第二章 一つの封印が解かれる時


 漆黒の二匹の龍を相手にするヴァトラスとサタンデザイア。その差は歴然だった。
《太陽王》、《邪神王》二つの力が引き出せない今、敵の強さの前に立ち向かう事ができない。
「くっ……レジェンド・ヴァァァドッ!」
「ふざけやがって……! ダァァァクディスグレイザァァァアアアアアアッ!」
 光の波動と闇の波動が同時に放たれる。刹那、無力化された。
「くそっ、レジェンド・ヴァードでも傷一つつけられないのか……!?」
「《邪神王》に戻れればな……こんな奴、ザコにしか思わねぇって言うのにな……!」
 共に引き出せない力。いや、ハヤトには力を引き出す事ができる。
 しかし、それは自らの命を削る諸刃の剣。アリサを悲しませてしまう事になる。
 それだけは絶対にやってはいけない。アリサの為に、大切な人達の為に。
 ヴァトラスがさらに大空へと上昇し、剣を赤熱に輝かせる。
「メテオ・オブ・シャインッ!」
 赤熱と黄金の波動が無数に放たれる。



 ゼルサンス国。ランハード=ガリュドスの部屋の天井が崩れ、空が見える。
 アリサは目の前に存在する巨大な獅子を見て、やや唖然としていた。
 黄金のタテガミに、白銀の牙と爪。全身は燃え盛るような赤で、純白な翼は本物を思わせる。
 獅子へと姿を変えたランハードが、ゼルサンス国の人間達を睨みつつ、アリサに語りかける。
『……これが、私の本来の姿。アリサ様、もう少しお待ちください』
「え……は、はい……」
「ガリュドスが巨大な獅子に……? これは一体……!?」
『レイオニスよ、私は人間ではない』
 ランハードがその瞳を光らせる。
『お前達の言う最終兵器の発動は阻止させてもらう!』
 巨体から黄金の光が溢れる。アリサはその光の温もりを感じた。
 ハヤトと同じ優しく、それでいて力強さに溢れた光。
 三将軍の一人、ジェイル=レイオニスが自らの危険を察知する。
「一度この場から避難だ! オルトム殿も、それで良いな?」
「仕方ありませんね。よりにもよって、獅子がいるとは思いませんでしたよ」
 ランハードが巨大な口を開く。
『居心地が悪いでしょうが、今はこの中に。すぐにでもハヤト様と合流いたします』
「ガリュドスさん、あなたは一体……?」
『全てはハヤト様と合流した時に。今は、急ぐ必要があるかもしれません』



 ゼルサンス国の遥か上空で、《冥帝王》の”中枢”である葉山は「ふーん」と思った。
 封印されているかと思えば、人間の姿となって自分達から身を隠していたようだ。
「流石に、これは僕でも気づけないなぁ」
 上手く考えたものだ。おそらく、もう一体も何かに姿を変えているに違いない。
「ま、今は他の奴らを探しに行くとするか。ね、オルハリゼート」
 漆黒の翼を羽ばたかせ、漆黒の化身であるオルハリゼートの瞳が光る。



 二体の龍が攻撃する。一体は炎、もう一体は冷気。ハヤトは神の盾を手にした。
 ヴァトラスが二体の攻撃を防ぎ、その隙にサタンデザイアが攻撃する。
「ダーク・エクスプロォォォドッ!」
 巨大な球体を生み出し、放つ。龍の一体がそれを口で受け止めた。
 巨大な球体からエネルギーを吸収し、徐々に無力化していく。
 それを見て、ヴァトラスが静かに唸りを上げた。
「……ダメだ。《太陽王》の力は、アリサを傷つけてしまう。それだけはできない」
「くっ、《邪神王》の力を出せりゃ、こんな奴ら……!」
「……雷魔、一つだけ教えてくれ。お前、力を解放しても何ともないのか?」
「当たり前だ。俺は元々《邪神王》だからな」
 サタンデザイアが再び攻撃を開始する。ハヤトは歯を噛み締めた。
《太陽王》と《邪神王》は対を為す存在。なのに、《邪神王》には何の代償もない。
 なぜ、光の力を持つ《太陽王》だけが、命を削る必要があるのか、全く分からない。
「……《太陽王》は、決して存在してはいけないって言うのか? いや、そんな事は……――――!?」
 瞬間、一体の龍がヴァトラスに襲い掛かる。ハヤトは神の盾で防御した。
 攻撃が防がれつつも、敵がヴァトラスを押していく。
「力の差はハッキリとしている……このままじゃ……!?」

 ――――ハヤトさんっ

「――!? この声は……!?」
 ヴァトラスが攻撃を防ぐ龍に何かが体当たりする。ヴァトラスの4倍はある巨大な獅子だ。
 灼熱に燃えるかのような赤の装甲に黄金のタテガミ。純白の翼は、どこか神々しい。
 赤き獅子がヴァトラスに近づく。その時、獅子の口が開かれた。
 人が――――アリサが乗っている。
「ハヤトさんっ!」
「アリサ!? ヴァトラス、コクピットを!」
 驚きつつ、コクピットを開く。獅子の口からヴァトラスのコクピットへとアリサが飛び乗る。
 そんな彼女を上手く抱きしめ、彼女の温もりを久々に感じた。
 アリサもハヤトを強く抱きしめる。
「ハヤトさん……良かった……」
「それは俺の台詞だ。無事で良かった……」
 軽くキスを交わす。そして、ハヤトは獅子の方を見た。
「こいつは?」
「ガリュドスさんです。私を助けてくれた人です」
「ガリュドスって……まさか……!?」
『改めまして、《太陽王》ハヤト=カンザキ様。私は《神の獅子》レオーザです』
 その言葉に目を見開く。
「《神の獅子》!? どう言う事だ?」
『私は封印より目覚めた後、ランハード=ガリュドスとして生きていました。敵の目を欺く為に』
「敵の目を……どうして?」
『全ては、この《冥帝王》の”部位”を倒してからお話します』
「部位?」
『はい。おそらく、この二体は奴の右足と左足です』
 レオーザの言葉に、ハヤトが「そう言う事か……」と呟く。
 なぜ、倒したはずの《冥帝王》が生きているのか、全て分かった気がする。
「とりあえず、こいつらを倒さないとな……。アリサ、ユキノに会うのはもう少し後で良いかな?」
「はい。久々に見せてあげましょう、私とハヤトさんの想いの力を」
 頬にキスし、アリサが微笑む。ハヤトは頷いた。
 ヴァトラスがコクピットを閉じる。その時、レオーザの瞳が光り輝いた。
『《太陽王》よ、これをお受け取りください』
 レオーザから光が放たれ、ヴァトラスに宿る。ヴァトラスの右手に神の剣が姿を現した。
 封印していた神の剣。ハヤトが目を見開く。
「神の剣……何で……!?」
『神の剣に掛けられていた封印を解きました。これで、無の力を振るう代償はありません』
「それって……俺が力を解放しても命を削らずに済むって事か?」
『そう言う事です。これで、あなた様は再び《太陽王》になれる』
「……分かった。ありがとう、レオーザ」
 ハヤトが目を閉じる。ヴァトラスが翼を大きく展開した。
 もう力を解放する事に躊躇う事はない。
 ヴァトラスの左手に赤熱の光が溢れ、神の槍グーングニルが姿を見せる。
「……スペリオォォォルッ!」
 神の剣、神の槍、神の盾がヴァトラスを囲み、光を放つ。
 光に包まれたヴァトラスが姿を変える。純白かつ白銀に輝く装甲、本物のように羽ばたく純白の翼。
 光の鳥の称号が刻まれる胸の宝玉。ついにその霊戦機は姿を見せた。

 太陽王ファイナルヴァトラス。”覚醒(=スペリオール)”によって目覚めた最強の光。

「何だ、この感じ……?」
 瞬間、ヴァトラスのボディが白銀と黄金の輝きを持つボディへと変わる。
 光を放つファイナルヴァトラス。今までにない力が湧き上がる。
『神の剣の封印を解く事は、《太陽王》の力を一部だけ解き放つ事になります』
「一部? これで一部なのか!?」
『真なる強さを解き放つには、《神の竜》が持つ光がなければ無理です』
「……けど、これで十分奴らを倒せる!」
 ハヤトは光の力を集中させる。神の剣を手に構え、ファイナルヴァトラスが空高く舞い上がった。
 その姿を見た漆黒の龍二匹が、ファイナルヴァトラスへと襲い掛かる。
 純白の翼が赤熱に燃え上がり、翼から黄金の炎が放たれて漆黒の龍一匹を取り囲む。
「まずは一体目! 太陽凰! 光・翼・斬ッ!」
 振り落とされる神の剣。黄金の炎に取り囲まれていた漆黒の龍の一匹が悲鳴を上げた。
 しかし、まだ倒れない。いや、この程度で《冥帝王》が倒れないのは当然だ。
「見せてやる、これが俺とアリサの想いの力! レジェンド・ヴァァァァァァドッ!」
 神の剣から黄金の波動が放たれ、龍を呑み込む。光が収束していき、大爆発を起こす。
 光の粒子へと変わりながら、龍が消えていく。もう一匹の龍がそれを見て咆哮を上げた。
 ファイナルヴァトラスへと冷気の波動を放つ。ハヤトは静かに神の剣を振るった。
 冷気の波動を無力化する神の剣の力。そして、ファイナルヴァトラスが翼を大きく広げ、唸りを上げる。
『サタン・イカロス』
 瞬間、闇の雷が降り注ぐ。ハヤトは神の盾で防ぎ、上空を睨んだ。
 自らを《冥帝王》の”中枢”と名乗った葉山の乗るオルハリゼート。アリサがハヤトの服を掴む。
「ハヤトさん、あれは……!?」
「……《冥帝王》の”中枢”……!」
『”左足”は消滅しちゃってるか……まぁ、”右足”だけでも良いか。別に必要ないわけだし』
 漆黒の龍を睨みつつ、葉山が言う。刹那、オルハリゼートが動いた。
 一瞬のうちに漆黒の龍の目の前に移動し、右手から剣を生み出す。
 漆黒の龍は脅えていた。目の前に姿を見せた存在に。
『君の力は僕の力……帰っておいて、僕の一部!』
 剣が振り落とされ、漆黒の龍が暗黒へと呑み込まれる。そして、闇の光がオルハリゼートに収束された。
 ハヤトが目を見開く。その圧倒的な強さを前に。
「一瞬で……!?」
『やっぱり、”右足”じゃ全然力にならないね。でも、《太陽王》を殺すには十分かな?』
「くっ……ヴァトラス!」
 神の剣に光を集める。その時、レオーザが止めに入った。
『お待ちください、ハヤト様。まだ《冥帝王》を倒すのは無理です』
「けれど、このままじゃ奴は……!」
『まだ敵は完全ではありません。そして、あなた様も』
「…………」
『今は、《神の竜》の持つ光を手に入れ、真なる《太陽王》になる事が先決です』
『安心しなよ、《太陽王》。まだ、君の相手なんかしないからさ』
 オルハリゼートがヴァトラスを睨む。
『前に言っただろ、君とは”完全体”と戻ってから戦うって。そこの《邪神王》もね』
「くっ……」
『じゃあ、御機嫌よう、《太陽王》……』
 オルハリゼートが姿を消す。ハヤトは黙ったままだった。
 ファイナルヴァトラスが元に戻る。アリサがそっと手を重ねた。
 今、ハヤトの考えている事が分かっているのか、優しく微笑む。
「大丈夫です。ハヤトさんには、私やユキノちゃん、皆さんがいますから……」
「……分かってる。今は、俺も本当の意味で力を取り戻さないといけないから」
 その言葉に、ヴァトラスが静かに唸りを上げた。



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