第五章 想いの剣


 完全なる究極結界ヴァード・エンド・ファイナル。それは早くも放たれた。
 しかし、次の瞬間ハヤトの目は見開く。《冥帝王》には全く通用していない。
「な……!?」
『無駄だ……もはや、我にその程度の封印は通用せぬ』
《冥帝王》が力を集中する。
『ナイトメア・スペリオル』
 巨大なる暗黒の波動が放たれる。ヴァトラスは神の盾を構えた。
 光り輝くバリアを纏い、暗黒の波動を受け止める――――事はできなかった。
 盾に亀裂が走り、砕ける。
「神の盾が……!?」
『ナイトメア・スペリオル』
「――――!?」
 再び、《冥帝王》が暗黒の波動を放つ。ハヤトは神の槍を手にした。
 神の槍の力を使い、自分の中にある光の力を解放する。
「頼む……レジェンド・ヴァァァドッ!」
 光の波動で対抗する。ハヤトは歯を噛み締めていた。
 圧倒的な力の差。《太陽王》では《冥帝王》を倒す事ができない。
 それは、戦う前から分かっている。まだ光の鳥だった頃から。
「……しかし、諦めるわけにはいかない……!」
 存在する全ての存在を滅す。それが、《冥帝王》。
 そして、それを阻止する為に誕生したのが《太陽王》。
「グーングニル、もう少しだけ持ってくれ……!」
 そう強く願い、さらに力を込める――――その時、何かが割れるような音が聞こえた。
 神の槍に亀裂が走る。ハヤトは目を見開いた。
「馬鹿な……グーングニルまで……!?」
 砕ける。光の波動が暗黒の波動に呑み込まれた。
 光の波動を呑み込んだ暗黒の波動が、ヴァトラスへと襲い掛かる。



 イシュザルトのブリッジ。艦長席に座っていたアランがグッと拳を握る。
「兄貴でも勝てねぇのかよ……どうすんだよ……!」
「……主砲形態しかないだろう」
 ロフが口を開く。
「あれほどの巨体だ。イシュザルトの主砲形態で対抗するしかない」
「何言ってんだよ、ロフ! イシュザルトの倍以上あるんだぜ!?」
「そんな事は分かっている」
「だったら!」
「だからこそ、イシュザルトの主砲形態だ! ここで発動させないで、いつ発動させる!?」
 怒鳴り上げる。アランは口ごもった。
 確かに、ロフの言うとおりでもある。こんな時の為にイシュザルトと言う存在があるのかもしれない。
「……分かったよ。でも、操作は霊力機みたいなもんだろ。俺は操者経験ねぇぞ?」
「俺がやる。元霊力機操者だった俺がな」
「……なんか、今のロフ格好良いな、おい……艦長っぽい」
「お前が艦長らしくないだけだ」
「う……まぁ、それはともかく! イシュザルト、主砲形態に移行!」
 艦長らしく決める。しかし、何も反応が無かった。
『エラー。主砲形態、移行不可能』
 否、すぐにイシュザルトから返答された。
「不可能って……兄貴のお蔭で出力は安定したんだろ!?」
『肯定』
「だったら移行しろよ! 艦長命令!」
『不可能。甲板に生体反応』
「甲板……!?」
 モニター越しに見る。そして、アランは目を見開いた。



 ヴァトラスへと迫る暗黒の波動。それは、ヴァトラスには届かなかった。
 ハヤトが目を見開く。目の前には、三体の霊戦機の姿があった。
「どうにか間に合ったな……!」
「流石に堪えたな……」
「まだまだまだまだぁぁぁっ!」
「ロバート、アルス、ゼロ……!? 三人とも、オルハリゼートは!?」
 ハヤトの言葉に、三人が答える。
「倒した。新たに得た力で」
「真の霊戦機操者になって、な」
「これで敵無しだぜぇぇぇ!?」
 三人の言葉と同時に、三体の霊戦機も唸りを上げて応える。ハヤトは思わず笑みを溢した。
 まさか、こうも早く真の霊戦機操者として三人が立ち上がるとは思ってもいなかった。
《冥帝王》が無数の漆黒の球体を生み出す。
『抗うな、愚かな存在達よ。サタン・オブジェクト!』
 放たれる。ヴァトラスと三体の霊戦機は回避した。
 ロバート、アルス、ゼロが仕掛ける。
「斬魔旋風!」
「ツゥゥゥイィィィンドラグニアァァァァァァッ! キャノォォォォォォンッ!」
「アクアウィザーディストォォォッ!」
 力を合わせ、三体の霊戦機が《冥帝王》の攻撃を防ぐ。ハヤトはそれを好機と判断した。
 ヴァトラスが二本の剣を構える。
「一か八か……! 頼むぞ、ヴァルキュリア、ルシフェル!」
 神々の魔剣ルシフェルに闇の力、神の剣ヴァルキュリアに光の力を集中する。
「うぉぉぉおおおおおおッ! シャイン・フォォォォスッ!」
 闇の力を集中させた魔剣を突き向けて突撃する。
 神速とも言える速さで《冥帝王》に突撃。《冥帝王》は巨大なバリアを形成した。
 しかし、ハヤトには読めていた。だからこそ、この技だ、と。
 巨大なバリアに対し、魔剣を当てる――――が、激しい衝突とバリアの防御力がそれを上回った。
 刀身に亀裂が入り、魔剣が呆気なく散る。
「――――!? しかし、ヴァルキュリアなら!」
 構わず力を集中し、神の剣を振るう。
 バリアと衝撃を繰り出す。しかし、神の剣もまた、儚く散った。
 目を見開くハヤト。《冥帝王》が言う。
『無駄だ。全てを創生せし神の託した力など、我が前には無用』
「くっ……!」
『貴様にはこれで十分だ。ダーク・ノヴァ』
 放たれる。ハヤトがヴァトラスを操作し、右手から光の波動を放った。
 しかし、防げない。これが《冥帝王》との力の差だと痛感させられる。
「くそっ、ここで……!」
 迫る攻撃。それはヴァトラスには当たらなかった。
 結界を張った《神の獅子》レオーザがヴァトラスを守る。
『この程度ならば防ぐ事ができるようですね……』
「すまない、助かった……」
『いえ……。ハヤト様、ここは一度退却しましょう。このままでは負けます』
 レオーザの提案。ハヤトはすぐに首を横に振った。
「それはできない。逃げたところで、《冥帝王》を倒せる方法はない上に、奴の滅びを止められない」
『しかし……』
「分かっている……。ヴァルキュリア達を失った今の俺じゃ、奴には歯が立たない事くらい。けれど――――」
 その時、突然ヴァトラスが唸りを上げる。ハヤトは首を傾げた。
「ヴァトラス、どうした……イシュザルトが何だって?」
 唸り上げ、視線を向けるヴァトラス。ハヤトもその視線の先に目を向けた。
 イシュザルトの甲板に誰かがいる。アリサだ。
 ハヤトが目を見開く。まさかの事態が起きて。
「何でアリサがあんな所に……!? ヴァトラス、イシュザルトに向かえ。レオーザ、ここは頼む!」
『分かりました』
《冥帝王》を前にしながら、ヴァトラスがイシュザルトへと向かう。



 イシュザルトの甲板。そこに、アリサは立っていた。
 待っていろと言われたが、やはり、そんな事ができなかった。
 空を見上げ、《冥帝王》と戦っている霊戦機達の様子を見る。その時、ヴァトラスがアリサの前に舞い降りた。
 コクピットが開き、そこからハヤトが降りて来る。
「アリサ!」
 近づき、抱きしめる。
「待っていろって言ったじゃないか! どうして!?」
「……やっぱり、私も一緒に戦います。私もユキノちゃんを……!」
「だけど……!」
 離れ、ハヤトが拳を強く握る。
「一緒に戦うって言っても、俺にはもう神の力はない……!」
 そう、神の剣、槍、盾や神々の魔剣は全て砕け散った。
《太陽王》としての力だけでは、《冥帝王》を倒す事はできない。
「奴を倒す力はない。下手すれば……」
「……ハヤトさん」
「だから、だから……――――!?」
 瞬間、口を塞がれる。アリサからの突然のキス。ハヤトの目がパチパチと開閉する。
 アリサが「大丈夫です」と言った。
「あなたには私がいます。ユキノちゃんがいます。……そして、新しい家族がいます」
「新しい家族……?」
 アリサがハヤトの手を自分のお腹に当てる。
「……アリサ?」
「……実は、お腹の中に赤ちゃんがいます。私とハヤトさんの……二人の赤ちゃんが……」
 それを聞いて、ハヤトが目を見開く。
「赤、ちゃん……!?」
「はい。まだ三ヶ月ですから、分かり難いですけど……」
 アリサが微笑む。ハヤトは静かに目を閉じた。
 お腹に当てている手を通じて、コクンと鼓動が伝わってくる。
「……今、手に……」
「お父さん、頑張れって応援してます」
「……ああ。確かに伝わってくる……」
 ヴァトラスが唸りを上げる。ハヤトは頷いた。
「そうだよな。俺は……俺がやらなきゃいけない事をやれば良い。それだけなんだ」
「はい」
「俺はユキノを……自分の娘を救いたい。奴から取り返したい」
「はい」
「《冥帝王》の一部でも、血の繋がりがなくても構わない。ユキノは、同じ時間を過ごした俺達の娘だから」
「はい」
 アリサはただ答えるだけだった。しかし、想いは同じだ。
 ユキノを――――自分達の娘を救いたい。それが、二人の気持ち。
 アリサと一緒にヴァトラスに乗り込む。そして、アリサを見つめた。
「……不思議だな。アリサと一緒だと、必ずユキノを助けられる気がする。《冥帝王》を倒せる気がする」
「当然です。私とハヤトさんの想いは、誰にも負けませんから」
「そうだな。俺とアリサの想いなら、どんな敵にも負けるわけがない」
「はい」
 二人の唇が重なる。互いの想いを通い合わせた長いキス。その時、二人から光が溢れ出した。
 唇を離し、互いに驚く。光が徐々に輝きを増していき、ファイナルヴァトラスを包み込んだ。
 ファイナルヴァトラスの装甲が輝きを放ち、長く、低い唸りを上げる。
 そして、ファイナルヴァトラスの前に、四つの武器が並んだ。
「砕けた神の剣、槍、盾。それに魔剣……!?」
 ハヤトが目を見開く。四つの武器はそれぞれ七色の光を放ちつつ、一つに重なる。
 神の槍グーングニルのような赤熱の柄に、漆黒と黄金の刀身。白銀で描かれた光の鳥が柄に刻まれている。
 柄の中心の青い宝玉をはじめ、六つの異なる色の宝玉が青い宝玉を中心に、円になってはめ込まれた。
 その刀身の長さは、ファイナルヴァトラスの翼と互角を張るかのように長い。
 ファイナルヴァトラスが剣を手に取る。
「……三つの神の武器と神々の魔剣が一つになった……?」

 ――――我、名も無き剣。

 ハヤトが驚いていると、突然、剣から声が聞こえた。

 ――――我、星を守る為の剣。主によって誕生した新たなる剣。

「星を守る剣……? それに、この力……」
 剣から伝わる強き力。それは、二人の想いの力だった。
 二人の想いの力が宿る剣。まさか、とハヤトが驚く。
「まさか……俺とアリサの想いが、四つの武器を一つにした……?」
「私とハヤトさんの想いの力が、ですか?」
「……だと思う。この力は、間違いなく想いの力……俺とアリサの想い……」

 ――――主よ、我に名を……。

「名?」

 ――――我は名も無き剣。主によって誕生せし新たなる剣……。

 そう言われ、ハヤトが首を傾げる。
「名、か……アリサ、何が良い?」
「ハヤトさんに任せます。ただ、星を守る剣ですから……」
「星を守る剣だから……?」
「星剣(せいけん)、とかどうでしょうか?」
 星剣。アリサの言葉に、ハヤトが頷く。
「良いと思う」
 そして、剣に命名する。
「……お前の名は、星剣ガイアスペリアル。俺とアリサの……二人の想いを込めた剣だ!」

 ――――星剣ガイアスペリアル……この力、主の力となれ……!

 剣――――ガイアスペリアルから、黄金の光が放たれる。そして、《冥帝王》と戦う霊戦機達に宿った。
 光が宿った霊戦機達が唸りを上げる。戦っていたロバート、アルス、ゼロが驚く。
「この力……ヴィクトリアスに力が漲っていく……?」
「暖かい光だな……だが、この光ならもっと強い力を出せる気がするな」
「おっしゃぁぁぁ、燃えてきたぁぁぁっ! ガンガン行くぜぇぇぇっ!」
「伝わる……ロバート、アルス、ゼロの想いが……」
 ガイアスペリアルの輝きが増す。ハヤトの表情に笑みが浮かぶ。
「これなら……これなら、ユキノを……!」
「ハヤトさん?」
「アリサ、ユキノを助ける! しっかり掴まっててくれ!」
「はい。必ず、ユキノちゃんを助けましょう、ハヤトさんっ」
「ああ!」
 ファイナルヴァトラスが剣を手に、空高く舞い上がる。純白の羽根が、黄金の光に包まれて美しく舞い散る。
 剣に光が集まる。七色の光が綺麗に入り混じり、極彩色の輝きを放つ。
「レジェンド・ヴァァァドッ!」
 放たれる極彩色の波動。光の鳥へと姿を変え、《冥帝王》へと迫る。
『そのような攻撃、我に通用しない事を忘れたか《太陽王》!』
 巨大な腕で闇の盾を作り、防御する。しかし、それは光の鳥を前に無力だった。
 闇の盾を貫き、《冥帝王》へと直撃する光の鳥。巨体が少しだが後退した。
『何……!?』
《冥帝王》が驚く。今まで通用しなかった《太陽王》の攻撃が自分にダメージを与えた事で。
 ヴァトラスが《冥帝王》に剣を突き向ける。ハヤトが言った。
「必ずユキノは助ける! 俺とアリサが……俺達家族が!」
 再び極彩色の光が集まる。ヴァトラスが光と共に《冥帝王》へと向かった。



 第四章 奇跡、起きる時

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