての経緯は話した」
 ロフは、静かに椅子に腰掛けた。軽く溜め息をつき、胸のポケットから小さな箱を取り出す。
 スモーパク(地球で言う煙草の事)に火をつけ、軽く白い煙を吐き出す。
「怨霊機の動きは?」
「まだ────副長、反応!」
「何!?」
 計測士がすぐにモニターに表示する。ロフはスモーパクを落とした。
 胸には悪魔の瞳。漆黒のボディで統一され、背中の血塗られたマントが目立つ。
「イシュザルト!」
『データ検出完了済み。《覇王》の怨霊機と判断。撤退を考慮せよ』
 イシュザルトは、すでに検出していた。それもそのはず。
 しかし、撤退できるわけがない。ここは、王都の中心部なのだから。
「今すぐ艦長を呼び戻せ!イシュザルト、《覇王》との距離は!?」
『約3000フォーレム(3000km)。接触まで、約60ディラム(30分)』
「総員、配置に戻れ!アラン、霊力機はどうだ!?」
『おう、こっちは大丈夫だ。ヴィクダートの方も、操者次第で出撃できる!』
「よし、頼むぞ」
『任せとけ!』
 通信を切り、ロフは冷汗を額に浮かべた。
 怨霊機の中で最強の存在でもある《覇王》。早くも黒幕が登場とは……。



 知っている。俺は、この感覚をまだ覚えている。
 しかも、近づいてきている。もうすぐで、俺の前の前に現われる。
 ハヤトは激痛を堪えながら、静かに起き上がった。アリサが止めようとする。
「ダメです!今……そんな体で…………」
「あの野郎が……来る…………!」
 無理に立ち上がる。激痛が体を襲った。
「あぐっ…………」
「ハヤトさんっ」
「あの野郎が……あの野郎が…………!」
 激痛を堪えつつ、歩き出す。アリサが止めようとするが、睨みつけて逆に止める。
 そう、この感覚は────この嫌な感覚は間違いなくあの男の……!



「《覇王》か。厄介すぎるな」
「仕方ありません。それに、こうなる事は、前々から覚悟していました事ですし」
 全身を青に統一し、格闘戦型の霊力機ウォーティスから、アルスは苦笑していた。
 左肩に巨大な大砲を載せた霊力機グランザーから、ロルが言葉を返す。
「とにかく、今は出撃だ。アルス、ロル、先に行くぞ」
 重武装であり、射撃重視の霊力機ゴルドンから、シュダが答えた。
 ロバートはヴィクダートに乗り込んだ。
 ヴィクダートが話し掛けてくる。それは、どことなく違和感がない。
「最も恐ろしい敵?《霊王》でしか互角に戦えない敵?」
 この艦の副長らしき人物に、全ての経緯は聞かされていた。
 正直、まだ実感がない。自分が異世界と呼ばれる世界に居る事が。
「やれるだけか…………」
 ロバートは力を込めた。



 連戦で消耗し切っている体に、とてつもない激痛が走る。
 その苦痛に耐えながら、ハヤトはようやく格納庫に行き着いた。
 ヴァトラスが「戦えるのか?」と、今さらのように訊いて来る。
「ああ……大丈夫…………」
 足元がふらつく。まだ、体力は回復しきっていない。
 霊力も、同じだった。いくら、祖父による修行の成果で霊力をコントロールできても、だ。
 けれど、このまま大人しく出来ない。そう、あいつの前で、指をくわえて我慢できるわけがない。
「……っ……いくぞ……ヴァトラス…………」
 荒くなる呼吸で、ハヤトはヴァトラスに言った。



 霊力機三機が、静かに待ち構えていた。
 目的は、王都の中心である“ここ”を守り通す事。
「三対一なら、勝つ可能性だってある」
「いえ、四対一のようですね。ヴィクダートも構えています」
 イシュザルトの艦首に、ヴィクダートは立っている。
 ロバートは、ヴィクダートの言う通りに動いていた。
(イシュザルトを守れ。イシュザルトの破壊は、全世界の破壊と同じ)
 ヴィクダートは、まるで騎士のようだった。ロバートはそう思った。
 最強の敵────《覇王》と互角に戦えないのならば、母艦を守るだけ。
 そして、君主とも言える《霊王》を、命を賭けて守る。ヴィクダートはそう言う。
「それほどまでの強敵が、自ら動き出すとは。考えたくないな」
 ロバートは苦笑した。



『イシュザルトか。どうやら、ハヤトは全てを知ったか?』
 静かに《覇王》は呟いた。
『まあ良い。ここで、全てが分かるのだからな』
 目の前に立つ霊力機に向かい、小さな笑いを零す。
 そして、《覇王》は彼らを襲った。

「ウォーティス、一撃で沈黙!」
「操者は!?」
「な、何とか一命は。副長、今度はゴルドンが!」
 かなり強い相手だった。霊力機など、まるで赤子同然。
 確かに、怨霊機に勝つちからがあるのかと訊かれれば、無いと言うのが正しい。
 特に《覇王》の前では────。
「ロフ、イシュザルトを少し後退。狙撃士は攻撃態勢に入れ」
「艦長!」
 ロフは、いつの間にかシートに深々と座っているグラナの方を見た。
 今のところ、焦りなど顔には表していない。流石だった。
「聞こえたか?」
「……了解!イシュザルト後退!狙撃士は、すぐに攻撃態勢に入れ!」
『……格納庫を開けろ…………!』
 ヴァトラスが格納庫の前まで動いている。どうやら、彼のようだ。
 グラナは、困り果てた顔で訊いた。
「そんな体で戦うのと言うのかい?」
『……ああ……あいつは……あの野郎は俺が…………!』
 イシュザルトは「霊力、現在5000で維持」と言葉を送る。
「格納庫を開け」
「艦長!?」
「なに、すぐに負けて帰ってくる」
『それは……どうかな…………!?』



 ヴィクダートは苦戦させられた。《覇王》を目の前に。
 ロバートは歯を噛み締めた。ここまで強いとは、正直思わないほどに。
『どうした?《武神》の力を引き出せていないようだな』
「くっ…………!」
『まだ、操者としては半人前か』
 怨霊機が剣を振り上げる。漆黒の刀身が、ヴィクダートを静かに見下す。
 ロバートは汗を額に浮かべた。この世界に来て、このまま死んでしまうと思った。
 剣が振り落とされる。その瞬間、炎のかまいたちが阻止した。
『どうやら、本命の登場だな』
「はぁ……はぁ…………」
 ハヤトは激痛に耐えながら、剣を振るった。
「……てめぇ…………!」
『今の朱雀爆輪剣は、なかなか良い出来だったぞ』
「うるさい……何で……何であんたが、この世界にいる、親父!?」
 ハヤトは睨みつけた。《覇王》は微かに笑っていた。
『なぜ?それを言うのは、私の台詞だ。なぜ、お前が《霊王》としてこの世界に召喚された?』
「……知るかよ……くそじじいに聞け!」
『そうか。やはりお前の体には、《霊王》の血の方が多く流れているようだな』
「…………?」
 ハヤトは首を傾げた。《覇王》の────父の言葉の意味が分からずに。
 父はすぐに答えてくれた。それも、信じられないような言葉だった。
『お前は本来、《覇王》として、この世界に召喚されるはずだったのだ、ハヤト!』
「――――!?」
 信じられなかった。俺が《覇王》?《霊王》じゃなくて、《覇王》なのか?
 頭が痛い。体の激痛が走って、余計に痛い。
『お前は神崎家代々の《霊王》の血を引くと同時に、《覇王》の血を引いた人間なのだ!』

 父の言葉は、まるで“本当に自分が化け物を意味している”ようなものだった……



 第三章 目覚めろ武神、誓いの刻

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