イシュザルトがついに、その光景を捉えた。戦う二体の姿。 「あれは……!?」 『データ確認。霊戦機ディレクス』 「霊戦機ディレクス……そうか、あれが」 剣による戦いよりも遠距離からの攻撃を得意とした、火力重視の霊戦機ディレクス。 しかし、戦っている相手は見た事がない。ロフが問いかける。 「イシュザルト、あれは!?」 『《鬼龍》ノ怨霊機ト判断』 「《鬼龍》だと!? 馬鹿な、あれのどこが《鬼龍》だ!?」 前の聖戦で戦った《鬼龍》の怨霊機とは全く違う姿。 『どーすんだよ、副長? ディレクスは苦戦してるみたいだぜ?』 「分かってる。アルス達を出撃させろ。援護しかできんがな」 霊力機では怨霊機には通用しない。それは分かっているが、やるしかない。 通信でアランに指示を出し、ロフは思った。 「こんな時こそ、艦長がいれば……」 グラナがいれば他に良い方法が出たかもしれない。そう思う事しかできず、悔しさで拳を握り締める。 宿命の聖戦 〜Legend of Desire〜 第三部 真の聖戦 第一章 武神と天馬 「この!」 ヴァトラスが敵を捉え、殴り掛かる――――が、敵は姿を消して回避した。 再び背後を取られ、攻撃を受ける。この繰り返しだった。 ハヤトが歯を噛み締める。 「くそっ……!」 ”聖域(=ゾーン)”による研ぎ澄まされた集中力でも、敵の能力は防げない。 「ここから少しでも吹き飛ばせれば……!」 今いる場所から遠のく事が出来れば、少しはどうにかなるはず。 ここで全力を出すわけにはいかない。ここには、まだコトネとシュウハがいる。 「……やってみるか」 敵が特殊な力で回避するなら、それを何らかの方法で感じ取れれば良い。 霊力を使えばいけるかもしれない。ハヤトは霊力を集中した。 ヴァトラスの全身から霊力を放出する。 『アアアアアアッ!』 「――――!?」 攻撃を受ける。霊力による敵の察知は通用しなかった。 舌打ちし、別の方法を考える。 ようやくコツが分かりだしたのか、陽平はふむ、と手元の球体に力を込めた。 「あの時と同じか」 遊園地――――ハヤトと一緒に戦った時に教えてもらった、霊力の扱い方。 どうやら、このロボットは霊力によって動いているらしい。 「おい、武器は……なるほど、これか」 頭の中に送り込まれてきた情報。ディレクスが右手を敵へと向ける。 右手の平の砲口に光が集まり、勢いよく放たれる。竜のロボットはその直撃を受けた。 吹き飛ばされる竜のロボット。目を見開く陽平に、ディレクスが語り掛ける。 ――――これが霊力砲だ。 「霊力砲? 手から放たれて砲なのか」 ――――そうだ。しかし、あれだけでは倒せない。霊力を集中しろ、あれを倒すにはまだ力が足りない。 「むう、そう言われても、俺に出来るのは……」 攻撃の時に霊力を意識するくらい。竜のロボットが立ち上がり、咆哮を上げる。 『やるじゃねぇか……これならどうだぁ!』 翼を大きく広げる。紫のオーラの様なものが集まり、その胸部に何かが浮かんだ。 巨大な翼と頭部のみが描かれた、漆黒の竜をデザインしたかのようなもの。 『ドラゴニック・ブロウッ!』 紫のオーラを纏った状態で突撃して来る。それは、あまりにも速かった。 反応する前にディレクスを襲い、吹き飛ばす。 「ぐっ……!?」 『流石に避けれないみたいだな。これで終わりだ!』 再び、紫のオーラが竜のロボットに集まる。陽平は手元の球体を強く握った。 このままでは終われない。まだ何か方法があるはずだと、自分に言い聞かせる。 霊戦機ディレクスが立ち上がり、その瞳を光らせた。 ――――霊力はまだ足りないが、その覚悟はしかと受け止めた。 「……?」 ――――この力は主の力。見せてくれよう、《炎獣》の力を! ディレクスの全身を炎のように赤いオーラが包み込む。そして、胸部に何かが浮かんだ。 炎の中で雄叫びを上げる獅子のデザイン――――《炎獣》の称号がそこにあった。 『霊戦機ディレクスカラ《炎獣》ノ解放ヲ確認』 「《炎獣》……!? まさか、力を解放したと言うのか、この短時間で!?」 解放。操者と霊戦機が心を通い合わせる事で発動する、霊戦機本来の力。 いくら霊戦機に乗って戦えたとしても、心を通い合わせなければ使えない力。 それを初めて乗ったはずの人間が、短時間で発動させた。 「前の《武神》の操者といい、今回の《炎獣》の操者といい……こうも簡単に心を通い合わせる事ができるとは……」 『霊力ノ反応ヲ確認。《武神》ノ霊戦機、《天馬》ノ霊戦機』 「《武神》と《天馬》!? 一体何が起きている!?」 霊戦機が立て続けに目覚めつつある。 力を解放した霊戦機ディレクス。その姿を見た、竜のロボットが低い唸りを上げる。 『こいつ、力を解放したか。面白い……』 力を集中させつつ、竜のロボットがその姿を変える。頭部が右腕に移動し、背中の巨大な翼が左腕に移動する。 そして、新たな頭部が姿を見せる。右腕に竜の頭部を、左腕にはマントのように巨大な翼を持った人型だった。 『これが、こいつの本来の姿だ。見せてやる、こいつの本来の力を!』 胸部に称号が浮かび上がる。 『業火漆龍旋ッ!』 左腕を大きく振るって竜巻を起こし、右腕の竜から炎を吐く。二つが合わさった。 炎を纏った竜巻がディレクスを襲う。瞬間、何かに掻き消された。 竜のロボットに乗る操者が目を見開く。そこには、ディレクスとは別の霊戦機の姿があった。 黒き装甲に、左肩の大型盾が目立つ。 『貴様は!?』 「《武神》の操者」 霊戦機が剣を構える。 ――――行けるな、主よ。 「突然だったが、怨霊機との戦いだと言うのは分かった」 霊戦機の声にも動じず、彼――――ロバートは敵を睨みつけた。 満足に戦える事もなく、ハヤトは苦戦していた。 ヴァトラスが傷つき、ついに大地へと膝をつく。それは、ヴァトラスの限界を意味した。 「……くっ!」 方法が思い浮かばない。ハヤトは歯を噛み締めた。 「せめて、二人を安全な場所に移せれば……!」 二人が安全であれば、いつでも全力で戦える。その想いに応えるかのように、ヴァトラスが唸りを上げた。 低く、そして長い唸り。まるで、何かを呼ぶような唸りだった。 怨霊機が棍棒を振り上げる。その瞬間、何かが駆けた。 棍棒を弾かれ、態勢を崩す怨霊機。ハヤトはその隙を逃さずにヴァトラスを動かす。 「吹き……飛べぇぇぇぇぇぇっ!」 霊力を集中し、ヴァトラスが思い切り敵を殴り飛ばす。吹き飛ばすのと同時に、怨霊機に幾つもの斬撃が走った。 ハヤトが目を疑う。ヴァトラスの前に一体の機体が姿を現した。 純白の装甲が美しく、そして馬のような四本脚を持った機体。 「こいつは……」 ――――霊戦機ペガスジャーノン。 ヴァトラスが答える。ハヤト目を見開いた。 「霊戦機……目覚めたのか?」 『ガアァァァァァァッ!』 怨霊機が立ち上がり、再び姿を消す。ペガスジャーノンが瞬時に駆けた。 ハヤトが目を見開く。その速さは、目では捉えられないほどだった。 「速い……!」 姿を消した怨霊機を捉えたのか、ペガスジャーノンの斬撃が繰り出され、傷ついた怨霊機が姿を現した。 『グォォォオオオオオオッ!』 怨霊機の胸部から何かが浮かび上がる。漆黒に描かれた骸骨のような物、称号だ。 棍棒に力を集中させ、姿を消す怨霊機。ヴァトラスが話し掛ける。 ――――主よ、敵の霊力を感じろ。 「霊力を感じろ? そんな事は既にやっている」 ――――主の霊力をぶつけ、奴の霊力を感じるのだ。 「俺の霊力をぶつけ……そうか、その手があるか」 ハヤトが霊力を解き放つ。ヴァトラスが剣を構えた。 「――――そこだ!」 上空に龍の波動を繰り出す。怨霊機が波動に呑み込まれた。 ヴァトラスの周囲に霊力を解放し、怨霊機から発せられる霊力に当てる。 そうする事で、いくら特殊な力で隠しても霊力にぶつかれば感知できる。それが答えだった。 「姿さえ分かれば、あとは俺の勝ちだ。力を貸せ、ヴァトラス!」 ヴァトラスが唸りを上げ、その力を解き放つ。胸部に《霊王》の称号が浮かび上がった。 怨霊機が姿を消す。 「もう通じない。朱雀明神剣ッ!」 剣を振るう。炎を纏った竜巻が無数に放たれ、姿を消していた怨霊機が切り刻まれた。 ヴァトラスが剣に霊力を集中する。それを見た怨霊機が姿を消す。 「……逃げたか」 解き放つ霊力にはぶつからない。おそらく、姿を消して退却したのだろう。 「新しい霊戦機に、前戦った時とは違う怨霊機か……」 聖戦は終わっていない。祖父の言葉が脳裏に蘇る。 竜から人型へと姿を変えた敵を相手に、霊戦機ヴィクダートが駆けだした。 ロバートが霊力を集中し、《武神》の力を引き出す。 「武神双撃剣!」 二本の剣に炎、雷がそれぞれ走り、振り下ろされる。竜のロボットは左腕の翼で防いだ。 が、翼に剣が食い込む。それを見た敵が目を見開いた。 『馬鹿な……こいつ、ドラグデイルの装甲を……!?』 「このまま霊力を集中させて両断する……!」 「……どけ」 ヴィクダートの後方から一筋のビームが竜のロボット――――ドラグデイルの右肩を貫いた。 悲痛の唸りを上げるドラグデイル。ディレクスが右肩から見える砲台から、ビームを撃った後の煙が出ていた。 陽平がヴィクダートを――――ロバートを睨む。 「こいつの相手は俺だ」 「……ここは、協力して戦う方が良いと思うのだが……?」 「俺だけで良い。邪魔をするな」 「……分かった」 ロバートが引く。その瞬間を突いて、ドラグデイルがディレクスに襲い掛かった。 『貴様だけは絶対に仕留める……! この俺の力を甘く見るなぁぁぁっ!』 「それは俺の台詞だ」 陽平が集中する。全ては、あの時――――ハヤトと一緒に戦った時、一人の老人に教えてもらった時を思い出すだけ。 霊力と呼ばれた力を意識しつつ、炎をイメージする。ディレクスが応えた。 ――――霊力の中に燃える炎……懐かしい。良いだろう、我が力を見せてくれよう。 ディレクスの胸部が開き、砲身が姿を見せる。そして、霊力が集まった。 ディレクスから陽平の頭の中に情報が送り込まれる。 「炎獣波動砲……ッ!」 放つ。胸部の砲身から炎の波動がまるで獅子の様な姿をして、一直線にドラグデイルを襲った。 敵が左腕の翼に霊力を集中して振るう。が、炎の波動を前に無力だった。呑み込まれ、吹き飛ばされる。 『ぐっ……これが霊戦機だと言うのか……!』 このままでは負ける。そう思ったのか、人型だったドラグデイルが竜へと姿を戻し、上空へと飛び上がって退却する。 それを見たロバートが陽平を見る。ディレクスが倒れた。 「……力が入らん」 ――――当然だ、霊力を使い果たしたのだからな。 「む……」 「手を貸そう。立てるか?」 ヴィクダートが手を差し伸べる。が、それすらも取る事が出来ないディレクス。 「……これは一体どうしたものか」 この時、まだロバートは気付いていなかった。イシュザルトと呼ばれる戦艦が近くにいる事を。 「今回は運が良かったと言うべきでしょうか。他の霊戦機の助けと言う」 神殿の中で、ハヤトの戦いを見ていたシュウハが言う。煙草を吸い始めたコトネが言った。 「あの程度で苦戦しちゃ、後々厳しいだけだよ。で、これからどうするんだい?」 「祖父の昔話では、母艦と言う物があるようですが……」 霊戦機の為に存在する母艦。まずは、移動手段としてその母艦を探すしかない。 「問題は、その母艦が現在どこにいるのか、でしょうか」 「じゃあ、まずはあの霊戦機に乗っている奴の顔でも拝もうじゃないか」 「そうですね。これからハヤトと一緒に戦う仲間ですし、ハヤトにとっても大事な事です」 この世界でまずやるべき事は決まった。まずは、霊戦機ペガスジャーノンの操者を知る事。 二つ目は霊戦機の母艦を探し出し、これからの戦いに備える事。 そして三つ目。まだ他人に心を開こうとしないハヤトの心を開き、”真の”《霊王》にする事。 「黒鋼がどれほど強いかなんて問題じゃない。ハヤトが本当の意味で《霊王》になれば、そんな奴に負けやしないさ」 「流石は姉さん。そこまでハヤトの事を考えているとは」 「ふん、あんたと違って、手の掛かる子なんだよ」 そう言いながら、神殿内部を覗き込んで来たヴァトラスに、自分達の居場所を教えるコトネだった。 霊戦機と怨霊機。《霊王》と《覇王》。聖戦と呼ばれる運命は、まだ始まっていない―――― |