目の前に広がる、草木が全く存在しない荒野を飛ぶ巨大な戦艦ゼイオンレイディア。
 そのブリッジの艦長席に座ったメルが、通信機で説明を始める。
「では、今回の任務です。ダルバンさん、セリーヌさん、ファイクさんはいつものように”彼ら”を殲滅。
 状況次第で、ゼイオンレイディアは後方より援護します」
『……いつもの任務ね』
「ええ。これ位しか任務はありませんし」
 通信機を通して聞こえるセリーヌの声に、メルが溜め息をつく。
 この任務はいつもの事だ。他の任務を受ける事はほとんど無い。
 そんな会話をしていると、今になって二日酔い状態に入ったダルバンが低い声で唸る。
『……ファイク、今回の任務はお前に任せて良いか?』
『断る。いつもの事だろう、ダルバンの場合』
『……鬼だな、お前……』
「自業自得ですよ、ダルバンさん。三人は目的地に到着次第、出撃をお願いします」






宿命の聖戦
〜THE FINAL LEGEND〜



第一部 希望と優しき心

ロード編
第四章 戦う為の力


 ガリュドスに全ての話を聞いたロードは、彼女の後をついて行く形で廊下を歩いていた。
 なんでも、地球へ帰る為の装置は別の場所にあるらしく、連絡を取る必要があるらしい。
「ガリュドス様!」
 と、そこへ一人の軍服を着た男が走り寄って来る。
「報告致します! 全10部隊中、我ら第2部隊を除く9部隊出撃で殲滅任務を行っている所存ですが……」
「全部隊出撃ですか? 相当な数の殲滅任務ですね」
「はい! しかし、第8部隊が全滅……殲滅対象が我が国に……」
「第8部隊……量産型の霊兵機で殲滅できないと言う事は、”ゾレア”がいるのですね?」
「はい……このままでは、我が国は……」
 ガリュドスがどうしたものかと首を傾げる。ロードが訊いて来た。
「何の話してんだ、あんた?」
「敵がこの国に向かって来ています。迎撃したい所ですが、私の部隊の機体は全機整備中なのです」
「って、他の奴は?」
 ガリュドスが首を横に振る。
「他の部隊も全て出撃しています。量産型は他にもありますが、”ゾレア”が相手では……」
「……”ゾレア”?」
「詳しくは、実際の物を見た方が早いでしょう。こちらへ……」



 ゼイオンレイディアが飛ぶ荒野。そこで、彼女は画面上の敵の数を把握する。
「”ゾレド”が三体、”ゾレア”は五体……他はいつものが20体と言ったところですか」
「”ゼレブ”とか”ゼイオ”がいなくて良かったぁ……」
 と、隣で少女――――ミーユが安堵の息をつく。それを見ていたメルが頷いた。
「そうね。特に”ゼイオ”がいたら、三体だけじゃ難しいものね」
『だからこそ、ゼイオンレイディアがあるんだろう。メル、俺は”ゾレド”で良いのか?』
 通信機からダルバンが訊いて来る。
「はい。セリーヌさんとファイクさんは”ゾレア”を。他はゼイオンレイディアで殲滅します」
『はいはい。”ゾレア”ね』
『”ゾレア”五体……了解』
 そして、メルが機械を操作する。
「ゼイオンレイディアの各砲門を開きます。総員、準備は良いですね? 攻撃開始です」
 巨大な戦艦ゼイオンレイディアのあらゆる所から、砲台が姿を見せる。



 ガリュドスに連れられ、ロードは司令室のような場所にいた。
 そこに映し出されるのは、荒野しかない大地。草木など全くない。
「……んだよ、これ?」
「この大地がネセリパーラです。この世界には、もはや草木は存在しておりません」
「存在してないって……」
「ネセリパーラは、地球とは比べ物にならないほど、遥かに技術が進んだ世界です」
 そして、その技術の発展による代償が、この草木の無い荒れ果てた大地である。そう、説明を受ける。
 ロードは思わず息を呑んだ。こんな世界が存在していると言う現実に。
 ガリュドスが睨みつけるかのようにモニター画面を見る。
「そして、現在この世界に存在し、平和を脅かす存在がいます」
 そう言いながら、画面を指差す。ロードはその先を見た。
 見えるのは、いくつもの黒い影。少しずつ、その姿がどんなものか明らかになってくる。
 巨大な口を持ち、鋭い爪を持った化け物。それが何体もいた。
 目を見開くロードに、ガリュドスが説明する。
「あの化け物を、私達は”グルヴァル”と呼んでいます」
「グルヴァル?」
「はい。ここ数年になって出現し始めた存在。人を喰らい、何もかもを破壊しようとする化け物です」
「破壊って……こいつら、こっちに近づいて来ているんだろ!? 大丈夫なのかよ!?」
「問題ありません。言ったはずです、この世界は地球と比べて技術が発展していると」
 そう言っている傍からモニターにグルヴァルとは別の何かが映し出される。
 同じ形で、背中の武装が異なる赤、青、緑のロボットが数体出現した。
「あれが、私達がグルヴァルと対抗できる力、”霊兵機”です」
「霊……兵機?」
「霊兵機は、汎用性を考えられて作られ、どんな人間でも動かせるロボットです」
「そんなのがあるなら、大丈夫って事か?」
「はい、今だけは」
「今、だけ? ――――!?」
 その瞬間、霊兵機と呼ばれたロボットの何体かが吹き飛ばされ、破壊される。ロードは目を見開いた。
 グルヴァルと呼ばれた化け物とは別に、より大きく、そして鋭い牙を持った化け物がいた。
「あれもグルヴァルか!?」
「はい。しかし、あれはグルヴァルが進化したと考えられる化け物。グルヴァル・ゾレア」
「ゾレア……さっき、あんた達が言ってた奴か」
「はい。”ゾレア”は、並大抵の霊兵機では太刀打ちできない存在です」
「太刀打ちできないって……じゃあ、どうするんだよ!?」
 その言葉に、ガリュドスが拳を握り締める。
「”ゾレア”を倒せるのは、特機と呼ばれた個人専用の霊兵機です。私専用もありますが、今は修理中です」
「他には!?」
「……ありません。出撃している他の部隊にはいるのですが……」
 だが、ここには特機と呼ばれる霊兵機はない。ロードは舌打ちした。
 ガリュドスの話を聞く限りだと、ここにある戦力では、あの化け物達を倒せないと言う事。
「ロボットとかあるのに、倒せないってどんなだよ……!」
「一機でも特機があれば……いや、ここはもはや……」
『特機なら、一体だけあるけれどぉ?』
 と、突然声高な男の声が聞こえた。ロードが周りを見渡す。が、そこには誰もいない。
 モニターに化粧が濃く、一瞬で悪寒が走るような男の顔が表示される。ロードは絶句した。
「…………」
『あらぁ、カッコイイ男の子ねぇ。ガリュドス様の部下かしら?』
「いいえ、彼は地球人です」
 何の躊躇も無く話すガリュドス。モニターに表示される男が驚く。
『あら、地球の方なの? どうして、こっちの世界に?』
「それより、特機が一体だけあると言っていましたね?」
『そうそう、あるわよ。問題が一つ残っているけれど』
「問題ですか……ここで話すより、実物を見た方が早いですね」
 そう言って、通信を切ったガリュドスがロードを連れて、その場を立ち去った。



 戦艦ゼイオンレイディアを収容できる格納庫。そこに、ロードはガリュドスに連れて来られた。
 ただっ広い空間で、自分の歩く足音が妙に響く。
 そして、そんな空間に巨大なロボットが一体だけ存在していた。
「凄ぇ……」
 全身を漆黒に覆われたロボットを前に、ロードが息を呑む。
 そのロボットの前に立っていた、長い緑色の髪が目立つ男性にガリュドスが話し掛ける。
「ベティオム、それが例の特機ですね?」
「そうよぉ。この子が、霊兵機アスティードよぉ」
「なるほど、これが技術提供を基に、ゼルサンスの技術で開発された最新型ですか」
「ええ。この子は、特機の中でも最高クラスよ。霊剣は当然、霊力を弾丸にする霊力銃。
 さらには、技術提供のシステムを最大限まで生かせた霊兵機」
「それで、問題とは?」
 ベティオムの説明を聞きつつ、残っていると言う問題とは何か訊く。ベティオムは答えた。
「相当な霊力資質を求めるのよ、この子。色々と詰め込み過ぎたかしら……」
「それは、私で解決できる事ですか?」
「できるけどぉ……この子はデリケートで、一度認識した操者以外を受け付けなくなるわ」
「なるほど、それが問題と言う事ですね」
 一度でも搭乗し、動かせばこの霊兵機はその操者専用になってしまう。
 つまり、他に特機が存在する者が乗れば、特機が余ってしまう。
「ただでさえ、特機クラスを動かせる人間がいないんですもの、軍人さん達は」
「確かに。しかし、困りましたね……これほどの機体を操縦できる者がいないとは……」
「なぁ……」
 二人の会話に、ロードが割り込む。
「俺でも動かせるのか?」
「可能性はあるかと思います。……まさか、ロード様……!?」
「俺が乗る。父さんだって、こう言うのに乗って戦ってたんだろ?」
 ガリュドスが驚く。予想はしていたが、いきなり特機クラスを乗せるわけにはいかない。
「ロード様を戦わせるわけにはいきません。それに、これは私達の世界の問題です」
「んなの関係ねぇよ。父さんだって、きっとそう言うはずだ」
 その言葉に、ガリュドスは思わず溜め息をついてしまった。
 こんな事なら、父親の事を話さなければ良かったと思ってしまう。
 しかし、今更後悔しても遅い。ロードは乗る気満々だ。
「……本気なのですね?」
「ああ。良いよな?」
「……分かりました。ベティオム、すぐにでも起動できますか?」
「できるわよ♪ えーと……お名前聞いても良いかしらん?」
 ベティオムがロードに近づく。彼の存在感と顔に、ロードの表情が引きつった。
「ろ、ロード=エルナイス=カンザキだ」
「ロードちゃんね! それじゃあ、あの子……アスティードはロードちゃんに任せるわ♪」
 そう言って、ベティオムがロードを担ぐ。それも軽々しく片手で。
 霊兵機アスティードの前にある装置に乗り込み、目の前のボタンを押す。
 装置がアスティードの胸辺りまで上昇し、それに呼応するかのように、アスティードの胸部が開いた。
 そこにロードを放り込む。
「どぁ!?」
「乗り方とか動かし方はこの子が教えてくれるわ。じゃあ、頑張ってね、ロードちゃん☆」
 投げキッスを飛ばし、ベティオムが下へ降りていく。アスティードの胸部が閉じた。
 真っ暗になり、視界が無くなる。ロードは適当に辺りを手当たり次第触った。
 途端、明るくなる。様々な電子音や機械音が鳴り、目の前のコンピュータが動き出した。
『……アスティード起動開始。搭乗者の霊力を確認』
「し、喋った!?」
『搭乗者の声紋、並びに霊力の登録完了。アスティード、正常起動完了』
 アスティードのカメラアイに光が灯る。それを見たガリュドスとベティオムが目を見開いた。
 ゼルサンス国の誇る技術と別国の技術提供により完成した、最新型の霊兵機。
 コクピット内のコンピュータがロードに話し掛ける。
『初めまして、私は”スラフシステム・ガイア”。君の名前を聞かせてもらいたい』
「……す、スラフシステム?」
『そうだ。”スラフシステム”とは、私のように学習知能を持ったシステムの事であり――――』
「んな事説明してる場合じゃ無えんだよ。外に化け物がたくさんいるんだって!」
『化け物……グルヴァルの事か。ならば説明は後にしよう。とりあえず、君の名前を聞かせてくれ』
「ロードだ。ロード=エルナイス=カンザキ」
『ロード=エルナイス=カンザキ……登録完了。では、早速出撃するとしよう。ロード』
「し、出撃って……どうやったら動くんだよ?」
 ロードの質問に、コンピュータ――――ガイアが呆れたかのように言う。
『……操作方法が分からないのか?』
「ああ。初めて乗るからな、ロボットには」
『そうか……では、まずは両手元にあるコントロールグリップを握り、アスティード起動と言いたまえ』
「お、おう。……アスティード起動!」
 ガイアの言葉通りにグリップを握り、言う。アスティードが一歩前に動いた。
 ロードが驚く。
「動いた……」
『操作は至って単純だ。グリップを握り、どのように動かすか念じれば良い』
「……そんな事で動くのか、これ?」
『そうだ。これが、霊戦機並びに霊力機、霊兵機だ。特にこのアスティードにおいて――――』
「んな説明は良いって! とにかく、出撃だろ!?」
『そうだな。アスティードは私が全て制御している。サポートは任せて、君は操作のみ集中してくれ』
「おう! 行くぜ、えーと……」
『ガイアだ。”スラフシステム・ガイア”』
「だったな。行くぜ、ガイア!」
『了解。アスティード、出撃。ハッチ解放を要請』
 格納庫の扉のような部分が大きく開く。光が入り、アスティードを照らした。
 アスティードが扉側を向き、ゆっくりと歩き出す。
 その姿を見ていたベティオムが「わーお☆」と声を上げた。
「あのアスティードを簡単に動かしちゃったわねぇ♪ 地球人ってば優秀ねぇ☆」
「地球人、と言うよりは……あの方が特別なのです」
 やはり、父親譲りの霊力資質だ。そう、ガリュドスは思う。
「ところで、提供のあった技術とは、先程の喋っていたシステムだけですか?」
「いーえ。あのシステムの他にもう一つ搭載してるのよ♪ アスティードなら、”ゼイオ”でも互角のはずよ」
「なるほど。つまり、操者次第では私達”三将軍”をも上回る事ができると」
「そう言う事♪」
 満面の笑みで、ベティオムは頷くのだった。



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