終章 真に受け継がれる鼓動


 イシュザルトを攻撃する、霊戦機ヴァトラスを模造して作られた霊兵機ヴィトラス。
 ギガティリスが殴りかかる。
「うぉぉぉおおおおおおっ!」
 巨大な拳がヴィトラスを襲うが、バリアで受け止められる。アルスは舌打ちした。
 バリアマンと呼ばれる、霊力を無力化する力を持つ強化人間。
 ゼルサンス国は、アルフォリーゼとは違った兵器を生み出している。
『…………』
 ヴィトラスが剣を振るう。ギガティリスは両腕で防御した。
 攻撃しても、霊力を無力化される。つまり、霊戦機の攻撃は通用しない。
 刹那、漆黒の霊兵機スティンレーテがヴィトラスの前に立ちはだかる。
『邪魔です、ガリュドス将軍』
『ここは撤退だ。厄介な存在が現れた。このままでは、我々も死ぬぞ』
『……分かりました。大人しく退きましょう』
 イシュザルトを目の前にして、ヴィトラスとスティンレーテの二機が引き下がる。アルスは目を見開いた。
 謎の敵の出現による撤退の早さ。まるで、謎の敵が何者なのか把握しているかのようだ。
「……チッ、一体何がどうなってやがる……!?」



「オルハリゼート……まさか、《冥帝王》がオルハリゼートを我が物にできていたなんて……!」
 目の前に姿を見せる凶悪なる機体。ハヤトの中に眠る光の力が強い反応を示していた。
 オルハリゼート。光の鳥と呼ばれた《太陽王》の本当の姿であり、《冥帝王》を封印する力を持つ。
 しかし、妙だった。なぜ、光の鳥がオルハリゼートの力を失ったのかが分からない。
 自分の中に眠る記憶には残っていない。
「……カイザーでどこまで戦えるか……!」
 剣を構えて振り落とす。無数の竜巻が放たれた。
 オルハリゼートが何も行動しないまま、竜巻の中に呑み込まれる。瞬間、竜巻が掻き消された。
「な……!?」
『ははははははっ! 弱いなぁ。《太陽王》の力なしで倒そうって言うのは無理だよ、《太陽王》!』
 オルハリゼートが剣を生み出す。そして、刀身が伸びた。
 カイザーの左腕が、オルハリゼートの剣によって切断される。それも瞬間的に。
 ハヤトは目を見開いた。
「動きが速い……!?」
『当然だ。お前の知るオルハリゼートの強さなど、我の前では無意味なのだからな』
 葉山の口調が変わる。
『さあ、どう戦う気だ? 力を使わずに』
「……オルハリゼートを倒せる方法は、やっぱり光の力だけか……!」
 右腕の剣を構え、その瞳を黄金に光り輝く瞳へと変える。
 光が剣に集まり、眩い光を放つ。その輝きは、まだ小さい。
「レジェンド・ヴァァァドッ!」
 放たれる黄金の波動。オルハリゼートは左腕の盾を出した。
 巨大な盾が黄金の波動を呑み込む。ハヤトは舌打ちした。
 完全に封印を解いていない光の力では、《冥帝王》には太刀打ちできない。
 しかし、《太陽王》になれない今、互角に戦える術はない。
「……ヴィトラスもどうにかしないと……! くそっ、どうやって戦えって言うんだ……!?」
《太陽王》が所持していた神の三武具が頭の中に浮かび上がる。ハヤトは首を横に振って忘れた。
 神の盾、神の槍はともかく、神の剣は使ってはいけない。
 命を削る無の力を秘めた剣だけは、もう二度と振るわないと決めたから。
 それが、今の自分に出来るアリサへの想いだから。
『こちらからいくぞ、《太陽王》! サタン・イカロス!』
 漆黒の雷が放たれ、カイザーに襲い掛かる。ハヤトは神の盾で防いだ。
 剣に光の力を込める。
「メテオ・オブ・シャインッ!」
『ダーク・ノヴァ!』
 ハヤトの攻撃に対し、オルハリゼートはその強さで攻撃を無力化する。ハヤトに焦りが浮かんだ。
 ヴァトラスと違って、カイザーはそこまで強くない。所詮は、人が作り出した機体だ。
 強いられる苦戦。瞬間、オルハリゼートがカイザーの頭部を掴んだ。
「――――!?」
『つまらないなぁ、《太陽王》。まだ遊びだって言うのに、全力で戦わないでさぁ!』
 カイザーの頭部が握り潰される。
『本当の滅びを見せられなくなったのが残念だけど、これでバイバイだね』
 その瞬間、カイザーが暗黒へと呑み込まれる。



 ハヤトが《冥帝王》と戦っている時、ロバートとゼロもまた、三将軍と呼ばれる敵の二人と戦っていた。
 謎の敵に霊戦機が反応している。すぐにでもハヤトの加勢に入る必要がある。
「そっちも苦戦か、おい!?」
「……悔しいがその通りだ。霊兵機は本当に人の手によって作られたのか?」
「ったり前だろ!? それにしちゃ、ザコより強いけどよ、あいつら!」
 霊兵機の性能も高いだろうが、間違いなく強いのは操者の方だ。
 ヴィクトリアスとグレートリクオーが共に構える。
「……ここは、協力して退けるか……! 早くハヤトの加勢に入らなければ……」
「いんや、俺一人で十分!」
 グレートリクオーの両拳が霊力によって眩い光を放つ。
「ド・ラ・イ・バ・ル・グラウンドォォォオオオオオオッ!」
 両拳を前に出し、龍の波動を放つ。その技は、前の聖戦で放った時に比べて、またその強さを増していた。
 巨大な波動が二体の霊兵機に襲い掛かる。深紅の霊兵機クロノアイズが長剣を構えた。
 操者であるリオルドが、己の霊力を込める。長剣が深紅の色を放つ。
『おらよぉぉぉっ!』
 波動を叩き割る。それを見てゼロは「マジかぁぁぁ!?」と叫ぶ。
 そして、純白の霊兵機アーティファクトが接近戦を仕掛ける。
『ガーベラ・フォンディル!』
「――――! 光牙・獅王裂鳴斬!」
 一閃の剣と、黄金と青に輝く剣がぶつかる。アーティファクトがやや怯んだ。
 ヴィクトリアスが剣を大きく振り構え、雷を込める。
「雷光斬裂閃!」
 振り落とされる剣。アーティファクトの右腕を奪った。
『くっ……流石は霊戦機か……! 全機撤退。リオルド、今は退くぞ!』
『……チッ、仕方ねぇ。次はその首をちゃんと斬ってやるよぉ!』
 霊兵機二体が後退して行く。ロバートとゼロは深い息を吐いた。
 霊兵機という強さを、正直甘く見ていた。いや、操者の技量というものを。
 途端、ヴィクトリアスとグレートリクオーが唸りを上げる。
「どうした、ヴィクトリアス?」
「グレートリクオー、何なんだよ!?」
 二体がイシュザルトの方を向く。その時、二人の視界に霊力機カイザーの姿が入った。
 暗黒の光に呑み込まれ、消えるカイザー。そして、凶悪なる機体に、二体の霊戦機が構える。
「遅かった……!?」
「って、霊力機カイザー呑み込まれたじゃん!?」
「……!?」
 ロバートの顔が青ざめる。凶悪なる機体から、高々と笑い声が聞こえた。
『ははははははっ! 弱い……弱過ぎるなぁ!』
 凶悪なる機体――――オルハリゼートから漆黒の雷が放たれる。ヴィクトリアスは空高く舞い上がった。
 二本の剣に霊力を込める。黄金と青に輝き、黄金に輝く剣を振り落として道を作る。
「光牙! 獅王裂鳴斬ッ!」
「よっしゃ、こっちも! ド・ラ・イ・バ・ル・グラウンドォォォオオオオオオッ!」
 同時に、グレートリクオーが龍の波動を放つ。オルハリゼートは左腕の盾で受け止めた。
 深紅の瞳が二体を睨む。
『そんな玩具で、僕を倒せると思うな!』
 吹き飛ばす。ヴィクトリアスとグレートリクオーは、大地に強く叩きつけられた。
 右手に漆黒の光を集める。ヴィクトリアスがグレートリクオーの前に立ち、盾を構える。
 その時、上空から赤熱の光が放たれた。ギガティリスが拳に霊力を込めている。
「おぉぉぉおおおおおおっ!」
『甘いね』
 右手に集まった漆黒の光で、ギガティリスの一撃を防御する。
『《太陽王》以上に弱い力で倒せると思うな!』
 漆黒の雷が、オルハリゼートの全身から放たれる。



 カイザーと共に暗黒に呑み込まれたハヤトは、必死にカイザーを動かした。
 光の力を使い、元の世界に戻れるようか試す。
「はぁぁぁああああああっ!」
 カイザーの全身から光が溢れ出し、無数の矢となって放たれる。しかし、そのまま暗黒の中に消えた。
「くそっ……このままじゃ埒が明かない……!」
 集中し、光の力を研ぎ澄ませる。瞬間、光を感じた。
 自分の発する力ではない。それは間違いなく分かる。
 目の前に光が集まる。光の翼を持った鳥が現れ、人の姿を形成していく。
「あなたは……!?」
『……ヴァトラス。ヴァトラス=ウィーガルトだ』
「ヴァトラス=ウィーガルト!?」
『そう。君と同じ《霊王》の力を持つ者だ』
 白銀の鎧を着た男――――ヴァトラス=ウィーガルト。ハヤトは目を見開いた。
 初代《霊王》であり、平和を掲げた人物が、なぜか目の前にいる。
『今、全世界が《覇王》を超えるほどの闇によって滅ぼされようとしている』
「……はい。けど、俺には戦う力が……霊戦機がいません……」
『いや、生きている。僕の相棒だった霊戦機ファイガストが』
「生きているって……ファイガストは、俺の知るヴァトラスに生まれ変わったんじゃ……!?」
『そう、ファイガストはレナス達によって、ヴァトラスという霊戦機に生まれ変わった……』
「じゃあ、もうファイガストは……」
『生きてはいない。けれど、死んでもいない。なぜなら、心は君が持っているから』
「……俺が持っている……!?」
 ハヤトの言葉に、ヴァトラス=ウィーガルトが頷く。
『そう。ヴァトラスはファイガストの記憶を受け継いだ、新たな心だ。だから、まだ完全に引き継がれていない』
「……霊戦機ヴァトラスは、まだ完全な霊戦機じゃない……?」
『そう言う事だ。だから、今こそ君に、ファイガストを託す』
「ファイガストを……で、でも、ファイガストは……」
『大丈夫。ファイガストは君の新しい力になってくれる……本当の意味で、鼓動は受け継がれる……』
 そして、辺りが眩しくなる――――。



 戦場と化していた大地。ゼルサンス国軍は撤退、霊戦機は《冥帝王》の前に大苦戦していた。
 光の鳥と呼ばれた《太陽王》の真の姿だった機体は、霊戦機の攻撃を全く受付けない。
『つまらないなぁ。《太陽王》もあの程度で死んじゃった事だし……』
「……まだに決まってんだろが、テメェ!」
 ギガティリスが右拳に水で形成された球体を生み出す。《冥帝王》は余裕だった。
『僕に立ち向かうのかい? 《太陽王》よりも弱いのに』
「黙れ! 俺達は負けるわけにはいかねぇんだ!」
「……その通りだ。それに、まだハヤトは死んだと思っていない」
 ヴィクトリアスが立ち上がる。そして、剣を構えた。
 二体の霊戦機の目に、操者と一心同体になったのか、瞳が宿る。
『《太陽王》は死んだよ。そして、全ては滅ぶんだ。そう、全てね!』
 オルハリゼートが漆黒の波動を放つ。瞬間、無力化された。
《冥帝王》が目を見開く。何もない空間から光が溢れ、そして一体の霊戦機が姿を見せた。
 白銀と燃え盛るような赤熱、そして母なる海のような青の装甲を持った霊戦機。
 四枚の機械的な翼は大きく開かれ、額に古の太陽を思わせる、全世界を救う為に戦う王の証たる称号がある。
「――――お前の名前は、ヴァトラス。そう、霊戦機ヴァトラス……本当の鼓動を受け継いだ霊戦機だ!」
 その言葉に、霊戦機ヴァトラスが唸りを上げる。
 初代《霊王》の力となり、そして霊戦機ヴァトラスに平和の願いを託した霊戦機ファイガスト。
 そのファイガストの心を真に受け継いだ、正真正銘の霊戦機ヴァトラス。
「ハヤト!」
「テメェ、今まで何してやがった! 《霊王》がそう簡単にいなくなるんじゃねぇ!」
「……ああ。待たせてすまなかった。今はこいつを倒す。力を貸してくれ、ロバート、アルス!」
 その言葉に、ヴィクトリアスとギガティリスの二機が咆哮する。グレートリクオーも立ち上がった。
 オルハリゼートの深紅の瞳が、霊戦機を睨みつける。
『馬鹿な、”器”だと……!?』
「お前の好きにはさせないぞ、葉山……いや、《冥帝王》ッ!」
『ふん、僕を倒せると思っているのか、《太陽王》!』
 漆黒の雷が放たれる。ハヤトは神の盾を構えて無力化した。
 光り輝く剣を生み出し、素早く構える。そして、ヴァトラスの姿が消えた。
「凱歌! 神王剣聖斬ッ!」
 オルハリゼートに斬り込む。切り筋の入った箇所を中心に、六つの切り筋が走る。
 ハヤトは驚いた。霊戦機ヴァトラスの性能がとても高い事に。
「俺らも続くぞ! 水神獣王牙ぁぁぁっ!」
「もう一発放てるか……! 光牙・獅王裂鳴斬ッ!」
「もう限界だけどよぉぉぉ……ド・ラ・イ・バ・ル・グラウンドォォォオオオオオオッ!」
 三体の霊戦機が仕掛ける。オルハリゼートは左腕の盾で辛うじて防御した。
《冥帝王》が舌打ちする。
『くっ、《太陽王》め……! まぁ良いさ、これで楽しみが増えたからね』
「逃がすか!」
『そう焦るなよ、《太陽王》。君とは、”完全体”に戻ってから戦ってあげるから』
 そう言って消える。ハヤトは歯を噛み締めた。
《冥帝王》の言う”完全体”。つまり、今はまだ一部しか力を放っていないと言う事だ。
 ヴァトラスが翼を閉じて大地に降り立つ。
「……奴の言う”完全体”には、絶対にさせない。《太陽王》の名にかけて……!」
 そして、今はアリサを助け出す。その想いに、ヴァトラスが唸りを上げる。

 今ここに、新たなる霊戦機――――真に鼓動を受け継いだ霊戦機ヴァトラスが、全世界を救う為に目覚めた。



宿命の聖戦 〜FOREVER AND EVER DREAM〜 第一部 聖戦、再び・・・ 完




 NEXT 第二部 太陽王の封印

 第六章 窮地に追い込まれる光

 戻る

 トップへ




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送